事業保障資金とは
中小規模の法人では、経営者自身が、①経営戦略の立案し、②営業活動をし、③銀行と融資相談をし、④会社の人員確保をするなど、法人の業務のすべてに関与しています。
そんな中、もし経営者に不慮の事故が起こってしまったら、法人は舵取り役を失い、①運転資金の確保、②従業員の給料の支払い、③納税資金の準備、④借入金の返済などの様々な問題が生じてしまいます。
その場合には、後継者が生じた問題を解決して法人を立て直すことになりますが、すでに法人は大きなダメージを負っており、立て直しに時間がかかることになります。
また、後継者が事業の立て直しをしている間は、業況が不安定になるので、法人の事業資金が枯渇する可能性があります。
よって、現経営者が不慮の事故に備えて、「事前に」事業資金を貯えておく必要があり、この資金を事業保障資金といいます。
事業保障資金の必要額について
事業保障資金の必要額の算定は、①法人の借入金額、②後継者が事業立て直しのために必要となる期間、③残された経営者の遺族に必要な資金によって変わってきます。
どれだけ事業保障資金が必要になるかの絶対的な回答はありませんが、目安としての事業保障資金の必要額は以下の計算式の通りになります。
事業保障資金の必要額=法人の借入金額+月額固定費×6か月分+残された経営者の遺族に必要な資金(経営者の死亡退職金)
事例を使い、具体的なイメージをつかんでみましょう。
- 以下の条件の場合、事業保障資金の必要額はいくらになりますか?
- 法人の銀行借入額 2,000万円
- 人件費などの月額固定費 200万円
- 死亡退職金必要額 2,800万円
- 【事業保障資金の必要額】
2,000万円+200万円×6ヵ月+2,800万円=6,000万円
生命保険で事業保障資金を準備しよう
法人が事業保障資金を確保するための方法としては、①貯蓄と②生命保険の2つがあります。
現時点で法人に十分な貯蓄があれば、その貯蓄を活用し、後継者が事業を立て直す時間を確保できるので事業保障資金は問題になりません。
しかし、現時点で法人に十分な貯蓄がない場合は、生命保険を活用し事業保障資金を準備することを考えてみる必要があります。
法人が生命保険に加入していれば、手元に多額の資金が無くても、経営者に対する死亡保険金が法人に入金された時点で事業保障資金は確保できます。
さらに、生命保険契約の毎年の掛金の一部は損金(≒経費)に算入できるので、法人の節税対策としても有効です。
生命保険を活用する際の注意点
事業保障資金を貯えるために生命保険を活用する際の注意点は以下の3つになります。
- 必要な事業保障資金と生命保険の掛金とのバランス
- 生命保険の契約期間は適切か
- 事業保障資金の必要額の変化に応じて保険金額も見直す必要あり
必要な事業保障資金と生命保険の掛金とのバランス
例えば、必要な事業保障資金が6,000万円でその資金を貯えるために、定期生命保険に加入する場合、生命保険の掛金は年間35万円になります(2022年弊社見積)。
定期保険の場合、支払保険料の一部が損金(≒経費)になりますが、法人は35万円を毎年支払うことになります。
まずは、必要な事業保障資金を計算し、その上で現実的な毎年の生命保険の掛金として支払える金額を考えると良いでしょう。
事業保障資金はあくまで「将来の」事業継続のための保険であり、「現在の」事業継続を危険に晒すほどの生命保険に加入する必要はありません。
生命保険の契約期間は適切か
事業保障資金が必要になるのは、法人の経営者が引退するまでとなります。
例えば、経営者が65歳に引退する予定で、事業保障資金を貯えるために生命保険に加入していましたが、引退予定の時期を早めたとします。
その場合、生命保険の契約期間も早く終わるように変更する必要があります。
日々見直しをする必要はありませんが、明らかに現経営者の引退時期が変化した場合には、それに伴い、生命保険の契約期間の変更をするようにしましょう。
事業保障資金の必要額の変化に応じて保険金額も見直す必要あり
事業保障資金の必要額については、借入金額+月額固定費×6か月分+残された遺族の必要資金で算定できますが、時間の経過により、事業保障資金の必要額は変化します。
例えば、事業が拡大傾向にあれば月々の固定費が増加し、事業保障資金の必要額は増加しますし、残された遺族の必要資金が高齢化により少なくなれば、事業保障資金の必要額はそれに伴い減額します。
事業保障資金の必要額を見直した場合、当然、加入している生命保険の保険金額も見直す必要が出てきます。