役員からの借入金について
経営者から金銭の借入れをすると貸借対照表の負債の部に役員借入金や短期借入金が計上されることになります。
また、同族会社の場合、交際費等の支払いを役員のお財布からした場合、役員の立て替え額が役員借入金や短期借入金に計上されることがあります。
イメージしやすいように仕訳で考えてみましょう。
- 不動産を購入するために、会社は役員より2,000万円を借り入れ、会社の口座に振り込まれました。
- 会社は振り込まれた預金の増加(流動資産の増加)と借入金の増加(負債の増加)を認識します。
借方金額貸方金額普通預金2,000万円短期借入金
(役員借入金)2,000万円 - 得意先への接待のため交際費を20万円消費し、役員の財布から支払いました。
- 交際費を役員の財布から一時的に支払っているので、会社側から見ると役員への借入金とみることができます。
借方金額貸方金額交際費20万円短期借入金
(役員借入金)20万円
役員借入金のメリット
役員借入金の会社側のメリットは役員借入金を資本金と同じ性質だと考えれば、銀行から融資を受ける際に有利になることです。
例えば、同族会社で不動産を購入するために借用書を作り、役員からお金を借りた場合も、役員から出資金を募った場合も区分の違いだけで内容に違いがないことが分かります。
出資金(資本金)と同じように同族会社の役員からの借入金は何かあった時に返済が劣後するからです。
役員借入金のデメリット
役員借入金の最大のデメリットは役員死亡時に相続財産になってしまうことです。
相続財産になってしまい、相続税の支払いが要求されるのに、会社にお金が留保されてしまっているので、相続人には支払うお金がないという状況も考えられます。
さらに、交際費などを短期借入金で処理していた場合、被相続人(前経営者)が長年積み重ねてきた交際費の総額が役員借入金として相続財産になる場合も考えられます。
この場合、厳密には役員から会社にお金を貸している訳ではないので、会社にも返済資金がないことになります。
役員借入金の清算方法
役員借入金のメリットで銀行からの融資に際してプラスに働くことを挙げましたが、それならば単純に資本金を増やせばよいだけです。
よって、役員借入金はデメリットが大きいので計上されない方が良いことになります。
一番簡単な清算の方法に、役員借入金を都度清算していく方法があるのですが、長年の積み重ねで、すでに多くの役員借入金が貸借対照表に計上されてしまっている会社も多いです。
この場合、5つの清算方法が考えられます。
- 債権放棄
- 債権贈与
- 債権の資本化(デットエクイティスワップ)
- 代物弁済
- 会社の閉鎖
ただし、どれも適用条件が複雑で税務上相当のリスクを負うことになることを事前に把握しておいてください。
債権放棄
役員が債権を放棄すれば、短期借入金は消滅します。
ただし、会社側は役員の債権放棄により借金を返さなくてよいという利益を得るので債務免除益を計上しなければなりません。
よって、繰越欠損金や当期の損失が債務免除益などを超えている場合以外は、ほぼ間違いなく法人税等の税金の支払いが必要になります。
また、税法上、債権放棄の影響で他の株主の株価が上昇するので、他の株主に贈与税の課税関係が生じてしまう可能性があります。
債権贈与
被相続人(経営者)に対する短期借入金を相続人に贈与することも可能です。
ただし、贈与税が問題になり、短期借入金に担税力がないため、贈与を受けた者に納税資金がないという問題は解消されません。
債権の資本化(デットエクイティスワップ)
会社の短期借入金を資本金に組み替えてしまう方法です。
デット=負債、エクイティ=資本、スワップ=交換ということです。
お金を貸し付けている役員に株式を発行するだけで損益が発生しないように見えますが、債務超過の会社の場合、債務免除益が会社に計上される可能性があります。
また、資本金が多くなることで住民税の均等割りが高くなったり、租税特別措置法や事業承継税制の適用制限が発生する場合があります。
代物弁済
会社の所有している不動産などを役員借入金の返済原資に充てる方法です。
この場合、譲渡する不動産の時価の把握が非常に重要になります。
時価に比べて譲渡対価の額(短期借入金の返済額)が著しく低いと会社にも個人にも多大な影響を及ぼします。
会社の閉鎖
会社の閉鎖の適用要件はかなり厳しいです。
狙って短期借入金の清算を行うというより、結果的に短期借入金が返ってこないことが法律上も認められた場合のみ適用できると理解しておいた方が正しいでしょう。