「相続税の申告期限までに遺産分割がまとまらないかもしれない」──そんな不安を抱えていませんか?
相続財産が未分割のままでも申告期限は延びず、何もしなければ小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減が使えず、納税額が大きく膨らみます。
本記事では、税理士が、未分割でも期限内に法定相続分で行う「仮の申告」と納税の進め方、そして期限に遅れた場合のペナルティを、わかりやすく解説します。
さらに、分割が決まった後に小規模宅地等の特例などを適用し、納めすぎた相続税を取り戻す手順も、初心者向けに整理します。
未分割でも相続税の申告期限は10か月のまま延びない
相続財産が未分割(=誰がどの遺産を受け取るか、まだ決まっていない状態)でも、相続税の申告と納税の期限は1日も延びません。期限は、被相続人(=亡くなった方)の死亡を知った日の翌日から10か月以内と決まっています。
遺産分割協議(=相続人全員で遺産の分け方を決める話し合い)が長引いても、税務署は期限を待ってくれません。
期限に遅れると、無申告加算税や延滞税(=申告や納税の遅れに対して課される追加の税金)が上乗せされ、支払う金額はさらに増えます。
分割が決まっていなくても、相続人はいったん法定相続分で税額を計算し、期限内に申告と納税を済ませます。法定相続分とは、民法が定める相続割合の目安のことです。
ただし、未分割のまま申告すると、本来使えるはずの特例が使えず、納税額が大きく膨らみます。次章では、具体的にどの特例が使えなくなるのかを確認します。
未分割のまま申告すると小規模宅地等の特例と配偶者の税額軽減が使えない
遺産が未分割のまま最初に行う相続税の申告では、小規模宅地等の特例と配偶者の税額軽減という2つの大きな減税が使えません。
配偶者の税額軽減は、配偶者が受け取る財産のうち、1億6,000万円か法定相続分に当たる金額の、どちらか多い方までは相続税がかからない制度です(国税庁タックスアンサーNo.4158「配偶者の税額の軽減」)。
小規模宅地等の特例は、自宅や賃貸物件の敷地について、相続税の評価額を最大80%減らせる制度です。
2つの特例はどちらも減税の効果が大きいため、使えないまま納税すると、相続人の資金繰りは一気に苦しくなります。
ただし、相続人が申告書に分割見込書を添付しておけば、分割確定後に特例を適用して納めすぎた相続税を取り戻せます。
| 特例 | 未分割のままの申告 | 分割が決まった後 |
|---|---|---|
| 小規模宅地等の特例 | 使えない | 分割見込書+3年以内の分割で使える |
| 配偶者の税額軽減 | 使えない | 分割見込書+3年以内の分割で使える |
小規模宅地等の特例と遺産分割の関係は「小規模宅地等の特例と遺産分割の関係|遺産が未分割の時の対処法」で詳しく解説しています。
次章では、未分割のときの相続税を、法定相続分をもとに実際どう計算するのかを、具体例で見ていきます。
法定相続分で計算する「仮の申告」の具体例
未分割の当初申告では、各相続人が法定相続分どおりに財産を取得したものとみなして相続税を計算します(国税庁タックスアンサーNo.4208「相続財産が分割されていないときの申告」)。
例として、遺産1億円を配偶者と子2人で相続するケースを考えます。法定相続分は配偶者が2分の1、子がそれぞれ4分の1です。
まず、遺産1億円から基礎控除4,800万円(=3,000万円+600万円×3人)を引くと、課税対象は5,200万円です。
課税対象5,200万円を法定相続分で分けると、配偶者2,600万円・子1,300万円ずつになります。それぞれに相続税の速算表(国税庁タックスアンサーNo.4155「相続税の税率」)の税率をかけて合計すると、相続税の総額は630万円です。
相続税の総額630万円を取得割合(=法定相続分)で分けると、各相続人が納める金額は次のとおりです。
| 相続人 | 取得割合(法定相続分) | 納める相続税 |
|---|---|---|
| 配偶者 | 2分の1 | 315万円 |
| 子A | 4分の1 | 157万5,000円 |
| 子B | 4分の1 | 157万5,000円 |
仮の申告では配偶者の税額軽減を使えないため、本来は0円にできる配偶者の相続税も、315万円をいったん納めます。
相続税の計算全体の流れをおさらいしたい方は「相続税の計算方法を5ステップで解説」もあわせてお読みください。
納めすぎた相続税は、後から取り戻せます。鍵になるのが「申告期限後3年以内の分割見込書」です。
分割見込書の提出から特例復活までの手続きフロー
納めすぎた相続税を取り戻す手順は、申告時に分割見込書を添付し、3年以内に遺産分割をまとめ、分割が成立した日の翌日から4か月以内に更正の請求をする3ステップです。
分割見込書には、分割されていない理由と分割の見込みを記載します。様式と記載要領は国税庁の案内ページで入手できます(国税庁「申告期限後3年以内の分割見込書」)。
法定相続分で税額を計算し、分割見込書を添付して10か月以内に申告・納税します。
申告期限から3年以内に協議をまとめ、遺産分割協議書を作成します。
分割成立日の翌日から4か月以内に、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減を適用して相続税を計算し直し、更正の請求(=納めすぎた税金の払い戻しを税務署に求める手続き)を行います。
納めすぎた相続税を取り戻すうえで最大の落とし穴が、分割見込書の出し忘れです。添付を忘れると、原則として後から特例を適用できなくなるため、申告書に必ず添付してください。
とはいえ、3年以内に遺産分割がまとまらないケースもあります。次はその救済策を確認します。
3年以内に分割できないときの承認申請
納めすぎた相続税を取り戻すには、本来、相続税の申告期限から3年以内に遺産分割を終える必要があります。
ただし、相続人同士の裁判などでどうしても間に合わないときは、税務署に申請して認められれば、この3年の期限を延長できます。
延長を認めてもらうには、申請書の提出が必要です。3年の期限がすぎた日の翌日から2か月以内に、「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を税務署へ提出します。
申請が認められたら、次は2つの期限を順番に守ります。
まず、裁判などが解決して分割できるようになった日の翌日から4か月以内に、遺産分割を成立させます。
次に、その分割が成立した日の翌日から4か月以内に更正の請求をすると、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減を適用できます。
手続きの全体像を押さえたら、納税資金にも目を向けましょう。
未分割の申告で気をつける納税資金とペナルティ
未分割の申告でいちばん大変なのは、特例が使えず高くなった相続税を、10か月以内に現金で用意することです。
未分割ならではの事情が、資金の準備をさらに難しくします。とくに次の3点に注意が必要です。
- ペナルティが増える:期限に遅れると、無申告加算税や延滞税が上乗せされ、支払いがさらに重くなります
- 物納が使えない:未分割の財産は、相続税を土地などの現物で納める「物納」に使えません
- 預金がすぐ使えない:遺産分割が終わるまで、亡くなった方の預金は自由に引き出せません(仮払い制度にも上限あり)
納税資金が足りないときでも、無申告のまま放置するのがいちばん危険です。まずは期限内に申告し、一度に払えないときは、担保を用意して相続税を年払いで納める「延納」という方法もあります(国税庁タックスアンサーNo.4211「相続税の延納」)。
最後に、賃貸物件を持つオーナーに特有の注意点を確認します。
不動産オーナー特有の注意点|未分割中の家賃収入
未分割の賃貸物件から生じる家賃は、分割が確定するまで法定相続分に応じて各相続人の収入として扱うのが原則です。
最高裁の判例により、分割前に生じた家賃は、後から分割が決まっても配分をやり直さないものとされています。各相続人は自分の持分に応じた家賃について、毎年の所得税の確定申告が必要です。
遺産が未分割の共有状態が長引くほど、修繕や入居者募集といった物件経営の意思決定が滞りやすくなります。
以上を踏まえて、要点を整理します。
まとめ|期限内申告と分割見込書で最悪を防ぐ
相続財産が未分割でも、期限内の申告と分割見込書の添付さえ守れば、納めすぎた相続税を取り戻す道は確保できます。
- 期限は動かない:未分割でも10か月以内に法定相続分で相続税を申告・納税する
- 分割見込書が命綱:添付を忘れると、原則として後から特例を使えなくなる
- 4か月ルール:分割成立日の翌日から4か月以内に更正の請求を行う
相続人が遺産分割で争いになりそうだと感じた時点で、相続税の申告期限から逆算して、早めに分割の話し合いを始めるのが未分割の失敗を防ぐ最善策です。
未分割の相続税申告のよくある質問(FAQ)
未分割の相続税申告について、よくいただく質問をまとめました。
- 遺産が未分割のときの相続税申告は、自分でもできますか?
-
はい、ご自身でも申告できます。
ただし、未分割の場合は、法定相続分での税額計算、分割見込書の添付、分割後の更正の請求といった、期限のある手続きを自分で漏れなく進める必要があります。
- 相続税の申告で分割見込書を出し忘れると、小規模宅地等の特例は使えなくなりますか?
-
未分割のまま申告する時点で分割見込書を添付していないと、原則として特例は後から使えません。
ただし、添付を忘れた事情がやむを得ないと税務署長が認めた場合に限り、例外的に救済される余地は残されています。
- 一部の遺産だけ分割が決まっている場合、相続税はどう計算しますか?
-
分割が決まった財産は実際に取得する人の分として、まだ決まっていない財産は法定相続分で計算します。両方を合算した金額をもとに相続税を申告します。
- 更正の請求をすると、払いすぎた相続税はいつ還付されますか?
-
更正の請求を提出してから、税務署の審査を経て、おおむね数か月後に還付されるのが一般的です。
- 未分割だった遺産の分割が決まった後、特例を適用するための更正の請求はいつまでに行えばよいですか?
-
分割が成立した日の翌日から4か月以内に更生の請求を行う必要があります。
通常の更正の請求(申告期限から5年)とは異なる短い期限のため、分割が決まったら早めに手続きしてください。
参考文献(いずれも国税庁の公式ページ)
- 国税庁タックスアンサーNo.4208「相続財産が分割されていないときの申告」
- 国税庁タックスアンサーNo.4158「配偶者の税額の軽減」
- 国税庁「申告期限後3年以内の分割見込書」
- 国税庁「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」
- 国税庁タックスアンサーNo.4155「相続税の税率」
- 国税庁タックスアンサーNo.4211「相続税の延納」


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