「妻が毎日家賃の入金確認をして、入居者からの問い合わせ対応もしてくれているのに、なぜ給与を経費にできないの?」——不動産賃貸業を営む個人事業主からよくいただく疑問です。
実は、青色申告をしている個人事業主なら、家族への給与を丸ごと必要経費にできる「青色事業専従者給与」という制度があります。
不動産所得がある方でも活用でき、使い方次第で年間数十万円単位の節税が可能です。
この記事では、不動産業専門の税理士が、不動産所得における青色事業専従者給与のそもそもの考え方から、3つの要件・届出手順・節税シミュレーションまでをわかりやすく解説します。
なぜ家族への給与は原則「経費にならない」のか
個人事業主が配偶者や親・子供に給与を支払っても、原則として所得税法上の必要経費にはなりません(所得税法第56条)。
これは、家族間で恣意的に給与を操作して税負担を減らすことを防ぐための規定です。
しかし、例外があります。
それが青色申告事業者のみに認められた「青色事業専従者給与」の特例(所得税法第57条)です。
一定の要件を満たせば、家族に支払った給与の全額を必要経費に算入できます(国税庁タックスアンサーNo.2075)。
【不動産所得の方へ】青色事業専従者給与のそもそもの考え方
不動産賃貸業(不動産所得)を営む個人事業主も、青色申告をしていれば青色事業専従者給与を活用できます。
ただし、不動産所得には特有の注意点があります。
「事業的規模」かどうかで取り扱いが変わる
不動産所得では、貸付けの規模が一定以上であるかどうか(事業的規模)が重要な判断基準です。
一般的に、アパートなら10室以上、一戸建てなら5棟以上であれば事業的規模とされます(通称「5棟10室基準」)。
| 規模 | 青色事業専従者給与 | 65万円青色申告特別控除 | 貸倒損失の全額損金算入 |
|---|---|---|---|
| 事業的規模あり(5棟・10室以上) | ✅ 適用可 | ✅ 適用可 | ✅ 適用可 |
| 事業的規模なし(5棟・10室未満) | ⚠️ 適用可 (ただし要件の判定に注意) | ❌ 10万円控除のみ | ❌ 回収不能となった年のみ |
重要ポイント:事業的規模でなくても専従者給与は使えるが「専ら従事」の実態が問われる
青色事業専従者給与の制度自体は事業的規模の有無にかかわらず適用できます。しかし、管理戸数が少ない場合、「配偶者が本当に6か月超・専ら事業に従事しているか」が税務署に疑問視されやすくなります。実態に即した業務内容と時間の記録が不可欠です。
不動産賃貸業で専従者が担う「実務」の具体例
「賃貸物件を持っているだけ」では専従者の業務が認められにくいですが、以下のような実務を配偶者などが担っている場合は、業務の実態として認められやすくなります。
家賃の入金管理・督促・滞納対応/入退去手続きの対応・書類作成/修繕業者との連絡・現地立ち会い/入居者からのクレーム・問い合わせ対応/確定申告のための帳簿作成・収支管理/賃貸借契約書の管理・更新手続き
📝 実務のポイント:業務日誌をつけておこう
「どんな業務を、どれくらいの時間行ったか」を業務日誌や作業記録として残しておくと、税務調査の際に「専ら従事」の証拠になります。特に管理戸数が少ない場合は、日々の記録が重要です。
青色事業専従者給与の3つのメリット
メリット①|家族への給与を上限なく全額経費にできる
白色申告の「事業専従者控除」は配偶者最大86万円が上限ですが、青色事業専従者給与には金額の上限がありません(ただし労務の対価として相当な金額であること)。
メリット②|所得を家族間で分散して累進課税を緩和できる
日本の所得税は累進課税です。不動産所得が大きい場合、事業主一人に所得が集中すると高い税率が適用されます。配偶者などに所得を分散することで、世帯全体の税負担を減らせます。
メリット③|配偶者が給与収入を持つことで社会的信用も向上する
配偶者が給与所得者になることで、個別にローンや社会保障の恩恵を受けやすくなるケースもあります。
必ず押さえておきたい3つの要件
要件①|青色申告者と「生計を一にする」15歳以上の配偶者・親族であること
「生計を一にする」とは、日常の生活費を同じ財布から出している状態です。同居していなくても、生活費の仕送りをしている場合も該当します。その年の12月31日時点で15歳未満の方は対象外です。
要件②|その年を通じて6か月超、事業に「専ら」従事していること
「専ら従事」とは、その事業のみを主な仕事としていることです。配偶者が他でパートをしている場合、パートの時間が短く不動産管理業務が主体であれば認められることもありますが、証明が難しいため税理士への相談を推奨します。
要件③|「青色事業専従者給与に関する届出書」を税務署に提出していること
この届出書を事前に提出していないと、実際に給与を支払っていても経費に算入できません。提出期限はその年の3月15日までです。
届出から給与支払いまでの手順
届出書には①専従者の氏名、②職務内容、③給与金額、④支給時期を記入します。
提出先は納税地の所轄税務署。
期限は原則その年の3月15日まで(その年の1月16日以後に開業した場合は開業日から2か月以内)。
届け出た給与額・支払時期どおりに給与を支払います。
銀行振込の記録を残しておくと、税務調査の際に「実際に支払った証拠」として有効です。
現金手渡しは証拠が残りにくいため、振込推奨。
専従者への給与が月88,000円以上の場合、源泉徴収が必要です。
翌年1月31日までに税務署へ法定調書合計表を提出します。
給与収入が103万円を超える場合は、専従者自身も確定申告が必要です。
事業主の節税メリットと専従者の税負担を合わせてシミュレーションすることが重要です。
節税効果の計算例|不動産所得500万円の個人事業主の場合
不動産所得が年500万円ある個人事業主が、配偶者(年間240万円・月20万円)を青色事業専従者にした場合の概算比較です(基礎控除のみ・社会保険料等は省略)。
| ❌ 配偶者控除のみ利用 | ✅ 青色事業専従者給与を利用 | |
|---|---|---|
| 不動産所得 | 500万円 | 500万円 |
| 配偶者への給与(必要経費) | 0円(経費にならない) | 240万円 |
| 事業主の課税所得(概算) | 462万円(配偶者控除38万円) | 212万円(260万円-基礎控除48万円) |
| 事業主の所得税(概算) | 約67万円 | 約16万円 |
| 配偶者の所得税(概算) | 0円 | 約6万円 |
| 家族合計の税負担 | 約67万円 | 約22万円 |
| 節税効果 | ― | 約45万円の節税 |
※上記は概算です。実際の節税額は所得控除の内容・社会保険料・住民税などによって異なります。
📝 配偶者控除との比較は必須
青色事業専従者になると事業主は配偶者控除(最大38万円)を使えなくなります。年間の専従者給与を38万円以下に設定した場合は配偶者控除の方が有利になるケースもあるため、必ず比較シミュレーションを行いましょう。
よくある間違いと税務調査で指摘されるポイント
届出書を出さずに給与を払っても経費にならない
実際に働いていて給与を払っていても、事前に届出書を提出していなければ全額が必要経費として認められません。毎年3月15日の期限を忘れずに。
不動産所得の場合、「専ら従事」の実態が問われやすい
管理戸数が少ない場合、「家賃収入があるだけで本当に専業で働く必要があるのか」を税務署に疑問視されることがあります。業務日誌・メール・電話記録など、日々の業務の実態を記録しておくことが大切です。
過大な給与は「労務の対価として不相当」と否認される
同じ仕事を外部業者に依頼する場合の相場より明らかに高い給与は、税務調査で一部否認されることがあります。管理会社に支払う委託費用などと比較して、合理的な金額を設定することが重要です。
まとめ:不動産所得の節税に、家族の力を合法的に活かそう
不動産所得がある個人事業主が青色事業専従者給与を活用するには、①届出書を3月15日までに提出する、②家族が実際に業務に従事している実態を記録する、③配偶者控除との比較シミュレーションを行う——この3点が重要です。特に不動産賃貸業では「専ら従事」の実態証明が大切。正しく使えば年間数十万円単位の節税が可能です。
- 不動産所得が少ない(1〜2棟)場合でも青色事業専従者給与は使えますか?
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制度上は利用できます。
ただし、管理戸数が少ない場合は「専ら従事」の実態が問われやすくなります。
家賃管理・修繕対応・入居者対応などの業務量と時間を業務日誌で記録し、給与額を業務量に見合った金額に設定することが大切です。
- 配偶者控除と青色事業専従者給与を同時に使えますか?
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いいえ、同時には使えません。
配偶者が青色事業専従者になると、事業主は配偶者控除(最大38万円)の適用対象外となります。
どちらが有利かは専従者給与の金額によって変わるため、シミュレーションが必要です。
- 妻が他でパートをしている場合も専従者になれますか?
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「専ら事業に従事している」かどうかが判断基準です。
パートの時間が短く、主に不動産管理業務を担っている場合は認められることもありますが、税務署との見解の相違が生じやすいため、事前に税理士に確認することをおすすめします。
- 届出書を出し忘れた場合はどうなりますか?
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その年の専従者給与は必要経費に算入できません。
翌年から適用するため、来年の3月15日を目標に早める方は、開業日から2か月以内に提出すれば当年から適用できます。


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