不動産管理料の適正額と同族会社等の行為又は計算の否認規定との関連性!

不動産専門に税理士業を行っていると「同族経営の不動産管理会社に管理料を支払う場合、管理料はいくらぐらいに設定すれば良いの?」という質問をよく受けます。

答えとしては、おおよその目安(管理委託方式5%~8%弱、一括転貸方式20%弱など)はあるものの、不動産管理会社に任せる業務の実態とその業務の周辺相場の兼ね合いにより異なるということになります。

不動産管理会社に任せる業務の実態に関しては、ご自身が行っている業務を理解していれば、それをすべて会社に任せる形にすれば良いので、そこまで大きな論点はないでしょうが、その業務の周辺相場というと網羅的な見積りを取ることができず、結果として保守的な不動産管理料を設定している方も多いでしょう

勿論、保守的な不動産管理料を設定することも税務上余計な論点を増やさないための選択肢の一つですが、節税対策として考えると非常に勿体ないのも事実です

そこで今回は、不動産所有者(個人)が節税目的で同族経営の不動産管理会社に管理料を支払っている場合で、「不相当に高額な管理料」として税務署側が否認できる根拠である、「同族会社等の行為又は計算の否認等」(所得税法第157条)の規定の内容を確認していきましょう

「同族会社等の行為又は計算の否認等」の規定(所得税法第157条)が理解できれば、納税者側が適正な管理料を考える上で、「もし管理料が否認されたらどうしよう…」という必要以上の恐怖は無くなり、適正な管理料を設定することができるようになります

不動産管理会社の種類と同族会社等の行為又は計算の否認等の適用対象について

節税対策で利用する同族経営の不動産管理会社の種類には、①管理委託方式②一括転貸(サブリース)方式③会社所有方式の3つの種類があります。

まずは、「同族会社等の行為又は計算の否認等」(所得税法第157条)の規定と不動産管理会社の種類の関係を見ていきましょう。

管理委託方式の場合

管理委託方式とは、不動産所有者(個人)が従来自分で行ってきた不動産管理業務を同族経営の不動産管理会社に業務委託する方式です。

同族経営の不動産管理会社へ管理料という名目で所得移転ができるため、個人の税率より法人の税率の方が低い場合は、所得移転により節税に繋がります

ただし、不動産所有者(個人)が同族経営の不動産管理会社に支払った管理料が管理業務の実態に照らし合わせて「不相当に高額」ならば、その高額な部分について「同族会社等の行為又は計算の否認等」の規定を根拠に管理料の一部の必要経費算入を否認されることになります

一括転貸(サブリース)方式の場合

一括転貸(サブリース)方式とは、不動産所有者(個人)がまずは同族経営の不動産管理会社に不動産を賃貸し、同族経営の不動産管理会社が一般人に転貸する方式です。

中間に同族経営の不動産管理会社を介入させ、転貸家賃を賃貸家賃より高く設定することで、転貸家賃-賃貸家賃分が不動産管理会社に利益(=内部留保額)として残り、不動産所有者(個人)側では、会社の利益分が所得金額から減額されることになります。

よって、税法上では、同族経営の不動産管理会社の利益(=内部留保額)を不動産所有者(個人)から同族経営の不動産管理会社に収益移転されたものと考えます

そして、この利益(=内部留保額)が多額に計上されるようならば、「不相当に高額」な管理料であるとして、「同族会社等の行為又は計算の否認等」を根拠に収益移転の一部が否認されることになります

会社所有方式の場合

不動産所有者(個人)から同族経営の不動産管理会社が建物等を売買契約により買い取ってしまう方式です。

賃貸する建物の所有権自体が不動産管理会社に帰属することになるので、そもそも不動産管理会社に対する管理料という概念自体が発生しません。

よって、「不相当に高額」な管理料という論点自体が発生せず、上記、管理委託方式、一括転貸(サブリース)方式に比べて税務論点が少ないことになります。

税務署側から見た同族会社等の行為又は計算の否認等の目的

同族会社等の行為又は計算の否認等の規定の目的は、租税負担の公平を図ることなので、仮に租税負担を回避するために不動産管理会社を利用した節税対策を行ったとしても、通常以上の税を負担させるような制裁的な目的はありません

要は、仮に不動産管理会社を利用した節税対策が否認された場合でも、税務署側では、その後に、納税者が否認された事実を前提とした申告を行うことを期待するだけで、大きな罰則というものはありません(ただし、否認された場合、延滞税や過少申告加算税などの追加の納税義務は当然ありますが…)。

同族会社等の行為又は計算の否認等の適用主体と限界

同族会社等の行為又は計算の否認等の規定は、同族会社を利用して、株主や役員の所得税を不当に減少させる行為又は計算が行われる可能性があることに配慮して、一般の納税者との公平性を維持するために、株主や役員の所得税を不当に減少させる行為又は計算が行われた場合には、これを正常な行為又は計算に引き直して株主や役員の所得税を計算し直すという規定です。

そして、正常な行為又は計算に引き直す権限を持つのは「税務署長」ということになります。

それでは、株主や役員の所得税を「不当に」減少させる行為又は計算とはどの範囲までのことを言うのでしょうか?

同族経営の不動産管理会社を利用した節税対策に関して言えば、全く関係のない市中の不動産管理会社と取引した場合と比較して、管理委託方式の管理料や一括転貸(サブリース)方式の内部留保額(=会社に残った利益)を不相当に高額にして、所得税と法人税の税率差異を意図的に作り出し、結果として経済活動として不自然・不合理で同族会社でなければ通常行われない取引である場合が、所得税を「不当に」減少させる行為又は計算にあたると考えらます。

実務上は、税務署長によって、管理料や内部留保額が不相当に高額であるとして行為・計算が否認され、適正な管理料の認定について争われた事例は沢山あります。

ただし、ここで少し、税務署長の立場になって考えてみればわかりますが、全く関係ない市中の不動産管理会社の相場は個々の不動産の状況によって異なるもので、正確に把握することは難しく、まして、税務署長という自分の権限で否認することになるので、責任が自分に及ぶことになります

もし、あなたが税務署長だったら、余程実態と乖離していない限り、同族会社等の行為又は計算の否認等の規定を利用して、納税者の管理料や内部留保額が不相当に高額であるとは言いにくいことが分かると思います

逆に言うと、納税者側からすると、きちんと管理の実態を書類で整えて、それを税務調査のときに見せられれば、よほど実態とかけ離れていない限り、否認される根拠はないということになります。

まとめ

「不動産管理会社を設立して節税対策を行う場合、管理料はいくらに設定すれば良いの?」という税務相談を受けて、相談者とお話をしていると、同族会社と不動産所有者(個人)のいわば自己取引になるため、必要以上に慎重になり、「過去の判例から○○%ぐらいが妥当だから、それよりもさらに低い率で計算した金額にしよう!」と事前に決めて、相談しに来る方が多くいます。

高額で実態のない無茶な管理料を設定するよりは税務リスクが小さくなるため、税務署だけでなく、税理士側も保守的な判断として、なにも言いません(逆に「管理料が低額すぎる!」と税理士側から言うと発言に責任をとならくてはならないため)。

よって、不動産所有者である納税者自身が管理料の適正額を決める必要があるのですが、大切なのは、「事前に」一般的と言われている管理料の料率や金額の先入観を持たないで、本当に管理に必要な料率や金額を決めてみて、「事後に」に一般的と言われているの管理料の料率や金額と比較して自身が設定した管理料が不相当に高額な金額でないかを判断することです。

管理の実態と税務署に対する証明が大切なのであって、基本的には実態と乖離していない限り、同族会社等の行為又は計算の否認等の規定を税務署側が適用することは非常に難しいと覚えておくと良いでしょう。

この記事の概要
  1. 不動産管理料の適正額は同族会社の種類により異なります
  2. 同族会社への不動産管理料が否認される根拠は同族会社等の行為又は計算の否認等の規定(所得税法157条)ですが、仮に管理料の一部が否認されても大きな罰則はありません
  3. 同族会社への不動産管理料を設定するのは、基本的に納税者側であり、税務署は余程実態と乖離していない限り、否認しづらいです。