
「同族会社の実質上の株主が誰であるか?」ということは、日常の税務上では、そこまで問題にはなりません。
しかし、相続が発生した場合、非常にネガティブなインパクトを与える可能性があります。
そこで、今回は「同族会社の実質上の株主をきちんと把握できていますか?」というテーマを考えていきます。
同族会社の経営者の方には、必ず確認しておいて欲しい内容になります。
同族会社の株主とその名義について
相続時に被相続人(亡くなった人)が所有していた同族会社の株式は、「同族会社等の判定に関する明細書」(法人税申告書別表2)から把握することができます。
ただし、同族会社の場合、必ずしも「同族会社等の判定に関する明細書」の株主構成と実際の株主構成が一致しない場合があります。
その場合、「同族会社等の判定に関する明細書」の記載内容ではなく、実質上の所有者は誰であるかで相続税法上の株主は判定され、最悪の場合、追加で株式を相続財産として申告しなければならなくなります(名義株といいます)。
最近の相続税の税務調査における申告漏れの状況でも約300憶円~400億円(全体の約10%)の有価証券の申告漏れが確認されており、名義株の論点は重要だということが分かります。
株式を移動する際の注意点
では、なぜ「同族会社の判定に関する明細書」の株主構成と実際の株主構成が一致しなくなるかを考えると、経営者が今後の相続などを見据え、株式の移動を密かに行っている場合があるからです。
確かに、同族会社の株式が相続対象になった場合、後継者の相続税の負担が大きくなり、株式の移動を急いだ方が良い場合もあります。
しかし、現経営者が「独断で」株式の移動を行うと贈与や譲渡に当たらなくなり、相続後、後継者が名義株の論点で悩まされることになります。
よって、株式の移動を行う際には、以下の手順に従って、必要な書類を作成し、現経営者と後継者で確認しておくことが大切になります。
贈与の場合
贈与で一番大切なことは相手方も贈与を受諾することです。
贈与は口頭でも成立しますが、相続時に名義株を疑われないように贈与者と受贈者の両方のサインが入った贈与契約書を残しておくべきでしょう。
なお、贈与者(=前経営者)が「独断で」株式の贈与契約書を作成し、残しておいても、受贈者(=後継者)が株式の贈与のことを知らず、「もらっていない」と回答してしまえば、相続時に名義株と判断される可能性があります。
必ず、株式を贈与する旨を後継者に伝えて、贈与契約書に承諾のサインを取っておきましょう(ハンコはそこまで重要ではないのでサインをもらいましょう!)。
ちなみに、後継者の承諾をとっていないと贈与契約書は契約が成立していないので、時効も成立しません。
よって、贈与から10年が経過しても、贈与契約は初めから無いので、株式の所有は前経営者とみなされ、相続税法上は名義株の扱いになります。
譲渡の場合
株式の譲渡が行われる場合、譲渡契約書の作成と所得税の申告(譲渡所得)・納税が必要になります。
贈与と違い、対価の支払いなどが行われており、前経営者単独での株式移動は難しくなると考えられます。
よって、譲渡が行われている場合、名義株が発生する可能性は低いと考えられます。
ただし、経営者が所有している後継者の通帳で譲渡資金を移動をしている可能性も考えられるので、注意してください。
最後に
「同族会社等の判定に関する明細書」(法人税申告書別表2)を見れば、本来は実質上の株主構成が分かるはずなのですが、「同族会社等の判定に関する明細書」は実態を把握しきれていない税理士事務所や貴社の従業員が作成しているため、実態を反映していないケースがあります。
その場合でも、後々、税務署に名義株と判断され、追加の税金の負担をするのは、相続税を負担する後継者になります。
よって、「同族会社等の判定に関する明細書」が実際の株主を表すように現経営者と後継者で事前に確認し、「同族会社等の判定に関する明細書」を実態に合わせるように指示を出すことをお勧めします。