土地とともに取得した建物を取壊した時は損金?又は土地の取得価額?
この記事の概要
  1. 建物取壊し時に建物の取壊し費用や建物帳簿価額が損金に算入されるかどうかの形式基準は建物付き土地を取得して1年以内かどうかである。
  2. 建物付き土地の取得後、1年超経過した後、建物を取り壊しても損金に算入できず、土地の取得価額に算入しなくてはいけない場合もある
  3. 逆に建物付き土地の取得後、1年経過していないくても、建物の取壊し費用や建物の帳簿価額を損金に計上できる場合もある

土地とともに取得した建物の取壊し費の税務上の取扱いについて

不動産の売買をしている会社の方から最も多い質問の一つに、「今度、建物付きの土地を購入するんだけど、建物を取り壊した時の取壊費用や建物の残存帳簿価額は損金(=経費)になるの?それとも土地の取得価額になるの?」というものがあります。

この件については、法人税基本通達7-3-6が国税庁の見解ということになります。

中身を少し見ていくと以下のようになります。

会社が建物付きの土地を取得した場合又は自社の土地の上にある借地人の建物を取得した場合で、取得後おおむね1年以内にその建物の取壊しを始めるなど、初めからその建物を取り壊して土地のみを利用する目的であることが明らかな場合は、建物の残存帳簿価額と取壊費用の合計額を、土地の取得価額に算入します。

つまり、建物をもともと利用するつもりがなく、土地付き建物の売買の結果、欲しいのが土地だけという場合は、建物の取り壊し時に建物の帳簿価額と取壊費用は土地の取得価額に計上しなければいけないということになります。

税務処理をするための仕訳例を示すと以下のようになります。

【仕訳例】
土地付き建物を34,000万円(土地30,000万円、木造建物4,000万円)を購入しましたが、もともとのビルを建てる計画に従い、1年後に木造建物を取り壊して更地にしました。なお、取壊費用として500万円かかりました。

【建物付き土地購入時の仕訳】

借方
金額
貸方
金額
建物
土地
4,000万円
30,000万円
現金預金
34,000万円

【1年間の減価償却費の計上】
1年間は建物が存在していますので、その間の減価償却費を計上します

なお、本例題では、土地付き建物を購入した段階で木造建物の法定耐用年数22年を経過していたと仮定し、中古建物の耐用年数を4年として計算しています。

借方
金額
貸方
金額
減価償却費
1,000万円
建物
1,000万円

建物の取得価額4,000万円÷4年(中古建物の耐用年数)=1,000万円

【建物帳簿価額と取壊費用の土地価額への算入】

借方
金額
貸方
金額
土地
3,500万円
建物
現金預金
3,000万円
500万円

建物の帳簿価額は4,000万円-1,000万円(1年間の減価償却費)=3,000万円となります。

初めから建物を利用する意思があったかどうかの判定

上記の法人税基本通達7-3-6の中では、「取得後おおむね1年以内」という言葉が出てきていますが、あくまでも例示にすぎませんので、1年経過後であっても、初めから建物を取り壊すつもりで土地を取得していた場合は、建物の帳簿価額や取壊費用は土地の取得価額に含まれます

会社が建物付きの土地を取得して建物を取り壊した場合等に建物の帳簿価額や取壊費用が土地の取得価額に算入されるか、損金(=経費)に算入されるかは、初めから建物を取り壊して土地のみを利用する目的であったかどうかだけで判断することになります。

この点に関して、会社の方では損金(=経費)に算入したいのが本音なので、結構な数の係争事件になっています。

係争事件で「初めから建物を取り壊して土地のみを利用する目的である」と判断されたケースに、建物が利用できれば利用するし、利用できなければ取壊すと考えて、とりあえず建物付き土地を購入した場合もありますので注意が必要です。

反対に、例えば、建物付き土地を購入して、その建物で事業を営んでいたのだけど、古すぎて壁が崩れ落ちたから、建て直すために取壊した場合や、建物付き土地を購入して、ホテル業を営んでいたけど、その建物が周りの建物と比べてあまりに貧相でお客さんが入らない場合に建て替える場合などは、1年未満で建物を取り壊しても、建物の取壊費用や建物の取得価額を損金(=経費)に算入できると考えられます。

要は、建物付き土地の取得時に、建物を取り壊す計画がないことがはっきりしており、もし仮に1年程度で建物を取り壊すことになってしまった場合でも、相応の理由があれば、取壊費用や建物取得価額を損金(=経費)に算入できることになります。

ただし、建物の取り壊しに係る税務上の判断は金額的重要性も高く、税務上の論点にもなるので、建物を取り壊す計画や内容が記載された取締役会議事録や稟議書などの意思決定書類を必ず残しておくことをお勧めします