「消費税の還付?不動産業でも受けられるの?」と思われた方もいるかもしれません。
結論から言えば、条件を満たせば不動産業でも消費税の還付を受けられます。
金額は数十万〜数百万円になることもあり、知らずに損している事業者が多いのが実情です。
まず、消費税の基本的な仕組みを確認しましょう。
消費税は、モノやサービスを買う側が10%を上乗せして支払い、売る側が預かって国に納める税金です。
事業者は1年間の「預かった消費税」と「支払った消費税」を集計し、その差額を確定申告で国に納めます。
| 区分 | 内容 | 計算例 |
|---|---|---|
| 預かり消費税 | 売上(課税取引)時に相手から預かった消費税 | テナント賃料1,100万円 → 100万円 |
| 支払い消費税 | 仕入・経費支払い時に自分が払った消費税 | 建物5,500万円 → 500万円 |
| 還付額 | 支払い消費税 ー 預かり消費税(差額がマイナスの場合) | 400万円の還付 |
支払い消費税が預かり消費税を上回った場合、その差額が国から返金されます。
これが「消費税還付」です(国税庁 タックスアンサー No.6401参照)。
不動産業でこれが発生しやすい理由は、建物の取得費用に10%の消費税がかかるからです。
建物本体3,000万円なら消費税は300万円にもなります。
一方、事業開始初年度は賃料収入がまだ少ないため、「支払い消費税 ≫ 預かり消費税」となり、還付が生じやすい構造です。
消費税還付は申請しなければ1円も戻りません。
よって、手続きの手順を正しく知ることが重要です。
この記事では、受けられる条件・申請手順・よくある落とし穴を、数字と具体例で解説します。
不動産業で消費税還付を受けられる3つの条件
消費税還付を受けるには、以下の3つの条件をすべて満たす必要があります。
条件① 課税事業者であること
前々年度の課税売上高が1,000万円超、または「消費税課税事業者選択届出書」を提出して課税事業者を選択していること
条件② 課税売上がある事業用物件であること
テナント賃料・店舗賃料など、消費税が課税される売上(課税売上)があること
条件③ 建物(土地を除く)の取得・建設費用があること
土地は消費税の非課税取引のため、もともと消費税を払いません。建物部分に支払った消費税が仕入税額控除の対象です
消費税還付を受けられる場合・受けられない場合【理由から理解する】
消費税還付が受けられるかどうかは、「建物購入時に消費税を支払ったか」と「それに対応する課税売上があるか」の組み合わせで決まります。
「不動産を買えば必ず還付される」わけではありません。
パターン別に理由から整理します。
✅ 還付を受けられる:事業用物件(事務所・店舗・倉庫など)
事務所・店舗・倉庫・工場などに貸し出す事業用物件では、テナントから受け取る賃料に消費税がかかります(課税売上)。
建物購入時に支払った消費税(支払い消費税)を、この課税売上と対応させて仕入税額控除できるため、差額の還付を受けることができます。
❌ 還付を受けられない①:居住用物件(アパート・マンションなど)
アパートやマンションの居住用家賃には消費税がかかりません(非課税売上)(消費税法別表第一第13号)。
建物を購入するときは消費税を支払っていても、それに対応する課税売上がないため、仕入税額控除ができません。
結果として還付もゼロになります。
❌ 還付を受けられない②:土地の購入
土地の売買は消費税の非課税取引(消費税法別表第一第1号)のため、土地を購入するときそもそも消費税を払いません。
支払っていないので控除できるものがなく、土地分の還付は発生しません。
建物と土地をセットで購入した場合も、消費税還付の対象は建物部分のみです。
| 物件の種類 | 賃料の課税区分 | 建物購入時の消費税 | 還付の可否 | 理由 |
|---|---|---|---|---|
| 事務所ビル | 課税(10%) | あり | ○ 可能 | 課税売上と対応できる |
| 店舗・商業ビル | 課税(10%) | あり | ○ 可能 | 同上 |
| 倉庫・工場 | 課税(10%) | あり | ○ 可能 | 同上 |
| 住宅アパート・マンション | 非課税(家賃は消費税なし) | あり | × 不可 | 課税売上なし→控除できない |
| 土地(注) | ― (購入に消費税なし) | なし | × 対象外 | そもそも消費税を払っていない |
(注)土地の売買は消費税法別表第一第1号により非課税取引。駐車場など土地の貸付けは課税取引になる場合があります。
「居住用物件で還付できない理由」と「土地で還付できない理由」は別物です
居住用物件:建物に消費税を払っているが、家賃が非課税のため控除できない
土地:そもそも購入時に消費税を払っていないため、控除する対象がない
この2つを混同しないよう注意してください。
課税事業者になるための手続きとインボイス制度との関係
免税事業者(前々年度の課税売上高1,000万円以下)でも、消費税課税事業者選択届出書を提出することで課税事業者となり、還付申請が可能になります。
届出書は適用を受けようとする課税期間の初日の前日まで(個人事業主の場合は12月31日まで)に税務署へ提出が必要です。
建物購入前の課税期間の末日(個人は12月31日)までに所轄の税務署へ提出。提出が1日でも遅れると翌々年からの適用になります
課税事業者として建物を取得し、購入時の消費税額・インボイス(適格請求書)を保存する
翌年3月31日(法人は事業年度終了後2か月以内)までに消費税の確定申告書を提出。還付申告は期限前でも随時提出可能
申告後、通常1〜2か月程度で指定口座に還付金が振り込まれます
インボイス制度(適格請求書等保存方式)との関係
令和5年10月から導入されたインボイス制度で、適格請求書発行事業者(インボイス発行事業者)に登録すると自動的に課税事業者となります。テナントにインボイスを発行している不動産オーナーは、すでに課税事業者として還付申請の資格があります。
消費税還付の計算方法と具体的な事例
消費税還付の計算方法には個別対応方式と一括比例配分方式の2種類があります。
事業用と住居用が混在する物件では課税売上割合による按分計算が必要です。
以下は、事務所専用ビル(課税売上割合100%)を取得したケースの計算例です。
| 項目 | 金額(税込) | 消費税額 |
|---|---|---|
| 建物取得費用(本体3,000万円) | 3,300万円 | 300万円(支払) |
| 修繕費・管理費など | 110万円 | 10万円(支払) |
| テナント賃料収入 | 550万円/年 | 50万円(預かり) |
| 消費税還付額 | — | 260万円(=310万円−50万円) |
上記の例では、260万円の消費税還付を受けることができます。
課税売上割合が95%未満の場合は按分計算が必要となり、還付額が変わります。
この設例と「高額特定資産の課税事業者強制」について
この設例の建物(税抜3,000万円)は高額特定資産(税抜1,000万円以上の棚卸資産・固定資産)に該当します(消費税法第12条の4)。高額特定資産を取得して仕入税額控除を受けた場合、取得した課税期間の初日から3年間は課税事業者・本則課税が強制されます(免税事業者・簡易課税への変更不可)。260万円の還付は受けられますが、その後3年間は課税事業者として申告を続ける必要があります。
令和2年度税制改正後の注意点:2つの「3年縛り」ルール
「3年縛り」と呼ばれるルールには、根拠条文の異なる2種類があります。
混同しやすいため、それぞれ整理します。
| ルール | 根拠条文 | 対象 | 内容 |
|---|---|---|---|
| ① 課税事業者強制 | 消費税法第12条の4 | 税抜1,000万円以上のすべての建物等(事業用含む) | 取得後3年間、課税事業者・本則課税が強制(免税・簡易課税への変更不可) |
| ② 仕入税額控除の制限 | 消費税法第35条の2(令和2年新設) | 居住用賃貸建物のみ | 取得時の仕入税額控除が原則不可。取得後3年以内に事業用転用・売却した場合は調整計算あり |
事業用建物(オフィス・店舗)を1,000万円以上で取得した場合:ルール①のみ適用。仕入税額控除は受けられる(= 還付可能)が、3年間は課税事業者・本則課税が強制されます。
居住用賃貸建物を1,000万円以上で取得した場合:ルール①②の両方が適用。仕入税額控除そのものが原則不可(= 還付不可)。かつて行われていた自動販売機スキームや金地金スキームも、現在は実質的に封じられています。
消費税還付でよくある失敗3選と対策
失敗① 届出書の提出漏れ
課税事業者選択届出書は建物購入前の課税期間の末日までに提出が必要です。購入後に提出しても、その年の還付には間に合いません。不動産取得を検討した段階で早めに税理士に相談しましょう。
失敗② 簡易課税制度を選択していた
簡易課税制度を選択している場合は、実際の仕入税額ではなくみなし仕入率で計算するため、消費税還付を受けることができません。簡易課税から本則課税への変更には最低2年かかるため、早めの対策が必要です。
失敗③ 土地・建物の按分を誤った
消費税がかかるのは建物部分のみです。売買契約書に土地と建物の金額が別々に記載されていない場合、固定資産税評価額などを基に按分計算を行います。按分を誤ると控除できる消費税額が変わるため、必ず専門家に確認を。
まとめ:不動産の消費税還付を受けるために押さえるべきポイント
- 事業用建物(オフィス・店舗・倉庫)の取得は消費税還付の対象になる可能性がある
- 免税事業者でも課税事業者選択届出書を提出すれば還付申請ができる(建物購入前の課税期間末日までに提出必須)
- 居住用賃貸物件(アパート・マンション)は家賃が非課税のため、原則として還付不可
- 令和2年度改正(消費税法第35条の2)で居住用建物の仕入税額控除が原則禁止に。高額特定資産(税抜1,000万円以上)は取得後3年間の課税事業者強制(消費税法第12条の4)も適用される
- 簡易課税を選択していると還付不可。変更には最低2年かかるため早めに対策を!
消費税還付は条件さえ整えば数百万円規模の還付を受けられる可能性があります。
手続きを誤ると還付機会を失いますので、不動産取得の計画段階から専門家に相談されることをお勧めします。
- 消費税還付の申告期限はいつですか?
-
消費税の確定申告期限は、個人事業主の場合は翌年3月31日、法人の場合は事業年度終了後2か月以内です。
ただし、還付申告は期限前でも随時提出でき、提出後1〜2か月程度で指定口座に振り込まれます。
- 売上が1,000万円以下でも消費税還付は受けられますか?
-
はい、受けられます。
課税売上高が1,000万円以下の免税事業者でも、「消費税課税事業者選択届出書」を所轄の税務署に提出して課税事業者を選択することで還付申請が可能です。
ただし、届出書は建物購入前の課税期間の末日までに提出する必要があります。
- 土地と建物を一括購入した場合、消費税還付の対象はどうなりますか?
-
消費税がかかるのは建物部分のみです。
土地は消費税の非課税取引(消費税法別表第一第1号)のため、土地の購入分に消費税はかかりません。
売買契約書に土地と建物の金額が別々に記載されていない場合は、固定資産税評価額などを基に按分計算を行う必要があります。


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