- 不動産賃貸業を営む個人事業主が管理会社を設立するとかなりの節税効果があります。
- 節税効果には日常的に節税になるものと相続時に節税になるものも含めて実に12個もあります。
不動産賃貸業を営む個人事業主からよく聞かれる質問の1つに「管理会社を設立すると節税対策になるの?」というものがあります。
管理会社を設立して節税対策を行う場合、以下の3つの方法があります。
- 個人事業主が行っている管理業務の一部を不動産管理会社に委託する方法
- 個人事業主が所有している賃貸用不動産を不動産管理会がサブリース(転貸借)する方法
- 個人事業主が所有している不動産を不動産管理会社に売却する方法
どの方法を選択するかにより節税対策の効果は変わってきますが、利益があるならば、会社を設立して節税対策を行った方が良いでしょう。
そこで、今回は不動産賃貸業を営む個人事業主が不動産管理会社を設立して節税対策を行う12つのメリットについて説明していきます。
会社(比例税率)と個人事業主(超過累進税率)の税率差が利用できる
会社の税金には法人税が適用されますが、法人税は比例税率であり、どんなに売上高が計上されても税率は変わりません。
それに対して、個人事業主の税金には所得税が適用されますが、所得税は超過累進税率で、利益が多くなればなるほど税率も跳ね上がっていきます。
不動産賃貸業の利益が少ないうちは個人事業主として不動産賃貸業を営んでいた方が税率的に有利ですが、利益が500万円を超えた辺りで管理会社を設立して利益を管理会社にも分散した方が納税額は少なくなります。
詳細については、「不動産管理会社を設立した方がお得?個人事業主の会社設立の本当の目安金額!」をご覧ください。
役員報酬による所得分散ができ、個人事業主の超過累進税率の緩和が図れる
個人事業主として不動産賃貸業を営む限り、不動産賃貸より生じる所得(≒利益)については、個人事業主一人の所得(≒利益)になります。
個人事業主一人の所得であれば、所得税の超過累進税率が適用されてしまうため、納税額が多くなります。
しかし、不動産管理会社を設立し、会社の役員を増やせば、役員報酬を通して、あなた自身、配偶者、親族などに所得(≒利益)を分散できます。
つまり、法人税率と所得税率の低い方を選択出来るように所得(≒利益)を分散出来れば、節税対策に繋がります。
詳細については、「法人の役員報酬をきちんと検討することは節税対策に繋がります!」をご覧ください。
役員報酬に対する給与所得控除が適用できる
役員報酬は一般の会社員の給料と同じように給与所得控除を受けることが出来ます。
給与所得控除とは、役員報酬の金額に応じて一定額を概算で経費に算入できる制度のことを言います。
例えば、役員報酬が500万円であれば、144万円(500万円×20%+44万円)が給与所得控除として認められるため、実質的には144万円の経費が増えたことと同じになります。
配偶者や親族を不動産管理会社の役員にしておけば、役員の人数分だけ給与所得控除が利用できるので、さらに実質的な経費を増やすことも可能になります。
【給与所得控除額を試算してみよう!】
役員報酬
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給与所得控除額
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162.5万円以下 | 55万円 |
162.5万円超180万以下 | 収入金額×40%-10万円 |
180万円超360万円以下 | 収入金額×30%+8万円 |
360万円超660万円以下 | 収入金額×20%+44万円 |
660万円超850万円以下 | 収入金額×10%+110万円 |
850万円超 | 195万円 |
会社や配偶者等に財産が分配されるため、事業者本人の相続財産の増加を抑えられる
不動産管理会社を設立し、収益の一部を個人事業主から会社に付け替え、役員報酬を配偶者や親族に支払えば、その分個人事業主の財産は減ります。
例えば、配偶者やご子息を会社役員にしている場合は、役員報酬を通じて、事業者本人の相続財産の一部を相続を通さず、移転できていることになります。
また、配偶者やご子息を会社役員にしていると、役員報酬の支払い分だけ、将来の相続税の納税資金を準備させることもできます。
株式を利用した相続財産の事前受渡しができる
不動産賃貸業を営む個人事業主が管理会社を設立し、不動産所得を会社に付け替えた場合、会社では利益が計上され続けるため、会社の財産は年々増加していき、それに伴い会社の株価も上昇していきます。
そして、会社の財産は、会社の所有者である株主に帰属します。
会社設立時に株主の中にご子息やお孫さんを入れておけば、最初の安い株価から徐々に株価が上昇していき、相続財産の一部を事前にご子息やお孫さんに渡せることになります。
仮に、現状で会社の株主が事業主自身だけの場合は、早めにご子息やお孫さんに株式を贈与しておきましょう。
生命保険を利用した節税対策を利用できる
個人事業主の場合、どんなに生命保険料を払っても、税金から控除できる金額は4万円だけです。
しかし、不動産管理会社を設立し、契約者:会社、被保険者(保険の対象者):役員、保険金受取人:会社として生命保険料を支払えば、全額損金(=経費)に算入できる可能性があります。
例えば、年間100万円支払う生命保険に加入すれば、100万円をそのまま損金(=経費)に算入できる可能性があります。
不動産売却損を他の収益と通算できるようになる
個人事業主が所有する賃貸用不動産を売却し、譲渡損失が出た場合、他の賃貸用不動産の売却益とのみ相殺でき、不動産賃貸収入等の他の所得との相殺はできません。
しかし、会社が所有する賃貸用不動産を売却し、不動産売却損が計上された場合、不動産賃貸収入を含むすべての収益と相殺でき、さらにそれでも赤字が残るときは、繰越欠損金として10年間(平成30年4月1日以後に開始する事業年度から)利益が計上された年度の利益金額を限度として控除できます。
土地の相続税評価額を引き下げられる
土地所有者が会社を設立し、その土地の上に会社が建物を所有した場合に、「土地の無償返還に関する届出書」を土地所有者・会社の連名で税務署に提出します。
すると、土地の評価額が20%減額になり、土地所有者(=個人事業主)の相続税評価額が減額されることになります。
また、小規模宅地等の減額特例の「貸付事業用宅地等」に該当しますので、さらに、200㎡まで土地評価額が相続時に50%減額されます。
社宅を利用した損金(=経費)の増加を図れる
通常の会社の場合、法人契約をした居住用の建物を役員等に提供し、ごくわずかな家賃を徴収していれば、賃貸人に支払った家賃-役員等から徴収した家賃を損金(=経費)に計上できるため、個人事業主の場合よりも経費を増やすことができます。
また、不動産賃貸業を会社が営んでいる場合は、所有物件を役員等に貸し出すことにより、第三者に貸し出したときのような高額な家賃収入はなくなりますが、社宅部分の固定資産税・減価償却費・損害保険料・借入金利息・修繕費などは当然損金(≒経費)に計上できます。
いずれの場合にしろ、個人事業主が自己所有の物件に住んでいる場合には計上できない経費が、会社の場合は計上できることになり、節税に適していると言えます。
消費税減税につながる可能性がある
個人事業主のみで不動産賃貸業を行うよりも、個人事業主と会社両方で不動産賃貸業を行う方が消費税の減額につながることもあります。
例えば、個人事業主の方に居住用の建物を集めて消費税の免税事業者になっており、会社の方では事業用の建物を集めて消費税の課税事業者になっていれば、会社の方の課税売上割合が高くなり、消費税の減額に繋がる可能性が高いです。
個人事業主と会社でどの不動産を所有するかを自由に選択できるために考えられる節税方法ですが、きちんと個人事業主と会社のどちらが不動産を所有しているかの実態を整えておかないと否認される可能性がありますので注意が必要になります。
会社所有の不動産には相続に伴う所有権移転登記に関係する費用が発生しない
不動産賃貸業を営む個人事業主の相続の際には、相続人(=土地・建物を受け継ぐ人)への所有権移転登記が必要になります。
所有権移転登記の際には登記簿の変更が必要になり、登録免許税や司法書士への報酬が必要になります。
特に登録免許税は固定資産税評価額の1000分の4にもなり、仮に固定資産税評価額1億円の土地を相続した場合には、1億円×1000分の4=40万円の納税が必要になります。
相続は引き継ぐ財産の金額が高額になるため、相続に伴う所有権移転登記に関係する費用は、非常に高額になります。
個人事業主が所有している不動産を不動産管理会社に売却する方法で節税対策を行っている場合、そもそも会社に土地・建物の所有権がすでに移転されているため、事業主が死亡しても相続に伴う所有権移転登記自体が発生しません。
よって、結果として相続に伴う所有権移転登記に関係する費用は発生しないことになります。
経営セーフティ共済が利用できる
経営セーフティ共済は取引先が倒産して資金繰りが悪化した時に貸付けを受けることができる制度なのですが、節税対策の為に利用されることが多いです。
年間240万円までの掛金を損金(=経費)に算入することができ、払い込み期間が40カ月を経過すれば、払込んだ掛金の全額が保証されます。
年間の法人税の納税額が72万円(掛金240万円×法人等税率30%)減少する制度だと考えれば、かなり良い節税対策であることが分かります。
この経営セーフティ共済ですが、不動産賃貸業を営む個人事業主の場合は、加入することができません。
ただし、不動産管理会社を設立すれば加入できますので、会社を設立した方が圧倒的に節税になります。