
- 短期前払費用の損金算入は決算間際の節税対策に利用できます。
- 短期前払費用の対象になるものはどの会社にでもあります。
- 短期前払費用の損金算入の要件は多いですが、手間がかかるものは少ないです。
- 税務的にはグレーゾーンが多いので要件はきちんと守りましょう。
期末間際の節税対策に短期前払費用の損金(=経費)算入というものがあります。
税務否認リスクもあるので、適用しない会社も多いのですが、少しでも節税をするために適用できるならしておきたいところです。
今回は短期前払費用を利用した節税対策について考えてみましょう。
前払費用とは?
短期前払費用の損金(=経費)算入の法人税法上の取り扱いをまとめる前にまずは、前払費用について知らなければなりません。
前払費用とは、会社が一定の契約に基づき「継続的に役務の提供を受けるため」に支出した費用の額のうち、当該事業年度終了の時において「まだ役務の提供を受けていない」ものです。
前払費用を支出した時は、支出額を翌期以降に繰り延べるために資産に計上し、翌期以降の役務提供期間に対応させて損金(=経費)に振り替えていきます。
なお、似たような資産勘定に前払金(前渡金)と繰延資産というものがありますが、前払金(前渡金)は継続的に役務の提供を受けるために払った支出ではない点、繰延資産はすでに役務を受けている点で前払費用とは異なります。
前払金(前渡金)と繰延資産は前払費用と同じく資産科目で計上されますので、通常は科目を間違えてもそれほど影響はありませんが、前払費用だけは短期前払費用の損金算入の要件を満たす場合、全額損金(=経費)算入できてしまうので、前払費用と前払金(前渡金)と繰延資産の違いは必ず把握してください。
短期前払費用の損金(=経費)算入について
前払費用の額のうち、支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを先に支払い、支払日の事業年度の損金(=経費)の額に算入した場合、法人税でも先払分の損金(=経費)算入を認めます。
これが短期前払費用の損金算入ですが、企業会計上の重要性の原則に基づいた経理処理を法人税でも認めようという考え方を出発点にしています。
企業会計とは会社が従う憲法みたいなもので、重要性の原則とは影響が小さいものはある程度大雑把に処理しても問題ないと考える原則だとイメージしてください。
なお、消費税でも短期前払費用については、「当該前払費用に係る課税仕入れは、その支出した日の属する課税期間において行ったものとして取り扱う。」と規定しています。
つまり、短期前払費用を法人税で損金に算入したのなら、消費税も法人税の処理に従い、その支出した日の属する課税期間で処理して良いということになります。
短期前払費用の損金算入の法人税・消費税上の取り決めを仕訳で表すと以下のようになります。
【短期前払費用の仕訳】
当社は3月末決算の会社です。
オフィス賃借に係る賃料について、毎年、家賃年額(4月から翌年3月)100万円を3月末に前払いにより支払います。
(原則的な仕訳)
借方
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金額
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貸方
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金額
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---|---|---|---|
前払費用
(不課税取引) |
100万円
|
現金預金
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100万円
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(容認仕訳)
借方
|
金額
|
貸方
|
金額
|
---|---|---|---|
支払家賃
(課税取引) |
100万円
|
現金預金
|
100万円
|
短期前払費用の損金(=経費)算入の要件
役務提供期間に対応させて損金(=経費)に算入させたいのが税務上の立場なのに、支払った時に損金(=経費)に算入できる短期前払費用の損金算入は、税務上から言えば、利益操作を可能にすることに繋がります。
よって、短期前払費用の損金算入の要件は以下のように少し厳格に定めらています。
ただし、要件的にはそこまで難しくないので、ポイントを抑えれば利用できるはずです。
- 一定の契約に従って継続的に役務の提供を等質・等量に受けるものであること
- 支払時から1年以内に役務の提供を受けるものであり、時の経過に応じて費用化されるものであること
- 役務の対価を前払いで支払っていること
- 損金(=経費)算入される金額又は勘定科目自体に重要性がないこと
- 収益と対応させる必要がない前払費用であること
- 継続して前払すること
一定の契約に従って継続的に役務の提供を等質・等量に受けるものであること
代表例に翌期の税理士顧問報酬を当期に前払いした場合に短期前払費用として損金算入できるかというものがあります。
結論から言うと、税理士顧問報酬については短期前払費用の損金算入の取り扱いの適用は受けることができず、前払金として処理します。
前払費用の要件である「会社が一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用」の「継続的」とは、等質・等量のサービスがその契約期間中断続的に提供されることであり、税理士顧問報酬は毎月行う業務が違うことからここでいう等質・等量には該当しません。
よって、継続的に役務の提供を受けるために払った支出ではなく、単なる前払いによる債権と考えられるため前払金(前渡金)として処理します。
また、短期前払費用の損金算入に該当するかどうかを判断する際には、先に繰延資産に該当しないかも考える必要があります。
繰延資産に該当する場合とは、「すでに役務の提供を受けたもの」なので、もし該当するなら、そもそも前払費用ではありません。
よって、短期前払費用の損金算入には該当しません。
ただし、繰延資産に該当する場合は、20万円未満ならば全額損金(=経費)に算入できるので、むしろ短期前払費用より節税効果が高い場合もあります。
支払時から1年以内に役務の提供を受けるものであり、時の経過に応じて費用化されるものであること
税務署の見解では、「期間10年の建物賃借に係る賃料について、毎年、家賃年額(4月から翌年3月)100万円を2月に前払いにより支払う」場合には短期前払費用の損金算入の取り扱いはできないとしています。
支払時が2月なので、そこから1年以内に役務の提供を受けるもの、つまり、前払いできるのは翌年2月までです。
1日単位で計算しろとまでは税務署は言っていないので、多少の幅がありますが、「支払時から1か月ズレたら短期前払費用の損金算入はできないよ」と税務署は言っています。
また、契約開始日ではなく「支払時」から1年以内ということに注意してください。
役務の対価を前払いで支払っていること
役務の対価を前払で支払っていなければそもそも費用の前払いにはならないということです。
前払費用と未払金・未払費用が両建てで計上されることは通常考えられません。
損金(=経費)算入される金額又は勘定科目自体に重要性がないこと
短期前払費用の損金(=経費)算入のそもそもの出発点は企業会計上の重要性の原則です。
さらに、会社の短期前払費用の損金算入の利用目的は節税のためです。
そうであるならば、短期前払費用の損金(=経費)算入額が課税上弊害が生じる範囲にあってはいけません。
課税上弊害が生じる範囲については、細かい決まりはないので、悩ましいところですが、例えば、判決例として、当期純利益が3,000万円弱なのに対して、短期前払費用の金額が2億程度、実に当期純利益の10倍弱の短期前払費用を損金算入して否認された事例があります。
短期前払費用の計上額と会社の売上高・当期純利益の金額等を参考にして課税上弊害が生じる範囲は決定されますが、短期前払費用の金額が多すぎれば否認されます。
ただし、国税庁のホームページの中に記載されている短期前払費用の例示では金額が100万円程度のものを例に挙げています。
国税庁のホームーページでは売上・当期純利益の規模を掲載していないので詳しくは分かりませんが、普通の会社であれば、100万円程度の短期前払費用であれば課税上弊害が生じる範囲に含まれないとみることも可能でしょう。
また、重要性の原則が出発点にあると考えると、重要な勘定科目に対する短期前払費用の損金算入というものも認められなくなります。
短期前払費用の損金算入は、合理的に費用化される支払利息・地代・家賃などを想定して定められたものであり、例えば、役員報酬などは重要性が乏しい勘定科目とは言えないため短期前払費用の損金算入の取り扱いはできないことになります。
一般的に、会社の営んでいる事業のうえで主要な原価要素、営業の性質上重要な営業費用となるものは、重要性がないとは言えないため、短期前払費用の損金算入の取り扱いはできないということになります。
収益と対応させる必要がない前払費用であること
例えば、サブリース(一括借上)で、不動産会社が大元の大家に支払う分の支払賃料は賃借人から貰う収益(売上高)と対応させる必要があります。
サブリースの場合、不動産会社が大元の大家から賃貸用の建物を借りて、それを賃借人に貸すことになります。
賃借人に貸すため、会社では月次で売上高が計上されますが、同時に大家に対して不動産会社は賃借料(支払家賃)を払わなくてはなりません。
この賃借料(支払家賃)1年分を大家に先に支払っても短期前払費用の損金算入を受けることはできません。
賃借人から得られる売上高と大家に支払う賃借料(支払家賃)は対応させないといけない関係にあるからです。
継続して前払すること
税務署の見解では、利益操作のための支出を許さないために、短期前払費用の損金算入は継続的な支払を前提条件とするとしています。
結論
短期前払費用の損金算入は劇的な効果を持つ節税対策ではないです。
ただし、例えば、事務所の家賃などのようにどの会社でも必ずあるような費用を前払いすることによって節税することができ、また期末間際でも対応可能な節税対策です。
また、節税対策としての手間があまりかからないことも考えれば、仮に100万円でも節税できれば、中小企業にとってはそれなりに有用な節税対策になると考えられます。