「相続税の申告期限が近いのに、遺産分割がまだまとまらない」。そんなときに提出するのが分割見込書です。
分割見込書を申告書に付け忘れると、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例が使えなくなります。小規模宅地等の特例(自宅の土地評価を大きく下げる制度)が使えないと、相続税額が数百万円単位で変わることもあります。
本記事では、相続に不慣れな方に向けて、分割見込書の書き方・記載例から提出後の流れまでを税理士がわかりやすく解説します。
相続税の分割見込書とは?未分割でも特例を受けられる1枚
相続税の分割見込書とは、未分割(=誰が何を相続するか決まっていない状態)のまま相続税を申告するときに、申告書に添付して、後から特例の適用を受ける権利を残しておく届出書です(国税庁「申告期限後3年以内の分割見込書」)。
分割見込書は、相続税の期限内申告書に添付し、申告と同時に提出するのが原則です。申告書と切り離して、この書類だけを後から提出することは基本的にありません。
未分割のままでも、最初の相続税申告は法定相続分で計算して行います。分割見込書は、その申告に「後から特例を受ける権利」を残すための予約票のような役割を果たします。
続いて、分割見込書の添付によって守られる相続税の特例を、具体的に確認します。
分割見込書で守れる相続税の特例は4つ【一覧表】
分割見込書の添付で後日適用できるのは、配偶者の税額軽減と小規模宅地等の特例を中心とする4つの特例です。
| 特例 | 内容 |
|---|---|
| 配偶者の税額軽減 | 配偶者が取得した遺産額が1億6,000万円か法定相続分相当額までなら相続税がかからない |
| 小規模宅地等の特例 | 自宅の土地330㎡まで80%減額など |
| 特定計画山林の特例 | 森林経営計画に基づく山林向けの課税価格の特例で、通常の相続では関係しないことが多い |
| 特定事業用資産の特例 | 旧制度の経過措置として残る特例で、現在はほぼ適用場面がない |
裏を返せば、分割見込書を添付し忘れると、これらの特例を後から受ける道が原則閉ざされます。
特に配偶者の税額軽減と小規模宅地等の特例は、減税額が数百万円から数千万円に及ぶことも珍しくありません。添付の有無が納税額を大きく左右します。
ここまでで、分割見込書によって守られる特例を確認しました。次は、その特例を確保するための分割見込書について、様式の入手方法と書き方を具体的に見ていきます。
分割見込書の様式の入手方法と全体構成【記載欄は3つ】
分割見込書の様式は、国税庁サイトからPDFで無料ダウンロードでき、記載欄は実質3つだけです。
用紙の上部に被相続人(=亡くなった方)の氏名を書き、あとは「分割されていない理由」「分割の見込みの詳細」「適用を受けようとする特例等」の3欄を埋めるだけです。全体でA4・1枚に収まります。
様式のPDFは手書きでもパソコン入力でも構いません。
提出日とあわせて控えを1部残しておくと、3年以内の分割で更正の請求をするときや税務署からの問い合わせのときに、当初の記載内容をすぐ確認できます。
| No | 記載欄 | 書く内容 |
|---|---|---|
| 1 | 分割されていない理由 | なぜ期限までに分割できないのか(現状) |
| 2 | 分割の見込みの詳細 | いつ・どのように分割をまとめる見込みか |
| 3 | 適用を受けようとする特例等 | 該当する特例に印を付ける |
凝った文章は不要で、事実を簡潔に書けば足ります。
また、「適用を受けようとする特例等」の欄は、受けたい特例への印の付け忘れがないか必ず確認しましょう。
次章から、迷いやすい2つの欄の記載例を紹介します。
「分割されていない理由」の記載例
「分割されていない理由」の欄は、遺産分割がまとまらない事情を事実ベースで1〜2行書けば十分です。
- 記載例①協議中:「相続人間で遺産分割協議が調わないため」
- 記載例②相続人多数:「相続人が多数で遠隔地に居住しており、協議に時間を要しているため」
- 記載例③調停中:「家庭裁判所において遺産分割調停中であるため」
書きぶりで審査の有利不利が生じる欄ではありません。ただし、実態と異なる記載は後の手続きに影響しかねないため、事実どおりに書いてください。
理由が複数ある場合は、主なものを1つ書けば足ります。長文で経緯を説明する必要はありません。
続いて「分割の見込みの詳細」です。
「分割の見込みの詳細」の記載例
「分割の見込みの詳細」の欄には、いつ・どのように遺産分割をまとめるのかの見通しを具体的に書きます。
- 記載例①協議中:「相続人間で遺産分割を協議中であり、令和◯年◯月頃までに協議を成立させ、分割する見込み」
- 記載例②調停・審判中:「家庭裁判所で遺産分割調停中であり、調停の成立後すみやかに分割する見込み」
- 記載例③協議前(調査中):「相続人・相続財産を調査中であり、確定後に協議を行い分割する見込み」
分割の時期や進め方は、確約ではなく見込みで構いません。時期を書く場合は、令和◯年◯月頃のように目安で十分です。
続いて、分割見込書の提出後の流れと守るべき期限を確認します。
分割見込書の提出後の流れ【3年以内の分割→4か月以内の更正の請求】
分割見込書を添付して申告した後は、申告期限から3年以内に遺産分割をまとめ、分割成立日の翌日から4か月以内に更正の請求を行うのが本線です。
更正の請求とは、納めすぎた相続税の払い戻しを税務署に求める手続きです。
法定相続分で計算した相続税の申告書と一緒に、分割見込書を税務署へ提出します。
e-Taxでも提出できます。
相続人全員で「誰が何を相続するか」を話し合い、合意できたら遺産分割協議書を作成します。
遺産分割協議書には相続人全員が署名し、実印を押します。
分割が成立したら、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を適用して相続税を計算し直します。
当初より税額が下がるため、その差額の払い戻しを、分割成立日の翌日から4か月以内に税務署へ請求します。
更正の請求の4か月という期限は、1日でも過ぎると原則手遅れです。分割成立の日付管理を徹底してください。
更正の請求の際は、相続人が遺産分割協議書の写しや印鑑証明書など分割内容が分かる書類を添付します。請求から還付までは審査を経るため、数か月かかるのが一般的です。
とはいえ、訴訟や調停で分割が3年以内にまとまらないこともあります。そうした場合の備えも押さえておきましょう。
遺産分割が3年以内にまとまらないときは承認申請書で特例の期限を延長する
訴訟や調停が長引き、申告期限から3年以内に遺産分割がまとまらない見込みのときは、特例を受けられる期限を延長できます。
3年を経過する日の翌日から2か月以内に、「やむを得ない事由がある旨の承認申請書」を納税地を所轄する税務署へ提出します。
承認後は、分割できることとなった日の翌日から4か月以内の分割で特例を適用できます。未分割時の申告手続きの全体像は「相続財産が未分割でも相続税申告はできる?」で解説しています。
小規模宅地等の特例そのものの要件と全体像は「小規模宅地等の特例とは?」をご覧ください。
承認申請書の2か月という提出期限も厳格で、過ぎると特例の道が閉ざされます。
やむを得ない事由は、訴えの提起や調停・審判の係属など、客観的な事情に限られます。単に話し合いが進まない、感情的に対立しているといった事情だけでは認められません。
以上を踏まえて、要点を整理します。
まとめ|相続税の分割見込書は「添付忘れ」が数百万円の分かれ目
分割見込書は、決まった3つの欄を埋めるだけで、作成そのものは難しくありません。
ただし、申告書に添付し忘れると、それだけで特例を受けられなくなることがある大切な1枚です。
分割見込書で失敗しないための要点を、最後に整理します。
- 記載するのは3つの欄だけ:分割できない「理由」、今後の「分割の見込み」、受けたい「特例の種類」を、ありのままの事実で書きます
- 提出は相続税の申告と同時:期限内に出す申告書にこの1枚を添付して、一緒に提出します
- その後の期限管理が最も大切:申告期限から3年以内に遺産分割をまとめ、成立日の翌日から4か月以内に「更正の請求」で払い過ぎた税金を取り戻します
分割見込書のよくある質問(FAQ)
分割見込書の書き方について、よくいただく質問をまとめました。
- 分割見込書の提出に手数料はかかりますか?
-
かかりません。国税庁サイトの様式に記載し、申告書に添付して提出するだけです。
- 分割見込書はe-Taxでも提出できますか?
-
できます。作成した分割見込書をPDFにして、相続税の申告データと一緒に送信します。
- 期限内に申告できなかった場合、期限後申告で分割見込書を出せば特例は使えますか?
-
使えます。期限後申告書に分割見込書を添付し、申告期限から3年以内に分割すれば、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を受けられます(期限後申告には加算税などがかかります)。
- 期限内に申告したのに分割見込書を付け忘れた場合は、特例を使えますか?
-
原則として使えません。期限内に申告書を出したあとから分割見込書だけを付け足すことは基本的に認められず、税務署長がやむを得ない事情と認めた場合に限り例外的に救済されます。
- 一部の財産だけ未分割の場合も分割見込書は必要ですか?
-
未分割の財産について特例を後から使いたい場合は必要です。分割済みの財産には通常どおり特例を適用できます。
参考文献(いずれも国税庁の公式ページ)
- 国税庁「相続税の申告書の提出期限から3年以内に分割する旨の届出手続(申告期限後3年以内の分割見込書)」
- 国税庁タックスアンサーNo.4208「相続財産が分割されていないときの申告」
- 国税庁タックスアンサーNo.4158「配偶者の税額の軽減」
- 国税庁「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請手続」
- 国税庁タックスアンサーNo.4124「小規模宅地等の特例(相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例)」


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