経理実務の初心者向けに研修を行うと、「勉強した簿記の理論的な経理処理の流れと、実務上の経理処理の流れがまるで違うのですが、なぜでしょうか?」というご質問をよく受けます。
勉強した簿記の理論的な経理処理の流れと、実務上の経理処理の流れが大きく乖離する理由は、主に会計ソフト(弥生会計やfreeeなど)の進化によるものです。
つまり、会計ソフトの進化により、仕訳を入力すると総勘定元帳や貸借対照表・損益計算書などの経理に必要な最終的な書類が出来てしまい、理論的な経理処理の流れで必要になる途中経過の書類の作成は必要なくなります。
今回は、簿記の理論的な経理処理の流れと、実務上の経理処理の流れの差を埋めるために、まずは、①簿記の理論上の経理処理の流れを確認し、次に②会計ソフトで行われている実務上の経理処理の流れを確認していきましょう。
簿記の理論上の経理処理の流れ【仕訳帳から繰越試算表まで】
まずは、簿記の理論上の経理処理の流れを説明していきます。
①期中と期末で必要になる書類の全体像を把握した上で、②個別の書類の種類と内容を理解することが重要になります。
経理処理に必要な書類の全体像|期中2つ・期末4つの流れで押さえる
【期中】
仕訳帳⇒総勘定元帳

【期末】
試算表⇒決算整理仕訳⇒精算表⇒財務諸表(貸借対照表・損益計算書)⇒繰越試算表

6つの書類の種類と役割|仕訳帳・総勘定元帳から繰越試算表まで
帳簿とは?主要簿と補助簿の2種類の違い
期中で必要になる書類である仕訳帳と総勘定元帳を理解するためには、まず、帳簿とはなにかを知る必要があります。
各々の取引(商品の売買や建物の取得など)を仕訳の形に変換することから簿記は始まりますが、帳簿とは、個々の取引を仕訳の形で記録したノートのことを指します。
帳簿には大きく分けて2種類存在します。
- 主要簿:必ず作成する帳簿
- 補助簿※:必要に応じて作成する帳簿
※ 補助簿については、こんなものがあるんだな程度でご確認ください。

主要簿の中に、期中の書類で重要になる、仕訳帳と総勘定元帳があります。
仕訳帳とは?日々の取引を仕訳の形で記録する帳簿
仕訳帳は、日々の取引の仕訳を記録する帳簿です。


総勘定元帳とは?仕訳帳から勘定科目ごとに転記する帳簿
総勘定元帳は、仕訳帳記録後に、勘定科目ごとに金額を記録する帳簿です。



試算表とは?合計・残高・合計残高の3種類の違い
ここからは、期末の書類で重要になるものの説明をしていきます。
試算表は、日々の仕訳や総勘定元帳への転記が正確に行われているかを確認する表です。
試算表には以下の3種類があります。
- 合計試算表
- 残高試算表
- 合計残高試算表
合計試算表は、総勘定元帳の勘定ごとに借方合計・貸方合計を記入します。

残高試算表は、総勘定元帳の勘定ごとに残高を記入します。

合計残高試算表は、総勘定元帳の勘定ごとに借方合計・貸方合計と残高を記入します。
要は、合計試算表と残高試算表の合体版です。

精算表とは?決算整理仕訳を反映して決算書を作る過程の表
精算表は、試算表に決算整理仕訳を反映させて貸借対照表や損益計算書を作成する過程をまとめた表です。

決算整理仕訳とは、1年に1度、期末に行った方が効率が良い仕訳のことです。
例えば、以下のものがあります(例示列挙です)。
- 固定資産の減価償却仕訳
- 貸倒引当金の設定仕訳
- 費用・収益の見越し・繰延べ仕訳
- 売上原価の算定仕訳
貸借対照表・損益計算書とは?精算表から作る外部報告用の決算書
貸借対照表・損益計算書は、精算表の右側を分離して外部報告用にまとめた表です。

繰越試算表とは?資産・負債・純資産を翌期へ繰り越す表
資産、負債、純資産の期末残高は、翌期に繰り越す必要があります。
そのために作成するのが繰越試算表です。
つまり、繰越試算表は、各勘定の翌期繰越額が正しいかをチェックする表です。

実務上の経理処理の流れ|会計ソフトで不要になる書類・残る書類
なぜ会計ソフトを使うと精算表や繰越試算表が不要になるのか
まずは、簿記の理論上、経理処理をするために必要になる書類と内容をもう一度整理しましょう。
- 仕訳帳 ⇒ 日々の取引の仕訳を記録する帳簿
- 総勘定元帳 ⇒ 勘定科目ごとに金額を記録する帳簿
- 試算表 ⇒ 日々の仕訳や総勘定元帳への転記が正確に行われているかを確認する表
- 精算表 ⇒ 試算表に決算整理仕訳を反映させて貸借対照表や損益計算書を作成する過程をまとめた表
- 貸借対照表・損益計算書 ⇒ 精算表の右側を分離して外部報告用にまとめた表
- 繰越試算表 ⇒ 資産、負債、純資産の期末残高を翌期に繰り越す表
会計ソフトは、人間が行う処理と違って、単純作業の繰り返しを間違えることはありません。
そうすると、会計ソフトを利用すれば、人間が作成していた時に必要だった確認用やまとめるための表は要らなくなります。
つまり、簿記の理論上の経理処理で必要だった、①仕訳帳、③試算表、④精算表、⑥繰越試算表は完全に要らなくなります。
それ以外の②総勘定元帳、⑤貸借対照表・損益計算書は内部報告用・外部報告用・税務調査の提出資料になるため必要になりますが、必要な時に会計ソフトからボタン一つで取り出せます。
また、簿記理論上は仕訳帳⇒総勘定元帳⇒……と順番にしか作れなかった書類も会計ソフトでは、仕訳を入力すれば同時に作成されます。

まとめると、経理実務上必要な書類は以下のようになります。
会計ソフト導入後に実務で残る3つの書類|総勘定元帳・決算書・残高試算表
- 総勘定元帳
- 貸借対照表・損益計算書
- 残高試算表 ※
※ 残高試算表は、月次の残高を明らかにする表(内部報告用・銀行融資用)として、簿記理論とは違う意味で必要になり、会計ソフトを利用していても残ります。
経理実務で必要な書類を用途別に整理|税務申告・税務調査・銀行融資
経理実務上は、会計ソフト内の伝票(振替伝票・入金伝票・出金伝票)又は仕訳帳などを利用して仕訳を入力します。
仕訳さえ入力すれば、後は、①総勘定元帳、②貸借対照表・損益計算書、③残高試算表が自動的に出力できます。
では、どんな時にどんな書類が必要になるでしょうか?
用途別必要書類をまとめてみます。
取締役会・経営会議の報告に必要な書類
- 総勘定元帳
- 残高試算表(月次推移版)
税務申告に必要な書類|決算書は直近1年分
- 貸借対照表・損益計算書(直近1年分)
税務調査で求められる書類|総勘定元帳と決算書は3年分
- 総勘定元帳(直近3年分)
- 貸借対照表・損益計算書(直近3年分)
銀行融資の審査で必要な書類|決算書2年分+直近の試算表
- 貸借対照表・損益計算書(直近2年分)
- 残高試算表(当期の進行月までの分)
簿記の理論を知ると経理資料の依頼にすぐ対応できる理由
最後に、簿記の理論上の経理処理の流れを理解しておくと、依頼された経理資料をすぐに用意できるようになる理由を説明します。
実務上の経理処理の流れが分かっていれば、別に簿記理論上の経理処理の流れを知らなくてもいいように思えます。
私も最初は実務上の経理処理の流れと用途別必要書類だけをクライアントに説明していました。
しかし、それだけだと私の依頼した資料はなかなか出てきませんでした。
そこで気が付いたのは、「会計ソフトに依存していると仕訳さえ入力すれば資料がなんでも作れてしまうため、それぞれの資料の作成意味や資料間の繋がりが分からず、結果的になにを出していいか分からなくなる」ということでした。
そこで、簿記の理論上の経理処理の流れを最初に説明したところ、高確率で私の依頼した資料が出てくるようになりました。
経理初心者の方は、「経理実務上の用途別必要書類」に挙げた関係先がどんな意図でそれぞれの資料を依頼しているのかを、ぜひ一度考えてみてください。
まとめ|簿記の理論と経理実務の違いを一覧で整理
簿記の理論上の経理処理の流れと実務上の流れが違って見える理由は、会計ソフトが転記と集計を自動化したことで、途中経過を確認するための書類を人が作る必要がなくなった点に集約されます。
| 書類 | 簿記の理論上の役割 | 経理実務での扱い |
|---|---|---|
| 仕訳帳 | 日々の取引を仕訳の形で記録する | 会計ソフトの伝票入力で代替される |
| 総勘定元帳 | 勘定科目ごとに転記する | 必要(内部報告・税務調査)。ボタン一つで出力 |
| 試算表 | 仕訳と転記が正しいかを確認する | 残高試算表のみ月次報告・融資用として残る |
| 精算表 | 決算整理仕訳を反映して決算書を作る | 不要 |
| 貸借対照表・損益計算書 | 外部報告用にまとめる | 必要(税務申告・税務調査・融資) |
| 繰越試算表 | 翌期繰越額が正しいかを確認する | 不要 |
つまり、経理実務で押さえるべき書類は、総勘定元帳・決算書(貸借対照表と損益計算書)・残高試算表の3つです。税務申告・税務調査・銀行融資・取締役会報告のどの場面でも、この3つの組み合わせで対応できます。
そのうえで理論上の流れを理解しておくと、それぞれの資料が何のために作られ、どうつながっているのかが分かり、依頼された書類をすぐに用意できます。
経理実務の入口として、まずはこの対応関係を押さえておきましょう。


コメント