会計ソフトや業務ソフトをバージョンアップしたとき、その費用は「経費にするの?それとも無形固定資産になるの?」と迷ったことはありませんか。
同じバージョンアップでも、内容によってはその年に全額を経費にできることもあれば、無形固定資産として数年かけて少しずつ経費にすることもあります。
判断を誤ると、今年使えるはずの経費を逃したり、あとで税務署から指摘されたりすることにもなりかねません。
この記事では、ソフトのバージョンアップ費用が修繕費・資本的支出・新規取得のどれになるかの見分け方を、仕訳例・少額のときの経費処理・旧ソフトの除却まで、初心者にもわかるように税理士が解説します。
ソフトのバージョンアップ費用は3つの処理に分かれる
ソフトのバージョンアップ費用は、内容に応じて「修繕費」「資本的支出」「新規取得」の3つに分かれます。
判断のもとになるのは、修繕費と資本的支出を区分する国税庁の通達です(法人は法人税基本通達7-8-6の2、個人事業主は所得税基本通達37-10〜37-14)。
まずは早見表で全体像をつかみましょう。
早見表|修繕費・資本的支出・新規取得の判定
| 処理 | どんなとき | 税務上の扱い |
|---|---|---|
| 修繕費(経費) | バグ修正・障害の除去・現状の機能を維持するだけ | その年に全額を経費にできる |
| 資本的支出(無形固定資産) | 新しい機能の追加・機能の向上 | 無形固定資産に計上し、減価償却で数年に分けて経費にする |
| 新規取得(無形固定資産) | 仕様を大幅に変更し、実質的に新しいソフトといえる | 無形固定資産として計上し、減価償却(耐用年数5年) |
具体的には、次のような場合が当てはまります。
修繕費になる例(機能の維持・不具合の修正)
- 不具合(バグ)の修正パッチを適用した
- セキュリティの脆弱性に対応する更新を行った
- OSや周辺環境の変更に合わせて、今までどおり動かすための修正をした
- 法改正に対応して、現状の機能を保つだけの更新をした(新しい機能は増えない場合)
資本的支出になる例(機能の追加・向上)
- 新しい機能を追加した(例:請求ソフトにインボイス発行機能や、新しい帳票・レポート機能を加えた)
- 処理速度や性能が上がった、同時に使える人数や扱えるデータ量が増えた
- 操作性を大きく高める改良をした
新規取得になる例(仕様の大幅な変更)
- プログラム設計を一から作り直すような全面改修・著しい改良をした
- 旧製品を廃止して、新しい製品(新バージョン)へ置き換えた
次の章から、3つのケースを順に見ていきます。
費用が修繕費になるケース(機能維持・バグ修正)
バグ修正や障害の除去など、今ある機能を保つだけのバージョンアップ費用は、修繕費(経費)になります。
たとえば不具合の修正パッチや、現状の効用を維持するためのアップデートが該当します。これらの費用は、支払った年に全額を経費にできます。
【仕訳例】機能維持のためのアップデート費用5万円を現金で支払った場合
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 修繕費 | 5万円 | 現金 | 5万円 |
費用が資本的支出になるケース(機能追加・向上)
新しい機能の追加や向上をともなうバージョンアップ費用は、資本的支出として資産に計上します。
無形固定資産に計上した後は、その資産を減価償却(ソフトウェアの耐用年数は原則5年)で、数年に分けて経費にしていきます。
【仕訳例】決算日の3か月前に、新機能を追加するアップグレード費用60万円を現金で支払い、無形固定資産(耐用年数5年)として計上した場合。
①取得時(支払ったとき)の仕訳
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| ソフトウェア | 60万円 | 現金 | 60万円 |
②決算時(期末に1年分を減価償却)の仕訳
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 減価償却費 | 3万円 | ソフトウェア | 3万円 |
1年分の減価償却費は60万円÷5年=12万円です。
ただし取得した期は、使った月数で月割します。この例では決算まで3か月なので、12万円×3か月÷12か月=3万円を減価償却費に計上します。
費用が新規取得(無形固定資産)になるケース(大幅な改良)
仕様を大幅に変更し、実質的に新しいソフトを取得したといえる場合、その費用は新規取得として無形固定資産に計上します。
この場合も、計上した無形固定資産を耐用年数5年で減価償却します。減価償却の基本は「減価償却のしくみ」を参照してください。
金額が少額なら経費にできる(資本的支出・新規取得の金額基準)
資産にあたる費用でも、金額が小さければ、その年に全額を経費にできる場合があります。
| ケース | 金額 | 処理 |
|---|---|---|
| 資本的支出 | 一の修理・改良などが20万円未満 | 修繕費として全額経費にできる(法基通7-8-3) |
| 新規取得 | 10万円未満 | 少額減価償却資産として全額経費(消耗品費など) |
| 新規取得 | 20万円未満 | 一括償却資産(取得価額を3年で均等に経費にする方法)も選べる |
| 新規取得 | 40万円未満(中小企業者等) | 少額減価償却資産の特例で全額経費(年300万円まで) |
※40万円未満の枠は「中小企業者等(資本金1億円以下の中小法人や個人事業主など)の少額減価償却資産の特例」によるもので、令和8年度の税制改正で30万円未満から引き上げられました。
旧ソフトの除却損|新しいソフトに置き換えたときの仕訳
新規取得にあたる大幅なバージョンアップで、これまでの旧ソフトを使わなくなった場合は、旧ソフトの未償却残高(まだ経費にしていない残りの金額)を固定資産除却損として経費にできます。
資産計上していた旧ソフトが帳簿に残ったままになりやすいので、新版に移行したら旧版の除却を忘れないようにしましょう。
【仕訳例】新しいソフトに置き換え、使わなくなった旧ソフト(未償却残高10万円)を除却した場合
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 固定資産除却損 | 10万円 | ソフトウェア | 10万円 |
まとめ|ソフトのバージョンアップ費用の処理
ソフトのバージョンアップ費用は、内容で次の3つに分かれます。
- 機能維持・バグ修正 → 修繕費(その年に全額経費)
- 機能追加・向上 → 資本的支出(無形固定資産として減価償却)
- 大幅な改良 → 新規取得(無形固定資産・耐用年数5年)
少額なら早く経費にできますが、判断は分かれます。資本的支出は20万円未満なら修繕費に、新規取得は10万円未満(中小企業者等は40万円未満)なら全額を経費にできます。
また、新規取得で旧ソフトを使わなくなったら、除却損の計上も忘れずに行ってください。
ソフトのバージョンアップ費用に関するよくある質問(FAQ)
- バグ修正のアップデートは経費にできますか?
-
できます。
バグ修正やエラーの解消など、今ある機能を保つだけのアップデートは「修繕費」として、支払った年に全額を経費にできます。
新しい機能が増えていないことがポイントです。
- 新機能が増えるバージョンアップはどう処理しますか?
-
新しい機能の追加や性能の向上をともなう場合は「資本的支出」として無形固定資産に計上し、減価償却(耐用年数5年)で数年に分けて経費にします。
支払った年に全額を経費にはできない点に注意しましょう。
- 少額なら一度に経費にできますか?
-
できる場合があります。
資本的支出でも、一の修理・改良が20万円未満なら修繕費として全額経費にできます。
新規取得(無形固定資産)でも、10万円未満なら全額経費、中小企業者等なら40万円未満まで全額経費にできます(令和8年度改正・1つあたりの金額、年間合計300万円まで)。
- ソフトウェアの耐用年数は何年ですか?
-
自社で使うソフトウェアの耐用年数は原則5年です。
資本的支出や新規取得で無形固定資産になった分は、この5年で減価償却します。
- 古いバージョンのソフトはどうすればよいですか?
-
新規取得(実質的に新しいソフトへの置き換え)で旧ソフトを使わなくなった場合は、旧ソフトの未償却残高(まだ経費にしていない残りの金額)を「固定資産除却損」として経費にできます。
無形固定資産が帳簿に残ったままになりやすいので、移行したら除却を忘れないようにしましょう。
出典・参考
- 国税庁 法人税基本通達 第8節「資本的支出と修繕費」(7-8-6の2・7-8-3)(法人)
- 国税庁 所得税基本通達 37-10〜37-14「資本的支出と修繕費」(個人事業主)
- 国税庁タックスアンサー No.5408「中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」(40万円・個人=措法28の2/法人=措法67の5)
- 国税庁タックスアンサー No.5461「ソフトウエアの取得価額と耐用年数」(共通)


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