「店舗や事務所の土地を相続したら、相続税はどれくらいかかるのだろう」──事業用の土地を持つご家庭にとって、避けて通れない不安です。
特定事業用宅地等の特例を使えば、最大400㎡まで土地の相続税評価額を80%減額できます。
ただし要件を1つでも外すと減額はゼロになり、相続税の納税額が数百万円単位で変わります。
本記事では、税理士が制度の定義・適用要件・3年縛りの注意点を初心者向けにわかりやすく解説します。
特定事業用宅地等とは?対象になる土地と除外業種
特定事業用宅地等とは、個人事業に使っていた土地を、事業を引き継ぐ親族が相続したときに、その土地の相続税評価額を80%減額できる宅地です(国税庁タックスアンサーNo.4124「相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例」)。
事業に使っていたのは、被相続人(=亡くなった人)か、生計を一にする親族(=生活費を共にする家族)のどちらかです。
簡単に言えば、家族で営んできた事業の土地を継ぐ人のために、相続税を計算するときの土地の値段を8割引きにする特例です。
対象になるのは、店舗・事務所・工場・倉庫などの建物や資材置き場や屋外展示場などの構築物の敷地として事業に使われていた土地です。
建物も構築物もない更地は、そもそもこの特例の対象になりません。
一方、不動産貸付業・駐車場業・自転車駐車場業で使われていた土地は特定事業用宅地等の対象から除外されています。
つまり、自分で商売をしていた土地は特定事業用宅地等の対象、人に貸して家賃や料金を得ていた土地は対象外、という線引きです。
賃貸アパートや貸駐車場の土地は、相続税評価額を50%減額できる「貸付事業用宅地等」として判定されます。
対象範囲を押さえたところで、減額の効果を具体的な金額で確認します。
相続税評価額が80%下がる節税効果【400㎡の計算例】
特定事業用宅地等に該当すると、400㎡までの部分について土地の相続税評価額を80%減額できます。
例として、相続税評価額8,000万円・面積400㎡の店舗敷地を後継者が相続したケースを考えます。
減額される金額は8,000万円×80%=6,400万円で、課税価格に算入する額(=相続税の計算のもとになる金額)は1,600万円まで下がります。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 土地の相続税評価額 | 8,000万円 |
| 減額額(80%) | ▲6,400万円 |
| 課税価格に算入する額 | 1,600万円 |
課税価格に算入する額が小さくなるほど相続税額も下がるため、税額ベースでは1,000万円単位の差になることも珍しくありません。
80%の減額は効果が大きい分、特例を使うための要件は厳格です。次章で要件を1つずつ確認します。
特定事業用宅地等の適用要件【事業承継要件と保有継続要件】
特定事業用宅地等の要件は、相続税の申告期限まで事業を続けることと、土地を持ち続けることの2つです。
土地のほうは単純で、どちらの場合も申告期限まで売らずに持ち続けるだけです(=保有継続要件)。
事業のほうは、亡くなった人の事業を引き継ぐのか、もともと自分が営んでいた事業を続けるのかで変わります。
| どんな土地か | 事業についてやること | 土地についてやること |
|---|---|---|
| 亡くなった人(被相続人)が営んでいた事業の土地 | 申告期限までに事業を引き継ぎ、申告期限まで営む(事業承継要件) | 申告期限まで持ち続ける(保有継続要件) |
| 生計を一にする親族が営んでいた事業の土地 | 相続開始前から申告期限まで営み続ける(事業継続要件) | 申告期限まで持ち続ける(保有継続要件) |
申告期限(=相続開始から10か月)より前に事業をやめたり土地を売ったりすると、特例は使えません。
要件を満たしていても、もう1つ確認しておくべきルールが「3年縛り」です。
3年縛りとは?相続直前に始めた事業の土地は原則対象外
3年縛りとは、相続開始前3年以内に新たに事業を始めた土地を、原則として特例の対象外とするルールです。
3年縛りの目的は、相続の直前に形だけ事業を始めて80%減額を狙う、駆け込み節税を防ぐことです(国税庁「相続税法基本通達等の一部改正について(法令解釈通達)のあらまし」)。
ただし例外があります。土地の上にある建物や設備の相続税評価額が、土地の相続税評価額の15%以上あれば、3年以内に始めた事業でも特例を使えます。
15%ルールと呼ばれるこの例外は、建物を建てて設備をそろえるような本気の事業と、相続税対策で形だけ始めた事業を分けるための線引きです。
3年縛りの具体的な場合分けや例外の判定は、「【小規模宅地等の特例】特定事業用宅地等の3年縛りのルールとその例外」で詳しく解説しています。
次に、ほかの宅地と併用するときの面積の上限を整理します。
限度面積は400㎡|自宅の敷地とは併用できる
小規模宅地等の特例は土地の使い道ごとに区分が分かれていて、特定事業用宅地等はそのうち事業用の区分にあたります。
事業用の土地は400㎡まで、自宅の敷地(=特定居住用宅地等)は330㎡までが上限で、両方を相続するなら合計730㎡まで減額できます。
賃貸アパートや貸駐車場の土地(=貸付事業用宅地等)を1㎡でも選ぶと、全体を200㎡に換算し直すため、使える面積が大きく目減りします。
| 組み合わせ | 限度面積 |
|---|---|
| 事業用の土地(400㎡)+自宅の敷地(330㎡) | 合計730㎡まで両方とも上限まで使える |
| 賃貸アパートや貸駐車場の土地を含める場合 | 全体を200㎡に換算し直す(合計730㎡は使えない) |
どの土地に特例を使うかの選択が、そのまま納税額を左右します。
区分ごとの限度面積の一覧や、同じ区分の土地が複数あるときの選び方は、「小規模宅地等の特例の適用最大面積について」で解説しています。
適用する土地を決めたら、あとは申告手続きです。必要書類を確認します。
特例を使うには申告が必須|税額ゼロでも申告する
特例の適用には、相続税の申告書に適用を受ける旨を記載し、計算明細書や遺産分割協議書の写しを添付して申告することが必須です。
特例で税額がゼロになる場合でも、申告そのものを省略することはできません。申告書に記載して初めて80%減額が認められる仕組みだからです。
- 計算明細書:小規模宅地等についての課税価格の計算明細書に選択内容を記載する
- 遺産分割協議書の写し:取得者全員の合意を証明する(相続人全員の印鑑証明書も添付)
- 未分割の場合:分割見込書を添付すれば、3年以内の分割で後から適用できる(国税庁タックスアンサーNo.4208「相続財産が分割されていないときの申告」)
特例の対象になり得る土地の取得者が複数いる場合は、どの土地に特例を使うかについて取得者全員の同意が必要です。
戸籍謄本や印鑑証明書など、状況ごとに必要になる書類の一覧は「小規模宅地等の特例に必要な添付書類について」で解説しています。
最後に、不動産オーナーが混同しやすい「貸付事業」との線引きを整理します。
賃貸アパートや貸駐車場の土地は特定事業用にならない|減額は50%
賃貸アパートや貸駐車場の土地は特定事業用宅地等にならず、200㎡まで相続税評価額を50%減額できる貸付事業用宅地等として判定されます。
テナントビルの一部で自分の事業を営んでいる場合など、1つの土地に自営部分と貸付部分が混在するケースでは、利用区分ごとに按分(=使っている面積の割合で分ける)して判定します。区分を誤ると、税務調査で減額を否認されるリスクがあります。
特定事業用と貸付事業用の線引きの具体例は、「特定事業用宅地等と貸付事業用宅地等の区分について」で解説しています。
特定事業用と貸付事業用のどちらを優先すべきか迷う方は「小規模宅地等の特例|事業承継者未定時の特定事業用と貸付事業用の違い」で詳しく解説しています。
以上を踏まえて、要点を整理します。
まとめ|特定事業用宅地等は要件管理で決まる
特定事業用宅地等の特例は、400㎡・80%減額という強力な節税効果と引き換えに、申告期限までの要件管理が問われる制度です。
- 効果は最大級:400㎡まで土地の相続税評価額を80%減額できる
- 要件は2本柱:事業の承継・継続と土地の保有継続を申告期限まで守る
- 3年縛りに注意:直前開業は原則対象外、15%ルールの例外あり
適用の可否や貸付事業用との選択は、相続が起きる前のシミュレーションで有利な形を設計しておくのが最善です。
特定事業用宅地等のよくある質問(FAQ)
特定事業用宅地等でつまずきやすいのは、法人化・配偶者の手伝い・申告期限後の売却・借地・建物の名義の5点です。
- 個人事業を法人化している場合も、特定事業用宅地等の特例は使えますか?
-
特定事業用宅地等としては使えません。法人化すると事業を営むのは会社になり、その土地は個人の事業を前提とするこの区分から外れるためです。
代わりに、その土地は「特定同族会社事業用宅地等」という別の区分で判定します。被相続人がその土地を会社に有償で貸していたことが前提で、無償で貸していた場合はこの区分にも当たりません(国税庁「租税特別措置法(相続税法の特例関係)の取扱いについて」69の4-23)。
会社の株式の持ち分や、相続した親族が役員であることなど、この区分の要件は「特定同族会社事業用宅地等の概要と要件について」で解説しています。
- 事業を手伝っていた配偶者が土地を相続した場合、その土地は特定事業用宅地等の対象になりますか?
-
対象になります。手伝っていただけなら事業主は被相続人なので、その土地は被相続人の事業に使われていた土地として扱われます。
あとは配偶者が申告期限までに事業を引き継ぎ、申告期限まで営んで土地を持ち続ければ、80%減額を使えます。
- 申告期限の後に土地を売っても、特定事業用宅地等の特例は取り消されませんか?
-
取り消されません。保有継続要件が求めるのは申告期限までの保有なので、申告期限を過ぎたあとに売却しても80%減額はそのまま維持されます。
- 借地に建てた事務所の敷地でも、特定事業用宅地等の特例は使えますか?
-
使えます。特例の対象になる「宅地等」には土地だけでなく、借地権など土地の上に存する権利も含まれるためです。
借地に建てた事務所で事業を営んでいれば、その借地権の相続税評価額を400㎡まで80%減額できます。
- 被相続人の土地に建つ事業用の建物が、生計を一にする子の名義でも特定事業用宅地等の特例は使えますか?
-
使えます。生計を一にする子は税法上、亡くなった人と同じ側として扱われるため、建物が子名義でも土地は事業用宅地等に当たります(国税庁「租税特別措置法(相続税法の特例関係)の取扱いについて」69の4-4)。
ただし、被相続人が子から土地の地代を受け取っていないことが前提です。地代を受け取っていると、その土地は被相続人が人に貸す事業に使っていた土地となり、80%減額の対象から外れます。
地代を受け取っていた場合、その土地は200㎡まで評価額を50%減額できる「貸付事業用宅地等」に当たるかどうかで判定します。
参考文献(いずれも国税庁の公式ページ)
- 国税庁タックスアンサーNo.4124「相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」
- 国税庁「相続税法基本通達等の一部改正について(法令解釈通達)のあらまし(令和元年11月5日・特定事業用宅地等関係)」
- 国税庁タックスアンサーNo.4208「相続財産が分割されていないときの申告」
- 国税庁「租税特別措置法(相続税法の特例関係)の取扱いについて(法令解釈通達)〔措置法第69条の4関係〕」69の4-4、69の4-23


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