「個人事業主の節税って、結局なにから手をつければいいの?」——そう感じていませんか?
やみくもに経費を増やしても、手元のお金が減るだけで逆効果になることもあります。
この記事では、効果が大きく失敗しにくい節税対策7つを、取り組むべき順番つきで、不動産業を専門とする税理士がわかりやすく解説します。
確定申告がはじめての方でも読み進められる内容です。
個人事業主の節税の仕組み|まず「所得のしくみ」を理解する
個人事業主の節税は、「課税所得を正しく小さくすること」に尽きます。
税金は所得の大きさで決まるからです。
個人事業主にかかる主な税金は所得税・住民税・個人事業税の3つで、いずれも「もうけ」に対してかかります。
計算の土台は次の式です。
課税所得 = 売上 − 必要経費 − 所得控除
この課税所得が小さいほど、税金は軽くなります。
- 売上(収入)
-
事業で得たお金の総額です。
- 必要経費(=仕事のために使ったお金)
-
事業のために支出した費用。
漏れなく計上するほど所得は下がります。
- 所得控除(=所得から差し引ける金額)
-
保険料や共済掛金などに応じて所得を減らせる仕組み。
種類が多く、見直しの余地が大きい部分です。
所得控除の種類は国税庁のタックスアンサーで確認できます(出典:国税庁「No.1100 所得控除のあらまし」)。
節税対策①必要経費を「正しく」増やす
経費は、「事業に関係するものだけ」を漏れなく計上するのが基本です。
どの科目で処理するか迷ったら必要経費の勘定科目と仕訳のポイントも参考になります。
自宅で仕事をしているなら家事按分(かじあんぶん)が有効です。
これは「自宅兼事務所なら、仕事で使った割合だけを経費にできる」という考え方で、家賃・電気代・通信費の一部を経費にできます。
例えば、家賃の30%を事業に使っていれば、その30%を経費に計上できます。
パソコンなどの備品は、青色申告者なら1個あたり40万円未満のものを買った年に全額を一度に経費にできます(少額減価償却資産の特例。年間合計300万円まで)。
2026年4月1日以後に取得した資産から、上限が30万円未満→40万円未満に拡大されました(令和8年度税制改正。適用期限は令和11年3月末まで延長)。
減価償却の基本ルールは個人事業主の減価償却の記事もあわせてご確認ください。
プライベートと事業が混ざる支出は、事業で使った割合の根拠を説明できるかが分かれ目です。
領収書やレシートは必ず保管し、「何のための支出か」をメモしておきましょう。
節税対策②各種控除をフル活用する(青色申告・小規模企業共済・iDeCo)
所得控除の見直しは、支出を抑えながら税金だけを減らせる最も効率的な節税です。
まず取り組みたいのが青色申告です。
複式簿記で記帳しe-Taxで申告すれば最大65万円を所得から差し引けます(紙申告は55万円、簡易な記帳は10万円)。
事前に「所得税の青色申告承認申請書」の提出が必要です(出典:国税庁「No.2072 青色申告特別控除」)。
なお、不動産賃貸業での具体的な要件と仕訳例は、65万円の青色申告特別控除を受けるための要件と仕訳例でくわしく解説しています。
小規模企業共済は、個人事業主のための退職金制度です。
掛金は月1,000円〜7万円で、年間最大84万円が全額所得控除になります。
将来の備えと節税を同時に実現できます(出典:中小機構)。
iDeCo(個人型確定拠出年金)の掛金も全額が所得控除の対象です。
個人事業主(国民年金第1号被保険者)の上限は月6.8万円(年81.6万円)。
なお2026年12月施行の制度改正で、上限は月7.5万円へ引き上げられる予定です(国民年金基金等との合算)。
同じ「お金を払う」なら、受け取り時にもメリットがある制度から埋めるのが得策です。
青色申告 → 小規模企業共済 → iDeCo の順に検討すると、無理なく効果を積み上げられます。
節税対策③経営セーフティ共済・ふるさと納税で上乗せする
さらに所得を圧縮したいなら、経営セーフティ共済とふるさと納税が候補になります。
経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)は、掛金月5,000円〜20万円・年間最大240万円を必要経費にできる制度です(累計800万円まで)。
ただし令和6年(2024年)10月以降は、解約後2年以内に再加入した場合の掛金は経費にできない点に注意してください(出典:中小機構・令和6年度税制改正)。
経営セーフティ共済の掛金を必要経費にできるのは事業所得がある場合に限られます。家賃収入などの不動産所得だけで確定申告している方は、掛金を必要経費に算入できません(租税特別措置法第28条)。
また、不動産賃貸が事業的規模に満たないケースなどでは加入資格自体の確認も必要です。不動産オーナーの方は、加入前に必ず中小機構や税理士にご確認ください。
ふるさと納税は、寄附額のうち自己負担2,000円を超える部分が所得税・住民税から差し引かれる仕組みです。
実質負担2,000円で返礼品を受け取れるため、上限額の範囲で活用しましょう。
【計算例】事業所得600万円ならいくら節税できる?
事業所得600万円の個人事業主が青色申告・小規模企業共済・iDeCoを使うと、年間で約67万円の節税が見込めます。
前提:事業所得600万円、所得控除は基礎控除のみ、2026年5月時点の所得税速算表と住民税率10%で概算。社会保険料控除や復興特別所得税は簡略化しています。
| 項目 | 対策なし | 対策あり |
|---|---|---|
| 課税所得(所得税) | 542万円 | 311万円 |
| 所得税(概算) | 約65.7万円 | 約21.4万円 |
| 住民税(概算) | 約55.7万円 | 約32.6万円 |
| 税負担の合計 | 約121万円 | 約54万円 |
この例では青色申告65万円・小規模企業共済84万円・iDeCo81.6万円の合計230.6万円を所得から差し引いています。差額は年間およそ67万円。
数字はあくまで概算で、実際の金額は所得や他の控除で変わります。
必ず税理士にご確認ください。
消費税の節税は「簡易課税・2割特例」の比較で決める
課税事業者なら、消費税の計算方法を有利な方式に選ぶだけで納税額を抑えられます。
消費税の計算には複数の方式があり、どれを選ぶかで納税額が変わります。
下表で違いを比べましょう。
| 計算方式 | 対象 | メリット | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 原則課税 | すべての課税事業者 | 実際の仕入税額をそのまま控除できる | 経理の手間が大きい |
| 簡易課税 | 前々年の課税売上5,000万円以下 | 売上だけで計算でき事務負担が軽い | 事前届出が必要・2年継続 |
| 2割特例 | インボイスを機に課税事業者になった人 | 納税額が売上税額の2割で済む | 適用できる期間に期限がある |
2割特例はインボイス制度を機に免税事業者から課税事業者になった人向けの負担軽減策で、適用できる期間が限られています。
なお令和8年度税制改正により、個人事業主の2割特例は2026年分で終了し、2027年・2028年分は納税額を売上税額の3割とする「3割特例」へ移行する予定です。
自分がどの方式を選べるか、最新の適用要件を必ず確認してください。
個人事業主の節税対策に取り組む順番【7ステップ】
節税は、効果が大きく手間の少ないものから順番に進めるのが鉄則です。
次の順序で検討すると、無駄なく効果を積み上げられます。
まず青色申告の承認申請を出し、最大65万円控除の土台をつくります。
事業に関係する支出を漏れなく計上し、自宅利用分も按分します。
退職金を準備しながら、年最大84万円を所得控除します。
余力があれば月6.8万円まで上乗せし、老後資金と節税を両立します。
さらに所得を圧縮したい年に、年最大240万円を必要経費にできます。
上限額まで寄附し、実質2,000円で返礼品を受け取ります。
所得が高水準で安定したら、法人化で給与所得控除を活かす選択肢も出てきます。
注意点|「節税」と「脱税」はまったく違う
行き過ぎた節税は脱税となり、加算税や延滞税のリスクを招きます。
事業に関係のない支出を経費にする(プライベートな飲食や旅行など)。
売上の計上をわざと遅らせる、領収書を水増しする。
節税のためだけに不要な高額品を買い、かえって手元資金を減らす。
節税の目的は「払う税金を適正にすること」であって、お金を無駄に使うことではありません。
まとめ|順番を守れば個人事業主の節税は難しくない
税金は課税所得を小さくすることで減らせる。
まずは青色申告、次に小規模企業共済・iDeCoで所得控除を積み上げる。
消費税は計算方式の選択で差が出る。最新の適用要件を確認する。
迷ったら効果が大きく手間の少ない順に取り組む。
よくある質問
- 個人事業主の節税は何から始めればいいですか?
-
まずは青色申告への切り替えがおすすめです。
最大65万円の控除を、追加の支出なしで受けられるからです。
- 小規模企業共済とiDeCoはどちらを優先すべきですか?
-
どちらも掛金が全額所得控除になります。
引き出しやすさや受け取り方が異なるため、まず小規模企業共済、余力があればiDeCoを併用するのが一般的です。
- 経費を増やせば増やすほど得ですか?
-
いいえ。経費は実際にお金が出ていくため、使いすぎは手元資金を減らします。
事業に必要な支出だけを計上することが大切です。
- 節税対策はいつまでに行えばいいですか?
-
多くは12月31日までの支出や加入が対象です。
年末ぎりぎりではなく、早めに準備すると選択肢が広がります。
※本記事は2026年5月31日時点の法令に基づいて作成しています。
税制は改正されることがあるため、お手続きの際は国税庁の最新情報や税理士へのご確認をお願いします。


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