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個人事業主の開業費とは?繰延資産の任意償却で節税する方法を税理士が解説

2026 6/05
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個人事業主の税金
2026年6月3日2026年6月5日
個人事業主の開業費は繰延資産なので確定申告での利益調整に役立つ

「開業前に買ったパソコンや、物件を見に行った交通費は経費にできない」——そうあきらめていませんか?

実は、開業準備のために使ったお金は開業費として計上でき、開業日より前の支出でも経費にできます。

しかも、開業費は繰延資産(くりのべしさん=効果が1年以上におよぶため資産に計上する費用)なので、任意償却を使えば黒字が大きい年にまとめて経費化して所得税・住民税を抑えられます。

たとえば、開業費が60万円あれば、利益が出た年に一気に差し引くことも可能です。

本記事では個人事業主(不動産賃貸業を含む)に向けて、開業費の範囲・償却方法・仕訳・注意点を初心者にもわかりやすく解説します。

目次

開業費とは開業準備のために特別に支出した費用のこと

開業費とは、事業を始めるまでの開業準備のために特別に支出した費用をいいます。

所得税法施行令第7条第1項第1号で繰延資産のひとつと定められています。

かみ砕くと、開業費は「不動産所得・事業所得・山林所得を生む事業を始めるまでの間に、開業準備のためにとくに使ったお金」です。

たとえば、物件の調査交通費や、事業用のチラシ・名刺の作成費が当てはまります。

開業費

開業の準備のために特別に支出した費用。

繰延資産として計上できます。

繰延資産(くりのべしさん)

支出の効果が1年以上におよぶため、いったん資産に計上して後から必要経費へ振り替える費用のことです。

任意償却(にんいしょうきゃく)

経費にする金額を自分で自由に決められる償却方法。

0円でも全額でもかまいません。

開業費に含められるもの・含められないもの

開業準備に直接かかった費用は幅広く開業費にできますが、10万円以上の固定資産と商品の仕入代金は開業費にできません。

開業費に含められる費用の例

  • 市場調査・物件調査のための交通費や宿泊費
  • 事業用の名刺・チラシ・パンフレットの作成費
  • 開業前のセミナー・研修の参加費
  • 開業の打ち合わせでの飲食代
  • 文房具・消耗品などの少額の備品
  • 開業前に支払った事務所の家賃・水道光熱費(個人事業主は計上可)

個人事業主は、法人と違って開業前の家賃や水道光熱費などの経常的な費用も開業費にできるのが特徴です。

開業費に含められない費用の例

  • 10万円以上の固定資産(パソコン・車・機械など)
  • 商品や材料の仕入代金
  • 敷金・保証金

では、開業費にできない費用はどうやって経費にする?

開業費にできなくても、捨てるわけではありません。それぞれ別の形で、きちんと経費(または資産)になります。

  • 10万円以上の固定資産 … 減価償却で経費にします。買った年に全額ではなく、使う年数(耐用年数)で少しずつ分けて経費にする方法です。たとえば耐用年数4年のパソコンなら、4年に分けて毎年経費にします。
  • 商品や材料の仕入代金 … 売上原価として、売れた分だけ必要経費になります。仕入れただけ・在庫のままでは経費にならず、お客様に売れて初めて経費に変わります。
  • 敷金・保証金 … 原則、経費になりません。あとで返ってくるお金なので資産として計上します(返ってこない部分があれば、その分だけ経費にできます)。

開業費は「繰延資産」なので一度に経費にしなくてよい

開業費は、支出した年に全額を経費にする必要はありません。

いったん繰延資産として計上し、後から好きなタイミングで経費に振り替えられます。

通常の経費は使った年の必要経費になります。

しかし、開業費は効果が開業後の数年間におよぶと考えるため、資産にためておいて経費にする年と金額を自分で選べるのです。

これが「利益調整弁」として役立つ理由です。

開業費の償却方法は「均等償却」と「任意償却」の2つ

開業費の償却方法は、5年で均等に経費化する「均等償却」と、好きな金額を経費化できる「任意償却」の2つです(所得税法施行令第137条)。

項目均等償却任意償却選び方のポイント
経費にする金額60か月(5年)で毎年均等0円〜全額まで自由その年のもうけに合わせて経費を調整したいなら任意償却
計算の手間毎年同額で簡単自分で金額を決める手間重視なら均等償却
節税の柔軟性低い高い黒字の年に集中させやすい
根拠施行令137条同条(下限なし)どちらも認められた方法

実務では、任意償却を選ぶ個人事業主が多いです。

利益が出た年に多めに経費化し、赤字の年は0円にする、といった調整ができるためです。

任意償却なら黒字の年に経費を集中できる(節税)

任意償却を使えば、利益が大きく出た年に開業費をまとめて経費化し、その年の所得税・住民税を抑えられます。

たとえば、開業費が60万円あったとします。

1年目は赤字だったので、開業費は償却せずそのまま温存しました。

ポイントは、利益が大きく出た2年目です。

ここで開業費を償却する場合としない場合で、税金がどう変わるかを比べてみましょう。

2年目(黒字80万円)開業費を償却しない開業費を償却する(任意償却)
事業のもうけ80万円80万円
開業費の償却額0円60万円
課税所得80万円20万円
税負担重い軽くなる(節税)

開業費を償却することで、2年目の課税所得は80万円から20万円へと60万円圧縮できました。

仮に所得税5%+住民税10%(課税所得195万円以下の場合)なら、60万円×15%=約9万円の節税です。

未償却の残高は60か月を過ぎてもいつでも必要経費にできるため、あわてて償却する必要はありません(国税庁の質疑応答事例「償却期間経過後における開業費の任意償却」)。

開業費を計上する流れを3ステップで解説

開業費を計上して経費にするまでの流れは、「①支出を集計 → ②開業日に繰延資産として計上 → ③償却する年に必要経費へ振替」の3ステップです。

STEP
開業前の支出を集計する

開業準備で使ったお金を、領収書やレシートをもとにすべて書き出します。

日付・金額・内容をメモしておくと後で安心です。

STEP
開業日に「開業費」として計上する

集計した金額を、借方「開業費(繰延資産)」/貸方「元入金(もといれきん)」として資産に計上します。

STEP
償却する年に「開業費償却」で経費にする

経費にしたい年に、借方「開業費償却」/貸方「開業費」と仕訳し、必要経費へ振り替えます。

任意償却なら金額は自由です。

開業費の仕訳と勘定科目【記入例つき】

開業費の仕訳で使う勘定科目は「開業費」と「開業費償却」の2つだけです。

開業日に「開業費」として計上し、償却する年に「開業費償却」へ振り替えます。

具体的な仕訳を見てみましょう。

開業費が60万円で、利益が出た年に全額を償却するケースです。

① 開業日の仕訳(開業費を計上)

借方金額貸方金額
開業費60万円元入金60万円

② 全額を償却する年の仕訳

借方金額貸方金額
開業費償却60万円開業費60万円

「元入金」は個人事業主の元手(会社でいう資本金にあたるもの)です。

開業前に自分のお金で払った費用を、開業日にまとめて開業費へ振り替えるイメージです。

償却する年に「開業費償却」を使うことで、その金額が必要経費になります。

開業費でよくある間違いと注意点

開業費でとくに重要なのは、領収書の保管と「開業前の支出かどうか」の線引きです。

開業費で気をつけたいポイント

  • 領収書・レシートを必ず保管する:開業前の支出は「事業のための費用だった」と後から説明しづらいので、領収書に「何のために使ったか」を書き添えておく
  • 10万円以上の資産を混ぜない:減価償却の対象なので開業費にしない
  • 開業日をいつにするかを決めておく:開業日より前の支出が対象
  • 社会通念上、開業準備と認められる範囲にとどめる:私的な支出は対象外

開業費に関するよくある質問

開業費はいつまでさかのぼって計上できますか?

明確な年数制限はありませんが、社会通念上、開業準備と認められる範囲が目安です。

一般的には開業前の数か月〜1年程度の支出が対象になりやすいです。

開業費は1年でまとめて全額を償却してもいいですか?

開業費は任意償却なので、1年で全額を償却できます。

利益が大きく出た年に全額を償却すれば、その年の節税につながります。

開業費はいくらから計上できますか?

金額の下限はありません。

少額でも、開業準備のために使った費用であれば開業費として計上できます。

開業費は青色申告でないと使えませんか?

いいえ。開業費の繰延資産・任意償却は、白色申告でも青色申告でも利用できます。

開業費は何年後まで償却できますか?

期限はありません。

5年(60か月)は均等償却を選んだ場合の期間で、任意償却なら下限がなく、60か月を過ぎても未償却残高をいつでも必要経費に算入できます(国税庁の質疑応答事例「償却期間経過後における開業費の任意償却」)。

たとえば、開業から10年後にまとめて償却することも可能です。

ただし、開業した年に開業費を繰延資産として計上し、毎年の決算書で未償却残高を繰り越し続けていることが前提です。

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