- 個人事業主と法人の不動産売却にかかる税金を比較したい人
- 不動産を売却する予定の個人事業主又は会社
不動産賃貸業を営む方から、出口戦略として不動産を売却する場合、個人事業主と会社ではどちらが税金的には有利なのかという質問を受けることがあります。
タイトルに答えが出てしまっているのですが、今回は、個人事業主と会社の不動産売却を比較して、どちらが税金的に有利になるかを説明していきます。
不動産売却損益の計算方法
不動産の売却という行為自体は変わらないので、言葉は多少違いますが、計算方法自体は個人事業主と会社で共通しています。
個人事業主でも会社でも、不動産売却に対する利益・損失の計算方法は以下のようになります。
つまり、不動産売却価額から帳簿価額と譲渡費用を差し引きして、プラスなら不動産売却益、マイナスならば不動産売却損になるわけです。
なお、帳簿価額とは、不動産を取得した価額から毎年の減価償却費を控除した金額のことです。
減価償却費とは、建物などを利用していれば、古くなるので、その分を毎年数値上減価させていく、経理処理のことです。
不動産売却益の場合の税率
個人事業主でも、会社でも税金の計算方法は以下のようになります。
ただし、税率については、個人事業主には所得税が採用されているのに対し、会社には法人税が採用されているので異なります。
個人事業主の場合は、所得税の譲渡所得になり、5年超不動産を保有すると不動産売却時に長期譲渡所得として、20%の税率が適用されます。
ただし、所有期間が5年以下で不動産を売却してしまうと短期譲渡所得として、39%の税率が適用されてしまいます。
会社の場合は、法人税が適用されるため、不動産の保有期間に5年という制限はなく、25%〜30%程度の税率が適用されます。
不動産売却損の場合
不動産売却時に不動産売却損がでてしまうと、個人事業主と会社の間で処理方法がかなり異なります。
結論から言ってしまうと、不動産売却損が計上されるときは、会社の方が圧倒的に有利な税制になっています。
それでは、個人事業主の場合の所得税と会社の場合の法人税で、不動産売却損がどのように扱われるかを見ていきましょう。
所得税(個人事業主)の場合
不動産売却時に不動産譲渡損が出てしまうと、他の事業の利益(事業所得や不動産所得)と相殺すること(損益通算すること)はできません。
例えば、不動産賃貸の家賃収入から利益が出ていても、不動産売却損とは相殺できないことになります。
法人税(会社)の場合
不動産売却損が出ていても他の事業の利益と相殺することができます。
例えば、不動産賃貸の家賃収入から利益が出ていれば、不動産売却損と相殺されて、最終的な税金の支払額は少なくなります。
不動産売却損計上時の有利不利を事例で確認しよう
- 個人事業主の税金の金額と会社の税金の金額を計算してください。
- 個人事業主の税率は25%、会社の税率は30%である。
- 不動産売却に伴う譲渡損は800万円である。
- 不動産賃貸業の利益が別に900万円ある。
- 【解答】
個人事業主の税金の金額は225万円、会社の税金の金額は30万円になります。【解説】
①個人事業主の場合
不動産売却損は他の利益と相殺できません。
よって、不動産賃貸業の利益に税率を乗じた金額が納税額になります。
900万円×25%=225万円②会社の場合
不動産売却損は他の利益と相殺できます。
よって、不動産賃貸業の利益から不動産売却損の金額を差し引いて、税率を乗じた金額が納税額になります。
(900万円―800万円)×30%=30万円
まとめ
不動産売却損が出そうなら、会社の方が税金的には圧倒的に有利になることが分かります。
一方、不動産売却益が出た場合、個人事業主で5年超保有して長期譲渡所得にするのが、一番税率が低く、税金的には有利になるように見えます。
ただし、近年の法人税率の引き下げ改正や、所得税の特別復興税率などの新設で、個人事業主の長期譲渡所得の税率と会社の税率はあまり大きく変わらなくなってきています。
さらに、保険や共済などの節税対策を考えた場合、会社の方が大規模な節税対策をとりやすく、結果的に不動産売却益が出ても会社の方が納税額が少なくなることも多いです。
また、一般的に不動産の購入時点では最終的な売却時期や売却損益については不明確なことが多いので、個人事業主の長期譲渡所得を狙い撃ちするメリットはあまりありません(例えば、不動産の市場価額が高いのに5年保有しないと売れないのでは意味がありません)。
可能であれば会社で不動産を所有していた方が、所有期間にも縛られず、不動産売却損を許容できるので有利になる可能性が極めて高いでしょう。