少額減価償却資産をうまく利用できれば、節税対策になるだけでなく、年度の利益の調整手段にもなり得ます。
今回は、少額減価償却資産の内容・要件・仕訳・適切な利用方法について確認していきましょう。
30万円未満の固定資産の取得は経費にできる
税法上は、10万円以上の固定資産を取得すると減価償却資産になります。
そのため、取得時に取得価額を一括で経費に計上することはできず、取得した固定資産の耐用年数に応じて徐々に経費に計上しなければなりません(これを減価償却といいます)。
しかし、法人でも個人事業主でも、青色申告をしている場合には、30万円未満の固定資産の取得価額を一括で経費に計上できるという特例があります。
この特例を少額減価償却資産の即時償却の特例といいます。
例えば、20万円のパソコンを購入した場合、通常は4年で減価償却していくので、パソコンの購入費用を固定資産に計上したうえで、1年につき5万円ずつ経費に振り替えていくのが原則になります。
しかし、青色申告をしている法人・個人事業主の場合、パソコンを購入した時に20万円全額を経費に計上できるということになります。
少額減価償却資産の要件
10万円以上の固定資産の取得を経費に計上できる少額減価償却資産の即時償却の特例ですが、適用するためには、以下のような要件があります。
【個人事業主の要件】
- 青色申告であること
- 常時従業員数が500人以下であること
【法人の要件】
- 青色申告であること
- 常時従業員数が500人以下であること
- 資本金が1億円以下であること
- グループ通算法人に該当しないこと
- 過去3年間の所得金額(≒利益)の年平均額が15億円超に該当しないこと
要件を確認して頂けると分かる通り、事業を大規模で展開している事業者以外は、基本的に少額減価償却資産の即時償却の特例を利用することができます。
なお、少額減価償却資産の即時償却の特例はあくまで特例のため、時期が来たら終わりになります(現在時点での終了予定時期は、2026年3月31日)。
ただし、この終了時期が何回も延長され、ほぼ恒久化しています。
延長の度に細かい要件は変わりますが、個人事業主・法人を問わず、中小規模の事業者は、少額減価償却資産の即時償却の特例は利用できると覚えておきましょう。
仕訳について
少額減価償却資産の即時償却の特例を利用した際の仕訳については、以下のようになります。
なお、個人事業主の場合、青色決算書の減価償却費の計算部分で、法人の場合、法人税申告書別表16(7)で少額減価償却資産の即時償却の特例を利用した旨の記載が求められます。
仕訳方法は色々あるのですが、上記の記載を忘れないために、以下のような仕訳をすることをお勧めします。
【事例】
期中に25万円のパソコンを取得しました。
【少額減価償却資産の取得時の仕訳】
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
工具器具備品 | 25万円 | 現金 | 25万円 |
【決算時の仕訳(決算整理仕訳)】
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
減価償却費 | 25万円 | 工具器具備品 | 25万円 |
少額減価償却資産の取得時の仕訳で減価償却費の勘定科目を使用しても良いのですが、少額減価償却資産の取得時の仕訳だけで完結してしまい、青色決算書や法人税申告書別表16(7)に内容を記載することを忘れてしまいがちです。
上記の仕訳例では、期中に工具器具備品を計上しておき、決算整理仕訳(決算日後にする仕訳)で工具器具備品から減価償却費に振り替える仕訳を計上ことで、記載を忘れるリスクを各段に低くすることできます。
少額減価償却資産の判断基準
少額減価償却資産と判断されれば、30万円未満までの固定資産の取得価額は、一括で経費処理できますが、判断基準が少し難しいのが難点です。
ここでは、間違いやすいポイントを挙げていきます。
消費税部分をどう判断するか?
30万円未満の固定資産の取得が少額減価償却資産の即時償却の特例の対象になりますが、この30万円の判断は、税込みなのか税抜きなのか判断に迷うところです。
結論から言うと、以下のようになります。
- 税込経理方式又は消費税免税事業者の場合
⇒30万円の判定は、税込み金額で判断します - 税抜経理方式の場合
⇒30万円の判定は、税抜き金額で判断します
税込経理方式とは、消費税を含めた金額で仕訳をする方法のことで、税抜経理方式とは、消費税を分離して、仮払消費税・仮受消費税という勘定科目を別に使用して仕訳をする方法のことです。
会計ソフト上は、最初の設定画面で、税込経理方式を採用するか、税抜経理方式を採用するかを選ぶことができるので、、消費税の課税事業者になった時点でどちらかを選択することになります。
税込経理方式又は消費税免税事業者の場合、消費税を含めた金額で仕訳をしているので、少額減価償却資産の即時償却の特例も消費税込みで30万円未満か判断することになります。
逆に、税抜経理方式の場合、消費税部分を仮払消費税や仮受消費税という形で分離して仕訳をしているので、少額減価償却資産の即時償却の特例も消費税抜きで30万円未満かを判断することになります。
判定単位について
少額減価償却資産に該当するかは、固定資産1つ1つで判断することになります。
例えば、25万円のパソコンを4台購入した場合、総額100万円で判断するのではなく、1つ1つの取得価額25万円で少額減価償却資産に該当するかを判断することになります。
逆にカーテンなどは、通常、1枚あたり5万円などの見積もりになりますが、1枚では意味がなく、1室全体で使用するカーテンの取得価額で少額減価償却資産に該当するかの判断をすることになります。
例えば、1室で8か所カーテンを使用していたなら、5万円×8枚=40万円で少額減価償却資産に該当するかを判断することになります。
つまり、少額減価償却資産は、意味を持つ最小の単位で判断することになりますので注意が必要です。
少額減価償却資産に計上できる上限額について
少額減価償却資産は、1年間で総額300万円までしか認められません。
仮に300万円を超えそうな場合、少額減価償却資産にできる固定資産の組み合わせを考えて、300万円に近い金額を即時償却できるようにしましょう。
例えば、26万円のパソコン20台と15万円のパソコン10台を1年間で取得した場合、26万円のパソコン10台と15万円のパソコン2台を少額減価償却資産にすると290万円となり、300万円に最も近い金額になります。
この場合、残りのパソコン(26万円のパソコン10台と15万円のパソコン8台)については、通常の固定資産になります。
ソフトウエアも少額減価償却資産の対象になる
ソフトウエアは、形のないもののため、少額減価償却資産に該当しないと思われがちです。
しかし、税法上は、ソフトウエアも固定資産の仲間に分類され、減価償却資産に含まれるので、当然に、少額減価償却資産の即時償却の特例の対象になります。
少額減価償却資産は、利益調整の手段として利用できる
少額減価償却資産の即時償却の特例の利用は任意です。
よって、年度の利益が確定した段階で、少額減価償却資産に該当しても、通常の固定資産として処理することもできます。
赤字の場合や年度の利益が少ないなと感じる場合は、利益が確定した段階で、少額減価償却資産を通常の固定資産に戻して処理をやり直すことが可能です。
少額減価償却資産は、経費を多く計上できる手段としてだけではなく、利益を調整できる手段としても利用できることを覚えておいてください。
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