小規模宅地等の特例の対象になる貸付事業用宅地等の主体と要件について!

貸付事業用宅地等は特定居住用宅地等の次に小規模宅地等の特例の適用事例として利用されています。

貸付事業用宅地等の適用主体や要件については比較的分かりやすいのですが、気を付けないといけない注意点がいくつかあります。

そこで、今回は貸付事業用宅地等の適用主体や要件を確認しつつ、注意点を説明していきます。

適用主体

貸付事業用宅地等として小規模宅地等の特例(敷地の50%減額)を適用するためには、被相続人の生前に貸付事業を営んでいたのが、①被相続人(亡くなった人)本人か②被相続人と生計を一にする親族かのどちらかでなければなりません。

被相続人と生計を一にする親族の貸付事業の用に供していた敷地が貸付事業用宅地等に該当し、小規模宅地等の特例の対象になるのは、生計を一にする親族の財布を通じて生前の被相続人の生活の糧となっているためです。

例えば、父親所有の敷地を利用して、同居している長男(生計を一にする親族)がマンションを建て、貸付事業を営んでいたとします。

長男の事業から稼いだお金で父親も生活していれば被相続人本人の貸付事業と区別する理由はなくなりますので、貸付事業用宅地等として小規模宅地等の特例(敷地の50%減額)を適用しても問題ないことになります

要件

被相続人本人又は被相続人と生計を一にする親族のどちらが貸付事業を営んでいても貸付事業用宅地等に該当するための要件は以下のようになります。

相続税の申告期限まで貸付事業を継続していること

相続税の申告期限まで貸付事業を継続していることが要件となります。

なお、貸付事業を引継いだ人と敷地を相続した人が異なる場合は貸付事業用宅地等に該当しないので注意が必要です。

例えば、父親が死亡し、建物と共に父親が営んでいる不動産賃貸業を息子が引き継ぎましたが、敷地については母親が相続した場合、貸付事業用宅地等に該当しなくなり、小規模宅地等の特例(敷地の50%減額)を適用できなくなります。

あくまで、貸付事業を継続しているのは、息子であり、母親ではないからです。

仮に母親が息子から地代等を収受したとしても、それは新たな貸付事業の開始と判断され、貸付事業を継続しているとは言えないと判断されることになります。

次に、申告期限までに事務所を居住用マンションに切り替えた場合に貸付事業が継続しているかが問題になる場合があります。

日本標準産業分類を参考にすると、事務所の賃貸は不動産賃貸業に該当し、居住用マンションの賃貸は貸家業、貸間業に該当することになり、厳密には分類が異なります

よって、建物「すべて」を事務所から居住用マンションに切り替えた場合には、事業が継続しているとは言えず、貸付事業用宅地等に該当しないということになります。

ただし、実務上多いのは、一部の部屋を事務所用から居住用マンションに切り替える場合です。

この場合は、申告期限までに「一部」の転業があっても、敷地全体が小規模宅地等の対象となり減額できるという取決めがあります(租税特別措置法関連通達69の4-16準用)。

相続税の申告期限まで取得した敷地を所有していること

相続税の申告期限まで取得した敷地を所有していることが要件になっています。

つまり、相続を知った日の翌日から10カ月以内は売却などをしてはいけません

相続前は不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業の用に供された敷地であること

不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業は事業的規模(5棟10室)で経営していなくても貸付事業用宅地等に該当します

仮に5室しかないアパートの貸付事業しか営んでいなくても、その宅地等は貸付事業用宅地等に該当することになります。

なお、貸付事業用宅地等として小規模宅地等の特例を適用するためには、建物又は構築物の敷地となっていることが必要です。

つまり、敷地にお金をかけてなにかしらの加工(建物を建てたり、アスファルトを敷いたり)をしていることが必要になります

また、貸付事業というためには、相当な対価を得ていることが必要になります。

同族会社や親族などの身内に貸し付けていても、貸付事業用宅地等に該当しますが、対価が低額(例えば固定資産税程度)では、事業として成り立っていないことになり、貸付事業用宅地等には該当しなくなります

過去の判決では、貸付「事業」というからには、減価償却や固定資産税などの経費を除いても利益が出る対価にしないといけないという判決が出ています。

また、周辺の賃料単価と比較して、身内に貸し付けた対価があまりに低い(4分の1ぐらい)のため、貸付事業用宅地等に該当しないという判例も出ています。

相続開始3年以内に新たに貸付事業の用に供された敷地でないこと

相続開始前3年以内に貸付事業を新たに開始した時はその敷地は貸付事業用宅地等に該当しません。

ただし、相続開始3年前以前から事業的規模(5棟10室)で貸付事業を営んでいた場合(すでに貸付事業を営んでいる敷地がある場合)、新たに貸付事業の用に供された敷地は貸付事業用宅地等に該当することになります。