特定事業用宅地等の3年縛りのルール(小規模宅地等の特例)

特定事業用宅地等の3年縛りのルール

相続税法では、相続時に相続人の敷地の評価額が減額される小規模宅地等の特例というものがあります

特定事業用宅地等とは小規模宅地等の特例が適用できる敷地の種類の一つです。

亡くなった人(被相続人)が個人事業を営んでいた場合、事業用の敷地は特定事業用宅地等に分類されます。

ただし、特定事業用宅地等には3年縛りのルールが適用されます

つまり、亡くなった人(被相続人)が相続開始前3年以内に新規で事業を開始した場合、その事業の用に供した敷地(土地や借地権)は特定事業用宅地等に該当しないことになり、結果的に小規模宅地等の特例(80%減額)を適用することができません

相続直前で今まで営んでこなかった事業を始めて、相続税の節税対策を行うことを防止するためです。

具体的な事例を以下で確認してみましょう。

【事例1】
医師より父親の余命は1年だと宣告されました。
父親名義の未利用の土地があるため、息子は新たに事業を開始しました。
父親と息子は同居しているので生計一親族です。

被相続人(父親)だけでなく、生計一親族(息子)が、相続開始前3年以内に新たに事業の用に供した敷地も3年縛りのルールの適用を受け、特定事業用宅地等から除外されます

よって、息子が新たに事業を開始しても、父親が余命宣告期間より2年以上長く生きなければ、特定事業用宅地等として小規模宅地等の特例(80%減額)を適用することは難しくなります。

なお、父親が新規事業を始めた場合も当然3年縛りのルールにより、新たに事業の用に供した敷地は特定事業用宅地等から除外され、小規模宅地等の特例(80%減額)を適用することはできません

3年縛りのルールの例外

亡くなった人(被相続人)又は子供など(生計一の親族)が相続開始前3年以内に新規で事業を始めた場合、その事業の用に供した敷地(土地や借地権)は特定事業用宅地等に該当しないことになります。

ただし、例外があります。

事業用の建物や構築物、減価償却資産で事業供用しているものの評価額が敷地の評価額の15%以上ある場合は、新規事業開始後3年以内であっても、特定事業用宅地等に該当することになります。

要は、その敷地の上で利用している事業用の固定資産の評価額が敷地の評価額の15%以上を上回っていれば、特定事業用宅地等として小規模宅地等の特例を適用という訳です。

事例で確認しましょう。

【事例2】
医師より父親の余命は1年だと宣告されました。
父親名義の未利用の土地(評価額1億)があるため、息子は新たに小売業を開始しました。
小売業を始めるにあたり、父親は工務店に建物の建築を依頼し5,000万円を支払いました。
父親死亡時の建物の評価額は2,800万円です。
父親と息子は同居しているので生計一親族です。

相続時の事業用の建物の評価額は2,800万円であり、土地(敷地)の評価額の15%である1,500万円(1億×15%)を超過しています。

よって、3年縛りのルールは適用されず、特定事業用宅地等として小規模宅地等の特例(80%減額)を適用できることになります。

3年縛りのルールの例外のハードルは低い!

特定事業用宅地等の3年縛りの例外のハードルはかなり低く設定されています

あくまで、節税対策防止のための3年縛りのルールであり、本気で事業を開始しようと事業用の建物・設備を揃えた意思のある事業主の出鼻を挫く必要はないからです。

よって、貸付事業に近くなる、建物・設備への投資額が敷地の評価額の15%未満の事業主のみを規制対象にしていると考えられます。

言い換えれば、すでに古い建物が建っており、それをそのまま古い建物を活用する場合や、投資額が非常に少額で始められる事業(IT業やトランクルーム貸出業)などでない限り、3年縛りのルールの例外となり、基本的には事業を営んでいる敷地は特定事業用宅地等に該当することになるでしょう。

節税対策と3年縛りのルールの関係

多額の借入れをして、貸家業(居住用建物の貸し付け)や不動産賃貸業(事務所建物の貸し付け)を始める節税スキームがあります。

貸家業や不動産賃貸業で利用する敷地は貸付事業用宅地等に該当し、小規模宅地等の特例の対象になりますが、貸付事業用宅地等に対しての3年縛りのルールは非常に厳しく設定されています

そこで、多額の借入れをして、新しく事業を始めるための建物を建設し、特定事業用宅地等として小規模宅地等の特例(80%減額)を適用することも考えられます(貸家業や不動産賃貸業以外の事業)。

この場合、3年縛りのルールの例外があり、建物・設備の評価額が宅地等の評価額の15%以上であれば、3年以内でも特定事業用宅地等として小規模宅地等の特例(80%減額)を適用することができます

事業を始めるということはリスクを伴い、そんなに簡単ではないのですが、適用条件に当てはまるのならば、相続を機会に事業を開始することも考えてみましょう

最後に事例で相続税の評価額がどれだけ下がるか具体的に確認しましょう。

【事例3】
医師より父親の余命は1年だと宣告されました。
父親名義の未利用の土地(評価額1億)があるため、息子は新たに製造業を開始しました。
製造業を始めるにあたり、父親は2億円を銀行から借り入れて、事業用の建物に1億円、減価償却資産(機械)に1億円使用しました。
父親死亡時の建物の評価額は5,700万円、減価償却資産の評価額は9,000万円、借入金残高は1億9,000万円です。
父親と息子は同居しているので生計一親族です。
事業を始めなかった場合と事業を始めた場合の相続税の評価額を比べてみましょう。

【事業を始めなかった場合】
父親名義の土地が1億円あるのみです。

【事業を始めた場合】
父親名義の土地は特定事業用宅地等に該当し、小規模宅地等の特例(80%減額)を適用できます

なお、以下の計算結果より3年縛りのルールの例外になります。

①土地の15% 1,500万円(1億×15%)
②事業用建物と減価償却資産の合計 1億4,700万円(5,700万円+9,000万円)
③ ①≦②のため3年縛りのルールの例外を適用

よって、父親名義の土地の評価額は1億円×(100%-80%)=2,000万円になります。

父親が保有している資産の評価額の合計は、土地2,000万円+建物5,700万円+減価償却資産9,000万円=1憶6,700万円になります。

父親の負債の評価額は借入金残高だけなので1億9,000万円になります。

相続税の課税対象は、資産の評価額-負債の評価額で算定できるので、1憶6,700万円(資産の評価額)-1億9,000万円(負債の評価額)=△2,300万(つまり0円)となります。

事業を始めた方が相続税の評価額は1億円(1億円-0円)小さくなることが分かりました。

1億円の相続税評価額の減少は相続納税額にすると、実に2,300万円の減少に繋がります

つまり、2,300万円分節税出来たことになります。

ただし、借入金1億9,000万円の返済義務を負うことになりますので節税効果だけでなく、新しく事業を行う意義も考えておく必要があります