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配偶者居住権の相続税評価|計算式・節税効果・小規模宅地特例との関係を税理士解説

2026 6/05
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相続-基本
2026年6月29日
配偶者居住権は相続税法で評価対象になる!節税対策で利用するためには?

「夫が亡くなったあとも、妻が自宅に住み続けられるか心配」「自宅を妻に相続させると、子に渡せる現金が足りなくなる…」――こうした悩みは、自宅をお持ちの多くのご家庭が抱える共通の課題です。

2020年4月にスタートした配偶者居住権を使えば、この問題は解決できます。

たとえば、自宅の評価額が1億円のご家庭なら、妻には「自宅に住む権利」、子には「自宅の所有権」と分け合うことで、一次相続の遺産分割がスムーズに進みます。

さらに妻が亡くなった二次相続では、妻が持っていた住む権利は消滅しますが、子は一次相続ですでに自宅の所有権を取得済みのため、約5,500万円分の自宅の価値が相続税ゼロで実質的に子のものになる可能性もある画期的な新制度です。

本記事では配偶者居住権の相続税評価方法・計算式・節税効果・注意点を、計算例とFAQを交えて、税理士が初心者にもわかりやすく解説します。

目次

配偶者居住権とは|2020年4月施行の自宅を守る権利

配偶者居住権とは、被相続人が所有していた建物に、残された配偶者が無償で生涯住み続けられる権利です。

2020年4月1日以後に発生した相続から適用されています。

建物の所有権と居住権を分離し、配偶者には居住権だけを取得させることで、自宅という大きな財産を子に残しつつ配偶者の生活基盤も守れるのが最大の特徴です。

配偶者居住権の3つの成立要件(民法第1028条)

① 相続開始時に配偶者がその建物に居住していたこと

② 建物が被相続人の単独所有または配偶者との共有であったこと

③ 遺産分割協議・遺言・家庭裁判所の審判のいずれかで配偶者居住権を取得すること

なお、似た名前の配偶者短期居住権は、相続開始から遺産分割確定(最低6か月間)までのつなぎの権利であり、本記事で扱う配偶者居住権(長期)とは別物です。

配偶者居住権の評価対象は4つに分かれる

配偶者居住権が設定された自宅の相続税評価額は、①配偶者居住権(建物)/②居住建物の所有権/③敷地利用権(土地)/④敷地所有権の4つに分けて評価し、4つの合計は元の建物・土地の相続税評価額と一致します。

①配偶者居住権(建物)

配偶者が建物に住み続ける権利。配偶者が取得し、配偶者の相続財産になる。

②居住建物の所有権

建物そのものを所有する権利(負担付所有権)。子などが取得する。

③敷地利用権(土地)

配偶者居住権に基づき、敷地(土地)を利用する権利。配偶者が取得する。

④敷地所有権

土地を所有する権利(負担付所有権)。子などが取得する。

ポイント:配偶者は①と③を、子などの他の相続人は②と④を取得します。これにより自宅の権利が二分され、一次相続では4つすべてに相続税が課税されますが、配偶者の死亡時(二次相続)には①③が法的に消滅します。②④は一次相続時にすでに子が取得しているため、二次相続では①③の負担が外れた完全な所有権が新たな相続税負担なしで子の手に残る——これが節税の仕組みです。

配偶者居住権(建物)の相続税評価額の計算式

配偶者居住権(建物)の相続税評価額は、次の計算式で算出します(相続税法第23条の2)。

配偶者居住権(建物)の相続税評価額=建物の相続税評価額 - 建物の相続税評価額 × (残存耐用年数 - 存続年数)÷ 残存耐用年数 × 存続年数に応じた複利現価率

建物の相続税評価額

配偶者居住権が設定されていない場合の相続税評価額(固定資産税評価額)。

残存耐用年数

建物の法定耐用年数の1.5倍から築年数を控除した年数。木造住宅なら法定耐用年数22年×1.5=33年からスタート。

存続年数

配偶者居住権が存続する年数。配偶者の平均余命表を使用します。

複利現価率

民法の法定利率(相続開始時点では年3%)から算出される割引係数。

配偶者居住権の評価に必要な平均余命表と複利現価率表は、国税庁の「No.4666 配偶者居住権等の評価」に最新版が掲載されています(平均余命は厚生労働省「完全生命表」、複利現価率は民法の法定利率がベース)。相続開始時点の最新版をご確認ください。

なお、上記の国税庁No.4666の正式な計算式では「建物の時価」「土地の時価」と表記されますが、相続税の文脈では、実質的に相続税評価額(建物:固定資産税評価額/土地:路線価方式または倍率方式)を指します。本記事ではわかりやすさを優先して「相続税評価額」と統一表記しています。

一方、居住建物の所有権の相続税評価額は、次のシンプルな引き算で求められます。

居住建物の所有権の相続税評価額=建物の相続税評価額 - 配偶者居住権の相続税評価額

敷地利用権(土地)の相続税評価額の計算式

敷地利用権(土地)の相続税評価額は、次の計算式で算出します。

敷地利用権(土地)の相続税評価額=土地の相続税評価額 - 土地の相続税評価額 × 存続年数に応じた複利現価率

土地は建物と違って耐用年数の概念がないため、計算式に残存耐用年数は登場しません。

一方、敷地所有権の相続税評価額は、次の引き算で求められます。

敷地所有権の相続税評価額=土地の相続税評価額 - 敷地利用権の相続税評価額

【計算例】自宅(相続税評価額1億円)で配偶者居住権を活用|建物・土地の評価額と約5,504万円の節税効果

では、次の前提条件で実際に計算してみましょう。

前提条件

  • 建物の相続税評価額:4,000万円(木造・築10年)
  • 土地の相続税評価額:6,000万円
  • 残存耐用年数:33年(木造建物の法定耐用年数22年×1.5) − 10年 = 23年
  • 配偶者(妻)の年齢・平均余命:75歳・存続年数16年
  • 複利現価率(16年・年3%):0.623

①建物の評価

区分計算式評価額
配偶者居住権4,000万円 −(4,000万円 ×(23−16)÷ 23 × 0.623)約3,242万円
建物所有権4,000万円 − 3,242万円約758万円

②土地の評価

区分計算式評価額
敷地利用権6,000万円 −(6,000万円 × 0.623)約2,262万円
敷地所有権6,000万円 − 2,262万円約3,738万円

シミュレーション結果のまとめ

妻が取得:配偶者居住権3,242万円 + 敷地利用権2,262万円 = 約5,504万円

子が取得:建物所有権758万円 + 敷地所有権3,738万円 = 約4,496万円

二次相続時、妻が亡くなると配偶者居住権・敷地利用権は消滅します。子は一次相続で建物所有権・敷地所有権(計約4,496万円)をすでに取得済みのため、二次相続では自宅関連の新たな相続税は一切かからず、①配偶者居住権(建物)・③敷地利用権(土地)の負担が外れた完全所有権(価値1億円相当)が子の手に残ります。

※本記事の計算例は令和2年(2020年)完全生命表+民法の法定利率年3%(令和2年4月施行)をベースとした参考値です(いずれも現時点での最新版)。完全生命表は5年ごと、法定利率は3年ごとに見直しがあるため、将来改定された場合は相続開始時点の最新版をご確認ください。

配偶者居住権で節税できる仕組み|一次相続と二次相続

配偶者居住権の最大の節税効果は二次相続時に配偶者居住権が無税で消滅する点にあります。

相続のタイミング課税対象節税のポイント
一次相続(夫の死亡)①②③④すべて課税妻は配偶者の税額軽減(1.6億円まで非課税)で実質負担ゼロにできる
二次相続(妻の死亡)①配偶者居住権(建物)・③敷地利用権(土地)は消滅し課税対象外/②居住建物の所有権・④敷地所有権は一次相続で取得済みのため新たな課税なし配偶者居住権がなければ自宅全額が二次相続で課税されるが、①配偶者居住権(建物)・③敷地利用権(土地)相当(約5,504万円)が課税対象から外れる

配偶者居住権が向いているケース

① 自宅以外の遺産が少なく、妻に自宅を相続させると子に渡せる現金が不足するケース

② 子が複数いて、自宅は妻に住み続けてほしいが将来は子に確実に承継したいケース

③ 二次相続まで含めた相続税負担を最小化したいご家庭

配偶者居住権を設定する3つの方法【比較】

配偶者居住権は自動的には発生しません。

次の3つの方法のうちいずれか1つを選択して取得する必要があります。

それぞれの概要・メリット・デメリットを比較表で整理しました。

設定方法概要メリットデメリット
①遺言で設定被相続人が生前に「配偶者に配偶者居住権を遺贈する」旨の遺言書を作成しておく方法。公正証書遺言が最も確実。被相続人の意思が明確に反映される/相続発生後の話し合い不要遺言書の作成・保管・検認の手間/遺留分侵害のリスク
②遺産分割協議で設定相続開始後に相続人全員が話し合い、遺産分割協議書に配偶者居住権を取得する旨を記載する方法。遺言がなくても利用可能/柔軟に内容を決められる相続人全員の合意が必須/合意できないと利用不可
③家庭裁判所の審判で設定協議がまとまらない場合に、家庭裁判所に申し立てる方法。配偶者の生活維持の必要性などが判断基準。他の相続人が反対しても設定可能時間・費用がかかる/審判結果は不透明

どの方法を選ぶべきか:被相続人の生前に判明していれば①遺言が最も確実です。すでに相続が発生していて全員の合意が見込めるなら②遺産分割協議、合意できなければ③審判という流れになります。

相続発生〜登記完了までの実際の手続きフロー

配偶者居住権を設定するときの時系列の流れは次のとおりです。

とくに最後の登記は忘れがちなので注意してください。

STEP
相続の開始(被相続人の死亡)

相続開始日(被相続人が亡くなった日)から、相続税の申告期限(10か月以内)と登記準備のスケジュールが動き始めます。

STEP
遺言の有無と内容を確認

公正証書遺言は公証役場で内容を確認できます(検認は不要)。

自筆証書遺言の場合は家庭裁判所での検認が必要です(法務局の自筆証書遺言保管制度を利用していた場合は不要)。

STEP
必要書類の準備(①遺言書/②遺産分割協議書/③審判書)

STEP2で確定済みの設定方法に応じて必要書類を整えます。

①なら遺言書、②なら相続人全員の遺産分割協議書、③なら家庭裁判所の審判書です。

遺言がない場合はこの段階で②協議を進め、合意できなければ③審判を申し立てます。

STEP
法務局で配偶者居住権の登記申請

建物の所在地を管轄する法務局へ、登記原因証明情報・印鑑証明書などを添えて申請します。

登録免許税は建物の固定資産税評価額の0.2%です。

配偶者居住権の登記は建物のみで行い、土地(敷地利用権)には独立した登記制度はありませんが、建物の登記により敷地使用権も含めて第三者対抗要件が備わる仕組みです。

STEP
登記完了・相続税申告

登記が完了して初めて第三者対抗要件が備わります。

相続税の申告(相続開始から10か月以内)と合わせて完了します。

登記を忘れると第三者に対抗できません

配偶者居住権は法務局で登記して初めて第三者に対抗できる権利になります。建物所有者となった子が第三者へ建物を売却した場合、登記がなければ配偶者は退去を求められる恐れがあります。成立後は速やかに登記手続きを行ってください。

配偶者居住権の落とし穴|小規模宅地等の特例との関係

配偶者居住権を安易に設定すると小規模宅地等の特例(80%評価減)を最大限に活用できず、かえって相続税が増えるケースがあります。

よくある間違い①:子が小規模宅地等の特例の要件を満たさないケース

小規模宅地等の特例は、自宅の土地について330㎡まで相続税評価額が80%減額される強力な特例ですが、適用には取得者の要件があります。配偶者が取得すれば無条件で適用できる一方、子が取得する場合は「同居している」または「家なき子」の要件を満たす必要があります。配偶者居住権を設定すると土地が敷地利用権(妻分)と敷地所有権(子分)の2つの権利に分かれ、子が同居・家なき子のいずれの要件も満たさない場合、敷地所有権部分には特例が適用されません。結果として、配偶者居住権を使わず妻が全部取得して特例を100%活用するほうが、一次相続の節税効果が大きいケースがあります。

よくある間違い②:高齢配偶者の場合、節税効果が想定より小さくなる

配偶者居住権の節税メリットは、妻が長く住み続けることで配偶者居住権の評価額が大きくなり、二次相続時に消える金額も増えることに依存します。配偶者が高齢で平均余命が短い場合は配偶者居住権の評価額自体が小さくなるため二次相続の節税効果も限定的になり、小規模宅地等の特例だけを使ったほうが結果的に有利になることもあります。

よくある間違い③:賃貸併用・店舗併用住宅で対象範囲を見誤るケース

配偶者居住権の対象は居住部分のみで、事業部分(賃貸・店舗)には影響しません。自宅と事業用が混在する賃貸併用住宅・店舗併用住宅では、配偶者居住権の対象範囲・小規模宅地等の特例の適用区分(特定居住用宅地等/特定事業用宅地等/貸付事業用宅地等)・所得税の損益通算まで含めた総合シミュレーションが必要になります。

まとめ|配偶者居住権を活用する際の3つのポイント

①自宅の権利を所有権と居住権に分け、二次相続時の節税効果を狙う

②計算式は建物と土地で別。残存耐用年数・存続年数・複利現価率を正確に把握する

③小規模宅地等の特例とのバランス・登記の徹底・事業用不動産との切り分けを必ず検討する

配偶者居住権は配偶者の住まいを守りながら、子へのスムーズな承継を実現できる強力な制度です。

一方で、評価計算や特例との組み合わせは複雑で、安易に設定するとかえって税負担が増えるリスクもあります。

ご家族の事情に合わせた個別シミュレーションが大切ですので、相続対策をお考えの方は税理士までご相談ください。

配偶者居住権に関するよくある質問(FAQ)

配偶者居住権はいつから利用できますか?

2020年4月1日以後に発生した相続から適用されています。

ただし遺言で設定する場合は、遺言書を2020年4月1日以後に作成している必要があります。

配偶者居住権は途中で放棄できますか?

配偶者本人の意思で放棄することは可能です。

ただし、配偶者居住権を放棄して建物所有者から対価を受け取ると、贈与税または所得税が課税される可能性があるため、専門家への事前相談をおすすめします。

配偶者居住権を設定した自宅をリフォームできますか?

通常の使用・収益の範囲内であれば配偶者がリフォーム可能ですが、増改築など大規模な変更は建物所有者(子など)の承諾が必要です。

事前にトラブル防止のため書面で合意しておくと安心です。

配偶者居住権と賃貸併用住宅の関係はどうなりますか?

配偶者居住権の対象は配偶者が居住していた部分に限られます。

賃貸部分の所有権は通常どおり相続人が取得し、家賃収入も所有者に帰属します。

自宅の一部を賃貸している方や賃貸併用住宅をお持ちの方は、事業承継計画も合わせて検討してください。

配偶者居住権の登記は必須ですか?

登記は法的には任意ですが、実務上は必須と考えてください。

登記がないと、建物所有者が第三者へ建物を売却した場合に配偶者は新所有者に対して居住権を主張できず、退去を求められる恐れがあります。

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