「不動産管理会社をつくると節税になる」─不動産オーナーならば一度は耳にする話です。
でも、「自分の場合は本当に有利なのか?」「いくらの所得から検討すればいい?」という具体的な答えは、意外なほど正確に語られていません。
よく見かける「個人の税率は約33%、法人の税率は約23%」という比較は、住民税と事業税が抜けているため実態と大きくずれています。
この記事では、住民税・個人事業税・法人事業税をすべて含めて税率を出し直し、丁寧に比較していきます。
不動産管理会社とは?個人との違いを基本から確認しましょう
不動産管理会社とは、不動産を個人で所有・経営するのではなく、法人(株式会社・合同会社など)を設立して不動産経営を行う会社のことです。
個人事業主として家賃収入を得ているケースと比べると、税制・経費・社会的信用の面でいくつかの大きな違いがあります。
| 区分 | 課税される税目 |
|---|---|
| 個人事業主 (事業的規模) | ①所得税(累進課税:最大45%) ②住民税(所得割)10% ③個人事業税 5% ※個人事業税は、不動産所得 − 事業主控除290万円 に課税。事業的規模(目安:5棟または10室以上)の場合のみ発生。 |
| 不動産管理会社 (中小法人) | ①法人税(800万円以下15%・超過23.2%) ②地方法人税(法人税額×10.3%) ③法人住民税・税割(法人税額×7.0%・東京都) ④法人事業税(400万円以下3.5%、400〜800万円5.3%、800万円超7.0%) ⑤特別法人事業税(事業税額×37%) |
住民税・事業税を含めた税率を比較しましょう
「法人は約23%、個人は約33%」という数字は住民税・事業税を含んでおらず、実態とは大きくずれています。
この節では、個人・法人ともにすべての税目を加えた数字で比較します。
【この節で使う3つの言葉】
- 追加収入への税率合計(限界合算税率):収入が1万円増えたとき、そこに追加でかかる税金の割合です。所得税は「収入が増えるほど税率が上がる累進課税」なので、収入の高い人ほどこの数値が大きくなります。個人の比較表では、この税率を使って示しています。
- 全体にかかる平均の税率(実効税率):収入全体に対して支払う税金の合計を割り返した割合です。「収入の何%が税金か」を示します。法人の比較表ではこちらを使っています。
- 税金の合計額(総税負担):実際に支払う税金の総額です。個人と法人で「どちらが少ないか」を比べるときに使います。
- ※この3つは性質が異なります。「追加収入への税率」は意思決定の目安に、「税金の合計額」は実際の損得の比較に使います。
個人(事業的規模)── 追加収入への税率合計
| 不動産所得の区分 | 所得税(追加分への税率) | 住民税(所得割) | 個人事業税(追加分への税率) | 追加収入への税率合計(目安) |
|---|---|---|---|---|
| 〜195万円 | 5% | 10% | 0%(290万以下は不課税) | 約15% |
| 195万〜290万円 | 10% | 10% | 0%(290万以下は不課税) | 約20% |
| 290万〜330万円 | 10% | 10% | 5%(290万超の部分) | 約22〜25% |
| 330万〜695万円 | 20% | 10% | 5% | 約35% |
| 695万〜900万円 | 23% | 10% | 5% | 約38% |
| 900万〜1,800万円 | 33% | 10% | 5% | 約48% |
| 1,800万〜4,000万円 | 40% | 10% | 5% | 約55% |
| 4,000万円超 | 45% | 10% | 5% | 約60% |
※表の「税率合計」は各税の追加分への税率を足し合わせた数値です。所得税は累進課税のため、所得が増えるほど税率が段階的に上がります。ただし表の税率はその所得帯の追加分にかかる税率であり、収入全体への平均税率(実際の税負担率)は表の数値より低くなります(例:所得500万円では合計税率の目安は35%ですが、全体への平均は約23%程度です)。
※個人事業税は(不動産所得 − 290万円)× 5%で計算し、事業的規模(目安:5棟または10室以上)の場合のみ発生します。
法人(資本金1億円以下の中小法人)── 全体にかかる平均の税率
法人の場合、事業税は翌年の経費(損金)になるため、単純に税率を足し合わせることができません。
事業税の調整を加えた正式な計算式による東京都の実際の平均税率(実効税率)は次のとおりです。
| 法人の課税所得区分 | 法人税 (軽減/通常) | 地方法人税+住民税(税割) | 事業税+特別法人事業税 | 実効税率 (目安) |
|---|---|---|---|---|
| 400万円以下 | 15%(軽減) | 法人税額×17.3% | 所得×約4.8% | 約21% |
| 400万〜800万円 | 15%(軽減) | 法人税額×17.3% | 所得×約7.3% | 約23% |
| 800万円超の部分 | 23.2%(通常) | 法人税額×17.3% | 所得×約9.6% | 約34% |
※東京都標準税率をもとにした概算です。都道府県・市区町村の超過課税がある場合は上乗せされます。実効税率の計算式:(法人税率×(1+地方法人税率+住民税率) + 事業税率×(1+特別法人事業税率))÷(1 + 事業税率×(1+特別法人事業税率))←難しいので分からなければ飛ばしてください。
個人と法人の税率比較まとめ
| 不動産所得 | 個人の追加収入への税率合計(事業的規模) | 法人の平均税率(実効税率) | 有利・不利 |
|---|---|---|---|
| 〜290万円 | 約15〜20% | 約21% | 個人が有利〜同等 |
| 290万〜330万円 | 約22〜25% | 約21% | 限界税率は同等〜法人わずか有利(※総税負担は個人有利) |
| 330万〜415万円 | 約35% | 約21% | 限界税率は法人有利(差 約14%)(※総税負担の損益分岐は約415万円) |
| 415万〜695万円 | 約35% | 約23% | 法人が有利(限界・総税負担ともに) |
| 695万〜800万円 | 約38% | 約23% | 法人が有利(差 約15%) |
| 800万〜900万円 | 約38% | 約23〜34%(軽減と通常の混在) | 法人が有利(差 約4〜15%) |
| 900万〜1,800万円 | 約48% | 約34% | 法人が有利(差 約14%) |
| 1,800万円超 | 約55%〜 | 約34% | 法人が大幅に有利(差 約21%〜) |
【表の読み方】
個人欄は「追加収入にかかる税率の合計」、法人欄は「全体にかかる平均の税率(実効税率)」です。
性質の違う2つの指標を並べています。
「追加収入の扱い」で見た場合:事業的規模では所得330万円超から、追加収入への税率で法人が有利になります。
「税金の合計額」で見た場合(各種控除なしの概算):事業的規模では所得約415万円から、事業的規模未満では所得約500万円から、法人が支払う税金の合計が個人を下回ります。
ポイント:「追加収入への税率」と「税金の合計額」、2つの視点で見た法人化の目安
①追加収入への税率で比べると:「次に稼ぐ収入をどちらの形で受け取るか」という観点では、事業的規模の場合、所得330万円超から個人にかかる追加分の税率合計(約35%)が法人の平均税率(約21〜23%)を上回ります。
②税金の合計額で比べると(普通はこちらで判断!):支払う税金の合計(個人と法人どちらが安いか)で比較すると、各種控除なしの概算で、事業的規模では所得約415万円以上、事業的規模に満たない場合で所得約500万円以上から法人が有利になります。青色申告特別控除(65万円)や基礎控除(48万円)を適用すると、この目安はいずれも高くなります。
「500万円から法人が有利」という通説は、事業的規模に該当しないという条件を前提にした数字です。
ただし、実際に何百万円から法人の方が有利かは、個人事業税の有無・控除の適用状況・役員報酬の設定によって大きく変わります。
【具体的な計算例】年間不動産所得1,000万円の場合(東京都・事業的規模)
| 税目 | 個人事業主 (事業的規模) | 法人 (不動産管理会社) |
|---|---|---|
| 所得税 / 法人税 | 概算 約176万円 | 800万円 × 15% = 120万円、200万円 × 23.2% = 46.4万円、→ 166.4万円 |
| 住民税(所得割)/法人住民税(税割) | 1,000万円 × 10% = 約100万円 | 166.4万円 × 17.3% = 約28.8万円 |
| 個人事業税/法人事業税 | (1,000万 − 290万)× 5% = 35.5万円 | 400万×3.5%+400万×5.3%+200万×7.0%+特別法人事業税(×37%)= 約67万円 |
| 税負担合計(概算) | 約311万円 (実効税率 約31%) | 約262万円 (実効税率 約26%) |
| 役員報酬で家族に所得分散 | 適用不可 | 法人の課税所得がさらに減少。 節税効果が上乗せされます。 |
※いずれも参考目安としてご利用ください。正確なシミュレーションは税理士にご相談ください。
不動産管理会社を設立する3つのメリット
- 所得税・住民税・事業税のトータルで節税できます:個人の追加収入への税率合計は所得330万円超で35%、695万円超では38%に達します。税金の合計額での損益分岐点は事業的規模で所得約415万円、非事業的規模で約500万円です。所得が大きくなるほど節税額は大きくなります。
- 家族への給与支払いによる所得分散:家族を役員・従業員として登用し、給与を支払うことで所得を分散できます。青色申告の専従者給与よりも柔軟に設定できるため、手取りを実質的に増やしやすくなります。
- 経費算入の範囲が広がります:法人契約の生命保険・出張旅費規程・役員退職金など、個人事業主では経費にできない支出も損金算入できます。節税の選択肢が大きく広がります。
不動産管理会社設立の2つのデメリット
- 設立・維持コストがかかります:株式会社の設立には登録免許税・定款認証などで約25万円、合同会社でも約6万円が初期費用としてかかります。さらに毎年の決算申告費用・社会保険料・税理士報酬が加わります。
- 赤字でも法人住民税(均等割)が発生します:利益がゼロまたは赤字でも、法人住民税の均等割(最低7万円/年)は必ず発生します。個人事業主とは異なり、事業が振るわない年も税負担が生じる点は要注意です。
設立の目安|所得いくらから検討すべきか
- 事業的規模(5棟・10室以上)の方:個人事業税(5%)が加わるため、追加収入への税率では所得330万円超から、税金の合計額では所得約415万円超から法人が有利になります(いずれも控除なし概算)。一般に言われる「500万円から」より早い段階で検討に値します。ただし青色申告特別控除等を適用すると目安はやや高くなります。
- 事業的規模に満たない方:個人事業税がかからないため、所得330万円超の追加収入には30%(所得税20%+住民税10%)の税率がかかります。税金の合計額で比べると、約500万円が損益分岐点の目安(控除なし概算)です。実際の控除を適用するとこの目安は上がります。
- 所得800万円超の方:個人の追加収入への税率合計が38%以上になるのに対し、法人は800万円以下の部分に軽減税率(実際の平均税率で約21〜23%)が引き続き適用されます。800万円超の部分も含めた法人全体の平均税率は、個人と比べてかなり低くなります。
なお、所得が330万円以下の場合は法人の設立・維持コスト(社会保険料・均等割・決算費用など)が節税効果を上回る可能性があるため、慎重な試算が必要です。
不動産管理会社の3つの形態
不動産管理会社には大きく3つの形態があります。
形態によって節税効果や消費税(インボイス制度・適格請求書)への影響が異なりますので、設立前に税理士と確認しておきましょう。
| 形態 | 概要 | 節税効果 | 向いているケース |
|---|---|---|---|
| 管理委託方式 | 個人所有の不動産の管理業務を会社に委託し、管理料を支払う | △(管理料5〜10%が上限の目安) | 法人成り初期・リスクを抑えたい場合 |
| 一括転貸方式(サブリース) | 会社が個人から物件を一括借り上げして入居者に転貸する | ○(家賃差額が法人の利益になる) | 家賃収入が安定している場合 |
| 不動産保有方式 | 会社が不動産を直接購入・所有する | ◎(所得全額が法人に帰属する) | これから不動産を購入する予定がある場合 |
設立の手順を5ステップで確認しましょう
株式会社(設立費用約25万円・対外的信用が高い)か合同会社(設立費用約6万円・手続きが簡単)かを選択します。不動産業では取引先への信用を重視して株式会社を選ぶケースが多いです。
会社の目的・所在地・役員・資本金などを定めた定款を作成し、公証役場で認証を受けます(株式会社のみ必須)。
資本金の払い込みを証明する書類とともに法務局へ申請します。登録免許税は株式会社15万円、合同会社6万円(いずれも最低額)です。
税務署・都道府県・市区町村への法人設立届出書、年金事務所への社会保険加入手続きを行います。青色申告の承認申請書も忘れずに提出しましょう。
既存の不動産を会社に移転するか、管理委託契約・サブリース契約を締結します。契約形態によって税務処理が異なるため、税理士と相談しながら進めることをお勧めします。
税務調査でよく指摘されるポイント
- 管理料が高すぎる:管理委託方式で管理料を不当に高く設定すると「不相当に高額」として損金算入を否認されるリスクがあります。相場は家賃収入の5〜10%程度が目安とされています(国税庁タックスアンサーNo.5264参照)。
- 役員報酬の期中変更:役員報酬は「定期同額給与」の要件を満たさないと損金算入できません(法人税法第34条)。期中の変更は原則認められないため、期首に適切な金額を設定することが大切です。
- 個人と法人の資産・口座の混同:法人の資産と個人の資産は明確に区分する必要があります。個人の生活費を法人口座から支出するなど混同した経理は、税務調査で問題になりやすいパターンです。
まとめ|不動産管理会社設立の3つのポイント
- 住民税・事業税まで含めると、税金の合計額で比べた場合の損益分岐点は、事業的規模で約415万円、非事業的規模で約500万円が目安です。
- 所得800万円が法人税の境界線:中小法人(資本金1億円以下)は、利益のうち800万円以下の部分に軽減税率15%(平均税率で約21〜23%)、超える部分に23.2%(平均税率で約34%)が適用されます。所得が増えても800万円以下の部分には引き続き低い税率が適用され続ける点がポイントです。
- 設立前に必ず税理士に相談することをお勧めします:実際の節税効果は控除・家族構成・物件数・将来計画によって大きく異なります。事前に個別シミュレーションを行い、設立コストとのバランスを確認してから判断しましょう。
よくあるご質問
- 住民税・事業税も含めると、何万円の所得から法人化が有利になりますか?
-
事業的規模で所得約415万円、非事業的規模で所得約500万円を超えると、法人が支払う税金の合計が個人を下回ります。
ただし、実際には青色申告特別控除・基礎控除を適用するとこの目安はもう少し高くなる可能性があります。
ご自身の状況での正確な目安は、個別シミュレーションで確認されることをお勧めします。
- 所得800万円の境界線にはどんな意味がありますか?
-
中小法人(資本金1億円以下)の法人税には「軽減税率」が設けられており、所得800万円以下の部分は15%、超過部分は23.2%と税率が切り替わります。
地方税を含む実効税率で見ると、800万円以下で約21〜23%、800万円超の部分で約34%になります。
所得が800万円を超えても、800万円以下の部分には引き続き軽減税率が適用され続ける点がポイントです。
- 不動産管理会社の設立にはいくらかかりますか?
-
株式会社の場合は定款認証・登録免許税などで約25万円、合同会社の場合は約6万円が初期費用の目安です。
これに加えて毎年の決算申告費用(税理士報酬)・社会保険料・法人住民税の均等割(最低7万円/年)が発生します。
- 不動産管理会社を設立しても節税にならないケースはありますか?
-
所得が300万円以下の場合は、法人設立・維持コスト(社会保険料・均等割・決算費用など)が節税効果を上回り、かえって手取りが減る可能性があります。
また、将来的に不動産を売却する予定がある場合、法人では個人の特別控除や軽減税率が使えない点も考慮が必要です。


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