スーツ代を経費にできるかは、個人事業主と法人で扱いが異なります。
さらに法人では、会社が買ったスーツを従業員に支給するか役員に支給するかで、会社の経費にできるかどうかが変わります。
この記事では、個人事業主と法人でスーツ代が経費になるかどうか、勘定科目や注意点まで、税理士が法令にもとづいてわかりやすく解説します。
なお、前提条件として、作業着・制服など業務専用の衣類は、個人事業主でも法人でも経費になります。
スーツ代が経費になるかは衣類の種類と立場で決まる
スーツ代は、作業着・制服など業務専用の衣類なら経費になりますが、ふだんも着られる通常のスーツは立場によって扱いが分かれます。
まず、立場ごとの扱いを早見表で確認しましょう。
| 立場 | 通常のスーツ代 | 作業着・制服など業務専用のスーツ代 |
|---|---|---|
| 個人事業主 | 全額を経費にするのは厳しい。家事按分で私用分と分ければ業務分は経費の余地 | 経費になる |
| 法人:従業員に支給 | 会社の経費になる(給与)。従業員には現物給与として給与所得の所得税がかかる | 経費になる |
| 法人:役員に支給 | 役員賞与と認定され会社の経費にならず、役員にも現物給与として給与所得の所得税がかかる | 経費になる |
次に、この記事で使う用語を整理します。
- 家事関連費
-
事業用と生活用が混ざった費用。業務で使う部分を区分できれば、その部分は経費にできます。
- 現物給与
-
会社が金銭以外(スーツなど)で支給する給与。受け取った人に給与所得として所得税がかかります。
- 役員賞与
-
役員に対する臨時の給与。一定の要件を満たさないと、原則として会社の経費になりません。
個人事業主のスーツ代は経費になる?
個人事業主が通常のスーツ代を全額経費にするのは、税務上の判断が分かれるグレーな論点です。
私服にもなるスーツは生活のための支出(家事費)とみなされやすく、衣服費が争われた過去の裁判でも、私生活でも使える衣服は個人的な支出(家事費)にあたるとして、必要経費と認められにくいと判断されてきました(所得税法45条)。
一方、家事按分で私用分と業務分を合理的に分け、業務分だけを経費にするのであれば、これを明確に否定する根拠もなく、認められる余地があります(家事関連費。所得税法施行令96条)。
つまり「全額はまず通らないが、業務分を区分した按分ならグレー(やってみる余地あり)」が実情です。経費にする場合は、業務でどれだけ使ったかを説明できる記録を残しておきましょう。
経費にする場合の勘定科目は、消耗品費が一般的です。
法人が作業着・制服代を負担する場合
会社が作業着・制服など業務専用とはっきり分かる衣類を支給・貸与する場合は、会社の経費になり、受け取った従業員・役員にも所得税はかかりません。
これは、専ら勤務時に着用し私用に適さない制服・事務服が、受け取った従業員・役員に所得税がかからない「非課税の現物給与」とされるためです(所得税法9条1項6号、所得税法施行令21条2号・3号、所得税基本通達9-8)。
会社の経費(損金)として処理するときの勘定科目は、福利厚生費または消耗品費が一般的です。
なお福利厚生費は従業員の福利のための費用のため、従業員のいない一人社長の会社などでは対象となる従業員がおらず、消耗品費で処理します。
法人が通常のスーツ代を負担する場合(従業員と役員で違う)
会社が通常のスーツ代を負担すると、従業員に渡すか役員に渡すかで結論が大きく変わります。
従業員にスーツ代を支給する場合は、会社の経費(給与)になります。
ただし、スーツの現物支給は従業員にとって現物給与にあたり、その分が給与に上乗せされて、従業員に給与所得として所得税がかかります。
役員にスーツ代を支給する場合は、役員給与で会社の経費にできるのは定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与のいずれかに限られ、スーツの臨時支給はどれにも当たりません。
そのため役員賞与と認定され、会社の経費になりません(法人税法34条)。
さらに役員個人に給与所得として所得税もかかります。
会社がスーツ代を負担する場合について、「会社の経費になるか」と「受け取る人の所得税」を表で整理します。
| 支給先 | 会社の経費になる? | 受け取る人の所得税 |
|---|---|---|
| 従業員・役員(作業着・制服) | なる(福利厚生費・消耗品費など) | 課税なし |
| 従業員(通常のスーツ) | なる(給与) | 給与所得として課税 |
| 役員(通常のスーツ) | ならない(役員賞与と認定) | 給与所得として課税 |
スーツ代を経費にするときの注意点
経費にできるかで迷いやすい点を、個人事業主と法人に分けて整理します。
個人事業主の場合、通常のスーツを全額経費にすると、税務調査で否認されるリスクがあります。経費にするなら、業務での使用実態や按分の根拠を記録に残しましょう。
法人の場合、役員への通常のスーツの支給は役員賞与と認定され、会社の経費になりません。さらに役員個人にも給与所得として所得税がかかるため、会社は経費にできず、役員の税負担も増えるダブルパンチになります。
スーツ代が経費になるかのまとめ
スーツ代が経費になるかは、衣類の種類と立場で決まります。
・作業着・制服など業務専用の衣類:個人・法人どちらも経費になる
・個人事業主の通常のスーツ:全額は認められにくいが、家事按分できれば業務分は経費の余地(グレー)
・法人が従業員に渡す通常のスーツ:会社の経費になる(給与)が、従業員に所得税がかかる
・法人が役員に渡す通常のスーツ:役員賞与と認定され会社の経費にならず、役員にも所得税(ダブルパンチ)
よくある質問(FAQ)
- 個人事業主のスーツ代は経費になりますか?
-
通常のスーツを全額経費にするのは難しく、税務調査で否認される可能性が高い費用です。スーツは私生活でも着られる「家事費(個人的な支出)」とみなされやすいためです。
ただし、家事按分(私用と業務で使った割合に分けること)で業務に使った分だけを経費にするのであれば、認められる余地もあります。
- 会社が従業員にスーツを買うと経費になりますか?
-
会社が従業員に通常のスーツを買うと、その費用は給与として会社の経費になります。
ただし、スーツの現物支給は、従業員にとって「現物給与」(お金以外で受け取る給与)にあたります。そのため、その分が従業員の給与に上乗せされ、受け取った従業員に給与所得として所得税がかかります。
- 会社が役員にスーツを買うと経費になりますか?
-
原則として会社の経費になりません。
役員給与で会社の経費にできるのは、定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与の3つに限られます。スーツの臨時の支給はどれにも当たらないため、役員賞与と認定され、会社の経費になりません(法人税法34条)。
さらに役員個人にも給与所得として所得税がかかり、会社・役員の双方に不利になります。
- 作業着や制服は経費になりますか?
-
なります。
社名入りの作業服など、私用には使えない業務専用とわかる衣類は、個人事業主も法人も経費にできます。
法人が従業員・役員に支給した場合も、受け取った人に所得税はかかりません。
一方、普段私服としても着られる通常のスーツは、この業務専用の衣類には当てはまりにくく、扱いが分かれます。
- スーツ代の勘定科目は何ですか?
-
個人事業主が経費にできる場合は、消耗品費を使うのが一般的です。
法人が従業員に渡す通常のスーツは給与、作業着・制服は福利厚生費や消耗品費などで処理します。
なお、役員に渡す通常のスーツは役員賞与となり、会社の経費にはなりません。
出典・参考


コメント
コメント一覧 (2件)
凡例の経費(消耗品)ですが、
96,000 X ( 5 / 7 ) = 68,571円
となるのではないでしょうか?
大変失礼しました。
金額が間違っていたため、修正しました。
ご連絡ありがとうございます。