「不動産所得が赤字なのに、思ったほど税金が戻らない」と感じたことはありませんか。
大きな原因は、不動産所得が赤字のとき、土地分の利子に当たる赤字だけは損益通算(=赤字と黒字を相殺して税金を抑える仕組み)できないという特例です。
本記事では、損益通算できない理由と計算方法、確定申告での書き方、頭金を使った節税のコツまで、不動産業を専門とする税理士がやさしく解説します。
土地分の調整を知らずに損益通算してしまうと、あとで税務署に指摘され追徴課税となる恐れがあります。逆に仕組みを知れば、頭金の入れ方しだいで納税額を抑えられます。
借入金の利子は不動産所得の必要経費になる
不動産賃貸のための借入金の利子は、原則として不動産所得の必要経費(=収入を得るために直接かかった費用)になります。
銀行から融資を受けて賃貸物件を取得した場合、その利子は事業のための費用です。つまり通常は利子の全額を家賃収入から差し引けます。
支払利息(=借入金に対して銀行へ払う利息)は、修繕費や減価償却と並ぶ大きな経費です。家賃収入からきちんと差し引けば、不動産所得を正しく計算できます。
つまり、借入金の利子は、基本的に全額が必要経費です。注意したいのは、不動産所得が赤字の年の損益通算になります。
【結論】不動産所得が赤字なら土地分の利子は損益通算できない
不動産所得が赤字の年は、土地分の借入金利子に相当する赤字だけ、給与など他の所得と損益通算できません(国税庁タックスアンサー No.1391「不動産所得が赤字のときの他の所得との通算」)。
土地分の利子も建物分の利子も、不動産所得を計算するうえではどちらも必要経費です。制限がかかるのは、不動産所得が赤字になった年の損益通算だけです。
不動産所得が赤字の年は、その赤字のうち土地分の利子に当たる部分が無かったものとして扱われます。建物分の利子に当たる赤字は、通常どおり他の所得と損益通算できます(租税特別措置法第41条の4)。
なぜ不動産所得が赤字の場合、土地分の利子は損益通算できないのか
不動産所得が赤字の場合、土地分の借入金利子が損益通算から外された理由は、土地を使った行き過ぎた節税が頻発したためです。
平成初期のバブル期に、借入金で不動産を買い、わざと不動産所得を赤字にして給与などと相殺する節税が広がりました。この節税は不公平なうえ、不要不急の土地需要を生んで地価高騰の一因にもなりました。
当時の政府税制調査会は、「土地税制のあり方についての基本答申」(平成2年10月)でこの動きを問題視しました。
そして、基本答申を受けて、不動産所得が赤字の場合、土地分の利子は損益通算から外す特例を平成4年分から設けました。
土地分の借入金利子の計算方法【具体例】
土地分の借入金利子は、支払利息に「土地分の借入金÷借入金の総額」を掛けて求めます。
具体例で確認します。5,000万円の土地・建物を全額借入で取得したケースで考えます。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 土地・建物の合計借入額 | 5,000万円 |
| 土地の取得価額 | 2,000万円 |
| 建物の取得価額 | 3,000万円 |
| 当期の支払利息 | 100万円 |
| 給与所得 | 600万円 |
| 不動産所得 | △300万円 |
全額借入なので、借入5,000万円のうち建物分3,000万円を除いた2,000万円が土地分の借入金です。
土地分の借入金利子は、100万円×2,000万円÷5,000万円=40万円です。
通常の損益通算なら総所得は600万円-300万円=300万円になります。
しかし、不動産所得が赤字の場合、土地分の借入金利子40万円は損益通算できず、正しい総所得は340万円になります。
なお、借入金が土地分と建物分に分かれていないときは、まず建物の取得対価に充てたものとして計算できます(租税特別措置法施行令第26条の6第2項)。
つまり、建物の値段の分だけ借入が先に建物に使われ、残りが土地分の借入金になります。
不動産所得の確定申告で土地分の利子を入力する欄と書き方
不動産所得が赤字の年は、確定申告で土地分の借入金利子を赤字から除外して計算します。
入力する欄は、青色申告決算書(不動産所得用)や収支内訳書の「土地等を取得するために要した負債の利子の額」です。確定申告書等作成コーナーでも同じ欄に入力します。
入力までの流れを、4つのステップで順番に見ていきます。はじめてでも、上から進めれば迷いません。
物件のローンの返済予定表を用意し、その年の支払利息を集計します。返済予定表には毎回の返済の利息部分が載っているので、12か月分を足すだけです。
全体の支払利息から土地分の利子を算定する場合、支払利息×土地分の借入金÷借入金の総額で計算します。
なお、土地分の借入金と借入金の総額は、借入当初の数値を利用します(措置法通達41の4-3)。
不動産取得時に売買契約書から建物の取得価額が算定されますが、その建物の取得価額が建物分の借入金になります(建物の取得価額≧借入金の場合は、借入金全額が建物の借入金になる)。
土地分の借入金は、当初の借入金-建物分の借入金を差し引くことで求められます。
青色申告の場合は青色申告決算書(不動産所得用)を作成し、白色申告の場合は、収支内訳書を作成します。
求めた土地分の借入金利子を、青色申告決算書(不動産所得用)や収支内訳書の「土地等を取得するために要した負債の利子の額」の欄に記入します。
青色申告決算書(不動産所得用)や収支内訳書の「土地等を取得するために要した負債の利子の額」の欄に記入した金額分を除いた不動産所得の赤字だけが、給与など他の所得と相殺できます。
「土地等を取得するために要した負債の利子の額」の欄の入力を忘れると、不動産所得の赤字を他の所得と過大に相殺してしまい、後で修正申告になる恐れがあります。
頭金で土地分の利子をゼロにする節税テクニック
頭金を入れて借入額を建物価額まで抑えると、土地分の借入金利子をゼロにできます。
①土地と建物を一括で取得し、②借入金を土地と建物分に区分できないときは、借入金はまず建物に充てたものとして計算できます(租税特別措置法施行令第26条の6第2項)。
例えば物件5,000万円(土地2,000万円・建物3,000万円)を、頭金2,000万円と借入3,000万円で買ったとします。借入3,000万円はまず建物に充てられ、土地分の借入金はゼロになります。
結果として土地分の利子は発生せず、利子の全額を損益通算できます。
ポイントは、借入金が建物の値段に収まるかどうかです。税法は借入をまず建物に充てるとみなすため、借入が建物の値段以下なら土地には回りません。
効果は納税額にそのまま表れます。通算できる赤字が増えるほど、その年の所得税と住民税は軽くなります。
なお、頭金は建物の値段に届かなくても、入れるほど効果があります。借入は建物から先に充てられるので、頭金で借入を減らすほど、土地に回る分が小さくなるからです。
たとえば建物3,000万円・土地2,000万円の物件で、頭金1,000万円を入れて4,000万円を借りたとします。借入4,000万円のうち3,000万円が建物分で、残り1,000万円だけが土地分の借入になります。
全額借入なら土地分は2,000万円でしたが、頭金1,000万円で半分の1,000万円まで減ります。その分、損益通算できない土地分の利子も小さくなります。
頭金は節税対策になるが、繰り上げ返済では節税対策にならない理由
土地分の割合は、頭金を入れれば下げられますが、繰り上げ返済では変わりません。割合が決まるのは、不動産を買ったとき(取得時)だからです。
頭金が節税対策になるのは、「取得時の」借入額そのものを小さくできるからです。
一方、繰り上げ返済は物件を買った後の返済です。土地分の割合は当初の借入額をもとに決めるため、返済で残高が減っても、割合の計算に使う金額は当初の借入額のままです。
毎年の土地分の利息も、取得時に決めた割合で計算すると通達が定めています(措置法通達41の4-3)。
イメージは、水をコップに注ぐ場面です。借入という水は、まず建物のコップを満たし、あふれた分だけ土地のコップに入ります。
頭金は注ぐ水(借入)を減らす方法で、建物のコップで止まれば土地には届きません。繰り上げ返済は注ぎ終えた後に水を抜くだけで、最初の注ぎ分け(割合)は変わりません。
- 頭金(取得時):当初の借入額を減らせるので、土地分の割合を下げられる
- 繰り上げ返済(取得後):当初の借入額は変わらないので、土地分の割合は下げられない
- 覚え方:割合を動かせるのは「買うとき」だけ
なお、繰り上げ返済が無意味というわけではありません。借入残高が減れば支払利息そのものが減るので、土地分の利息も同じ割合で小さくなります。
土地分の借入金利子の損益通算でよくある3つの間違い
土地分の借入金利子の損益通算では、申告漏れと計算ミスがよく起こります。代表的な3つの間違いを、正しい対応とあわせて確認します。
| よくある間違い | 何が起きる | 正しい対応 |
|---|---|---|
| 調整を忘れる | 土地分の利子まで損益通算をし、過少申告になって追徴 | 赤字の場合、土地分の利子は損益通算から除く |
| 土地分の利子が多い | 損益通算できる赤字を自分で減らして損する | 当初借入時にきちんと建物先充当を行い、土地分を最小にする |
| 利子全額を除く | 損益通算できる建物分の利子まで除いて損する | 対象外は土地分の利子だけで、建物分の利子は通算できる |
なお、不動産所得が黒字の年や、土地分の利子が無い年は、調整そのものが不要です。
土地分の借入金利子と損益通算の要点まとめ
不動産所得が赤字なら、土地分の借入金利子は損益通算できないと覚えておきましょう。
- 土地分の利子だけ対象外:不動産所得が赤字の年は、土地の取得にかかった借入金利子だけ損益通算できません(建物分の利子は損益通算できます)
- 計算方法:その年の支払利息に「土地分の借入金÷借入金の総額」を掛けて求めます。割合は取得時に決まり毎年同じです
- 頭金で節税:頭金で借入を建物の値段以下に抑えれば、土地分の借入金がゼロになり、利子も全額を損益通算できます
- 確定申告:決算書又は内訳書の「土地等を取得するために要した負債の利子の額」欄に、土地分の利子を記入します
土地分の借入金利子と損益通算のよくある質問(FAQ)
土地分の借入金利子と損益通算について、税務初心者からよく寄せられる質問をまとめました。
- 建物分の借入金利子も損益通算できないのですか?
-
いいえ、建物分の利子は通常どおり損益通算できます。対象外になるのは、不動産所得が赤字の年に、土地の取得にかかった借入金利子の部分だけです。
- 不動産所得が黒字の年も、土地分の利子を調整しますか?
-
いいえ、黒字の年は調整は不要です。この特例は不動産所得が赤字の年だけのルールで、黒字の年は土地分も建物分も全額が経費になります。
- 中古物件でも土地分の調整は必要ですか?
-
必要です。築年数が古い物件ほど建物の価値が小さく土地の割合が大きいため、土地分の利子も大きくなりがちです。
- 頭金はいくら入れれば土地分の利子がゼロになりますか?
-
借入額を建物の取得価額以下に抑えれば、土地分の利子はゼロになります。借入はまず建物に充てたとみなすため、借入が建物の値段に収まれば土地には回らないからです。
- 毎年の繰り上げ返済で、土地分の割合は減らせますか?
-
いいえ、繰り上げ返済では土地分の割合は変わりません。割合は取得時の借入額で決まり後の返済では動かないので、割合を下げられるのは取得時の頭金だけです。
参考文献
- 国税庁タックスアンサー No.1391「不動産所得が赤字のときの他の所得との通算」
- 租税特別措置法第41条の4(e-Gov法令検索)
- 租税特別措置法施行令第26条の6(e-Gov法令検索)
- 措置法通達41の4-3(国税庁)
- 政府税制調査会「土地税制のあり方についての基本答申」(平成2年10月)


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