
小規模宅地等の特例はもともと個別通達(簡単に言うと税務署の運用指針)から始まり、租税特別措置法という法令になった経緯があります。
そして、法令になった後も、時代の情勢に合わせて頻繁に改正を繰り返しています。
時代の情勢に合わせて、整備が行われてきているので、改正により〇だったものが×になることもあり、小規模宅地等の特例を適用できるかの判定が非常に難しくなっています。
そこで、今回は小規模宅地等の特例を適用する場合のよくある間違い事例をみていきましょう。
相続税の申告期限まで居住又は事業を継続しなければならない
特定居住用宅地等又は特定事業用宅地等として小規模宅地等の特例を適用するためには、相続税の申告期限まで居住又は事業を継続しなければなりません。
つまり、相続税の申告期限「前」に宅地等を売却してしまうと小規模宅地等の特例を適用できなくなります。
共同相続した場合、小規模宅地等の特例の適用範囲は限定される
小規模宅地等の特例の要件を満たす親族と満たさない親族が50%ずつ共有で敷地を取得した場合、要件を満たす方の親族の敷地部分にしか小規模宅地等の特例は適用できないことになります。
例えば、兄弟2人で父親の敷地(200㎡)を相続した場合です(兄100㎡、弟100㎡)。
兄は父と同居していたので、小規模宅地等の特例を適用できましたが、弟は別居だったため小規模宅地等の特例を適用出来なくなります。
建物の一部が居住用・事業用の場合、その建物に対する敷地にしか小規模宅地等の特例は適用できない
例えば、5階建ての建物で1階部分は相続人が事業を営んでおり、残りの階層は賃貸に出していたとします。
その場合、1階部分に対応する敷地のみが特定事業用宅地等に該当し、2階~5階部分の敷地に関しては特定事業用宅地等に該当しないことになります。
つまり、1階部分に対応する敷地のみが小規模宅地等の特例(80%減額)の適用対象になるということです。
なお、この事例では、2階~5階までも貸付事業用宅地等として小規模宅地等の特例(50%減額)の対象になる可能性はあります。
特定居住用宅地等として認められるのは1か所のみではない
1人に対して特定居住用宅地等は1つまでです。
ただし、被相続人(死亡した人)の相続に伴い、被相続人と生計一親族の2人に1つずつ特定居住用宅地等が認められる可能性はあります。
例えば、父親が死亡し、自宅にいた配偶者と大学生のため一人暮らしをしていた長男のそれぞれの居宅の敷地が特定居住用宅地等に該当する場合があります。
居住用と事業用の小規模宅地等の特例の併用は可能
特定居住用宅地等に対して330㎡まで小規模宅地等の特例が認められ、特定事業用宅地等に対して400㎡まで小規模宅地の特例が認められます。
では、特定居住用宅地等と特定事業用宅地の両方があった場合はどうなるかというと併用が可能で、最大で730㎡(330㎡+400㎡)まで小規模宅地等の特例が認められることになります。
居住用・事業用・貸付用の宅地がある場合、調整が必要
居住用と事業用の敷地の小規模宅地等の特例の適用は併用が可能でした。
では、貸付事業用の敷地も存在した場合はどうなるのでしょうか?
この場合は調整計算が必要になります。
計算式は以下のようになります。
貸付事業用宅地等の面積=200㎡-(特定事業用宅地等の面積×200÷400+特定居住用宅地等の面積×200÷330)
貸付事業用宅地等の評価額が非常に高い場合を除いて、基本的に特定居住用宅地等や特定事業用宅地等の小規模宅地等の特例を優先して適用し、そのあまりで貸付事業用宅地等の小規模宅地等の特例を適用することをこの計算式は示しています。
老人ホームに入所しても元の空き家に小規模宅地等の特例が利用できる
要介護認定・要支援認定・障害者区分の認定を受けて老人ホームに入居すれば、例え元の自宅が空き家になってしまっても、居住の継続が認められ、小規模宅地等の特例を適用できる可能性があります。
以前は、終身利用権を取得すると引っ越し扱いになり、居住の継続性が認められませんでしたが、税法が変更になっており、上記の要件を満たせば基本的に小規模宅地等の特例を適用できることになりました。
二世帯住宅でも敷地「全体」について小規模宅地等の特例を適用できる
完全分離型(入口が2つあり、また、家の中に内ドアがなく内部で行き来できないタイプ)の二世帯住宅で、1階に被相続人(亡くなった人)、2階に相続人が住んでいるケースは非常に多いです。
この場合、被相続人と相続人の家の内部が完全に分離していても、小規模宅地等の特例の適用上は全員が同居していたとして扱うことができます。
ただし、建物を区分所有登記している場合は、1階の被相続人と2階の相続人は別居扱いになり、小規模宅地等の特例を利用することが困難になるため注意が必要です。