「会社が社長から借りたお金(役員借入金)が何千万円も残っているのに、会社には返す資金がない」と悩んでいませんか。
役員借入金は、役員から見れば会社への貸付金なので、役員が亡くなると相続財産になります。
対策をせずに放置すると、遺族は現金化できない貸付金に対して相続税だけを納める事態になりかねません。
会社の不動産を役員に引き渡して借入金を消す「代物弁済」を使えば、会社は現金を用意せずに役員借入金を減らせます。
本記事では、代物弁済の仕訳、法人税・消費税の課税関係、役員側の税金、節税になる実行時期を税理士が解説します。
代物弁済とは?役員借入金を不動産で返す仕組みと他の方法との比較
代物弁済とは、現金の代わりに不動産などの資産を引き渡して、借金を消滅させる契約です(民法第482条、e-Gov法令検索「民法」)。
役員が持つ会社への貸付金は、相続税の計算では返済されるべき金額(=額面)で評価されます(財産評価基本通達204)。
相続財産の合計が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超えるなら、役員は生前に役員借入金を減らす対策を取る必要があります(国税庁タックスアンサーNo.4152「相続税の計算」)。
| 方法 | 概要 | メリット | デメリット |
|---|---|---|---|
| ①債権放棄 | 役員が返済を受ける権利を放棄する | 手続きが簡単 | 会社に債務免除益が出て法人税がかかる |
| ②債権の贈与 | 貸付金を子などに毎年贈与する | 暦年贈与の非課税枠を使える | 年数がかかり、会社の借入金は残る |
| ③代物弁済 | 会社の不動産を役員に渡して借入金を消す | 現金不要で一度に大きく減らせる | 法人税・消費税と登記コストがかかる |
| ④債権の資本化(DES) | 貸付金を会社の株式に振り替える | 会社の財務体質が改善する | 株式の相続税評価が上がる場合がある |
| ⑤会社の閉鎖(清算) | 会社を解散して借入金を整理する | 借入金問題が根本から消える | 事業を続けられない |
不動産を所有する会社にとって、現金を用意せずに役員借入金を一度で大きく減らせる代物弁済は有力な選択肢です。
他の方法は債権放棄で役員借入金を減少・消滅させる方法、債権の資本化(DES)で役員借入金を無くす方法、役員借入金のメリット・デメリットと清算方法の各記事で解説しています。
次は、実際の数字で会社側の仕訳を確認します。
代物弁済の仕訳|役員借入金5,000万円を時価8,000万円の土地で返す設例
代物弁済の仕訳は、会社が「不動産を時価で売却し、その代金で役員借入金を返済した」と考えて起こします。
設例として、役員借入金5,000万円、引き渡す土地の帳簿価額6,000万円、時価8,000万円のケースで会社側の仕訳を示します。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 役員借入金 | 5,000万円 | 土地 | 6,000万円 |
| 役員賞与 | 3,000万円 | 土地売却益 | 2,000万円 |
借方には、消滅する役員借入金5,000万円に加えて、土地の時価8,000万円と借入金5,000万円との差額3,000万円を役員賞与として計上します。
会社が時価8,000万円の土地を5,000万円の借入金と引き換えに役員へ渡すため、税務上は差額3,000万円を役員への経済的利益の供与(=実質的な給与)とみなすからです(法人税基本通達9-2-9)。
貸方には、土地の帳簿価額6,000万円を落とし、時価8,000万円との差額2,000万円を土地売却益として計上します。
時価と借入金額の差額は消えてなくならず、必ず役員賞与または役員退職金として仕訳に現れます。
仕訳が固まれば、法人税と消費税への影響は仕訳から読み取れます。次章から税目ごとに確認します。
代物弁済の法人税|土地売却益は益金・差額の役員賞与は損金不算入
代物弁済で生じた土地売却益は益金になり、不動産の時価と借入金額の差額である役員賞与は損金になりません。
益金とは法人税の計算で収益として扱う金額、損金とは費用として扱う金額のことです。
役員賞与は税務上「役員給与」に含まれ、会社が役員給与を損金にできるのは定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与の3種類に限られます(国税庁タックスアンサーNo.5211「役員に対する給与[平成29年4月1日以後支給決議分]」)。
代物弁済で一時に発生する役員賞与3,000万円は、事前の届出がない臨時の給与でこの3種類のどれにも当てはまらないため、会社は全額を損金にできません。
設例の会社の会計上の利益は、売却益2,000万円から賞与3,000万円を引いた1,000万円の赤字です。
しかし法人税の課税所得は、損金にならない賞与3,000万円を加算するため2,000万円の黒字になります。
実効税率を約30%とすると、会社の法人税・住民税・事業税の負担は約600万円増えます。
次は、誤解が最も多い消費税の取扱いを整理します。
代物弁済の消費税|課税対象は消滅する借入金額・土地なら非課税
代物弁済の消費税は、不動産の時価ではなく「消滅する役員借入金の金額」を対価として計算します(消費税法施行令第45条第2項第1号、e-Gov法令検索「消費税法施行令」)。
代物弁済は消費税法上「資産の譲渡等」に含まれ、会社が課税事業者なら課税関係が生じます(国税庁タックスアンサーNo.6117「「資産の譲渡等」とは」/消費税法基本通達5-1-4)。
土地の譲渡は消費税の非課税取引なので、会社が土地で代物弁済しても消費税は発生せず、5,000万円は非課税売上になります(国税庁タックスアンサーNo.6201「非課税となる取引」)。
一方、会社が建物で代物弁済した場合は、消滅した借入金5,000万円が税込の課税売上となり、税率10%なら会社が納める消費税は約455万円です。
会社が土地と建物をまとめて引き渡すときは、消滅する借入金額を土地と建物の時価の比で分け(按分し)、建物部分だけに消費税がかかります。
次は、不動産を受け取る役員側の税金を確認します。
代物弁済を受けた役員側の税金|給与所得・不動産取得税・登録免許税と相続税評価
代物弁済で不動産を受け取った役員には、不動産の時価と借入金額の差額に対する所得税と、不動産の取得に伴う不動産取得税・登録免許税がかかります。
設例の差額3,000万円は、役員にとって会社から受け取った賞与、つまり給与所得です。
給与所得は他の所得と合算して総合課税され、所得税と住民税を合わせた税率は最高55%です(国税庁タックスアンサーNo.2260「所得税の税率」)。
役員が負担する2つの取得コスト
- 不動産取得税:税率は土地・住宅3%、住宅以外の家屋4%で、宅地は課税標準が2分の1になります(いずれも令和9年3月31日までの取得。東京都主税局「不動産取得税Q&A」)
- 登録免許税:代物弁済による所有権移転登記は固定資産税評価額の2%。売買の土地に認められる1.5%の軽減は代物弁済には適用されません(国税庁タックスアンサーNo.7191「登録免許税の税額表」)
一方で、役員の相続税の面では、代物弁済に大きなメリットがあります。
役員の財産が、額面で評価される貸付金から、路線価や固定資産税評価額で評価される不動産に変わるため、相続税評価額が下がります。
さらに、役員が取得した土地を会社に有償で貸し付ければ、相続時に特定同族会社事業用宅地等として400㎡まで評価額を80%減額できる余地があります(国税庁タックスアンサーNo.4124「相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例[小規模宅地等の特例]」)。
次は、税負担を最小にする実行時期を考えます。
代物弁済のベストタイミングは役員の退職時|賞与が退職金に変わる
代物弁済のベストタイミングは役員の退職時で、不動産の時価と借入金額の差額が損金不算入の役員賞与から損金算入できる役員退職金に変わります。
会社が支給する役員退職金は、不相当に高額な部分を除き、株主総会の決議等で金額が確定した事業年度の損金になります(国税庁タックスアンサーNo.5208「役員の退職金の損金算入時期」)。
役員の退職時に同じ設例で代物弁済した場合、会社側の仕訳は次のとおりです。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 役員借入金 | 5,000万円 | 土地 | 6,000万円 |
| 役員退職金 | 3,000万円 | 土地売却益 | 2,000万円 |
在任中の仕訳と違うのは、借方の「役員賞与3,000万円」が「役員退職金3,000万円」に変わる点だけです。
しかし法人税の計算では、損金にならない役員賞与と損金になる役員退職金とで、会社の課税所得が次のように大きく変わります。
| 項目 | 在任中に実行(役員賞与) | 退職時に実行(役員退職金) |
|---|---|---|
| 土地売却益(益金) | +2,000万円 | +2,000万円 |
| 賞与・退職金の損金算入 | 損金にならない(0円) | 損金になる(▲3,000万円) |
| 法人税の課税所得 | +2,000万円 | ▲1,000万円 |
| 法人税等(実効税率約30%) | 約600万円の増税 | 約300万円の減税 |
会社の税負担は、在任中に実行すれば約600万円増えますが、退職時に実行すれば逆に約300万円減り、その差は約900万円に達します。
退職時の減税約300万円は、赤字1,000万円を他の利益と相殺できる場合の金額です。
役員本人の税負担も、退職所得は退職所得控除後の残額の2分の1にだけ分離課税されるため、給与所得より軽くなります(国税庁タックスアンサーNo.1420「退職金を受け取ったとき[退職所得]」)。
ただし、役員としての勤続年数が5年以下の場合、役員は2分の1計算を使えません。
退職金の適正額は、会社が最終報酬月額×勤続年数×功績倍率で判定するのが実務では一般的です(詳しくは役員退職金の適正額と功績倍率|計算方法・相場・税金まで税理士が解説を参照)。
時期を決めたら、実際の手続きを時系列で確認します。
代物弁済で役員借入金を消す手続きの流れ【5ステップ】
代物弁済の手続きは「時価の把握→社内承認→契約→登記→申告」の5ステップで進めます。
課税関係はすべて時価を基準に決まるため、会社は不動産鑑定士の鑑定評価書など第三者に説明できる時価の根拠を用意します。
会社と役員の取引は利益相反取引に当たるため、取締役会設置会社は取締役会、それ以外の会社は株主総会の承認が必要です(会社法第356条・第365条、e-Gov法令検索「会社法」)。
会社と役員は、契約書に消滅させる借入金の額、引き渡す不動産、差額の取扱い(賞与か退職金か)を明記し、役員の承諾を書面に残します。
会社と役員が共同で、法務局に会社から役員への所有権移転登記を申請します。登録免許税はこの登記の際に納めます。
会社は法人税・消費税の申告と源泉所得税の納付を行い、役員は不動産取得税の納付と翌年の確定申告を行います。
承認決議の議事録と時価の根拠資料は税務調査で最初に確認される書類なので、会社は必ず保管します。
次は、失敗しやすいポイントを確認します。
代物弁済の注意点|時価の50%未満ルールと見落としやすい3つの落とし穴
代物弁済の最大の注意点は、消滅する借入金が不動産の時価の50%未満になるケースです。
法人が役員に資産を時価のおおむね50%未満で譲渡すると、消費税の課税標準が実際の対価ではなく時価になります(国税庁タックスアンサーNo.6321「法人の役員に対する贈与・低額譲渡の取扱い」/消費税法基本通達10-1-2)。
例えば会社が役員借入金5,000万円を時価1億2,000万円の建物で弁済すると、借入金5,000万円は時価の50%(6,000万円)未満です。
消費税の課税標準は5,000万円ではなく時価1億2,000万円になり、会社の消費税負担は2倍以上に膨らみます。
代物弁済で見落としやすい3つの落とし穴
- 時価の根拠がない:会社が帳簿価額や固定資産税評価額を「時価」として代物弁済すると、税務調査で本来の時価に引き直され、役員賞与と売却益が増えた分の法人税を追徴されます。鑑定評価書など第三者が示した時価の資料を残しておきます
- 源泉所得税の準備不足:賞与部分には源泉徴収が必要なので、会社は源泉所得税を役員から預かる段取りを事前に決めます
- 課税売上割合の低下:会社が土地を渡した期は非課税売上が急増し、仕入税額控除が減ります。対策の承認申請は課税期間の末日までに行う必要があります(国税庁 質疑応答事例「たまたま土地の譲渡があった場合の課税売上割合に準ずる割合の承認」)
会社が取れる対策は、鑑定評価などで不動産の時価を正確に把握したうえで、役員借入金の額に近い時価の不動産を代物弁済に充てることです。
時価が借入金に近い不動産を選べば、差額の役員賞与が小さくなるため、損金にならない賞与に対する法人税等も役員の所得税も抑えられます。
時価が借入金の2倍を超える不動産を渡すと50%未満ルールにも該当するため、どの不動産を渡すかの選び方が節税の成否を左右します。
最後に要点を整理します。
まとめ|代物弁済は不動産会社の役員借入金対策として有力・実行は退職時に
代物弁済は、不動産を所有する会社が現金なしで役員借入金を消せる、有力な相続税対策です。
記事のポイント
- 仕訳:不動産を時価で売却して借入金を返したと考える。時価と借入金の差額は役員賞与か役員退職金になる
- 法人税:売却益は益金、役員賞与は損金不算入。退職時に実行すれば退職金として損金にできる
- 消費税:対価は消滅する借入金額で、土地は非課税・建物は課税。借入金が時価の50%未満なら時価課税
- 役員側:差額は給与所得か退職所得。取得税・登録免許税はかかるが相続税評価額は下がる
会社が実行時期を役員の退職に合わせるだけで、設例では法人税の負担に約900万円の差が生まれます。
代物弁済と役員借入金に関するよくある質問(FAQ)
代物弁済と役員借入金について、相談の多い質問に不動産業専門の税理士が回答します。
- 役員借入金を代物弁済で返すとき、消費税は不動産の時価と借入金額のどちらにかかりますか?
-
消滅する役員借入金の金額にかかります。ただし、借入金額が時価のおおむね50%未満のときは時価が課税標準になり、土地の譲渡はそもそも非課税です。
- 代物弁済で生じた役員賞与は、会社の損金にできますか?
-
できません。臨時の役員賞与は定期同額給与などの損金算入要件を満たさないためです。
役員の退職に合わせて役員退職金として支給すれば、不相当に高額な部分を除いて損金にできます。
- 代物弁済の法人税にも、消費税のような「時価の50%未満」の基準はありますか?
-
ありません。法人税では、会社が役員に時価より低い額で資産を渡せば、金額の大小にかかわらず時価との差額の全額が役員賞与として扱われます。
50%未満の基準があるのは消費税だけです。
- 代物弁済で不動産を受け取った役員に、不動産取得税や登録免許税はかかりますか?
-
不動産取得税と登録免許税のどちらもかかります。不動産取得税は土地・住宅3%、住宅以外の家屋4%、登録免許税は固定資産税評価額の2%です。
参考文献
法令(e-Gov法令検索)
国税庁タックスアンサー
- No.1420「退職金を受け取ったとき(退職所得)」
- No.2260「所得税の税率」
- No.4124「相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」
- No.4152「相続税の計算」
- No.5208「役員の退職金の損金算入時期」
- No.5211「役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)」
- No.6117「「資産の譲渡等」とは」
- No.6201「非課税となる取引」
- No.6321「法人の役員に対する贈与・低額譲渡の取扱い」
- No.7191「登録免許税の税額表」
国税庁 通達・質疑応答事例
- 法人税基本通達9-2-9(債務の免除による利益その他の経済的な利益)
- 消費税法基本通達5-1-4(代物弁済の意義)
- 消費税法基本通達10-1-2(著しく低い価額)
- 財産評価基本通達204(貸付金債権の評価)
- 質疑応答事例「たまたま土地の譲渡があった場合の課税売上割合に準ずる割合の承認」
地方税


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