不動産所得の事業的規模は、貸室が9室では認められないのでしょうか。あと1室足りないというだけで、最大65万円の青色申告特別控除をあきらめている方は少なくありません。
事業的規模かどうかで、青色申告特別控除は最大65万円と10万円に分かれます。家族へ払った給与を経費にできるかどうかも変わるため、9室だからと決めつけてしまうと、本来より多い税金を毎年払い続けることになります。
実は5棟10室は、国税庁の通達に「おおむね」と書かれた目安にすぎません。届かない場合に事業的規模と認められるかどうかは、貸付けの実態で判断されます。
本記事では、9室でも事業的規模と認められる余地があるのかを、税理士会の回答事例と国税不服審判所の裁決をもとに、不動産業を専門とする税理士が解説します。
不動産所得の事業的規模とは?
不動産所得の事業的規模とは、不動産の貸付けが社会通念上「事業」と呼べる規模で行われている状態です。
判断基準は、貸付けが世間から見て商売として成り立っているかどうかです。商売と呼べるほどの規模ではない貸付けは、税務上「業務的規模」として区別されます。
不動産所得は、事業的規模と業務的規模のどちらに当たるかで、税金の計算のしかたが変わります。まずは、どこがどう変わるのかを見ていきます。
9室と10室で何が変わる?事業的規模と業務的規模の4つの違い
不動産所得が事業的規模と認められると、税金の計算で4つの取扱いが有利になります(国税庁タックスアンサー No.1373「事業としての不動産貸付けとそれ以外の不動産貸付けとの区分」)。業務的規模との違いは、次の表のとおりです。
| 項目 | 事業的規模 | 業務的規模 |
|---|---|---|
| 青色申告特別控除 | 最高65万円 | 最高10万円 |
| 家族への給与 | 必要経費にできる | 必要経費にできない |
| 資産損失(建物の取壊しなど) | 全額を必要経費にできる | その年の不動産所得が上限 |
| 貸倒損失(家賃の未回収) | その年の必要経費にできる | 過去の年にさかのぼって計算し直す |
家族への給与とは、生計を一にする家族(=生活費を共にしている家族)へ払う給与のことです(国税庁タックスアンサー No.2075「青色事業専従者給与と事業専従者控除」)。事業的規模でなければ、家族にいくら払っても必要経費にはできません。
赤字を他の所得と相殺する損益通算や、赤字を翌年以降に繰り越す純損失の繰越控除は、事業的規模でも業務的規模でも同じように使えます。
では、どこからが事業的規模になるのか、判定の基準を次に見ていきます。
不動産所得が事業的規模になる基準はおおむね5棟10室
不動産所得が事業的規模かどうかは、貸室ならおおむね10室以上、戸建てならおおむね5棟以上という目安で判定します。
いわゆる「5棟10室」と呼ばれる目安で、国税庁の通達に書かれています(国税庁 所得税基本通達26-9「建物の貸付けが事業として行われているかどうかの判定」)。
ただし「おおむね」とあるとおり、5棟10室はあくまで目安です。通達が本来求めているのは、社会通念上「事業」と呼べる規模かどうかという判断です。
室数や棟数だけで判定する目安を形式基準、実態から判断する本来の基準を実質基準といいます。
所得税基本通達26-9には、賃貸料の収入や貸付資産の管理の状況から「準ずる事情」があると認められるときも、事業として扱うと書かれています。
つまり、貸室が10室に届かない場合は、準ずる事情があるといえるかどうかで、事業的規模と認められるかが決まります。
9室でも不動産所得が事業的規模と認められる余地はある
貸室が9室でも、不動産所得が事業的規模と認められる余地はあります。判定に使われるのは、室数だけではないからです。
形式基準は、超えれば事業として扱ってもらえる合格ラインであって、届かなければ事業ではないという線引きではありません。
実際に国税不服審判所も、形式基準を満たさないことだけを理由に事業ではないとはいえない、と判断しています(国税不服審判所 平成19年12月4日裁決)。
実質基準で見られるのは、貸付けの実態です。国税不服審判所は、判断に使う要素として次の7つを挙げています。
国税不服審判所が示した7つの判断要素
- 営利性・有償性の有無:もうけるつもりで、家賃をとって貸しているか
- 継続性・反復性の有無:一時的ではなく、続けて貸しているか
- 自己の危険と計算における事業遂行性の有無:自分の資金とリスクで運営しているか
- 取引に費やした精神的・肉体的労力の程度:どれだけ手間と時間をかけているか
- 人的・物的設備の有無:人手や設備をそろえているか
- 取引の目的:何のために貸しているか
- 事業を営む者の職歴・社会的地位・生活状況:本業や暮らしぶりから見て事業といえるか
7つの要素はやや抽象的なので、実務では次の3点にしぼって考えると整理しやすくなります。
- 貸付先:同族会社や家族だけに貸していないか
- 賃貸料:不動産の収入が暮らしの柱になっているか
- 管理状況:管理会社に任せきりにせず、募集や修繕に自分で関わっているか
以上の3点は、東京税理士会の会員相談室が実務上の判断のポイントとして挙げているものです。いずれも室数とは関係がなく、9室のままでも十分に主張できる中身です。
9室以下で事業的規模と判断された事例・されなかった事例
5棟10室に届かない貸付けでも、実態次第で事業的規模と判断された事例があります。逆に、実態が伴わず認められなかった事例もあります。
ここでは、税理士会の回答事例と国税不服審判所の裁決を確認していきましょう。前章の3つのポイント、つまり、貸付先・賃貸料・管理状況のどれが揃い、どれが欠けたかに注目してください。
【事例1】事務所3か所だけでも、年1,000万円超の賃料で事業的規模と判断された
事務所を3か所貸している方が、税理士会に相談した事例です(東京税理士会 会員相談室 事例0184)。それぞれの事務所の面積が広く、年間の家賃収入は1,000万円を超えていました。
賃貸物件は事務所の3件だけなので、5棟10室の形式基準には届きません。それでも税理士会の回答は、事業的規模と判断しました。
5棟10室は形式的な基準にすぎず、それに届かない貸付けでも実態次第で事業的規模になり得るという判断になります。
3つのポイントで見ると、1か所あたりの面積の広さと、年1,000万円を超える賃料が続いている点が事業的規模と判定できると評価されました。
【事例2】倉庫1棟と駐車場30台でも、年700万円の賃料で事業的規模と判断された
倉庫1棟と駐車場30台分を貸している方が、税理士会に相談した事例です(千葉県税理士会 相談事例Q&A 0301)。家賃収入は年700万円、不動産所得は500万円でした。
土地の貸付けはおおむね5件を1室として数えるため、駐車場30台は6室分に換算できます。倉庫と合わせても1棟6室相当で、形式基準には届きません。
形式基準に届かないにもかかわらず、税理士会の回答は、事業的規模とみてよいと判断しています。
不動産所得が500万円で、事業税が課されている点などから、実質で判断すれば事業的規模といえると判断できるためです。
判断の最大のポイントは賃貸料です。年700万円の家賃収入と500万円の不動産所得は、暮らしの柱といえる水準です。
ただし、上記2件は税理士会の相談室による回答です。ここからは、国税不服審判所の裁決事例をみていきましょう。
【事例3】審判所が室数に触れず、家族による管理の実態だけで事業的規模と認めた
各地に散らばった貸家や貸室を持つ方が、税務署から「不動産の貸付けは事業ではない」と判断された事例です(国税不服審判所 昭和52年1月27日裁決)。税務署は、この方が家族へ払った給与を必要経費から外しました。
国税不服審判所は、この方の不動産の貸付けは事業として行われているとみるのが相当だと判断しました。税務署の処分は全部取り消されています。
審判所が評価したのは、3つのポイントのうち賃貸料と管理状況です。家賃が固定資産税や管理費などの経費を賄ってなお利益を生み、家賃の集金や契約更新の交渉も家族が長年こなしていました。
家族は毎月の収支明細表も作り、お金の出入りを整然と記録していました。審判所は室数にも棟数にも一言も触れないまま、事業と認めています。
【事例4】貸室4室で家賃が経費も賄えず、事業的規模と認められなかった
会社に勤めながら、自宅と同じ敷地でアパートを貸していた方の事例です(国税不服審判所 昭和54年9月26日裁決)。貸していた部屋は4室で、入居者は3名程度でした。
国税不服審判所は、この貸付けは社会通念上、事業と呼べる規模ではないと判断しました。妻へ払った給与は、必要経費として認められていません。
3つのポイントで見ると、不動産の収入が暮らしの柱になっていませんでした。家賃は固定資産税や管理費などの経費にも満たず、生活費の大部分は勤務先の給与で賄われていたためです。
審判所は、室数の少なさだけを理由に事業ではないと判断したわけではありません。9室でも、家賃で経費を賄って利益を出し、自分で管理していれば、結論が変わる余地はあります。
【事例5】家賃が年950万円あっても、身内だけに貸して管理も任せきりでは事業的規模と認められない
税理士である方が、自分のビル1棟を、自分が経営する同族会社2社と長男に貸していた事例です(国税不服審判所 平成19年12月4日裁決)。年間の家賃は約950万円ありました。
国税不服審判所は、この貸付けは事業的規模には当たらないと判断しました。借り手が身内だけで空室が出ないため、入居者を募集する必要も家賃を交渉する必要もなかったからです。
建物の清掃や設備の点検も、借り手である同族会社が行っていました。
3つのポイントで見ると、家賃が年950万円あり賃貸料は十分です。しかし貸付先は自分の同族会社と長男だけ、管理も借り手任せで、残る2つを満たしていません。
【事例6】税務署が更正通知書に否認の理由を書かず、審判所が納税者に不利な更正処分を取り消した
駐車場を貸している方が、税務署から「貸付けの規模は事業とはいえない」として、家族へ払った給与を必要経費から外された事例です(国税不服審判所 平成14年11月28日裁決)。
国税不服審判所は、事業的規模かどうかを判断しないまま、税務署が行った更正処分を取り消しました。税額を直す際に送られる更正通知書に、なぜ事業とはいえないと判断したのかという理由が書かれていなかったためです。
税務署の側にも、否認する理由を更正通知書に具体的に書く義務があります。理由が書かれていなければ、処分そのものが成り立ちません。
結論を分けているのは室数ではなく、誰に貸し、どれだけ利益を上げ、どこまで自分で管理しているかです。もっとも、戸建てや駐車場を持っている場合は、数え方しだいで5棟10室に届くこともあります。
5棟10室の数え方|戸建て・駐車場・共有名義はどう数えるか
貸室だけを数えて9室でも、戸建てや駐車場を合わせると5棟10室に届くことがあります。事業的規模は、貸している物件をすべて合計して判定するためです。
実態で事業的規模を主張する前に、自分の貸付けが何室に相当するのかを数え直してみてください。貸付けの種類ごとの数え方は、次のとおりです。
貸付けの種類ごとの数え方
- 貸室(アパート・マンション):貸せる状態にある独立した部屋を1室と数える
- 独立家屋(戸建て):1棟を2室に換算する考え方が実務で使われる
- 駐車場などの土地の貸付け:おおむね5件で1室と数える
- 共有名義:10室のアパートを2人で共有していれば、2人とも10室として数える(持分では割らない)
駐車場は台数ではなく、貸付けの件数で数えます。同じ人に2台以上貸していても「土地の貸付け1件」、同じ人に建物と駐車場を貸していれば「建物の貸付け1件」です(大阪国税局 個人課税審理専門官情報 第7号 質疑事例0003)。
戸建ての換算は、通達が「貸室おおむね10室」と「独立家屋おおむね5棟」を同じ入口として並べていることから導かれます。10室と5棟が同じ入口なら、1棟は2室に相当するという読み方です。
ただし、1棟を2室と定めた公表資料は見当たりません。土地の「おおむね5件で1室」と違い、換算だけを頼りにした説明は崩れやすい点に注意してください。
まとめ:9室から不動産所得の事業的規模を目指すときの判断軸
不動産所得が9室のままでも、貸付けの実態次第で事業的規模と認められる余地があります。
本記事のポイント整理
- 事業的規模で変わるのは4つの取扱い:青色申告特別控除、家族への給与、資産損失、貸倒損失です。
- 5棟10室は目安であり、絶対の線引きではない:室数に触れないまま、実態から事業と認めた裁決があります。
- 分かれ目になるのは室数より貸付けの実態:貸付先、賃貸料、管理状況の3点が実務のポイントです。
- 賃料の大きさだけでは事業と認められない:貸主が自分で管理していないとして否認された裁決があります。
自分の不動産所得が事業的規模に当たるかどうかは、次の3つの手順で確かめられます。
- 貸室・戸建て・駐車場を洗い出し、合計で何室に相当するかを数える
- 10室に届かない場合は、募集や管理を自分で行った記録が残っているかを確かめる
- 貸付先が同族会社や家族だけになっていないか、賃貸料が暮らしの柱になっているかを確かめる
不動産所得の事業的規模を9室のまま主張するなら、募集や修繕のやり取りと毎月の収支を、記録として残しておきましょう。
不動産所得の事業的規模に関するよくある質問(FAQ)
不動産所得の事業的規模について、実際によく検索されている5つの質問にお答えします。
- 不動産所得の事業的規模は、部屋数が9室でも認められますか?
-
9室でも認められる余地はあります。国税不服審判所が、5棟10室を満たさなくても実態しだいで事業的規模になりうる、と判断しているためです。
室数に触れないまま、管理の実態から事業と認めた裁決もあります。募集や管理を自分で行い、その記録を残しているかが分かれ目になります。
- 不動産所得の事業的規模とは、どのような状態を指しますか?
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不動産の貸付けが、社会通念上「事業」と呼べる程度の規模で行われている状態を指します。目安は、貸室でおおむね10室以上、独立家屋でおおむね5棟以上です(国税庁 所得税基本通達26-9)。
- 駐車場だけを貸している場合、不動産所得の事業的規模はどう判定しますか?
-
土地の貸付けおおむね5件を貸室1室として数え、10室に相当するかどうかで判定します。駐車場だけなら、おおむね50件で事業的規模の目安に届く計算です。
同じ人に2台以上貸している場合は、まとめて「土地の貸付け1件」と数えます(大阪国税局 個人課税審理専門官情報 第7号 質疑事例0003)。
- 建物を夫婦の共有名義で持っている場合、事業的規模の室数はどのように数えますか?
-
持分では割らず、共有者それぞれが建物全体の室数を持っているものとして数えます(大阪国税局 個人課税審理専門官情報 第7号 質疑事例0003)。10室の建物を2人で共有していれば、2人とも10室として判定します。
参考文献
- 国税庁「所得税基本通達26-9 建物の貸付けが事業として行われているかどうかの判定」
- 国税庁タックスアンサー No.1373「事業としての不動産貸付けとそれ以外の不動産貸付けとの区分」
- 国税庁タックスアンサー No.2072「青色申告特別控除」
- 国税庁タックスアンサー No.2075「青色事業専従者給与と事業専従者控除」
- 国税不服審判所 平成19年12月4日裁決(裁決事例集No.74 37頁)
- 国税不服審判所 昭和52年1月27日裁決(裁決事例集No.13 1頁)・昭和54年9月26日裁決(裁決事例集No.18 51頁)
- 国税不服審判所 平成14年11月28日裁決(東裁(所)平14-98)
- 大阪国税局 個人課税審理専門官情報 第7号 質疑事例0003「土地を貸し付けている場合の事業的規模の判定」
- 東京税理士会 会員相談室 事例0184(東京税理士界 令和4年10月1日 第789号)
- 千葉県税理士会 相談事例Q&A 0301(千葉県税理士界 令和8年3月20日 第300号)


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