- 屋上の防水工事が修繕費になるか知りたい人
- 防水工事についての税務上の具体的な建て付けを知りたい人
賃貸用不動産を購入して年月が経過してくると、屋上からの雨漏りが生じることもあります。
通常、屋上の防水工事だと全額経費に計上できる20万円未満という金額を超えてしまうので、雨漏りが生じた時に行う防水工事は修繕費として経費に計上するのか又は資本的支出として固定資産に計上するのか判断が必要になります。
今回は過去に争われた事例から屋上の防水工事を修繕費として経費に計上するか又は資本的支出として固定資産に計上するかの判断のポイントを見ていきましょう。
修繕費になるか資本的支出になるかの判断ポイント
次の2つのうちどちらかのポイントを満たす場合、資本的支出になり、固定資産計上が必要になります。
- 当初予測された使用可能期間を延長させる支出
- 固定資産の取得時の価額を増加させる支出
上記2要件が非常に重要になりますが、屋上の防水工事の場合、なにが使用可能期間を延長させる支出でなにが固定資産の取得時の価額を増加させる支出かという具体的な判定は難しいです。
そこで、以下の税務上の裁決をもとに屋上の防水工事の具体的な判断を考えていきましょう。
裁決の要約
屋上の防水工事が修繕費になるか又は資本的支出になるかの具体的な判断をするための事例を列記していきます。
平成元年10月6日裁決
事例
- 工事は、屋上部分に漏水が発生したため、屋上全体に防水工事を施工したものです。
- 鉄筋コンクリート造の建物は雨漏りが発生すると、木造の建物とは異なり、雨漏りの経路を発見することが極めて困難になります。よって、屋上全体の防水工事を行っています。
- モルタルで水こう配をを新たに設置していますが、工法は補修工法としてよく利用される一般的な工法を採用しています。
- 建物の築年数は20年を経過していますが、今回初めての防水工事で、保証期間も10年と一般的です。
- 賃貸料の値上げも発生していません。
結論
防水工事は、建物の本来の効用を復活又は、維持するための工事であり、建築時に予想された使用可能期間を延長させるもの、又は建物取得時の価額を増加させるものとは認められないため修繕費として処理することが認められました。
⇒上記事例を見る限り、仮に一部から水漏れをしていても、水漏れ箇所が把握できないので全体を直す場合は修繕費になる可能性があります。
また、修繕として適切なものであれば工事の工法の如何を問わず修繕費になる可能性があります。
平成11年10月15日裁決
事例
- 屋上の美装工事を補修工事とともに床面をはがさず、そのまま床面にウレタン塗装を行う形で行いました。
- 屋上の美装工事は普通の塗装材に比べ上質のものを使用しています。材質的に防水性が高いものです。
- 普通の塗装材に比べ上質のものを使用している理由は壁に亀裂が生じ、壁面剥離が進行しているので、それを防止するためです。普通の塗装材では剥離の進行は止められません。
- 美装工事で建物の耐久性は多少良くなったと言えます。
- 屋上は建築後12年間は補修されていません。
結論
補修とともに行われた美装工事は一般的な美装工事であって、建築後12年経過した時点における一般的な塗り替え美装工事だと言えます。
また、塗装材として「特別に」上質な材料を用いたものでないと認められます。
よって、使用可能期間を延長したり、建物の価額を増加させる要因はないので、修繕費として処理することが認められました。
⇒上記事例を見る限り、建物に生じている問題点を解決し、維持管理のための措置として適切であれば、高価な材料や特殊な工法を採用しても修繕費になる可能性がありそうです。
ただし、「特別に」上質な材料を用いた場合はNGでしょう。
平成13年9月20日裁決
事例
- 本社倉庫の屋根から20か所以上の雨漏りが発生しており、社員が毎月水漏れ防止剤で修理していますが、今回の工事で、屋根の全体にカラートタンを覆い被せました。
- 流通センターの屋根は、雨漏りの箇所が特定できず、防水塗装を行っていましたが効果がありませんでした。
- 流通センターの工事は応急処置的な工事であり、ほかの工事方法と比較して一番安い方法です。
- 流通センターの屋根工事は他の工法と比べて一番安価な方法を採用しましたが、屋根裏に新しく空間ができます。
結論
本社倉庫の屋根は個別に修理ができたのに、屋根全体にカラートタンを覆い被せているで、耐用年数を増加させる工事と認められます。
また、単に雨漏り箇所を修繕するための応急的な措置とは認められないため修繕費とは認められませんでした。
よって、屋根全体の工事代金をそのまま資本的支出として固定資産計上することになりました。
流通センターの屋根は、水漏れ箇所が特定できず、一般的に雨漏りを防ぐためには一番安価な方法であったと認められる工法で応急措置をしています。
また、過去に何度も防水塗装を行なっていましたが、効果がないので、今回工事が行われています。
もし工事を行わなかった場合、建物全体への影響が出てしまう可能性があり、結果的に当初予定した建物使用可能期間を短縮させることにもつながります。
また、工事によって新たにできた屋根裏の空間に利用価値が認められないので、流通センターの工事は修繕費と認められました。
⇒上記事例を見る限り、仮に一部から水漏れをしていても、水漏れ箇所が把握できないので全体を直す場合は修繕費になる可能性があります。
また、修繕として適切なものであれば工事の工法の如何を問わず修繕費になる可能性があります。
まとめ
屋上の防水工事は修繕費に該当してくれた方が、経費に早く計上でき、納税額が減るために資金繰り的には良い訳です。
そこで、裁決をもとに修繕費になる可能性をまとめると、
- 仮に一部から水漏れをしていても、水漏れ箇所が把握できないので全体を直す場合は修繕費になる可能性がある
- 修繕として適切なものであれば工事の工法の如何を問わず修繕費になる可能性がある
- 建物に生じている問題点を解決し、維持管理のための措置として適切であれば、高価な材料や特殊な工法を採用しても修繕費になる可能性がある
といったことになります。
勿論、固定資産になろうが、修繕費になろうが必要な防水工事を必要な時に行うことが事業上は一番なのですが、上記の観点を持つと、税理士さんに「資本的支出です」と言われたものが修繕費に計上できる可能性が出てくることもあるでしょう。
資本的支出と修繕費の判断は非常に難しいため、保守的に資本的支出に区分することが多いですが、それ故、議論の余地もあるところです。
金額も多額になるところなので、是非一度議論してみることをお勧めします。