「従業員の福利厚生を厚くしたいが、養老保険に加入するメリットはあるのか」。多くの経営者が抱える疑問です。
養老保険の福利厚生プラン(ハーフタックスプラン)なら、法人は保険料の2分の1を損金にしながら、従業員の死亡退職金の原資を積み立てられます。
一方で「養老保険への加入はおすすめしない」とも言われます。保険料を支払っている間は法人税が減りますが、満期に保険金を受け取った年には増えます。減った分と増えた分が打ち消し合い、税金の先送りにすぎない場合があります。
この記事では、法人が養老保険に加入するメリットとデメリット、保険料の2分の1を損金にするための要件と仕訳を、税理士が初心者向けに解説します。
養老保険とは?満期でも死亡でも保険金が支払われる生命保険
養老保険とは、被保険者(=保険の対象となる人)が保険期間の満了まで生存していれば満期保険金が、保険期間中に死亡すれば死亡保険金が支払われる生命保険です。
掛け捨ての定期保険(=保険期間中に死亡した場合だけ保険金が支払われる保険)と異なり、養老保険では被保険者が満期まで生存した場合にも保険金が支払われます。
養老保険では、満期保険金と死亡保険金が同額に設定されているのが一般的です。被保険者1人あたり1,000万円の契約であれば、死亡した場合も満期を迎えた場合も、支払われる保険金は1,000万円です。
法人から見ると、この2つの保険金には別々の役割があります。死亡保険金は遺族への備えになり、満期保険金は退職金の原資になります。保障と積立てのどちらかを選ぶ必要がなく、法人は1つの契約で両方を用意できます。
次章では、この養老保険の保険料が、なぜ2分の1だけ損金になるのかを解説します。
福利厚生プラン(ハーフタックスプラン)とは?保険料の1/2が損金になる理由
福利厚生プランとは、法人が契約者となり、死亡保険金の受取人を被保険者の遺族、満期保険金の受取人を法人とする養老保険の契約形態をいいます。
福利厚生プランの要件を満たした場合、法人は養老保険の支払保険料の2分の1を資産に計上し、残る2分の1を期間の経過に応じて損金(=法人税の計算上の経費)に算入します(国税庁 法人税基本通達9-3-4「養老保険に係る保険料」の(3))。
2分の1という割合は、養老保険の保険料に2種類の性格が混ざっていることに由来します。
被保険者が亡くなった時に遺族へ支払われる保障の部分は、法人に戻ってきません。法人の財産はその分だけ減るため、この部分は損金になります。
一方、満期に法人へ支払われる積立ての部分は、法人の資金を保険会社に預けているにすぎません。法人の財産が現金から保険に形を変えただけで減っていないため、この部分は損金になりません。
実際の内訳は契約ごとに異なりますが、税務ではこの2つを一律に2分の1ずつとして処理します。支払った保険料の半分が損金になることから、この契約形態は「ハーフタックスプラン」とも呼ばれます。
なお、定期保険など他の法人保険は、損金にできる割合が異なります。詳しくは法人の節税保険とは?仕訳・損金算入ルール・出口戦略をご覧ください。
次章では、この2分の1損金を含めて、法人が養老保険に加入するメリットを整理します。
法人が養老保険に加入する3つのメリット
法人が養老保険の福利厚生プランに加入するメリットは、①死亡退職金の原資を準備できること、②支払保険料の2分の1を損金にできること、③満期保険金を退職金に充てられることの3つです。
① 従業員の死亡退職金の原資を計画的に準備できる
従業員が在職中に亡くなった場合、遺族には養老保険の死亡保険金が直接支払われます。法人はこの保険金を、退職金規程で死亡退職金として定めておけます。
自社の預金から死亡退職金を支払う場合、その時点でまとまった手元資金が減ります。養老保険であれば、毎年の保険料という平準化した負担で計画的に準備できます。
法人が万一の際に遺族へまとまった金額を支払う仕組みを備えていること自体が、従業員の安心につながります。
② 支払保険料の2分の1を損金に算入できる
法人が年間220万円の養老保険の保険料を支払う場合、その2分の1である110万円を損金に算入できます。
法人が同じ220万円を利益として社内に残した場合、その全額が法人税の課税対象です。養老保険であれば、同じ支出でも法人税の負担を抑えられます。
③ 満期保険金を従業員の退職金に充てられる
養老保険の保険期間を従業員の定年に合わせておけば、その従業員が退職する年に、満期保険金が法人へ入金されます。
退職金の支給は、その年にまとまった現金の支出を伴います。満期保険金が入金されていれば、法人は手元資金を取り崩さずに退職金を支払えます。
税務上も、同じ事業年度に保険金による益金(=法人税の計算上の収益)と退職金による損金が計上されるため、法人は両者を相殺できます。
ただし養老保険には、加入前に確認すべきデメリットもあります。次章で整理します。
養老保険のデメリット|「おすすめしない」と言われる3つの理由
養老保険が「おすすめしない」と言われる理由は、①節税ではなく課税の繰延べに終わること、②保険料を長期にわたり払い続ける必要があること、③役員や特定の使用人だけを対象にできないことの3つです。
① 節税ではなく課税の繰延べに終わることがある
養老保険が満期を迎えると、法人には雑収入(益金)が計上されます。この雑収入を退職金の損金と相殺できなければ、税負担の総額は減りません。保険料を支払った事業年度に減らした法人税を、満期の事業年度に納めるためです。
雑収入と退職金を相殺できるのは、満期を迎えた事業年度に退職金を支給した場合に限られます。
退職金の支給が翌事業年度にずれた場合は、相殺できずに税負担が生じます。
② 保険料を長期にわたり払い続ける必要がある
養老保険の保険料は、加入から満期を迎えるまで払い続けます。従業員の定年に合わせれば、20年前後の支払いになります。
法人の資金繰りが悪化して早期に解約した場合、解約返戻金(=解約時に戻ってくる金銭)が支払保険料の総額を下回り、元本割れとなります。
退社する従業員の数が多い法人ほど、元本割れの回数は増えます。
③ 役員や特定の使用人だけを対象にできない
養老保険の福利厚生プランでは、法人が加入させる人を選べません。
役員や部課長その他特定の使用人(これらの者の親族を含む)だけを被保険者としている場合、支払保険料の2分の1に相当する部分は、福利厚生費とせずにその者への給与として扱われるためです(国税庁 法人税基本通達9-3-4「養老保険に係る保険料」)。
福利厚生費は、従業員全体を対象とする支出に限って認められる費用です。特定の人だけが利益を受ける支出は、福利厚生費ではなくその人への給与として扱われます。
また、役員や使用人の全部または大部分が同族関係者(=経営者の親族など)である法人では、全員を被保険者としても、同族関係者分の保険料の2分の1は給与として扱われます(国税庁 所得税基本通達36-31「使用者契約の養老保険に係る経済的利益」の(注)2)。
養老保険に加入する場合、法人はまず受取人の組み合わせを決めます。次章で3つの契約パターンを確認します。
養老保険の契約パターン3つ|受取人で保険料が資産計上・給与・福利厚生費に分かれる
同じ養老保険であっても、死亡保険金と満期保険金の受取人の組み合わせにより、支払保険料は資産計上・給与・福利厚生費のいずれかに振り分けられます(国税庁 法人税基本通達9-3-4)。
| 契約パターン | 死亡保険金の受取人 | 満期保険金の受取人 | 支払保険料の処理 |
|---|---|---|---|
| 全額資産計上型 | 法人 | 法人 | 全額を資産に計上(費用にならない) |
| 全額給与型 | 被保険者の遺族 | 被保険者 | 全額が被保険者への給与 |
| 福利厚生プラン | 被保険者の遺族 | 法人 | 2分の1を資産に計上、2分の1を福利厚生費 |
次章では、福利厚生プランで2分の1を損金にするための要件を確認します。
養老保険の保険料を1/2損金にするための4つの要件
法人が養老保険の保険料の2分の1を損金に算入できるのは、契約者・被保険者・死亡保険金の受取人・満期保険金の受取人の4つが、次の組み合わせをすべて満たす場合に限られます(国税庁 法人税基本通達9-3-4の(3))。
- ① 契約者(=保険料を支払う者)
-
法人
- ② 被保険者(=保険の対象となる者)
-
原則として役員・従業員の全員
- ③ 死亡保険金の受取人
-
被保険者の遺族
- ④ 満期保険金の受取人
-
法人
実務で問題になるのは②の全員加入です。ただし、全員を同じ条件で加入させる必要はありません。
職種・年齢・勤続年数などに応じた合理的な基準による格差であれば、加入資格や保険金額に差を設けても全員加入と認められます(国税庁 所得税基本通達36-31の(注)2)。
次の2点は国税庁の明文がない論点であり、実務上の取扱いです。
- 健康上の理由で加入できない従業員がいる場合も、法人が全員を加入させようとしていた事実を確認できれば、認められるのが一般的です。
- 法人は加入基準を、福利厚生規程(=従業員向けの制度の内容を定めた社内規程)や退職金規程に定めます。規程がなければ、法人は加入範囲を決めた根拠を税務署に説明できません。
次章では、加入から満期までの仕訳を確認します。
養老保険の仕訳|加入から満期までを従業員4名の事例で解説
法人は、養老保険の保険料を支払った時は2分の1ずつを福利厚生費と保険料積立金に分け、保険金を受け取った時は保険料積立金を取り崩します。
事例の前提は次のとおりです。
- 保険種類:養老保険/契約者:法人
- 被保険者:従業員4名(簡便的に全員45歳)
- 死亡保険金の受取人:従業員の遺族/満期保険金の受取人:法人
- 年間の支払保険料:220万円(被保険者1人あたり55万円)
- 死亡保険金・満期保険金:被保険者1人あたり1,000万円
- 保険期間・保険料払込期間:65歳まで(20年)
毎年の保険料を支払った時
法人が福利厚生費として損金に算入できるのは、支払保険料220万円の2分の1である110万円です。
被保険者1人あたりでは、年27万5,000円が保険料積立金に積み上がります。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 福利厚生費 | 110万円 | 普通預金 | 220万円 |
| 保険料積立金 | 110万円 |
法人は、保険料積立金として積み立てた金額を、保険金や解約返戻金を受け取った時点で取り崩します。
加入16年目に従業員1名が死亡した時
死亡保険金は遺族に直接支払われるため、法人には保険金が入金されません。
法人は、死亡した従業員分として積み立ててきた保険料積立金440万円(27万5,000円×16年)を取り崩す仕訳のみを行います。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 雑損失 | 440万円 | 保険料積立金 | 440万円 |
満期を迎えて1名分を法人が受け取った時
満期保険金1,000万円が法人に入金されます。
法人はその従業員分の保険料積立金550万円(27万5,000円×20年)を取り崩し、差額の450万円を雑収入(益金)に計上します。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 普通預金 | 1,000万円 | 保険料積立金 | 550万円 |
| 雑収入 | 450万円 |
法人はこの雑収入450万円を、同じ事業年度に支給する退職金の損金と相殺します。
従業員の退職で途中解約した時
従業員が満期前に退職した時は、法人はその従業員分の契約を解約し、解約返戻金と保険料積立金の差額を雑収入または雑損失に計上します。
加入3年目に1名が退職し、解約返戻金が66万円であった場合、保険料積立金82万5,000円(27万5,000円×3年)との差額が雑損失になります。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 普通預金 | 66万円 | 保険料積立金 | 82万5,000円 |
| 雑損失 | 16万5,000円 |
加入18年目に別の1名が退職し、解約返戻金が870万円であった場合、保険料積立金495万円(27万5,000円×18年)との差額が雑収入になります。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 普通預金 | 870万円 | 保険料積立金 | 495万円 |
| 雑収入 | 375万円 |
次章では、保険金を受け取った遺族側の税金を確認します。
遺族が受け取る養老保険の死亡保険金にかかる相続税と非課税枠
法人が保険料を負担した養老保険の死亡保険金を従業員の遺族が受け取った時は、その保険金は相続税の課税対象になります。
法人が負担した保険料は、従業員本人が負担していたものとして扱われるためです(国税庁 相続税法基本通達3-17「雇用主が保険料を負担している場合」)。
ただし、次の非課税枠があります。養老保険の死亡保険金はどちらの場合も保険会社から遺族に直接支払われ、退職金規程の定めによって扱いが分かれます。
- ① 退職金規程に定めがない場合
-
生命保険金として、500万円×法定相続人の数までが非課税(国税庁 タックスアンサー No.4114「相続税の課税対象になる死亡保険金」)
- ② 退職金規程で死亡退職金として定めている場合
-
退職手当金等として、500万円×法定相続人の数までが非課税(国税庁 タックスアンサー No.4117「相続税の課税対象になる死亡退職金」)
遺族が受け取った金額は、非課税枠の範囲内であれば相続税がかかりません。
①と②は別々の非課税枠ですが、遺族が受け取る養老保険の死亡保険金は①か②のどちらか一方で扱われます。遺族が養老保険の保険金とは別に法人から死亡退職金を受け取った場合は、それぞれの枠を使えます。
まとめ|養老保険の福利厚生プランは要件と出口設計が決め手
養老保険の福利厚生プランは、従業員への保障と退職金原資を用意しながら支払保険料の2分の1を損金にできますが、出口を設計できなければ課税の繰延べに終わります。
- 払える保険料にする:制度の内容よりも、自社の資金繰りで払い続けられる金額かどうかで導入の可否を判断します。
- 契約形態を守る:死亡保険金の受取人は被保険者の遺族、満期保険金の受取人は法人とします。
- 全員加入を守る:役員や特定の使用人だけを対象にせず、原則として全員を被保険者にします。
- 規程を整える:法人は福利厚生規程に加入基準を、退職金規程に死亡退職金の支給内容を定めます。
- 出口を決めておく:満期保険金を受け取る事業年度は利益が増えるため、同じ事業年度に退職金を支給して相殺できるよう、支給する年をあらかじめ決めます。
養老保険の福利厚生プランに関するよくある質問
養老保険の福利厚生プランについて、法人からよく寄せられる質問と回答をまとめました。
- 法人の養老保険が「おすすめしない」と言われるのはなぜですか?
-
節税ではなく課税の繰延べに終わる場合があるためです。
支払時に保険料の2分の1を損金にできても、満期時には雑収入が計上されます。
満期に計上された雑収入を退職金の損金と相殺できなければ、税負担の総額は減りません。
- 養老保険の福利厚生プランは、従業員全員が加入しないと保険料の2分の1を福利厚生費として損金にできませんか?
-
原則として全員が加入していなければ、保険料の2分の1を福利厚生費にはできません。
役員や部課長その他特定の使用人だけを被保険者とした場合、保険料の残額はその者への給与になると定められているためです(国税庁 法人税基本通達9-3-4)。
ただし、全員を同じ条件にする必要はなく、職種や勤続年数に応じた合理的な基準で対象や保険金額に差をつけることは認められます。
- 役員だけを被保険者にした養老保険の保険料は、福利厚生費として損金にできますか?
-
福利厚生費にはなりません。支払保険料が役員本人への給与として扱われるためです(国税庁 法人税基本通達9-3-4のただし書き)。
その給与が定期同額給与などに該当すれば損金になりますが、該当しなければ損金に算入できません(国税庁 タックスアンサー No.5211「役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)」)。
- 法人が養老保険の満期保険金を受け取った時、法人税は課されますか?
-
課されます。法人が受け取った満期保険金から、資産に計上してきた保険料積立金を差し引いた金額が雑収入(益金)になるためです。
法人は同じ事業年度に退職金を支給して相殺できるよう、加入時に支給年度まで決めておきます。
- 従業員の遺族が受け取った養老保険の福利厚生プランの死亡保険金に、相続税は課されますか?
-
相続税の課税対象になりますが、500万円×法定相続人の数までは非課税です。法人が負担した養老保険の保険料は、従業員本人が負担していたものとして扱われるためです。退職金規程で養老保険の福利厚生プランの死亡保険金を死亡退職金として支給すると定めている場合は、生命保険金ではなく死亡退職金の非課税枠が適用されます。非課税枠の金額は500万円×法定相続人の数で変わりません。
参考文献


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