中古資産の耐用年数で簡便法が使えない3つのケース|後から変更できる?税理士が解説

中古資産の耐用年数決定時における注意点!

中古のアパートやマンションを取得したとき、「中古資産の耐用年数は簡便法で短縮できる」とお考えではないでしょうか。

しかし、(ア)資本的支出が多い有形固定資産や(イ)無形固定資産には簡便法は適用できず、その固定資産を使い始めた年に耐用年数を選ばなければ、後からの変更も認められません。

不動産オーナーが簡便法を適用できない固定資産に簡便法を用いると、税務調査で減価償却費(=建物などの取得代金を毎年少しずつ経費にする金額)を否認され、追徴課税を受けるおそれがあります。

本記事では、不動産業を専門とする税理士が、簡便法を適用できない3つのケースと、中古資産の耐用年数をいつまでに選ばなければならないか(選択期限)を、初心者向けに解説します。

なお、簡便法を適用できるかどうかの判定基準は、個人事業主(所得税)と法人(法人税)で同一です。

目次

中古資産の耐用年数とは?法定耐用年数・見積法・簡便法の3つの決め方

中古資産の耐用年数は「法定耐用年数」が原則であり、「見積法」と「簡便法」は納税者の選択による特例です。

耐用年数とは、建物や設備などの固定資産を何年かけて経費にするかを税法で定めた年数です。固定資産の種類ごとに法定耐用年数(=税法が定めた標準の年数)が定められています(減価償却資産の耐用年数等に関する省令 第1条・第3条)。

中古資産は前の所有者がすでに使用しているため、税法は個人や法人が中古資産の耐用年数を次の3つから選択できることとしています(国税庁タックスアンサー No.5404「中古資産の耐用年数」)。

決め方内容耐用年数の長さ適用できる条件
①法定耐用年数(原則)新品と同じ税法上の年数を用いる最も長い常に適用できる
②見積法(特例)使用可能期間を客観的に見積もる短縮できる客観的な見積り資料が必要
③簡便法(特例)法定耐用年数と経過年数から計算式で求める短縮できる見積りが困難な場合/資本的支出が取得価額の50%以下

見積法とは、中古資産を今後何年使用できるかを「客観的」に見積もり、その年数を耐用年数とする方法です。納税者は使用できなくなる時期を証明する資料を用意しにくいため、実務では見積法ではなく簡便法を用いるのが一般的です。

簡便法とは、見積りが困難な中古資産について、法定耐用年数と経過年数(=前の所有者が使用した年数)から計算式で耐用年数を求める方法です。築25年の木造アパート(法定耐用年数22年)であれば「22年×20%=4.4年」となり、端数を切り捨てて4年になります。

なお、簡便法を適用できない中古資産には、簡便法に代わる計算方法(通達1-5-6、以下「簡便法の代替計算」といいます)が認められる場合があります。認められる場面は限られるため、本記事では上の3つの決め方の例外として扱います。

簡便法の計算式と築年数別の計算例は、関連記事「中古物件の耐用年数の計算方法|簡便法と減価償却を税理士が解説」で詳しく解説しています。次の章では、簡便法を適用できない3つのケースを一覧で確認します。

中古資産の耐用年数で簡便法が使えない3つのケース【一覧比較】

中古資産の耐用年数の計算で簡便法を適用できないのは、①資本的支出が再取得価額の50%超、②資本的支出が取得価額の50%超、③取得した中古資産が無形固定資産・生物、の3つのケースです。

資本的支出とは、納税者が中古資産の修理や改良のために支出した金額のうち、使用可能期間を延長させ、またはその固定資産の価値を高める部分の支出です(国税庁タックスアンサー No.5402「修繕費とならないものの判定」)。中古アパートを取得した直後の大規模リフォーム費用が代表例です。

ケース判定基準適用できる耐用年数根拠
①再取得価額の50%超事業に用いるために支出した資本的支出>再取得価額×50%法定耐用年数のみ(見積法・簡便法とも不可)耐用年数通達1-5-2
②取得価額の50%超事業に用いるために支出した資本的支出>取得価額×50%法定耐用年数、見積法、または簡便法の代替計算(簡便法は不可)耐用年数省令3条1項ただし書・通達1-5-6
③無形固定資産・生物ソフトウェア・特許権・商標権・牛馬・果樹など法定耐用年数、または見積法(簡便法は不可)耐用年数省令3条1項2号

①②は「資本的支出の金額」で判定するケース、③は「固定資産の種類」で判定するケースです。いずれに該当するかによって、簡便法の代わりに用いる耐用年数(法定耐用年数・見積法・簡便法の代替計算)が異なります。

次の章から、①②と③に分けて判定の要点を確認します。

資本的支出が50%を超える中古資産の耐用年数に簡便法は使えない【ケース①②】

資本的支出が再取得価額の50%を超える中古資産は法定耐用年数のみを適用でき、取得価額の50%を超える中古資産は簡便法の代替計算を適用できます(国税庁 耐用年数の適用等に関する取扱通達1-5-2「見積法及び簡便法を適用することができない中古資産」・1-5-6「資本的支出の額を区分して計算した場合の耐用年数の簡便計算」)。

判定に用いる「再取得価額」と「取得価額」は名称が似ていますが、意味の異なる金額です。再取得価額とはその時点で同じ固定資産を新品で取得する場合の価額、取得価額とは実際に中古資産を取得した際の価額です(国税庁タックスアンサー No.5404「中古資産の耐用年数」資本的支出を行った場合)。

中古アパートの取得代金が3,400万円、同じ建物の新築費用が1億5,000万円であれば、取得価額は3,400万円、再取得価額は1億5,000万円です。

税法は、新築費用の半分を超えるリフォームを行った建物を「ほぼ新品」とみなします。そのためケース①に該当すると、オーナーは中古資産の耐用年数を短縮できません。

【ケース②で適用できる「簡便法の代替計算」(通達1-5-6)】

(取得価額+資本的支出)÷(取得価額÷簡便法の耐用年数+資本的支出÷法定耐用年数)=耐用年数

※分母の「取得価額」は資本的支出を含まない金額です。1年未満の端数は切り捨てます。

【前提】取得価額3,400万円/資本的支出6,600万円/法定耐用年数22年/簡便法の耐用年数4年

【算式への当てはめ】
(3,400万円+6,600万円)÷(3,400万円÷4年+6,600万円÷22年)
=1億円÷(850万円+300万円)
=1億円÷1,150万円
=8.69年

【結論】1年未満の端数を切り捨てて、耐用年数は8年になります。

取得価額3,400万円と資本的支出6,600万円の合計1億円について、オーナーが法定耐用年数22年を選択すると、減価償却費は定額法(償却率0.046)で年460万円です。簡便法の代替計算で求めた8年(償却率0.125)であれば年1,250万円となり、毎年の経費が約790万円増加します。

ケース①②は、いずれも資本的支出の金額によって結論が変わるケースでした。次のケース③は、固定資産の種類そのものにより簡便法を適用できないケースです。

ソフトウェアなどの無形固定資産は中古資産の簡便法で耐用年数を短くできない【ケース③】

簡便法を適用できる固定資産は耐用年数省令の別表第一・第二・第五・第六に掲げられた固定資産に限られ、別表第三の無形固定資産と別表第四の生物(牛馬・果樹など)は対象外です(減価償却資産の耐用年数等に関する省令 第3条第1項第2号)。

無形固定資産とは、ソフトウェア・特許権・商標権のように、形はありませんが長期間にわたり収益を生む固定資産です。

中古の無形固定資産を取得した場合は、簡便法によらず、別表第三の法定耐用年数(特許権8年・商標権10年・自社利用のソフトウェア5年など)で減価償却します(減価償却資産の耐用年数等に関する省令 別表第三)。特許権・商標権は簡便法を適用できませんが、見積法により残存する存続期間を耐用年数とする余地はあります。

ここまでが「適用できない3つのケース」であり、次は「耐用年数をいつまでに選ぶか」という選択期限の問題です。

中古資産の耐用年数は使い始めた事業年度に選ばないと後から変更できない【選択期限】

中古資産の耐用年数を見積法・簡便法で計算することは、その固定資産を事業に使い始めた事業年度においてのみ選択できます(国税庁 耐用年数の適用等に関する取扱通達1-5-1「中古資産の耐用年数の見積法及び簡便法」)。

納税者がいつでも耐用年数を変更できるとすれば、利益調整のための恣意的な変更が可能となるためです。使い始めた年に法定耐用年数を用いた中古資産は、その後も法定耐用年数のままとなります。

耐用年数の選択は、申告書への記載によって行います。使い始めた事業年度の申告書(法人は別表十六、個人事業主は青色申告決算書)に記載した耐用年数が、そのまま確定します。

よって、オーナーは中古資産を取得した年の決算・確定申告の前に、簡便法を適用できるかどうかの判定と耐用年数の計算を終えておく必要があります。

なお、法人が中間申告で法定耐用年数を用いていても、その事業年度の確定申告では見積法・簡便法による耐用年数を選択できます(通達1-5-1注)。

個人事業主は年1回の確定申告で耐用年数を選択するため、取得した年の翌年3月15日の申告期限が事実上の選択期限です。

ただし、使い始めた年に選択した耐用年数も、その後の事情により例外的に変わることがあります。次の章では、使い始めた後に多額の資本的支出を行った場合の取扱いを確認します。

使い始めた後の資本的支出で中古資産の耐用年数が法定耐用年数に戻る場合

中古資産の耐用年数は、例外として、使い始めた後に多額の資本的支出を行うと法定耐用年数に戻ります(国税庁 耐用年数の適用等に関する取扱通達1-5-3「中古資産に資本的支出をした後の耐用年数」)。

再取得価額の50%を超えるかどうかは、1つの工事計画にもとづく資本的支出の合計額と、1事業年度に支出した資本的支出の合計額の2つで判定します。工事を複数の事業年度に分けても、同じ計画による工事であれば合計して判定するため、判定を避けることはできません。

簡便法で減価償却している中古アパートについて、オーナーが数年後に新築費用の半分を超える大規模修繕を行うと、その建物は簡便法を適用できなくなります。

取得価額の50%基準(ケース②)は、事業に使い始めるまでに支出した資本的支出だけを対象とします。使い始めた後の判定に用いるのは、再取得価額の50%基準(ケース①)だけです。

再取得価額は、帳簿に記録されている取得価額とは違い、日常の経理には出てこない金額です。算定方法を定めた公的な指針もないため、オーナーは自分で概算する必要があります。

実務では、例えば火災保険の再調達価額や構造別の建築単価などから再取得価額を概算します。建物を骨組みだけ残して造り替えるような大規模修繕を計画する際は、工事の前に再取得価額の50%と資本的支出を比べておく必要があります。

ここまでの判定と選択期限を、実際に中古資産を取得した際の手順に並べ替えます。

中古資産の耐用年数を決める5ステップ

法人や個人事業主は、固定資産の種類の確認から使い始めた事業年度の申告まで、5つのステップの順序で中古資産の耐用年数を決定します。

法人や個人事業主が中古資産を取得した場合は、次の順序で判定と計算を進めます。

STEP
固定資産の種類と取得の経緯を確認する

建物・設備などの有形固定資産か、ソフトウェアなどの無形固定資産かを確認します。無形固定資産・生物には簡便法を適用できません。

STEP
経過年数と資本的支出を確認する

登記事項証明書の新築年月日で経過年数を確認し、使い始めるまでのリフォーム費用を修繕費と資本的支出に区分して集計します。

STEP
再取得価額の50%と比較する

資本的支出が再取得価額の50%を超える場合は、ケース①として法定耐用年数で確定します。超えない場合は次に進みます。

STEP
取得価額の50%と比較する

資本的支出が取得価額の50%以下であれば簡便法で計算します。50%を超える場合は、ケース②として簡便法の代替計算または見積法で計算します。

STEP
使い始めた事業年度の申告で耐用年数を確定する

決定した耐用年数で減価償却費を計算し、使い始めた事業年度の申告に反映します。翌年以降も同じ耐用年数を継続します。

事業に使い始めた日の考え方は、関連記事「事業供用日とは?取得日との違いと減価償却の開始時期を税理士がわかりやすく解説」をご参照ください。STEP2の資本的支出の集計を誤ると、STEP3とSTEP4の判定がいずれも変わります。

次の章では、5ステップの過程で実務上つまずきやすい間違いを整理します。

中古資産の耐用年数でよくある3つの間違い【注意点】

中古資産の耐用年数で最も多い間違いは、「簡便法で計算しておけば税務上は安全」という思い込みです。

簡便法は納税者が自ら判定して適用する制度であるため、税務署は申告後の税務調査で適用条件を確認します。

【間違い①】リフォーム費用を集計せずに簡便法を適用する
オーナーは取得直後のリフォーム費用が取得価額の50%を超えていないかを、先に判定します。修繕費と資本的支出の区分は、関連記事「工事が修繕費になるか又は資本的支出になるかの判定方法について!」をご参照ください。

【間違い②】「再取得価額」と「取得価額」を取り違える
取得価額は、法人なら固定資産台帳、個人事業主なら青色申告決算書の減価償却費の計算欄で確認できます。再取得価額は帳簿になく算定方法の定めもないため、火災保険の再調達価額や構造別の建築単価などが目安となります。

【間違い③】経過年数を新築時より後の時点から数える
簡便法で使う経過年数は、建物が新築されてから取得するまでの期間です。新築の時期は、登記事項証明書の表題部に記載された新築年月日や、建築確認・検査済証などの書類で確認します。

3つの間違いはいずれも、簡便法を適用する前の確認で防げます。最後に、本記事の要点を整理します。

まとめ:中古資産の耐用年数は「簡便法が使えるか」と「いつまでに選ぶか」の2点で決まる

中古資産の耐用年数は、簡便法を適用できない3つのケースに該当しないかを確認し、使い始めた事業年度の申告で選択することが重要です。

【本記事のまとめ】

  • 中古資産の耐用年数は法定耐用年数が原則であり、見積法・簡便法は納税者の選択による特例。
  • 資本的支出が再取得価額の50%超であれば法定耐用年数のみ。取得価額の50%超であれば簡便法は適用できないが、簡便法の代替計算(通達1-5-6)を適用できる。
  • 無形固定資産・生物は簡便法の対象外。
  • 見積法・簡便法による耐用年数は、原則として使い始めた事業年度が選択期限であり、翌年以降は変更できない。ただし、使い始めた後に再取得価額の50%を超える資本的支出を行った場合は、簡便法で計算した耐用年数が使えなくなり、法定耐用年数に戻る。

使い始めた年に簡便法で耐用年数を計算しなかった中古資産は、その後に経費を増やしたいと考えても耐用年数を短縮できません。オーナーは中古資産を取得した年の決算前に、3つのケースの判定と耐用年数の計算を必ず終えておく必要があります。

中古資産の耐用年数と簡便法に関するFAQ(よくある質問)

中古資産の耐用年数と簡便法について、不動産オーナーから多く寄せられる質問をまとめました。

中古資産の耐用年数の簡便法は、どのような場合に使えませんか?

簡便法(=法定耐用年数と経過年数から中古資産の耐用年数を計算する方法)を適用できない場合は、次の3つです。

1つ目は、取得した中古資産への資本的支出(=価値を高めたり使用可能期間を延ばしたりする工事の費用)が、再取得価額(=同じ固定資産を新品で取得する場合の価額)の50%を超える場合です。この場合は法定耐用年数だけを使います。

2つ目は、資本的支出がその中古資産の取得価額(=実際に支払った取得代金)の50%を超える場合です。簡便法の代わりに、見積法または簡便法の代替計算(通達1-5-6)で耐用年数を求めます。

3つ目は、取得した中古資産がソフトウエアや商標権などの無形固定資産、または生物である場合です。簡便法を適用できないため、法定耐用年数または見積法により耐用年数を決めます。

中古資産を使い始めた年に法定耐用年数で申告した場合、翌年から簡便法に変更できますか?

変更できません。見積法・簡便法による耐用年数は、その中古資産を事業に使い始めた事業年度に算定する必要があるためです(国税庁 耐用年数の適用等に関する取扱通達1-5-1)。

使い始めた年に法定耐用年数で減価償却した中古資産は、翌年以降も法定耐用年数のまま償却します。後から簡便法へ変更するための申請や届出の制度もありません。

よって、中古の建物や設備を取得した場合は、その年の決算・確定申告までに簡便法を適用できるかどうかを判定し、耐用年数を決めておく必要があります。

簡便法で減価償却している中古アパートに、数年後に大規模修繕をした場合はどうなりますか?

修繕のうち資本的支出に当たる金額が再取得価額の50%を超える場合は、その資本的支出を行った事業年度以後、法定耐用年数で減価償却します(国税庁 耐用年数の適用等に関する取扱通達1-5-3)。

50%を超えるかどうかは、1つの工事計画による資本的支出の合計額と、1事業年度に支出した資本的支出の合計額の2つで判定します。いずれかが50%を超えれば、簡便法で計算した耐用年数は使えなくなります。

一方、資本的支出が再取得価額の50%以下であれば、簡便法で計算した耐用年数を引き続き使えます。

参考文献

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