
- もし経営者に不幸があった場合、後継者が事業を承継するまでに時間がかかる。
- 事業承継までの時間を稼ぐために運転資金などのお金が必要になる。
- このお金を準備するために生命保険を活用すると非常に便利。
- ただし、保障額・保障期間は状況の変化とともに変更する必要があるため、適時確認する必要がある。
事業保障の重要性
中小企業では、経営者自身が、①経営戦略の立案し、②営業活動をし、③銀行と融資相談をし、④会社の人員確保をしている状況が多いのではないでしょうか?
仮に、上記の①~④のすべてを経営者自身が行っていなくても、もともと中小企業の経営者には重責がついて回ります。
経営が安定していても、経営者に不幸があった場合、舵取り役を失い、①運転資金の確保、②従業員の給料、③納税資金の準備、④借入金の返済等で様々な問題が生じます。
その場合、後継者が会社を立て直すことになりますが、会社は大きなダメージを負っているため、立て直しにはある程度の時間がかかります。
結局、経営者に不幸があって、後継者が立て直すという意思決定をしても、実際に立て直すまでの時間が必要になるために、お金を準備しておくことが必要になります。
つまり、後継者の事業立て直し期間中に資金繰りの心配しなくても良い状況を現経営者が「事前に」作り出しておく必要があります。
生命保険で事業保障対策をしよう
有事の際、事業存続のためにお金を確保するには、①会社にお金を貯蓄して残しておく方法と②生命保険の保険金を利用する方法があります。
極端な話、「現時点」で会社に後継者が事業存続を行う時間を確保できるだけのお金があれば、経営者に不幸があったときも問題ないです。
ただし、「現時点」で多額のお金をキープしていること自体、経営資源をうまく活用できていない可能性があります(経営にお金を使えばもっと稼げるはず…)。
普通に考えると、利益を上げるために、お金は商品や不動産などの資産に形を変えてしまっているので、経営者に不幸が生じた場合の備えは生命保険で準備しておく方が無難でしょう。
また、生命保険契約を締結できれば、①毎年の支払保険料を損金(≒経費)にでき、②会社の資金状況に関わらず、いつ有事が起きても必要額を保険会社から受け取れるため非常に便利です。
必要保障金額の算定について
経営者に不幸があった際に必要になる保障額の算定は、①借入金額、②後継者の事業立て直しのために必要な期間、③残された経営者の遺族に必要な資金(死亡退職金として支払うので上限はありますが…)で変わってきます。
私に相談が来た場合、以下の計算式を提示して、まずは、経営者(現社長)に考えてもらうようにしています。
必要保障額=借入金額+月額固定費×6か月分+残された遺族の必要資金(死亡退職金として支給)
上記の算定式で出した保障額をベースに考えると大枠が見えてきます。
簡単な事例を使い、具体的なイメージをつかんでみましょう。
- 以下の条件の場合、生命保険で設定しておく必要保障額はいくらになりますか?
- 保険種類 定期保険
- 契約者・保険金受取人 法人
- 被保険者 経営者
- 被保険者の現在の年齢 45歳
- 保険料払込期間(現経営者の勇退見込み年齢) 65歳まで
- 法人借入金額 2,000万円
- 月額固定費 200万円
- 遺族の必要資金 2,800万円
- 【生命保険の必要保障額の算定】
経営者の死亡時に会社で必要になる生命保険の保障額の枠は以下の計算式で算出されます。
必要保障額=2,000万円+200万円×6ヵ月+2,800万円=6,000万円
【考察】
この事例では、6,000万円が生命保険で担保しておく保障額の基準になります。
しかし、例えば、会社の業種が不動産賃貸業で、安定収入が月100万円あれば、月額固定費を100万円減らせるため、6,000万円-100万円×6カ月=5,400万円を必要保障額に設定するなど、会社の実態に合わせて必要保障額は変えてやる必要があります。
日頃から税務顧問として税理士を雇っていれば、会社の実態を把握しているので、生命保険の必要保障額を相談してみると良いでしょう。
注意点
事業保障対策として生命保険契約を締結する際の注意点は以下の3つです。
- 必要保障額と支払保険料のバランスを考えよう
- 保険期間が適切か考えよう
- 必要保障額の変化を考えよう
会社の業績と支払保険料のバランスを考えよう
例えば、上記の事例の6,000万円の定期保険に加入する場合、支払保険料は年35万円程度です。
定期保険の場合、解約返戻金がないため、支払保険料の全額が損金(≒経費)になる訳ですが、会社の決算が赤字の場合は35万円でも経費が増えるのは辛いでしょう。
それでも、経営者に不幸があったときの経営リスクから考えると、必要保障額程度は生命保険でカバーしておきたいところです。
仮に、会社の決算が軽微の赤字の場合、決算書の損益計算書の下から見ていき、削れる費用がないかを確認してください。
損益計算書の構造上、下に行けば行くほど、会社の経営と関係が薄い費用になっています。
もし、削れる費用があり、生命保険の支払保険料が追加されても、黒字になるようであれば、生命保険への加入を検討するべきでしょう。
削れる費用がない場合、必要保障額の一部だけでもカバーするために、生命保険に入る可能性もありますが、現状の事業継続リスクがある可能性も考慮して、慎重に判断する必要があると考えられます。
保険期間が適切か考えよう
上記の事例では、現経営者の勇退が65歳になるように設定しましたが、実務では、現経営者の最初に決めた勇退の時期は状況により変化します。
従って、生命保険の内容も変化に応じて、変更していかなければならないでしょう。
日々見直しをする必要はありませんが、明らかに現経営者の勇退時期が変化している場合には、それに伴い、生命保険契約も変更しましょう。
必要保障額の変化を考えよう
生命保険の必要保障額の基準については、借入金額+月額固定費×6か月分+残された遺族の必要資金で算定できますが、生命保険契約を最初に締結した時より、時間の経過により必要保障額は変化します。
例えば、生命保険契約を締結した時より、事業が拡大していれば月々の固定費の増加により、必要保障額は増加しますし、残された遺族の必要資金は時間の経過とともに減少し、必要保障額はそれに伴い減額する傾向にあります。
従って、必要保障額も保険期間と同様に、状況の変化の都度見直す必要があります。