事務所を賃借した場合の敷金




この記事のポイント
  1. 事務所を賃借した時の敷金・礼金の会計処理が知りたい人
  2. 事務所を賃借した時の敷金・礼金の税法上の扱いが知りたい人




敷金について知ろう

敷金とは、賃借人が家賃を滞納した時や部屋を壊した時に備えて、賃貸人が最初に徴収しておくお金のことを言います。

よって、家賃の滞納や部屋の破損がなければ、退去時に賃貸人から賃借人に敷金は返還されます。

ただし、敷金の返還額は法律上正式には決められていないので、敷引きという名のもと、敷金の一部又は全部が償却されてしまい返還されない場合もあります。

事務所の賃貸借の場合は、居住用の賃貸借より一般的に敷金の差し入れが多額になることが多いです。

事務所用に不動産を借りる場合は、業務上の都合や使いやすさを向上させるためにいろいろなリフォームを行います。

賃貸人としては、賃貸借契約が終わった後、ちゃんと元の状態に戻して返してもらいたいところですが、賃借人が現状回復義務を履行しないことも考えられます。

賃借人が原状回復義務を履行しない保険のために、事務所用の不動産の賃貸借では敷金が多めに設定されています

礼金について知ろう

礼金とは、賃貸借契約成立時に賃貸人にお礼として払うお金のことです。

お礼なので、賃貸人に一度支払いをしてしまうと賃借人に返還されることはありません

よって、賃貸人に支払う手数料だと考えてください。

賃借人側から見た事務所の賃貸借契約の仕訳と勘定科目

賃借人から見た、事務所の賃貸借契約の仕訳と使用する勘定科目は以下のようになります。

敷金の仕訳と使用する勘定科目について

事務所の敷金が返還される契約になっている場合

【契約締結時】

事務所の賃貸借契約の最初の時点で敷金を差し入れているので、勘定科目としては敷金・保証金(資産)が計上されます。

借方
金額
貸方
金額
敷金・保証金
10万円
現金又は預金
10万円

【契約終了時】

事務所に賃借人がつけてしまった傷があり、修理するための費用を除いた金額が戻ってきた場合は修理代金を修繕費(費用)として計上し、戻ってきた金額を現金又は預金(資産)で処理します。

なお、貸方は、過年度に積んであった敷金・保証金(資産)を取り崩します。

借方
金額
貸方
金額
修繕費
現金又は預金
3万円
7万円
敷金・保証金
10万円

事務所の敷金が返還されない契約になっている場合

【契約締結時】

敷金は返還されないので、敷金・保証金(資産)勘定に計上することはできません

いずれ償却されてしまうので長期前払費用(資産)として計上します。

なお、20万円未満の金額の場合は重要性がないので、税法上一括で支払手数料(費用)処理することも認められています。

借方
金額
貸方
金額
長期前払費用
30万円
現金又は預金
30万円

【期末(長期前払費用の振替)】

長期前払費用のうち償却期間(賃貸借契約締結日〜期末日)が経過した分を支払手数料(費用)に振り替えていくことになります。

なお、一年以内に償却期間(翌期首〜翌期末)が終了する金額を前払費用に振り替えます。

なお、長期前払費用(資産)については、5年以上の契約期間であれば5年、5年未満の契約期間であれば契約期間で償却することになります。

ただし、実務上は2年以上の契約期間はほとんど考えられないので、償却期間は2年だと考えておけば十分です(後述の礼金の場合も同じ)。

借方
金額
貸方
金額
支払手数料
15万円
長期前払費用
15万円
借方
金額
貸方
金額
前払費用
15万円
長期前払費用
15万円

【契約終了時】

長期前払費用はきれいに償却されているため残高0です。

賃借人に責任がある修繕費(費用)を支払って契約が終了となります。

借方
金額
貸方
金額
修繕費
3万円
現金又は預金
3万円

礼金の仕訳と使用する勘定科目について

事務所賃借時に支払う礼金が20万円未満の場合

事務所の賃貸借契約締結時に一括で支払われ、返還義務もないため、支払手数料(費用)として計上して課税関係は終了します。

借方
金額
貸方
金額
支払手数料
10万円
現金又は預金
10万円

事務所賃借時に支払う礼金が20万円以上の場合

礼金が20万円以上の場合は税務上の繰延資産に該当しますので、いったん長期前払費用(資産)に計上し、契約期間で取り崩していくことになります(返還されない敷金と同じ)。

【契約締結時】

借方
金額
貸方
金額
長期前払費用
30万円
現金又は預金
30万円

【期末(長期前払費用の振替)】

長期前払費用のうち償却期間が経過した分を支払手数料(費用)に振り替えていくことになります。

また、一年以内に償却期間が終了する金額を前払費用に振り替えます。

なお、長期前払費用(資産)については、5年以上の契約期間であれば5年、5年未満の契約期間であれば契約期間で償却することになります。

ただし、実務上は2年以上の契約期間はほとんど考えられないので、償却期間は2年だと考えておけば十分です(前述の返還されない敷金の場合も同じ)。

借方
金額
貸方
金額
支払手数料
15万円
長期前払費用
15万円
借方
金額
貸方
金額
前払費用
15万円
長期前払費用
15万円

事務所を賃借した時の敷金・礼金の消費税の取り扱い

敷金・礼金の消費税の区分について

賃貸借契約終了後に返還される敷金は、貸主に預けているだけで貸主からサービスの提供を受けている訳ではないので、消費税は課税対象外取引となります。

敷金のうち貸主から返還されない部分と礼金については、事務所の賃貸で貸主からサービスの提供を受けていると考えられるので、消費税が課税されることになります。

なお、余談ですが、不動産会社に支払う仲介手数料(費用)の消費税は課税になります。

消費税の課税の有無
敷金(保証金)のうち返還される部分
課税対象外
事務所賃貸で返還されない敷金(保証金)や礼金
課税取引
不動産会社に支払う仲介手数料
課税取引

消費税の税込方式と税抜方式について

この記事のこれまでの仕訳例は、会計システムの入力用に税込みの取引金額で仕訳を記載してきました

会計システムに仕訳を入力する時は、まず、勘定科目と税込みの取引金額を入力して、後から消費税の「不課税取引」、「非課税取引」、「10%課税取引」を選択していくことになります。

会計システムへの入力方法に関しては、1通りですが、会計ソフトから出力される成果物に関しては、消費税の経理処理方式の違いにより、実は、税込方式と税抜方式という2通りの方式が考えられます

税込方式とは、消費税金額を含めて、収益・費用処理するという方法で、会計システムに入力した仕訳と同じ仕訳が成果物として出力されることになります。

例えば、事務所賃借にかかる敷金や礼金が返済されない場合の仕訳を税込方式で示すと以下のようになります(上記の入力用の仕訳と同じになることを確認してください)。

【契約締結時】

借方
金額
貸方
金額
長期前払費用
30万円
現金又は預金
30万円

【期末(長期前払費用の振替)】

借方
金額
貸方
金額
支払手数料
15万円
長期前払費用
15万円
借方
金額
貸方
金額
前払費用
15万円
長期前払費用
15万円

税抜方式とは、消費税金額を収益の場合は仮受消費税、費用の場合は仮払消費税に分離して、消費税を処理しようという方法になります。

つまり、会計システムには、税込の取引金額で入力していましたが、出力される成果物に関しては、消費税分だけ税抜表示されることになります。

例えば、事務所賃借にかかる敷金や礼金が返済されない場合の仕訳を税抜方式で示すと以下のようになります。

【契約締結時】

借方
金額
貸方
金額
長期前払費用
仮払消費税
272,728円
27,272円
現金又は預金
300,000円

【期末(長期前払費用の振替)】

借方
金額
貸方
金額
支払手数料
136,364円
長期前払費用
136,364円
借方
金額
貸方
金額
前払費用
136,364円
長期前払費用
136,364円

なお、税込方式と税抜方式はあくまでも消費税の処理方式の違いだけであり、どちらの方式を採用するかは任意ですし、どちらの方式を採用しても消費税の納税額は同じです

繰延資産の消費税の注意事項

仕訳入力時に消費税の区分を選択する段階で注意しなければならないのは、返還されない敷金や礼金を繰延資産として処理した場合です。

消費税法では、サービスの提供がすべて完了した時に消費税の計上をしなければなりません

そして、返還されない敷金や礼金のサービス提供がすべて完了した時点とは、賃貸借契約が完了し、お金の受払いをした時ということになります。

よって、返還されない敷金や礼金で20万円以上のものは、長期前払費用計上時に消費税を「10%課税取引」として設定する必要が出てきます(上記の税抜仕訳に仮払消費税が出ていることを見るとわかりやすいです)。

また、消費税法上は、長期前払費用を計上したときに「10%課税取引」になっているので、決算時に支払手数料に振り替えた時には消費税の処理はしないことになります(もし、支払手数料計上していたら消費税の2重計上になってしまいますよね)。

理論上は以上の通りなのですが、会計システムの初期マスターでは長期前払費用は「課税対象外」、支払手数料は「10%課税取引」と設定されています

長期前払費用や支払手数料で仕訳する場合に多い消費税区分に初期マスターでは設定されていますが、繰延資産が登場する場合には、消費税区分を変更しないと間違ってしまうため注意が必要になります。