孫を養子にして法定相続人を増やし、相続税の節税対策をすることは以前より行われてきました。
近年では、相続税の節税対策のために養子縁組を行う場合でも、直ちに無効になる訳ではないとの最高裁判所の判決も出ており、相続税の節税対策としては利用しやすくなりました。
そこで、今回は孫を養子にした場合の相続税の節税対策を考えていきましょう。
前提条件
孫を養子にして節税対策を行う前提条件として、①相続開始前に、②成人の孫がいて、③相続財産の分割協議で争いが生じるおそれがなく、④相続直前(3年以内)に孫に贈与で財産を移転していないことが必要になります。
未成年の孫の場合
孫が未成年だと、代理人を建てなければならず、相続財産の分配が非常に煩雑になります。
代理人は未成年の孫の利益のために働かなくてはならず、意図した財産分割が出来なくなります。
相続財産の分割協議で争いが生じそうな場合
最初から遺産分割協議で争いが生じそうならば、本来、相続人でない孫を相続人に繰り上げれば、火に油をそそぐだけです。
節税対策以前にスムーズに遺産分割が行われるようにすべきです。
相続直前(3年以内)に孫に贈与で財産を移転した場合
相続人に繰り上げた孫に対して行った相続開始前3年以内の贈与は相続財産に含まれてしまいます。
もともと相続対策のために孫に相続財産の一部を贈与をしているはずなので、すでに贈与をしている場合は養子縁組をしない方がよいでしょう。
養子にする孫の人数制限について
養子の人数には相続税法上では以下の制限があります。
- 被相続人に実子がいる場合⇒1人
- 被相続人に実子がいない場合⇒2人
なお、上記はあくまで相続税法上の制限(=節税対策を行うための制限)であり、民法上では、養子の人数に制限はありません。
節税効果
孫を養子にすると相続税法上2つの節税効果が期待できます。
1つ目は、1次相続時の相続税の減少、2つ目は2次相続時の相続税の減少です。
1次相続時の相続税の減少
法定相続人が増えることで以下の効果があり、相続税の減少に繋がります。
- 相続税の基礎控除額の増加(600万円/人)
- 生命保険金の非課税限度額の増加(500万円/人)
- 死亡退職金の非課税限度額の増加(500万円/人)
- 相続税の総額の計算での税率の低下
養子が法定相続人として認められれば、基礎控除額、非課税枠が増えるため、課税される対象である相続財産の総額も減少します。
さらに相続税の総額はそれぞれの相続人の法定相続分で分割した後の相続財産に税率を掛けてそれを合算して計算します。
この税率は累進課税税率なので、法定相続人が増えることで税率が低下し、相続税の総額は減少します。
2次相続時の相続税の減少
孫を養子にした場合、祖父母から孫に相続財産が直接相続されます。
通常、祖父母⇒親⇒孫の順に相続することが一般的ですが、祖父母⇒孫になることで1世代分の相続を飛ばし、納税義務を免れることになります。
最後に
相続財産が多い場合、孫を養子にいれることで数千万円もの節税対策になることも考えられます。
ただし、やはりネックになるのは、孫の親以外の法定相続人の気持ちでしょう。
例えば、長男の息子を養子縁組で法定相続人とした場合、次男からすれば節税される金額以上に自身の相続財産が減ってしまう可能性があります。
逆に、それ以外の前提条件は健康年齢が年々高くなっている日本においては、達成することがそれほど難しくない条件だと思われます。
もし、孫を養子にするのならば、被相続人の死後、親族間で争わないように事前に慎重な調整を行うことが必要だと考えられます。