「決算直前に購入したパソコンだから、当期の経費にできる」とは限りません。未開封のまま決算日を迎えると、法人は当期に1円も損金(=法人税の計算上、経費として差し引ける金額)を計上できないためです。
分かれ目は「買った日」ではなく「使い始めた日」=事業供用日です。固定資産(=建物や機械、パソコンなど長期にわたり使用する資産)の損金計上は、どの制度を使う場合でも、すべて事業供用日から始まります。
日付を誤って早めに損金へ計上すると、税務調査で否認され、修正申告と加算税の負担が生じるおそれがあります。
本記事では、法人を対象に、事業供用日と取得日の違い、初年度の月割計算、賃貸不動産をいつ使い始めたと判定するかの具体例、少額減価償却資産などの特例と仕訳までを税理士が解説します。
事業供用日とは?法人が減価償却を開始できる日
事業供用日とは、法人が固定資産を本来の用途で実際に使い始めた日です(国税庁タックスアンサー No.5400-2「事業の用に供した日」)。
法人は、固定資産を取得しただけでは減価償却費を計上できず、事業供用日を迎えて初めて損金にできます。
減価償却とは、固定資産の取得価額を使用年数に分けて損金へ振り替える手続きです。法人税法上、減価償却費は事業供用日を含む事業年度から損金に算入できます。
実務では、契約日・取得日(引渡日)・事業供用日の混同が起こりがちです。3つの日付の違いを一覧表で整理します。
契約日・取得日(引渡日)・事業供用日は何が違うのか【一覧表】
契約日は原則として税務上の起点にならず、取得日(引渡日)は固定資産を貸借対照表へ計上する日、事業供用日は減価償却費の損金計上を開始する日です。
貸借対照表とは、法人が持つ財産と借金を一覧にした決算書のことです。
契約日は代金や条件を確定させる日にすぎず、法人が契約を締結しただけでは固定資産の計上も減価償却も始まりません。
税務では、法人が固定資産の引渡しを受けた日(引渡日)を取得日とするのが原則です。通常の取引ではさらに引渡しと同時に使用を開始するため、取得日と事業供用日は同一の日になります。
ただし、据付工事・内装工事・行政庁の検査が必要な固定資産では、取得日から事業供用日まで数か月かかる場合があります。
取得日と事業供用日がずれると、事業供用日を迎えるまでの間、固定資産が貸借対照表に計上されたまま、減価償却費の損金計上だけが止まった状態となります。
法人が取得したのみで事業年度末を迎えた固定資産について、その事業年度に減価償却費を損金に計上することはできません。
つまり、決算直前に高額な設備を取得しても、使用開始が翌事業年度になれば、当期の減価償却費を計上できないため節税効果は生じません。
3つの日付の意味と税務上の役割を、一覧表にまとめます。
| 日付の種類 | 意味 | 税務上の役割 |
|---|---|---|
| 契約日 | 売買契約を締結した日 | 原則として税務上の起点にはならない |
| 取得日(引渡日) | 固定資産の引渡しを受けた日 | 貸借対照表へ固定資産として計上する日 |
| 事業供用日(供用年月日) | 本来の用途で使用を開始した日 | 減価償却費の損金計上を開始する日 |
事業供用日は、初年度に損金へ計上できる減価償却費の金額まで左右します。
減価償却は事業供用日から開始し、初年度は月割で計算する
法人の減価償却は事業供用日から開始するため、初年度の減価償却費は、1年分の金額を事業供用日を含む月から事業年度末までの月数で按分した金額となります。
3月末決算の法人が、年間120万円を減価償却する設備の使用を10月20日に開始した事例で計算します。
月数は事業供用日を含む月から数えるため、初年度に損金へ計上できるのは10月から3月までの6か月分です。
年間120万円×6か月÷12か月=60万円が、初年度の減価償却費となります。
月割計算で押さえるべき3つの前提
- 同一月内であれば、法人が1日に使用を開始しても月末に使用を開始しても1か月として数えます。
- 法人の取得が9月であっても、使用開始が10月であれば10月から数えます。
- 設立1年目などで事業年度が6か月しかない場合は、数えられる月数も最大6か月になります。
月割計算の起点となる事業供用日は、賃貸不動産では判定に迷う場面が少なくありません。
賃貸不動産の減価償却はいつから?事業供用日をケース別に判定
賃貸不動産の事業供用日は、入居者が決定した日ではなく、法人がいつでも貸せる状態へ整えた日です。
国税庁も賃貸マンションについて、建物が完成し入居募集を開始していれば事業の用に供したものと考えられるとしています(国税庁タックスアンサー No.5400-2「事業の用に供した日」)。
法人が募集広告を出し入居申込みを受け付けていれば、現実の入居者が皆無であっても減価償却を開始できます。
新築の賃貸マンションが完成し、法人が入居募集を開始した状態で事業年度末を迎えた事例で確認します。
当期分の減価償却費を100万円とすると、入居者が1名も決定していない場合であっても、法人は次の仕訳を計上できます。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 減価償却費 | 100万円 | 建物 | 100万円 |
中古のオーナーチェンジ物件(=入居者が居住したまま売買される賃貸物件)については、引渡日がそのまま事業供用日となります。
一方、法人がリフォーム工事を経て賃貸する場合は、工事中は貸せる状態にないため、工事完了後に入居募集を開始した日を事業供用日とするのが一般的です。
完成後も募集を行っていない建物については、税務署から償却開始を翌事業年度へ繰り延べるよう指摘される可能性があります。
金額の小さい固定資産には減価償却によらず損金へ算入できる制度がありますが、その制度においても起点は事業供用日です。
少額減価償却資産と一括償却資産も事業供用日が起点
少額減価償却資産と一括償却資産も、法人が事業供用日を迎えるまで損金に算入できません。
少額減価償却資産の特例とは、青色申告書を提出する中小企業者等が取得価額40万円未満の固定資産を取得して事業の用に供した場合に、全額をその事業年度の損金へ算入できる制度です(e-Gov法令検索 租税特別措置法第67条の5)。
適用期限は令和11年3月31日までとされ、1事業年度に損金算入できる合計額は300万円が上限です(e-Gov法令検索 租税特別措置法第67条の5)。
一括償却資産とは、法人が取得価額20万円未満の固定資産を一括し、事業供用日以後3年間で取得価額を均等に損金へ算入する制度です(e-Gov法令検索 法人税法施行令第133条の2)。
取得価額ごとの制度と損金に算入できる時期を、一覧表にまとめます。
| 制度 | 取得価額 | 損金に算入できる時期 | 主な特徴 |
|---|---|---|---|
| 少額減価償却資産の特例 | 40万円未満 | 事業供用日の属する事業年度に全額 | 合計で年300万円まで |
| 一括償却資産 | 20万円未満 | 事業供用日以後3年間で3分の1ずつ | 償却資産税(固定資産税)の対象外 |
| 10万円未満の固定資産 | 10万円未満 | 事業供用日の属する事業年度に全額 | 消耗品費として損金経理するのが一般的 |
| 通常の減価償却資産 | 上記以外 | 事業供用日から耐用年数にわたり償却 | 初年度は月数により按分する |
仕訳や勘定科目の具体的な処理は、関連記事「少額減価償却資産の仕訳と勘定科目」で解説しています。
事業供用日が到来しているか否かは、月割計算だけでなく仕訳の形にも直結します。
少額減価償却資産の仕訳を確認|パソコン15万円の3パターン
取得価額15万円のパソコンは、事業年度末までに事業供用日を迎えたか否かで、仕訳が3通りに分かれます。
3月末決算の中小企業が、少額減価償却資産となるパソコン1台を通信販売で注文した事例で、パターンごとの仕訳を確認します。
①事業年度末までにパソコンが到着しなかった場合
法人は注文(=契約)を済ませたのみで引渡しを受けていないため、取得自体が成立せず仕訳は不要です。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 仕訳なし | -円 | 仕訳なし | -円 |
②事業年度内にパソコンが到着し、使用を開始した場合
取得日には、法人はパソコンを器具備品(=パソコンや事務机などの備品を計上する固定資産の科目)として固定資産に計上します。
【取得日の仕訳】
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 器具備品 | 15万円 | 現金預金 | 15万円 |
事業年度末には、当期中に事業供用が済んでいるため、法人は少額減価償却資産として全額を消耗品費へ振り替えます。
【事業年度末の仕訳】
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 消耗品費 | 15万円 | 器具備品 | 15万円 |
③事業年度末までにパソコンが到着したが、使用していない場合
法人は取得日に器具備品として固定資産に計上しますが、事業供用日が到来していないため損金へ振り替えることはできません。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 器具備品 | 15万円 | 現金預金 | 15万円 |
なお、15万円のパソコンは、少額減価償却資産に代えて一括償却資産として処理する方法も選べます。一括償却資産にした場合、法人は15万円を3年に分けて、毎年5万円ずつ損金に計上します。
3年間の数え始めも、取得日ではなく事業供用日です。パソコンを使い始めていない事業年度は、最初の5万円さえ損金にできません。
仕訳の前提となる事業供用日について、税務調査では客観的な根拠の提示が求められます。
税務調査に備え、事業供用日を証明する書類を保存しておく
法人は、事業供用日を客観的に証明できる書類を保存しておく必要があります。
税務調査では、事業年度末の直前に取得した固定資産の償却開始時期が重点的に確認されます。
調査で問われるのは、事業年度末までに固定資産が使える状態になっていたかどうかです。
事業供用日がまだ到来していない典型例
- 賃貸建物:完成したものの、法人が入居募集を始めていない。
- 車両:納車されたものの、法人がまだ事業に使っていない。
- パソコン:法人に届いたものの、未開封または設定が済んでいない。
使用開始が決算日の翌日以降にずれた場合、わずか数日の差であっても、法人は当期に減価償却費を計上できません。
調査官に対しては口頭の説明だけでは足りず、法人はいつから使える状態だったかを日付の残る記録で示す必要があります。
資産の種類ごとに、保存しておくべき証拠書類の例を挙げます。
法人が保存しておくべき証拠書類
- 賃貸建物:検査済証(=建物の完成後、建築基準法の完了検査に合格したことを示す公的書類)、掲載日の分かる入居募集の広告データ、不動産会社と交わした入居者募集の媒介契約書。
- 車両:登録事項等証明書、任意保険の保険証券(保険始期日)、運転日報。
- パソコン:初期設定を行った日の分かる作業記録、そのパソコンで作成したファイルやメールの日付。
書類が残っていない場合、法人は償却開始が翌事業年度であると認定され、当期の減価償却費を否認されるリスクを負います。
否認された法人は、修正申告のうえ、過少申告加算税(=少なく申告したことへのペナルティ)と延滞税(=納付遅れに対する利息に相当する税金)を納付しなければなりません。
以上の判定と証拠書類を踏まえ、取得日と事業供用日の関係を整理します。
まとめ|固定資産の計上は取得日、損金の計上は事業供用日
法人による減価償却費の損金計上は、取得日ではなく事業供用日から始まります。
契約日・取得日(引渡日)・事業供用日のうち、損金計上の起点となるのは事業供用日だけです。
本記事のポイント整理
- 契約日は税務上の起点にならない:固定資産の計上は取得日(引渡日)に、減価償却費の損金計上は事業供用日に行います。
- 初年度の減価償却費は月割:事業供用日を含む月から事業年度末までの月数分だけを損金にできます。
- 賃貸建物は入居者が決まる前でも供用開始:完成して入居募集を始めていれば減価償却できます。
- 少額減価償却資産は事業供用日に全額損金:取得価額40万円未満・合計で年300万円までが対象です。
- 一括償却資産は事業供用日以後3年均等:取得価額20万円未満の固定資産が対象です。
- 証拠書類を保存しておく:いつから使える状態だったかを、日付の残る記録で示せるようにしておきます。
事業年度末間際の設備投資では、法人が年度内に使用を開始できるか否かで、当期の損金にできるかどうかが決まります。
実務上の細かな疑問については、次のFAQで回答します。
よくある質問(FAQ)
事業供用日について、経理担当者から質問の多い5点に税理士が回答します。
- 事業供用日とは何を指しますか。
-
事業供用日とは、法人が固定資産を本来の用途で実際に使い始めた日を指します。法人税の申告書や固定資産台帳では「供用年月日」と表記されます。
取得日と一致する場合が多いものの、据付工事や内装工事を要するときは数か月ずれることがあります。
- 法人は減価償却をいつから開始すればよいですか。
-
法人は、固定資産を事業の用に供した日を含む月から減価償却を開始します。初年度は事業供用日の属する月から事業年度末までの月数により按分するため、1年分を計上することはできません。
取得日から起算すると減価償却費が過大となり、税務調査で否認される原因となります。
- 完成した賃貸マンションに入居者が決まっていない場合でも、法人は減価償却費を計上できますか。
-
法人が入居募集を開始していれば、入居者が1名も決まっていなくても減価償却費を計上できます。減価償却は建物を事業の用に供した日から開始でき、国税庁も、完成後に入居募集を開始していれば事業の用に供したものと考えられると示しているためです。
ただし完成したのみで募集を行っていない建物は、事業の用に供したものとはいえません。
- 事業年度末に到着したものの設定が済んでいないパソコンは、少額減価償却資産として損金に算入できますか。
-
設定が完了して使用可能な状態になるまでは、損金に算入できません。少額減価償却資産の特例は、事業の用に供した日を含む事業年度で損金経理することが要件とされているためです。
法人が実際に使用を開始した事業年度において、あらためて全額を損金へ算入します。
- 少額減価償却資産の特例は、いくらまでの固定資産が対象ですか。
-
令和8年4月1日以後に取得した固定資産については、取得価額40万円未満までが対象です。令和8年度税制改正により30万円未満から引き上げられ、適用期限も令和11年3月31日まで延長されました。
1事業年度に損金算入できる合計額は300万円が上限であり、青色申告書を提出する中小企業者等が対象となります。
参考文献


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