
法人が土地・建物を取得する事例は、たとえ不動産会社でなくても生じる可能性のある事象です。
もし、あなたが経理担当者で、不動産売買に係る諸費用(税金・手数料)の仕訳しなければならない場合、どうすれば良いでしょうか?
今回は土地・建物の取得に係る諸費用(税金・手数料)の勘定科目についてみていきましょう。
- 不動産取得税⇒費用処理
- 登録免許税⇒費用処理
- 印紙税⇒費用処理
- 司法書士の登記手続き実施に対する報酬⇒費用処理
- 不動産会社に対する仲介手数料⇒土地・建物の取得価額に算入
- 固定資産税・都市計画税の清算金⇒土地・建物の取得価額に算入
- 火災保険料⇒費用処理又は長期前払費用
- 地震保険料⇒費用処理又は長期前払費用
諸費用(税金・手数料)の種類と区分
土地・建物を取得する際には諸費用(税金・手数料)がかかります。
具体例としては、以下のものがあります。
- 不動産取得税
- 登録免許税
- 印紙税
- 司法書士の登記手続き実施に対する報酬
- 不動産会社に対する仲介手数料
- 売主が既に支払っている固定資産税・都市計画税の清算金
- 火災保険料
- 地震保険料
土地・建物を取得する際の諸費用(税金・手数料)を①費用処理するか、②土地・建物の取得価額に含めるか、③その他の資産に計上するかは非常に迷うところです。
そこで、今回は、諸費用(税金・手数料)のうち①費用処理するもの、②取得価額に算入するもの、③その他の資産に計上するものを今後忘れないように理論付けしながら確認していきましょう。
費用処理するもの
不動産取得税、登録免許税、印紙税などの「税金」は費用処理できます。
土地・建物の取得に「直接」関係する費用ではなく、税金の支払いであり、あくまで土地建物の購入取引の結果、「間接的」に発生する費用なので、「直接」の土地や建物の取得価額に加えにくいからです。
また、司法書士に対する報酬(司法書士の登記手続費用)も費用処理できます。
司法書士が行う登記の変更は厳密には、土地・建物の取得に必須の行為ではなく、「間接」業務に対する報酬だからです。
なお、税金や司法書士に対する報酬は費用処理できるだけであり、「法人」の場合、土地・建物の取得価額に算入しても問題ありません。
ただし、納税額を少なくするために、通常は費用処理しますし、年度により費用処理か取得価額かを変えるのはあまり好ましくないので、経理担当者としては、費用処理と覚えておけば十分です。
不動産取得税
不動産取得税は売主と買主の不動産売買契約が終了した後、かなり遅れて納税通知書が買主の元に届きます。
不動産売買契約終了後、おおよそ3ヶ月~6ヶ月後ぐらいに買主に納税通知書が届きます。
不動産売買契約の締結時又は不動産の引渡し時(供用日といいます)に、建物の減価償却が始まっていますし、納税通知書が翌期に届いた場合だけ、その都度、不動産取得税部分だけ、土地・建物の取得価額が計上されるのは変です。
よって、土地・建物の取得価額を速やかに確定するために、不動産取得税は費用処理してやると覚えておけばよいでしょう。
登録免許税
登録免許税とは、土地・建物の登記の変更に対して課税される税金です。
土地・建物の取得に「直接」関与する費用ではなく、あくまで登記事項を変更するための「間接的」に支出する税金のため、費用処理すると覚えておくと良いでしょう。
印紙税
不動産売買契約書の他に、金銭消費貸借契約書(借入金契約書のこと)などにも印紙を貼ることになります(印紙を貼る≒印紙税を支払う)。
印紙税は課税文書に該当するかどうかだけで支払う税金であり、土地・建物の取得に「直接」関係ある費用ではありません。
よって、費用処理すると覚えておけば良いでしょう。
単純に考えても、印紙を購入した時、すでに「租税公課」の勘定科目で費用処理しているのに、印紙を貼る契約書の種類によって、固定資産に振り替える必要があるという事態が生じるのは違和感を感じるのではないでしょうか。
司法書士の登記手続き実施に対する報酬
司法書士の登記手続き実施に対する報酬は費用処理できます。
土地・建物の登記は第三者(売主・買主以外の人)に所有者が買主であることを知らしめるだけの手段であり、登記がなくても不動産売買契約自体は有効な契約になります。
よって、登記は登記事項を変更するための間接的な作業になり、作業から発生した司法書士の登記手続き実施に対する報酬も費用処理することになります。
なお、司法書士から届く請求書の中では、土地・建物の登録免許税と司法書士報酬が掲載されていますが、登録免許税は「租税公課」、司法書士報酬は「支払報酬」などにきちんと勘定科目を区分して処理してください。
区分していないと、消費税の計算を間違える可能性があります(租税公課⇒消費税不課税、支払報酬⇒消費税課税のため)。
司法書士が個人の場合(司法書士法人ではない場合)、報酬に対する源泉所得税が発生し、「預り金」を計上しなければならないので、こちらも注意が必要です。
土地・建物の取得価額に算入するもの
土地・建物の取得価額に算入しなければならないものとして、不動産会社に対する仲介手数料、売主が既に支払っている固定資産税・都市計画税の清算金等があります。
覚え方としては、一般人が行う土地・建物取得に「直接関係ある」取引は、土地・建物の取得価額を構成すると考えれば良いでしょう。
なお、仕訳の際によくある間違いとして、売主が既に支払っている固定資産税・都市計画税の清算金を土地・建物の取得価額に算入せず、費用処理してしまう場合があります。
この場合、当期の費用が過剰に計上されてしまい、税務調査の際に指摘事項とされる可能性がありますので特に注意しましょう。
不動産会社に対する仲介手数料
不動産会社に対する仲介手数料は土地・建物の取得価額を構成します。
土地・建物の購入を目的として、不動産会社が仲介する取引ため、土地・建物取得に「直接関係ある」取引だと考えられますので、土地・建物の取得価額を構成します。
売主が既に支払っている固定資産税・都市計画税の清算金
売主が既に支払っている固定資産税・都市計画税の清算金とは、固定資産税・都市計画税は1月1日の所有者に1年分の納税義務があるため、売主が税金を納めるけれど、不動産売買後の日割税金分は本来買主負担のため、不動産売買時に清算しようというものです。
売主が既に支払っている固定資産税・都市計画税の清算金は土地・建物の取得価額に含めなければなりません。
税務上の考え方としては、売主と買主の清算金は両者が行う利益調整のための金銭の授受で、あくまで「直接」土地・建物を購入するために一般人が行う私的な取引ため、土地・建物の取得価額を構成するという考え方です。
実務上、固定資産税・都市計画税の清算はほぼ間違いなく行わなければならない義務のようなものであり、不動産実務に詳しい人ほど違和感があると思いますが、規則なので従いましょう。
その他の資産に計上するもの
不動産取得に係る諸費用の中には、土地・建物の取得価額には算入しないものの、一旦資産として計上し、毎年資産を取り崩して費用処理するものがあります。
つまり、不動産取得時に取引の対価として翌期以降分までお金を支払っていて、その効果が翌期以降に生じるものは、一旦資産に計上し、効果発現時に資産を取り崩して、費用処理することになります。
火災保険料
建物に係る火災保険料は「支払保険料」などの勘定科目で費用計上します。
ただし、長期に渡る保険料(翌期以降の保険料も前払している場合)については、当期分保険料と翌期以降分保険料を区分して、費用(支払保険料)と資産(長期前払費用)に計上する必要があります。
火災保険料については契約パターンがいくつもあるのですが、土地・建物の購入の際、銀行の融資期間+1年程度の長期間の火災保険料を前払いする形で契約を結ぶこともあります。
その場合、当期の保険料以外の部分は翌期以降に効果が発生するため、当期の費用とはならず、翌期以降の費用とするために当期は長期前払費用として資産処理することになります。
地震保険料
地震保険料は、1年単位の契約が一般的だと考えらます。
よって、通常は、当期の保険期間に対する費用であるため、費用処理します。
なお、契約期間が1年以内の地震保険料については、税務上の「短期前払費用の特例処理」ができ、支払時に当期の対象月数に関係なく全額費用処理できる場合が多いです。
もし、地震保険の契約期間が複数年の場合は火災保険料と同じ扱いになりますので、長期前払費用の計上の有無を検討してください。