3年縛りのルールについて
相続開始前3年以内に新たに貸付事業を開始すると、貸付事業用宅地等として小規模宅地等の特例(50%減額)を適用することはできません。
これは、タワーマンションを購入したり、未利用の敷地にアパートを建設したりして、貸付事業を開始し、小規模宅地等の特例(50%減額)を無理やり適用する節税対策をさせないためです。
つまり、以下のような事例では貸付事業用宅地等として小規模宅地等の特例は適用できなくなります。
【事例1】
A氏は×1年5月にタワーマンションの一室を購入しました。
このマンションにはすでに賃借人Bが居住しており、A氏と売主Cの間の不動産売買契約書で賃借人を引き継ぐ契約になっています。
A氏はこのマンション以外では貸付事業を行っていません。
A氏は×3年1月に亡くなり、相続が開始されました。
貸付事業が開始してから3年以内の相続なので、A氏所有のタワーマンションの敷地は貸付事業用宅地等に該当しません。
よって、小規模宅地等の特例(50%減額)は適用できないことになります。
なお、すでに賃借人Bがいる収益物件を売主Cから購入しても、売主Cの貸付期間をA氏が引き継ぐことはなく、純粋にA氏が貸付を行っていた期間(=A氏が事業を開始した期間)で3年の判定をすることになります。
【事例2】
A氏は大手建設会社X社からの提案で、×5年12月に所有の土地にアパートを建てました。
アパートはX社が一括借上方式でサブリースしています。
A氏はこのマンション以外では貸付事業を行っていません。
A氏は×7年2月に亡くなり、相続が開始されました。
貸付事業が開始してから3年以内の相続なので、A氏所有のアパートの敷地は貸付事業用宅地等に該当しません。
よって、小規模宅地等の特例(50%減額)は適用できないことになります。
この事例2)は相続税対策として、一時期多くの建設会社が提案していたスキームですが、提案するのが難しくなりました。
3年縛りのルールの例外について
亡くなった人(被相続人)や生計一親族が相続開始の3年前より昔から事業的規模(5棟10室)で貸付事業を営んでいた場合は、新しく取得した貸付事業用宅地等についても小規模宅地等の対象になります。
昔から事業的規模で貸付事業を営んでいるので、すでに貸付事業用宅地等として小規模宅地等の特例(50%減額)を適用できる宅地等があり、節税目的で新しく貸付事業用宅地等を購入するメリットはないと考えられるからです。
【事例3】
父親は×1年1月に20室あるマンションAを一棟買いし、貸付事業を開始しました。
×7年12月に新しく10室あるマンションBを購入しています。
×8年4月に父親が亡くなり、長男が相続し、事業を引き継ぎました。
父親はマンションBを購入する3年以上も前から事業的規模(5棟10室)でマンション経営を行っています。
よって、マンションBの敷地についても節税目的で新しく購入したとは考えられないので、マンションAの敷地だけでなく、マンションBの敷地も貸付事業用宅地等に該当することになります。
ただし、貸付事業用宅地等として小規模宅地等の特例(50%減額)を適用できる限度面積は200㎡までです。
事業的規模に該当するマンションの場合、通常敷地も大きくなるので、小規模宅地等の特例を適用できる面積は限られてくることになります。
途中で事業的規模の基準を下回った場合
従前に事業的規模(5棟10室)以上の貸付事業を行っていれば、新しい貸付事業用宅地等の取得についても3年を待たずに小規模宅地等の特例の対象に含まれます。
しかし、途中で事業的規模の基準を下回った時には、どうなるのでしょうか?
事例で確認してみましょう。
【事例4】
父親は×1年1月にマンションA(20室)を購入し、貸付事業を始めました。
×5年12月にマンションAを売却し、マンションB(8室)を購入しました。
×6年11月に父親が死亡し、息子が相続をし、マンションBの経営を継続しています。
マンションBについては、貸付事業用宅地等には該当せず、小規模宅地等の特例(50%減額)を適用できなくなります。
マンションAを売却してしまった時点で、事業的規模の貸付が断絶されたことになり、マンションBだけでは事業的規模に到達せず、かつ貸付期間も3年より短いのでマンションBの敷地は特定事業用宅地等には該当しなくなります。
【事例5】
父親は×1年1月にマンションA(20室)を購入し、貸付事業を始めました。
×3年9月にアパートB(4室)を購入しました。
×5年8月に新たにアパートC(5室)を購入しました。
×6年11月にマンションAを売却しました。
×7年12月に父親が死亡し、息子が相続をし、アパートB、Cの経営を継続しています。
マンションAを売却してしまった時点で、残りの部屋数が9室となり、事業的規模の貸付が断絶されたことになります。
よって、父親が亡くなるまでに取得から3年間を経過していないアパートCについては3年縛りの基準から貸付事業用宅地等に該当しなくなります。
アパートBについてですが、父親が亡くなるまでに取得から3年超が経過しているので、3年縛りの基準は適用されず、貸付事業用宅地等に該当することになります。
よって、アパートBについてのみ貸付事業用宅地等として小規模宅地等の特例(50%減額)が適用できることになります。
なお、3年縛りのルールに事業的規模(5棟10室)が関係しているのであり、貸付事業用宅地等に該当するかどうか自体には事業的規模は関係しません(=小規模でも貸付事業用宅地等には該当します)。
2次相続が起きた場合の3年縛りのルールについて
2次相続とは、1次相続で相続人となった者が亡くなった後に起こる、2回目の相続のことです。
例えば、父親が亡くなり、相続人になった母親が死亡した場合です。
ここで、2次相続が起きた時に、1次相続、2次相続の2回とも、3年縛りのルールが適用され、貸付事業用宅地等が制限されてしまうのかが問題になります。
事例で確認してみましょう。
【事例6】
父親は×1年1月に新たにアパートA(12室)を購入し、貸付事業を開始しました。
父親が×1年8月に死亡し、母親がアパートAの建物・敷地を相続し、貸付事業を継続しています。
母親が×2年7月に死亡し、息子がアパートAの建物・敷地を相続し、貸付事業を継続しています。
1次相続、2次相続でアパートAの敷地は貸付事業用宅地等に該当するのでしょうか?
まず、父親の相続(1次相続)に関しては、3年縛りのルールが適用されることになります。
つまり、父親が×1年1月~×1年8月までの8か月間しか、アパートAを保有していないことになり、死期を悟って節税対策のためにアパートAを購入した可能性があるので、相続税法上は貸付事業用宅地等から除外し、小規模宅地等の特例(50%減額)の対象に含めない扱いをします。
次に、母親の相続(2次相続)に関してですが、保有期間は×1年8月~×2年7月までで1年弱と非常に短期ですが、3年縛りのルールは適用されないことになります。
母親は父親の相続という予期しない理由でアパートAを取得しており、節税目的ではないため、保護されるべきで、母親の相続では、アパートAは、貸付事業用宅地等に該当し、小規模宅地等の特例(50%減額)の対象に含めます。
なお、アパートAの取得から母親の相続が開始されるまでの期間は×1年1月~×2年7月までの1年7カ月と3年より短いですが、これについても母親の相続には影響を及ぼしません。
2次相続による事業的規模の通算
2次相続とは、1次相続で相続人となった者が亡くなった後に起こる、2回目の相続のことでした。
では、1次相続の相続人(一般的には配偶者)が新たに収益物件を購入した場合の取り扱いはどのようになるのでしょうか?
事例で確認してみましょう。
【事例7】
父親は×1年1月に新たにアパートA(12室)を購入し、貸付事業を開始しました。
父親が×4年12月に死亡し、母親がアパートAの建物・敷地を相続し、貸付事業を継続しています。
母親は×5年10月に新たにアパートB(6室)を購入しました。
母親が×6年11月に死亡し、息子がアパートA、Bの建物・敷地を相続し、貸付事業を継続しています。
2次相続でアパートA、Bの敷地は貸付事業用宅地等に該当するのでしょうか?
アパートAの敷地については、【事例6】で解説した通り、相続による取得は3年縛りのルールが適用されないので、貸付事業用宅地等に該当し、小規模宅地等の特例の対象になります。
アパートBについては、母親が新たに購入してから3年を経過していません。
しかし、母親は父親の事業的規模の貸付業を相続とともに引き継いでいるとみなすことができるため、事業的規模で貸付事業を×1年1月~×6年11月まで営んでいたと考えることができます。
よって、アパートBの購入からは3年経過していませんが、母親は3年前より昔から事業的規模(5棟10室)で貸付事業を営んでいたことになり、貸付事業用宅地等として小規模宅地等の特例の適用対象となります(【事例3】:3年縛りのルールの例外参照)。