「家賃の入金があった月に、そのまま売上高へ計上する」——多くの会社で見かける経理処理ですが、法人の家賃収入では間違いになるケースがあります。
家賃収入の売上計上時期を誤ると、翌期分の税金を先に納めて資金繰りを圧迫したり、税務調査で売上高の計上漏れを指摘されて追徴課税を受けたりするおそれがあります。
とはいえ、身構える必要はありません。押さえるポイントは「前受金」と「売掛金」という2つの勘定科目の使い方が中心で、仕組みさえ分かれば経理初心者の方でも今日から正しい経理処理ができます。
本記事では、法人税の収益計上時期と消費税の認識時期、家賃滞納や長期前受の仕訳例まで、不動産業を専門とする税理士が具体的な数字でわかりやすく解説します。
法人の家賃収入を売上高に計上する時期は「入金日」ではない
法人の家賃収入は、入金があった日ではなく、「その家賃がどの月の分か」を基準に売上高へ計上するのが基本です。
法人税の原則では、家賃は部屋を貸すサービスの提供に応じて、対応する月の収益として計上します(国税庁 法人税基本通達2-1-29「賃貸借契約に基づく使用料等の帰属の時期」)。
不動産賃貸借契約では、「翌月分の家賃を当月末までに支払う」と定めるのが一般的です。例えば4月分の家賃は3月末に入金されますが、4月分である以上、3月の売上高にはできません。
前受金とは、まだ提供していないサービスの対価を先に受け取ったときに使う負債の勘定科目です。3月末に受け取った4月分の家賃はいったん前受金とし、4月になってから売上高へ振り替えます。
ただし、契約の解除や無効など、賃貸借契約そのものに争いがあって家賃を受け取れていない場合は、金額が確定するまで売上高の計上を見合わせることができます。
一方、家賃の増減額をめぐる争いのときは売上高の計上を止めることができず、契約内容や相手方の供託額などをもとに合理的に見積もって計上します。
ここまでが法人税の考え方です。次は、前受金を売上高へ振り替える毎月の仕訳を、具体的な数字で確認します。
前受金の仕訳と毎月の経理処理の流れ【月額20万円の例】
家賃収入の経理処理は、「受取時に前受金を計上し、翌月末に売上高へ振り替える」の2ステップで完成します。
月額20万円の家賃が、3月末に翌月4月分として賃借人から普通預金口座に振り込まれたケースで見てみましょう。
【当月末に受け取った翌月分の家賃の仕訳(3月末日)】
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 普通預金 | 20万円 | 前受金 | 20万円 |
翌月末には、前受金を取り崩して売上高に振り替えます。
【前受金を売上高に振り替える仕訳(4月末日)】
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 前受金 | 20万円 | 売上高 | 20万円 |
前受金から売上高への振替仕訳を毎月続けることが、家賃収入の経理処理でいちばん大切なポイントです。
会計ソフト(弥生会計・freee・マネーフォワードなど)では、売上高に計上した金額がそのまま法人税の計算のもとになります。難しい設定を意識しなくても、毎月の振替仕訳さえ正しければ税金の計算も正しくなる仕組みです。
毎月のサイクルが崩れるのが、家賃滞納のケースです。次章で対処法を解説します。
家賃滞納があるときも売上高の計上は必要【期末の調整仕訳】
賃借人が家賃を滞納していても、すでに経過した月分の家賃は売上高に計上しなければなりません。
滞納があると入金がないため、前受金の計上も売上高への振替も行われないまま決算を迎えがちです。計上漏れが起きやすい原因は次の2つです。
- 入金ベースの記帳:入金がないと仕訳が発生せず、滞納分の売上高が漏れやすい
- AI自動仕訳への過信:入金データだけでは滞納分の売上高を拾えない
計上漏れをそのままにすると、法人税の追徴につながります。事務所や店舗など事業用物件の家賃では、消費税の追徴も重なる「ダブルパンチ」になるおそれがあります。
対策はシンプルです。期末日に、経過した月数分の滞納家賃を売掛金で売上高に計上する調整仕訳が必須です。
【家賃滞納者がいる場合に期末日に行う調整仕訳】
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 売掛金 | 30万円※ | 売上高 | 30万円※ |
※ 期末日までに経過している月数に対する滞納額を計上します。
売掛金とは、すでに売り上げた代金のうち、まだ回収できていない金額を資産として記録する勘定科目です。滞納分の家賃を回収できたら、売掛金を取り崩して普通預金などに振り替えます。
【滞納家賃を回収できた時の仕訳】
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 普通預金 | 30万円 | 売掛金 | 30万円 |
滞納とは逆に、家賃を長期間まとめて先に受け取る場合の処理を次章で確認します。
長期間の家賃を一括で前受したときの経理処理
1年分の家賃を一括で受け取っても、売上高に計上できるのは当期に対応する月数分だけです。
3月末決算の法人が、12月末に翌1月分から1年分の家賃240万円(月額20万円)を受け取ったケースで確認しましょう。
【事前に長期間の家賃を受け取った時の仕訳(12月末)】
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 普通預金 | 240万円 | 前受金 | 240万円 |
1月末から3月末まで、毎月20万円ずつ前受金を売上高へ振り替えます。
【各月末(1月末〜3月末)に行う仕訳】
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 前受金 | 20万円 | 売上高 | 20万円 |
決算までに売上高へ振り替えるのは、1月から3月までの3か月分60万円です。残りの9か月分は前受金(180万円)のまま負債に残し、翌期以降に毎月振り替えていきます。
では、受け取った家賃の消費税は、いつの計算に含めるのでしょうか。次章で整理します。
家賃収入の売上高にかかる消費税の認識時期
法人が受け取る家賃収入の消費税は、前受金を売上高へ振り替えた月、つまりその家賃に対応する月の消費税として計算に含めます。
消費税のルールでも、前受金として処理した家賃は、受け取った時点では計算に含めないと定められています(国税庁 消費税法基本通達9-1-20「賃貸借契約に基づく使用料等を対価とする資産の譲渡等の時期」)。
つまり、3月末に振り込まれた4月分の家賃は、3月の消費税の計算には含めません。4月に売上高へ振り替えた時点で、消費税の計算に含めます。
毎月の振替仕訳が正しく行われていれば、消費税のための特別な処理は不要です。
なお、前提として、アパートやマンションなど居住用建物の家賃は消費税が非課税です(国税庁タックスアンサーNo.6226「住宅の貸付け」)。
消費税の計算が必要になるのは、事務所や店舗など事業用建物の家賃に限られます。課税・非課税の区分と仕訳例は、関連記事「不動産業の消費税と仕訳完全ガイド」で詳しく解説しています。
次の章では、家賃収入の経理でつまずきやすいポイントを確認します。
家賃収入の経理処理でよくある間違いと注意点
家賃収入の経理処理ミスの多くは、「入金があった時=売上高」という誤解から生まれます。
家賃が入金された日と、その家賃を売上高に計上する日は、必ずしも同じではありません。家賃の前受け・滞納・1年分の一括前受けのどのケースでも、「その家賃がどの月の分か」を基準に考えれば迷いません。
基準をふまえたうえで、実務で特に起こりやすい間違いを3つ紹介します。
- 入金された家賃をすべて売上高に計上してしまう:翌期分の家賃(前受金にすべき分)まで当期の利益に含まれ、本来より早く法人税を納めることになります。事業用物件では、消費税も前倒しで納めるおそれがあります。
- 滞納中の家賃を売上高に計上しない:入金がなくても、すでに経過した月分の家賃は売上高に計上する必要があります。計上しないままにすると、税務調査で売上高の計上漏れを指摘される代表例です。
- 居住用の家賃を消費税の課税対象にしてしまう:アパートやマンションなど居住用建物の家賃は消費税が非課税です。誤って課税対象として集計すると、消費税を余分に納めることになります。
前受金の振替は毎月、滞納分の調整仕訳は期末日に行う——この2点を守るだけで、経理処理ミスの大半は防げます。
最後に、本記事の要点を整理します。
まとめ|家賃収入の売上計上時期は「どの月の家賃か」と前受金・売掛金で押さえる
法人の家賃収入の売上計上時期は、入金日ではなく「どの月の家賃か」で決まり、消費税も売上高に計上した月と同じ月に計算します。
- 法人税:翌月分の家賃を先に受け取ったときは、いったん前受金で処理します。その家賃に対応する月になったら、前受金から売上高へ振り替えます。
- 消費税:翌月分の家賃を先に受け取っても、受け取った月の消費税には含めません。なお、アパートなど居住用建物の家賃はそもそも非課税です。
- 家賃滞納時:滞納があっても、経過した月分の家賃は期末に売掛金で売上高に計上します。この仕訳で、売上高の計上漏れも、事業用物件の消費税の集計漏れも防げます。
毎月の振替仕訳と期末の調整仕訳を習慣にすれば、家賃収入の経理処理は難しくありません。
家賃収入の売上計上時期に関するよくある質問(FAQ)
法人の家賃収入の売上計上時期について、実務でよくいただく質問をまとめました。
- 3月末決算の法人で、翌期4月分の家賃を3月31日までに受け取る契約です。いつ売上高に計上しますか?
-
4月30日に前受金から売上高へ振り替えて計上します。3月末の受取時は前受金として処理し、当期の売上高にも当期の消費税にも含めません。
- 法人が受け取る家賃収入の勘定科目は何ですか?
-
不動産賃貸業を本業とする法人なら「売上高」で計上するのが一般的です。賃貸が本業でない法人は「受取家賃」など営業外収益の科目を使います。
売上高・受取家賃のどちらの科目でも、計上時期のルールは同じです。
- 賃借人に家賃を滞納されている場合でも、法人税や消費税はかかりますか?
-
はい、かかります。すでに経過した月分の家賃は、入金がなくても売上高に計上するため、法人税・消費税とも課税対象になります。
回収不能が確定した場合は、要件を満たせば貸倒損失として処理できる余地があります(国税庁タックスアンサーNo.5320「貸倒損失として処理できる場合」)。適用できるかどうかは個別の判断が必要です。
- 居住用アパートの家賃収入に消費税はかかりますか?
-
いいえ、かかりません。契約で居住用であることが明らかな建物の家賃は非課税です(貸付期間1か月未満の場合などを除きます)。
事務所や店舗として貸す場合の家賃は課税対象です。
参考文献
- 国税庁 法人税基本通達2-1-29「賃貸借契約に基づく使用料等の帰属の時期」
- 国税庁 消費税法基本通達9-1-20「賃貸借契約に基づく使用料等を対価とする資産の譲渡等の時期」
- 国税庁 タックスアンサーNo.6226「住宅の貸付け」
- 国税庁 タックスアンサーNo.5320「貸倒損失として処理できる場合」


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