不動産会社が土地や建物の売買を仲介して受け取る仲介手数料は、いつ・どの事業年度の売上に計上すればよいのか—。
会社が手数料を受け取るタイミングには、売買契約が成立した日・物件を引き渡した日・入金された日があります。
どの時点で会社の売上に計上するかは、経理担当者だけでなく、納税のタイミングを左右する経営者にとっても重要な判断です。
不動産会社が仲介手数料の計上時期を間違えると、決算期をまたぐ取引では、本来は当期に計上すべき売上を翌期に先送りしたとみなされます。
これは売上の繰り延べ(期ずれ)にあたり、税務調査で否認されるおそれがあります。
この記事では、仲介手数料の収益計上時期の原則と例外、前受金の扱い、仕訳例、そしてどちらの基準が節税になるかまでを取り上げます。
仲介手数料の売上計上時期は「契約の効力発生日」が原則
不動産会社が受け取る仲介手数料は、原則として売買契約の効力が発生した日(=売主と買主が売買契約を結んだ日)に、不動産会社の売上として計上します。
不動産会社が行う仲介(媒介)は、「役務(サービス)の提供」にあたります。
法人税では、会社がその役務を提供し終えた時点で売上(収益)を認識するのが原則だからです。
まず、関係する言葉の意味を整理します。
- 仲介手数料(媒介報酬)
-
不動産会社が売主と買主の間を取り持ち、売買を成立させた対価として受け取る報酬のこと。
- 収益計上時期
-
その売上を、どの事業年度(決算期)の収益(≒利益)に含めるかという「タイミング」のこと。
仲介手数料をいつ売上に計上するかは、まず法人税法第22条の2(収益の額)が「収益は役務の提供日またはそれに近い日に計上する」という基本ルールを定めています。
このルールを不動産の仲介にあてはめ、具体的な計上時期を定めているのが法人税基本通達2-1-21の9(不動産の仲介あっせん報酬の帰属の時期)です。
原則(契約日)と容認(引渡日)の2つの基準を比較
前章のとおり、仲介手数料を売上に計上する原則は「契約の効力発生日」です。
ただし、税務では例外(容認規定)として、売買物件が売主から買主へ引き渡された日に、不動産会社が仲介手数料を売上計上することも認められています。
そのため、仲介手数料の売上計上時期には、原則の契約効力発生日基準と容認の引渡日基準の2つがあり、会社は継続適用を条件にどちらかを選べます。
| 基準 | 売上を計上する日 | 根拠 | 留意点 |
|---|---|---|---|
| 原則:契約効力発生日基準 | 売買契約が成立した日 | 法22条の2第1項/基通2-1-21の9本文 | 媒介の役務提供が完了した日と考える |
| 容認:引渡日基準(取引完了日基準) | 物件が引き渡された日 | 基通2-1-21の9ただし書/法22条の2第2項 | 「役務提供日に近接する日」として認容。継続適用が条件 |
どちらを選んでも継続適用が大前提
一度選んだ基準は毎期続けて使う必要があります。期ごとに有利な方へ変えることはできません。
引渡日の前に仲介手数料を受け取ったら「入金日」に売上計上する
不動産会社が引渡日基準を選んでいる場合でも、会社が引渡し前に受け取った仲介手数料は、その入金日(収受日)に売上計上しなければなりません。
不動産会社が売買契約時に、仲介手数料の半金(中間金・着手金)を受け取る商慣行があります。
こうして先に受け取った分だけは、会社は引渡しを待たず、受け取った日の売上に計上します。
会計では、サービスを提供する前に受け取ったお金は、いったん前受金(負債)として扱うのが基本です。
ただし、仲介手数料は、引渡し前に受け取った分を前受金にとどめず、受け取った日にそのまま売上へ計上します(基通2-1-21の9)。
● 契約時に半金85.8万円(税込)を仲介手数料として受け取った場合の仕訳
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 普通預金 | 85.8万円 | 売上高 | 78万円 |
| 仮受消費税 | 7.8万円 |
うっかり見落としやすいポイント
- 契約時に受け取った半金は、引渡日ではなく受け取った日の売上
- 残金(引渡し時に受け取る分)は、引渡日に売上計上する
仲介手数料の仕訳例(具体的な数字で解説)
次の設例で、原則(契約日基準)と容認(引渡日基準)の仕訳を見比べてみましょう。
【設例】次の条件で売買取引をしました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 売買代金 | 5,000万円 |
| 仲介手数料(税込) | 156万円+消費税15.6万円=171.6万円 |
| 契約時(3/30)に一部代金受領 | 半金 85.8万円 |
| 引渡し・決済時(4/10)に残代金受領 | 残金 85.8万円 |
| 決算 | 3月決算法人 |
【原則】契約日基準の仕訳
● 3月30日(契約成立日)に全額を収益計上し、半金を受領
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 普通預金 | 85.8万円 | 売上高 | 156万円 |
| 売掛金 | 85.8万円 | 仮受消費税 | 15.6万円 |
● 4月10日(引渡し・決済日)に残金を受領
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 普通預金 | 85.8万円 | 売掛金 | 85.8万円 |
【容認】引渡日基準の仕訳(受け取った日ごとに計上)
● 3月30日(契約時)に半金を受領し、同日に収益計上
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 普通預金 | 85.8万円 | 売上高 | 78万円 |
| 仮受消費税 | 7.8万円 |
● 4月10日(引渡し・決済日)に残金を受領し、同日に収益計上
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 普通預金 | 85.8万円 | 売上高 | 78万円 |
| 仮受消費税 | 7.8万円 |
容認(引渡日基準)でも、引渡し前に受け取った半金は受け取った日(3/30)に売上計上します。
残金は引渡日=決済日(4/10)に受け取って同日に売上計上します。
契約日基準と引渡日基準はどちらが有利か(期ずれと節税)
不動産会社が決算期の直前に売買を仲介し、翌期に物件の引渡しが行われる取引があります。
この場合、引渡日基準のほうが仲介手数料の売上を翌期に回せて課税を繰り延べられ有利になることがあります。
たとえば、3月決算の会社が仲介した取引で、3月に売買契約・4月に物件の引渡しが行われたとします。
契約日基準だと、仲介手数料は当期の売上ですが、引渡日基準なら翌期の売上になり、仲介手数料にかかる売上の納税を1年遅らせられます。
売上の計上を翌期に回せれば、不動産会社は法人税の納付も翌期に先送りでき、その分だけ手元資金(キャッシュ)に余裕が生まれます。
どちらの基準を採用するかは、節税と資金繰りを見据えた経営判断でもあります。
ただし、一度決めた基準は継続して使う必要があるため、目先の1期だけで決めないことが大切です。
仲介手数料にかかる消費税とインボイスの注意点
不動産会社が受け取る仲介手数料は消費税の課税売上にあたり、会社は取引先に適格請求書(インボイス)を交付する必要があります。
土地の売買そのものは非課税ですが、その土地の売買を仲介した手数料は消費税の課税取引です。
両者を混同しないよう注意しましょう。
2023年10月開始のインボイス制度により、登録事業者である不動産会社は適格請求書を発行します。
手数料を支払った相手は、その適格請求書を保存して仕入税額控除を受けます。
消費税の課税・非課税の区分は不動産業の消費税と仕訳でくわしく解説しています。
宅地建物取引業法上の報酬額の上限(実務慣行)
宅建業法は、不動産会社が受け取れる仲介手数料の上限を、取引額に応じて定めています。
売買の仲介手数料の上限(速算式)は、取引額の区分ごとに次のとおりです。
| 売買代金(取引額) | 仲介手数料の上限(速算式) |
|---|---|
| 200万円以下 | 取引額 × 5% + 消費税 |
| 200万円超〜400万円以下 | 取引額 × 4% + 2万円 + 消費税 |
| 400万円超 | 取引額 × 3% + 6万円 + 消費税 |
実務では、この上限額をそのまま請求するのが慣行です。上限を超える請求は宅建業法違反になります。
なお、1社が売主と買主の双方を仲介する「両手仲介」では、売主・買主のそれぞれから上限額まで受け取れるため、受け取る仲介手数料は最大で片手仲介の2倍になります。
よくある間違いと税務調査で指摘される点
仲介手数料の計上ミスは、決算期をまたぐ取引や、手数料を分けて受け取る取引で起こりがちです。
とくに次の3つは、税務調査で指摘されやすいポイントです。
税務調査で指摘されやすい2つの誤り
- 期ずれ:契約日基準と引渡日基準を混同し、契約日基準によれば当期に計上すべき手数料を引渡日基準を適用し、翌期の売上にずらしてしまう
- 前受金の放置:契約時に受け取った半金を、受け取った日に売上計上していない
まとめ|仲介手数料の計上時期の要点
この記事のポイント
- 原則は契約の効力発生日(売買契約成立日)に売上計上
- 継続適用を条件に引渡日(取引完了日)基準も選べる
- どちらの基準を選ぶかは、節税と資金繰りに直結する経営判断
- 引渡し前に受け取った手数料は収受した日の売上
- 仲介手数料は消費税の課税売上(インボイス対応が必要)
よくある質問(FAQ)
- 仲介手数料に対する売上は契約日と引渡日のどちらで計上すべきですか?
-
不動産会社は、原則として売買契約の効力が発生した日(契約成立日)に仲介手数料を売上計上します。ただし、継続して適用することを条件に、物件の引渡日(取引完了日)に売上計上することも認められています。
- 仲介手数料の売上を引渡日に計上している不動産会社で引渡しの前に仲介手数料の一部を受け取った場合はどうなりますか?
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その受け取った金額は、引渡日を待たず、実際に収受した日の売上に計上する必要があります。
- 仲介手数料に消費税はかかりますか?
-
かかります。土地の売買自体は非課税でも、仲介手数料は消費税の課税売上です。インボイス(適格請求書)の交付対象になります。
- 仲介手数料の計上基準は、あとから変更できますか?
-
原則として、いったん選んだ基準は継続して適用する必要があります。節税のために取引や年度ごとに契約日基準と引渡日基準を変えることは認められません。合理的な理由があり、変更後も継続して同じ基準を使う場合に限って変更できます。


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