配偶者居住権は相続税の節税対策で話題になることが多い制度だと考えられます。
ただし、もともとは最高裁の判例に基づき、民法が改正されたことにより創設された制度で、その制度趣旨と問題点を知らなければ、たとえ、節税対策が功を奏したとしても大問題に発展しかねません。
税理士としては、相続税という税金の話しとは少し違うので、記載するか非常に迷いましたが、これを知らないとそもそも節税対策の話しにならないと考えられますので、今回は、配偶者居住権の趣旨とその問題点を確認していきましょう。
配偶者居住権の趣旨について
遺産分割に際して、被相続人(亡くなった人)の配偶者が安定的に居住を確保するためには、配偶者が居住していた「建物」の所有権を相続で取得する必要があります。
しかし、配偶者が居住していた「建物」の所有権を相続で取得しようとした場合、遺産の状況によっては、建物の所有権を取得しただけで配偶者の相続分の上限に達してしまう可能性があります。
その場合、預金などの金融資産を相続できなくなってしまい、住居を確保しても生活費に困窮してしまう可能性があります。
そこで、配偶者の住居を確保しつつ、生活費も確保するために配偶者の生存中に居住建物を無償で使用できる権利(配偶者居住権)が出来ました。
配偶者居住権は建物の所有権よりも財産価値が低額に抑えられているので、これによって、配偶者は生活費に該当する預金などの金融資産も相続により取得できることになります。
配偶者居住権の問題点
円満な家庭であれば、法定相続分に限らず、柔軟に相続分を変更し、子供が配偶者の生活費も工面すると考えられます。
よって、配偶者居住権が成立させる場合は、なんらかの問題がある場合になります(相続税対策の場合を除く)。
つまり、配偶者居住権を成立させ、配偶者が住居を使用できても、それは所有権ではなく、使用できる権利に過ぎないので、所有者と配偶者居住権者との間でトラブルが生じる可能性を含んでいます。
トラブルが悪化すれば、最悪の場合、意思表示によって、配偶者居住権を消滅させることも所有者側ではできてしまいます。
特に、居住建物が古くなってきて、改築・増築する場合に問題になりやすいと考えられますので、築年数が経過した建物に対して配偶者居住権を設定する場合には注意が必要だと考えられます。
遺言の時期と配偶者居住権
配偶者居住権の施行は令和2年(2020年)4月1日からとなっています。
よって、すでに相当の期間が経過しており、一般の相続案件でも活用されている機会もあるでしょう。
ここで一つだけ注意をして頂きたいのが、遺言で配偶者居住権を設定する場合です。
改正民法の成立や相続税の改正は令和2年(2020年)4月1日以前に行われているため配偶者居住権の制度は認知されています。
しかし、遺言で配偶者居住権を遺贈できるようになるのは、令和2年(2020年)4月1日以降からになります。
よって、令和2年3月31日以前に作成された遺言書では、配偶者居住権の設定は無効になる可能性があるので注意が必要です。
随分昔の話しをするのだなと思われるかもしれませんが、遺言書は作成されてから実際に効力を発揮するまでに時間がかかるものなので、一応注意喚起でした。