床材・クロス張り替え費用の勘定科目は修繕費?資本的支出との判断基準を税理士が解説

資本的支出と修繕費の判断方法について

「賃貸物件の床材やクロスを張り替えたが、その費用の勘定科目は修繕費でよいのか」と判断に迷う不動産オーナー(=賃貸物件を所有する個人・法人)は少なくありません。

床材やクロスの張り替え費用は、リフォーム費用の代表例です。リフォーム費用を検討せずに固定資産に計上すると、本来はその年に全額を経費にできた支出を、数年から数十年にわたって少額ずつしか経費にできなくなります。

本記事では、リフォーム費用が修繕費(経費)と資本的支出(固定資産)のいずれに該当するかの判断基準を説明し、床材(フローリング・クッションフロア・畳)とクロスの張り替え費用に当てはめて解説します。

目次

資本的支出と修繕費とは?リフォーム費用は2つに分かれる

税務上、リフォーム費用は資本的支出と修繕費の2つに区分されます。

両者の定義と具体例は、次の表のとおりです。

種類内容
資本的支出建物の価値向上や耐久性の向上をもたらす支出であり、次のいずれかの条件を満たすものです(所得税基本通達37-10「資本的支出の例示」法人税基本通達7-8-1「資本的支出の例示」)。
使用可能期間を延長させる支出(=建物の耐久性を向上させ、長く使用できるようにする支出)
資産の価値を増加させる支出(=価値向上。建物の価値を高める支出)
例えば、1LDKの間取りの部屋を壁で仕切り、2LDKにするための支出は、資産の価値を増加させるため資本的支出と見なされます。
修繕費破損箇所の修理や定期的なメンテナンスのための支出です。
原状回復(=元の状態に戻すこと)のための支出も修繕費になります。
例えば、賃借人が退去し、汚損した部屋の床材や壁紙(クロス)を張り替えた時の支出は、修繕費と見なされます。

資本的支出は固定資産に計上され、減価償却(=数年に分けて少額ずつ経費にする仕組み)を通して経費になります。修繕費は、支出した年度に全額が経費になります。

以上が資本的支出と修繕費の定義です。次章では、いずれの処理が不動産オーナーにとって有利であるかを説明します。

リフォーム費用は修繕費で処理する方が有利

リフォーム費用は、資本的支出よりも修繕費として処理する方が、不動産オーナーにとって有利です。

リフォーム費用が資本的支出として固定資産に計上されると、減価償却費を通して、数年から数十年にわたり緩やかに経費へ振り替えられます。

一方、リフォーム費用が修繕費に計上されれば、不動産オーナーはその年度の経費に全額を直接計上できます。

修繕費として処理すれば、不動産オーナーは納税額を早期に減らせるため、経営上の資金繰りが有利になります。

なお、長期的に見れば、資本的支出で処理しても修繕費で処理しても、リフォーム費用の全額が最終的には経費になります。両者の違いは、経費になる時期の違いです。

経理処理の面でも、修繕費の方が簡便です。資本的支出の場合、不動産オーナーは翌年度以降も減価償却費の仕訳を複数年にわたって行う必要がありますが、修繕費は一度の仕訳で処理が完了します。

修繕費が有利であることを踏まえ、次章では床材とクロスの張り替え費用を修繕費と資本的支出に区分する手順を説明します。

床材・クロスの張り替え費用を修繕費と資本的支出に区分する5つのSTEP

不動産オーナーは、床材とクロスの張り替え費用を、国税庁が示すステップ表に沿って、金額、周期、目的、形式基準、区分の特例の順に修繕費と資本的支出に区分します。

国税庁のステップ表(国税庁タックスアンサー No.1379「修繕費とならないものの判定」、法人はNo.5402「修繕費とならないものの判定」)を床材とクロスの張り替えに当てはめると、次の図のとおりです。

床材・クロス張り替え費用の勘定科目の判定フロー(修繕費か資本的支出か)

いずれかのSTEPで修繕費と判定された張り替え費用は、その時点で修繕費としての処理が確定します。

次章以降では、各STEPを床材とクロスの張り替え費用に当てはめて説明します。

STEP1:20万円未満の床材・クロス張り替え費用は全額修繕費になる

1つの張り替え工事に要した費用が20万円未満であれば、資本的支出(=価値向上)に該当する工事であっても、不動産オーナーは全額を修繕費として処理できます。

国税庁の通達では、1つの修理・改良のために要した金額が20万円に満たない場合、修繕費として経費にできると定められています(所得税基本通達37-12「少額又は周期の短い費用の必要経費算入」法人税基本通達7-8-3「少額又は周期の短い費用の損金算入」)。

個人の不動産オーナーは所得税の通達、法人は法人税の通達が根拠となりますが、20万円という基準はいずれも同一です。

例えば、不動産オーナーがアパートの1室の床を畳からフローリングに変更する工事に、18万円を支払ったとします。畳からフローリングに変更する工事は、資産の価値を増加させるための支出に該当し、本来は資本的支出になります。

しかし、要した費用が20万円未満であるため、不動産オーナーは18万円の全額を、その年の修繕費として経費に計上できます。仕訳は次のとおりです。

借方金額貸方金額
修繕費18万円現金預金18万円

2部屋同時に張り替えた場合の20万円の判定単位

20万円未満かどうかの判定は、通達上「一の修理、改良等」ごとに行います(所得税基本通達37-12法人税基本通達7-8-3)。不動産オーナーが2つの部屋の床材やクロスを同時に張り替えた場合、2つの部屋の工事は別個の工事と考え、部屋ごとに20万円未満かどうかを判定します。

A室の退去に伴う張り替えと、B室の退去に伴う張り替えは、それぞれ別の原因により行う別個の工事です。同時期に工事を行ったことを理由に、1つの工事として合算して判定する必要はありません。

例えば、不動産オーナーがA室の畳をフローリングに変更する工事に18万円、B室の同じ工事に15万円を同じ月に支払ったとします。合計は33万円ですが、部屋ごとに見ればいずれも20万円未満であるため、不動産オーナーは33万円の全額を修繕費として経費に計上できます。

不動産オーナーが工事の見積書や請求書を部屋ごとに金額が判別できる形で保管しておけば、税務調査の際に工事ごとの金額が20万円未満であることを説明しやすくなります。

張り替え費用が20万円以上の場合は、STEP2の周期の確認に進みます。

STEP2:おおむね3年以内の周期で行う床材・クロスの張り替えは修繕費になる

おおむね3年以内の周期で繰り返し行うことが過去の実績から明らかな床材(フローリング・クッションフロア・畳)やクロスの張り替え工事は、20万円以上であっても修繕費になります。

国税庁の通達では、修理・改良がおおむね3年以内の期間を周期として行われることが既往の実績その他の事情から明らかである場合、修繕費として経費にできると定められています(所得税基本通達37-12法人税基本通達7-8-3)。

退去ごとに同程度の床材やクロスへ張り替える工事は原状回復に該当するため、周期にかかわらずSTEP3の目的の確認で修繕費と判定されます。

STEP2の周期の基準が実際に機能するのは、入居者の入替えに合わせて3年以内の周期で全室のクロスを上位グレードの製品へ張り替えるなど、価値向上を伴う張り替えを定期的に行っている場合です。

周期が明らかであることは、不動産オーナーが過去の工事履歴や請求書によって示す必要があります。

ただし、3年以内の周期で床材やクロスを張り替えることは経済的合理性に乏しく、張り替えの都度、上位グレードの製品を採用することも通常はありません。STEP2で修繕費と判定される事例は、実務上極めてまれです。

周期の基準に該当しない張り替え費用は、STEP3の目的の確認に進みます。

STEP3:床材・クロスの張り替えは原状回復なら修繕費、価値向上なら資本的支出

床材(フローリング・クッションフロア・畳)とクロスの張り替え費用は、原状回復のみであれば修繕費、性能の向上や仕様の変更であれば資本的支出(固定資産)になります。

退去後に汚損したクッションフロア(CF)などの床材やクロス(壁紙)を、同程度の材料で張り替える工事は、原状回復のための支出です。原状回復のための工事費用は、金額の大小にかかわらず修繕費として処理できます。

畳の表替え(=畳表のみを新しくする作業)や、傷んだ畳を同種の畳に交換する工事も、元の状態に戻すための支出であるため修繕費になります。

一方、畳の部屋をフローリングに変更する工事や、標準的なクロスを高機能な材料に変更する工事は、部屋の価値を高める支出です。価値を高める工事の費用は資本的支出に該当し、固定資産に計上します。

よくある誤り

  • 20万円未満かどうかを確認せず、価値向上の工事をすべて資本的支出として処理する:20万円未満であれば全額を修繕費として経費にできるため、経費計上の機会を逃すことになります。
  • 原状回復か価値向上かを区別せず、床材の張り替えをすべて修繕費として処理する:20万円以上の価値向上工事が含まれていると、税務調査において資本的支出への修正を求められます。

原状回復か価値向上か明らかでない金額がある場合は、STEP4の形式基準で判定します。

STEP4:原状回復か価値向上か明らかでない金額は形式基準(60万円未満・建物の取得価額の10%以下)で修繕費になる

原状回復か価値向上か明らかでない金額は、60万円未満であるか、又は建物の前年末(法人は前事業年度末)の取得価額のおおむね10%以下であれば、修繕費として処理できます所得税基本通達37-13法人税基本通達7-8-4)。

取得価額とは、建物の購入代金や建築代金に、購入時の付随費用とその後の資本的支出を加えた金額です。床材やクロスは建物と一体となるため、判定に用いる取得価額は建物の取得価額です。

形式基準は、60万円未満と建物の取得価額の10%以下のいずれか一方を満たせば適用できます。

例えば、不動産オーナーが退去後の1室の原状回復工事で、汚損したクロスの張り替えに合わせて部屋全体を防汚・防カビ機能付きのクロスに変更し、35万円を支払ったとします。見積書で原状回復の部分と機能向上の部分の金額が区分されていない場合、35万円は原状回復か価値向上か明らかでない金額です。

35万円は60万円未満であるため、不動産オーナーは全額を修繕費として処理できます。

建物の取得価額5,000万円のアパートであれば、10%は500万円です。明らかでない金額が60万円以上であっても、500万円以下であれば修繕費として処理できます。

形式基準を適用できるのは、原状回復か価値向上か明らかでない金額に限られます。畳からフローリングへの変更のように価値向上が明らかな工事には、金額の大小にかかわらず形式基準は適用されず、STEP3で資本的支出と判定されます。

形式基準の金額を超える、原状回復か価値向上か明らかでない張り替え費用は、STEP5の区分の特例に進みます。

STEP5:形式基準でも判断できない金額は30%基準(区分の特例)で修繕費と資本的支出に分ける

形式基準の金額を超える、原状回復か価値向上か明らかでない金額は、その金額の30%と建物の前年末(法人は前事業年度末)の取得価額の10%のいずれか少ない金額を修繕費、残額を資本的支出として区分できます所得税基本通達37-14法人税基本通達7-8-5)。

床材やクロスの張り替えでこの段階に至るのは、金額が60万円以上かつ建物の取得価額の10%を超え、原状回復と価値向上の部分が区分されていない工事です。

例えば、建物の取得価額650万円のアパートで、不動産オーナーが全室の原状回復工事に合わせてクロスを防汚・防カビ機能付きの製品に変更し、70万円を支払ったとします。見積書で原状回復部分と機能向上部分が区分されていない場合、70万円は60万円以上で建物の取得価額の10%(65万円)も超えるため、形式基準は適用できません。

区分の特例を適用すると、70万円の30%は21万円、建物の取得価額の10%は65万円です。両者のうち少ない金額である21万円を修繕費、残額の49万円を資本的支出として区分できます。

区分の特例は、不動産オーナーが継続してこの方法により区分していることが適用の条件です。

区分の特例を適用しない場合、不動産オーナーは工事業者から原状回復部分と機能向上部分の内訳を取り寄せるなどして、明らかでない金額を修繕費と資本的支出に実際に区分する必要があります。

まとめ:床材・クロスの張り替え費用が修繕費か資本的支出かはステップ表の順に判定する

床材とクロスの張り替え費用が修繕費か資本的支出かは、金額(20万円)、周期(3年)、目的(原状回復か価値向上か)、形式基準(60万円・建物の取得価額の10%)、区分の特例(30%)の順に判定します。

本記事の要点

  • STEP1 20万円未満の張り替え工事は全額修繕費:床材やクロスの張り替え工事1件の費用が20万円未満であれば、工事の内容にかかわらず全額を経費にできます。金額は部屋ごとの工事単位で判定します。
  • STEP2 3年以内の周期で行う張り替えは修繕費:3年以内に繰り返し行うことが過去の実績から明らかな張り替え工事は、20万円以上でも経費にできます。
  • STEP3 原状回復なら修繕費、価値向上なら資本的支出:汚損した床材やクロスを同程度の材料で張り替える工事は経費になり、畳をフローリングに変えるなど部屋の価値を高める工事は固定資産になります。
  • STEP4 原状回復か価値向上か明らかでない金額は形式基準で修繕費:明らかでない金額が60万円未満であるか、建物の取得価額の10%以下であれば、経費にできます。
  • STEP5 形式基準を超える金額は30%基準で分ける:明らかでない金額の30%と建物の取得価額の10%のうち少ない方を経費にし、残りを固定資産にします。継続して同じ方法で区分することが条件です。

床材やクロスの張り替え費用の勘定科目に迷った場合は、工事の見積書・請求書を確認し、ステップ表のSTEP1から順に当てはめて判定してください。

床材・クロスの張り替え費用の勘定科目に関するFAQ(よくある質問)

床材やクロスの張り替え費用の勘定科目について、よく寄せられる質問をまとめました。

床材やクロスの張り替え費用の20万円未満の判定は、税込と税抜のいずれの金額で行いますか?

不動産オーナーが採用している消費税の経理方式に応じた金額で判定します。税込経理方式であれば税込金額、税抜経理方式であれば税抜金額で20万円未満かどうかを判定します。

免税事業者の不動産オーナーは税込経理方式となるため、税込金額で判定します(国税庁「消費税法等の施行に伴う所得税の取扱いについて」9、法人は「消費税法等の施行に伴う法人税の取扱いについて」9)。

賃貸物件の退去後に床材とクロス(壁紙)を張り替えた費用の勘定科目は何ですか?

退去後の原状回復のために床材とクロスを張り替えた費用の勘定科目は、修繕費です。

汚損した床材やクロスを同程度の材料で張り替える工事は原状回復のための支出であるため、金額にかかわらず修繕費として経費に計上できます。畳からフローリングへの変更のように部屋の価値を高める工事は、20万円以上であれば資本的支出(固定資産)になります。

床材やクロスの張り替え費用が、原状回復か価値向上か判断できない場合はどのように処理しますか?

原状回復か価値向上か判断できない金額が60万円未満、又は建物の前年末の取得価額のおおむね10%以下であれば、形式基準により修繕費として処理できます。

形式基準の金額を超える場合は、継続適用を条件に、その金額の30%と建物の取得価額の10%のいずれか少ない金額を修繕費、残額を資本的支出として区分できます。

参考文献

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