- 家賃の収入計上時期を知りたい個人事業主
- 賃借人から長期間の家賃を前受けでもらっている個人事業主
- 家賃の長期滞納時の取り扱いを知りたい賃貸人である個人事業主
家賃の収入計上時期について
賃貸人である個人事業主が受け取る家賃の所得税法上の収入計上時期は以下のように定められています。
- 契約で定められた家賃受取日
- 契約で家賃受取日の定めがない場合は、実際の家賃の受取日
- 家賃に関しての争いがあった場合は判決や和解等があった日
実務上、不動産賃貸借契約書は各不動産団体(全国宅地建物取引業保証協会と全日本不動産協会)から標準ひな形が発表されており、必ず家賃の受取日に関する記載があります。
よって、基本的には、契約で家賃受取日の定めがない場合はあり得ないので、家賃に関する紛争がある場合を除いて、契約で定められた家賃受取日が所得税法上の家賃の収入計上日になります。
事業年度中は現金主義でも良い!
契約で定められた家賃受取日が所得税法上の収入計上日だとすると、賃貸人は毎月以下の仕訳を行うことになります。
【契約で定められた家賃受取日の仕訳】
借方
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金額
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貸方
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金額
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---|---|---|---|
未収入金
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10万円
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賃貸料
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10万円
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【実際に家賃を受け取った日の仕訳】
借方
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金額
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貸方
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金額
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---|---|---|---|
普通預金
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10万円
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未収入金
|
10万円
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契約で定められた家賃受取日に賃貸料(収入)を貸方に計上すると共に、未収入金の増加を借方に計上します。
そして、実際に家賃を受け取った日に未収入金の減少を貸方に計上すると共に、普通預金の増加を借方に計上します。
ただし、原則通りに仕訳する方法では、必ず仕訳を2回しなければならず、実務上非常に煩雑です。
そこで、原則通りの仕訳で、事業年度中に未収入金が相殺されるて無くなることに着目して、事業年度中は実際に家賃を受け取った日に簡便的に以下の仕訳をすることも実務上は多いです。
【実際に家賃を受け取った日の仕訳】
借方
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金額
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貸方
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金額
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---|---|---|---|
普通預金
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10万円
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賃貸料
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10万円
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なお、簡便的な仕訳を行った場合、期末の賃貸料(収入)の金額については注意しなくてはなりません。
すなわち、事業年度中では、実際に家賃を受け取った日(入金日)に収入計上を行っていますが、このままでは、契約書で定められた家賃受取日を経過しているのに、まだ実際に家賃を受け取っていない事業年度末の賃貸料(収入)を取りこぼしてしまいます。
よって、事業年度末日後に、追加手続きとして、賃借人からまだ入金されていないけど、賃貸借契約書の家賃受取日付を超えているものを調査して、賃借料(収入)に追加計上する仕訳をしなければなりません。
ちなみに、収入の追加計上の仕訳は以下のようになります。
【期末日の家賃の追加仕訳】
借方
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金額
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貸方
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金額
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---|---|---|---|
未収入金
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10万円
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賃貸料
|
10万円
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長期の家賃滞納がある場合は特に注意!
個人事業主である賃貸人の多くは、以下の簡便的な処理方法を採用しています。
- 事業年度中は、実際に家賃を受けとった日に賃貸料の仕訳を計上する
- 期末日に契約で定められた家賃受取日の賃貸料の調整仕訳をする
事業年度中の仕訳が1本で済むのとお金の流れと通帳残高が一致するため、簡便な処理方法は、経理初心者でも理解しやすいというメリットが大きく、かなり多くの個人事業主が簡便的な処理方法を採用しています。
ただし、簡便的な処理方法を採用する場合で、長期の家賃滞納がある場合は十分に注意が必要になります。
実際に家賃を受け取った日に賃貸料の仕訳をするということは、家賃が入金されなければ、賃貸料の仕訳は行われず、結果、家賃収入が本来計上されるべき金額より少なくなります。
本当は、期末日後の調整仕訳で(借方)未収入金/(貸方)賃貸料で長期の家賃滞納分も仕訳をして欲しいのですが、計上されていないケースも多いです。
もし、期末日後に追加仕訳を行わず、賃貸料(収入)を計上していなければ、税務調査時に延滞税や加算税の対象になります。
家賃滞納期間が長いとそれだけ本来計上される賃貸料との乖離が大きくなり、延滞税や加算税も多くなってしまうので十分に注意してください。
前受金を計上することも考えよう!
賃借人から受け取る家賃ですが、不動産賃貸借契約書上では翌月分を当月末払いとして定めているのが一般的です。
よって、翌事業年度の1月分の家賃は、当事業年度の12月末日に契約書の家賃受取日が到来し、賃貸料(収入)計上が必要になります(もちろん、入金がなくても当事業年度の収入に計上しなくはなりません)。
しかし、本質論で考えると、1月分の家賃は翌事業年度の家賃なので、当事業年度の収入に計上するのは非常に違和感があります。
翌事業年度の1月に部屋を貸すという未来の役務提供になるものを当事業年度の12月末に収入計上してくれというのは、非常に変な話です(上場企業ならば否定される処理方法です)。
よって、所得税法上も一定の要件を満たせば、「当事業年度の12月末日に契約書の家賃受取日が到来したものでも、翌事業年度の1月に家賃を収入計上していいよ!」という特例があります。
なお、一定の要件とは以下のようになります。
- 帳簿書類を備えて継続的に記帳を行っている
- 期末直前に受け取った翌年度分の家賃を前受金に計上している
- 前受金の明細書を作成して、確定申告書に添付している
この場合、当事業年度の12月末日付近で実際に受け取った賃借人からの1月分の賃料については、前受金という勘定科目で処理することになります(賃貸料ではなくなります)。
【期末日付近で受け取った翌年度分の家賃の仕訳】
借方
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金額
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貸方
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金額
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---|---|---|---|
普通預金
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10万円
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前受金
|
10万円
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そして、翌事業年度の期首(1月1日)に前受金を取り崩して賃貸料(収入)を計上することになります。
【翌事業年度期首の賃貸料の仕訳】
借方
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金額
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貸方
|
金額
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---|---|---|---|
前受金
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10万円
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賃貸料
|
10万円
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原則論に基づくのならば、契約で定められた家賃受取日が到来した時点で賃貸料として収入計上をしなければ、賃貸料の計上漏れになりますが、特例を利用して、さらに入金日に前受金の仕訳を計上しておけば、契約書の家賃受取日が期末間際のものの収益計上漏れが発生しなくなり(翌事業年度の家賃だから)、税務リスクの軽減と仕訳入力の手間が省けます。
つまり、契約書上、12月末に受け取る予定の家賃は翌事業年度分(1月分)の家賃なので、実際に12月末日に入金があっても、前受金に計上しておけばよく、賃貸料(収入)に計上する必要がないため、そもそも賃貸料(収入)を間違えるリスクもなくなり、期末日後の調整の手間も省けるということです。
ただし、長期の家賃滞納については、期末日後にきちんと調整しないと間違えます(当事業年度の家賃だから)ので注意してください。
なお、おさらいですが、期末日後に調整する長期の家賃滞納(1か月超の家賃滞納)を計上する仕訳は以下の通りになります。
借方
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金額
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貸方
|
金額
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---|---|---|---|
未収入金
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30万円
(1か月超滞納額) |
賃貸料
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30万円
(1か月超滞納額) |
賃借人から事前に家賃が支払われた場合について
例えば、賃借人が今年の10月分の家賃から1年分の家賃を先に振り込んできてしまった場合、所得税法上どう処理したらよいでしょうか。
10月、11月、12月分の家賃は契約書上の受取日も経過するので当事業年度の賃貸料(収入)に計上し、翌年の1月~9月分の家賃はお金をもらっているけど、当事業年度の賃貸料(収入)ではないので、翌事業年度の賃貸料(収入)に計上できるように、前受金(負債)として認識することになります。
実務上の仕訳は以下の通りです。
【家賃が振り込まれた時】
厳密に言えば、入金された全額を一旦前受金に計上し、月次で賃貸料(収入)に振り替えていきます。
当事業年度は10月、11月、12月の3か月分を賃貸料(収入)に振り替えます。
ただし、振り替え処理をするのは手間なので、入金日に3か月分を賃貸料処理し、9か月分を前受金処理しても同じ結果になります。
借方
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金額
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貸方
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金額
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---|---|---|---|
普通預金
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120万円
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賃貸料
前受金 |
30万円
90万円 |
【翌年度に前受金を賃貸料に振り替える】
厳密に言えば、月次で前受金から賃貸料(収入)に振り替えるべきですが、煩雑なので、前受金として受け取っている金額の契約書上の最終の支払日に前受金を賃貸料(収入)に振り替えても良いでしょう。
借方
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金額
|
貸方
|
金額
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---|---|---|---|
前受金
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90万円
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賃貸料
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90万円
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なお、今回紹介した仕訳は手間を省くための仕訳例です。
厳密に仕訳を計上したい人は月次で前受金の振り替え処理をしてください。