特定居住用宅地等の要件
特定居住用宅地等として小規模宅地等の特例(80%減額)を適用するための相続「前」の要件としては以下の2つのどちらかを満たしている必要があります。
①被相続人(亡くなった人)が居住の用に供していた敷地であること
②被相続人(亡くなった人)と生計を一にしていた親族が居住の用に供していた敷地であること
生計を一にしていた親族の要件
では、②被相続人(亡くなった人)と生計を一にしていた親族が居住の用に供していた敷地であることの生計を一にしていた親族とはどのような者なのでしょうか?
生計を一にしていた親族について相続税法では具体的な定義がありません。
よって所得税法(所得税基本通達24-7)を参考にして生計を一にしていたか判定していくことになります。
特定居住用宅地等の判定で生計を一にしていた親族が登場するのは、被相続人と敷地を相続した親族(子供に限らない)が別居していた場合だけです。
同居している場合は、①被相続人が居住の用に供していた敷地であることに該当するため、そもそも生計を一にしていたかの判定をする必要がありません。
相続税法の生計を一にしていたかの判定で重要になる基準は扶養義務があったかどうかです。
つまり、①被相続人と親族の所得の規模や②生活費の送金状況などを検討し、生計を一にしていたかを判断していくことになります。
生計を一にしていたかの判断では、①被相続人が親族を扶養していた場合と②親族が被相続人を扶養していた場合が考えられます。
相続税法上は、所得の規模や生活費の送金状況に特段の決まりはありませんが、被相続人(父親)や親族(子供)にきちんとした財産や所得がある場合は、いくら生活費を送金していても通常は別生計であり、生計を一にしていた親族に当てはまらないことになります。
具体的な事例で確認してみよう
【事例1】
父親所有のマンションに社会人になった子供が住んでいます。
父親は月に10万円の仕送りを子供にしていました。
父親の相続が開始しました。
そもそも社会人として生活している子供に父親が生活費を送金しているとは考えにくいです。
更に、父親のマンションに住んでいる子供は家賃を免除されているため、すでにかなりの恩恵を受けており、その上、相続で小規模宅地等の特例(80%減額)の恩恵を受ける必要性はありません。
よって、親族(子供)にきちんとした所得があると判断されるため、父親と子供は別生計であったと認定されます。
【事例2】
父親は持ち家で暮らしていますが、それ以外の財産は預金の100万円だけです。
父親の年金は毎月10万円程度しかなく、それでは足りないので、別居の息子が毎月15万円ずつ仕送りしています。
父親が死亡し、相続が開始しました。
父親の財産状況、所得状況を鑑み、経済的に独立しているとは考えられず、息子からの仕送りは生活費として使用していると考えられます。
よって、父親と息子は生計を一にしていたと判断できます。
【事例3】
父親と別居している長女(父親所有の一軒家に住んでいる)が入院した父親の世話をしています。
長女は父親の入院中、父親の居宅の簡単な管理業務をしています。
長女は仕事をしており、生活できるだけの所得を有しています。
父親の相続が開始しました。
入院中の父親の身の回りの世話をしたり、父親の居宅の簡単な管理業務を行うだけでは、生計を一にしていたとまでは言えません。
また、長女が父親の入院中、父親の預金口座から長女の生活費と父親の生活費(入院費を含む)をあわせて引出していたとしても、生活費の送金とは言えません。
よって、父親と長女は別生計であったと認定されます。
【事例4】
大学生の孫は祖父名義の居宅に住んでいます。
父親に所得や財産がないので、孫の生活費は祖父が仕送りしています。
祖父が死亡し、相続が発生しました。
祖父母に関しても孫に対して扶養義務があります(民法877条)。
生計を一にしていたかの判断では、被相続人(亡くなった人)が親族を扶養していたかが重要になります。
親族なので、当然、孫も含まれることになります。
よって、本事例では社会的に独立していない孫を祖父が扶養しているので祖父と孫は生計を一にしていたと判断できます。