賃借人の退去に伴いトイレの改修工事を行った場合、その費用を修繕費として全額経費に計上できるのか、判断に迷う場面は少なくありません。
判断を誤り、本来は資産に計上すべき工事を全額経費とした場合、税務調査で否認され、過少申告加算税や延滞税の負担が生じるおそれがあります。
本記事では、トイレ改修工事の費用を経費にできるのか、資産に計上するならどの勘定科目で何年で償却するのかを解説いたします。判断の手順は3つのステップに分け、国税庁の通達と裁決例に基づいて順に確認します。
トイレ改修工事で使う勘定科目|修繕費・建物・建物附属設備・固定資産除却損
トイレ改修工事で使う勘定科目は、経費になる修繕費、資産になる建物・建物附属設備、旧設備を撤去したときの固定資産除却損です。
4つの科目の意味は次のとおりです。
- 修繕費
-
修繕費とは、工事代金をその年にまとめて経費にできる科目です。壊れた便器を同じものに取り替えるなど元の状態に戻す工事のほか、古いトイレ設備を取り壊すための撤去費用もここに含めます。
- 建物
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建物とは、トイレを丸ごと造り替えた工事のように、建物と一体になる工事代金を資産に計上する科目です。便器・壁・床・天井の工事が該当し、既存の建物と同じ耐用年数で毎年少しずつ経費にします。
- 建物附属設備
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建物附属設備とは、給排水管の引き直しのように、建物本体とは別に設備として把握できる工事代金を区分して計上する科目です。トイレ改修では給排水・衛生設備が該当し、耐用年数は15年です。
- 固定資産除却損
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固定資産除却損とは、取り壊した古い設備について、過去に資産計上した金額のうち減価償却でまだ経費にしていない残り(=未償却残高)を、損失として計上する科目です。トイレを全面改装した年に、古いトイレ部分の未償却残高はまとめて経費にできます。
トイレ改修工事の勘定科目は3つのステップで決まる
トイレ改修工事の勘定科目は、どこまでを1つの工事とみるか、修繕費か資本的支出か、資産計上する科目と耐用年数の順に決まります。
トイレを丸ごと取り壊して造り替えた工事は、全体で1つの工事とみます。便器など一部だけを取り替えた工事は、取り替えた設備ごとに1つの工事とみます。
原状回復にとどまる工事は修繕費、資産の価値を高めたり使える期間を延ばしたりする工事は資本的支出です。資本的支出はその年の経費にできず、資産に計上します。
資産計上は原則として建物で、耐用年数は既存の建物と同じです(固定資産台帳でご確認ください)。給排水管など設備として区分できる部分だけが建物附属設備となり、耐用年数は15年です。
3つのステップは、この順番で当てはめる必要があります。STEP1で決めた単位を前提にSTEP2の判定を行い、STEP2で資本的支出となった分だけがSTEP3の対象となるためです。
【STEP1】どこまでを1つの工事とみるか|トイレ改修工事の判定単位の決め方
トイレ改修工事の税務判定は、トイレを丸ごと造り替えたなら工事全体を1つの単位とし、便器など一部だけなら設備ごとの単位で行います。
トイレは、便器・給排水管・壁・床が物理的にも機能的にも一体となった設備です。トイレ全体を造り替える工事は、建物の一部分の取壊しと新設が同時に行われたものと評価されます。
トイレを丸ごと造り替えた工事は、便器・壁・床といった部材ごとに区分せず、工事全体を1つの単位として判定します。同じ水回りである台所と浴室を全面的に取り壊して新設した工事についても、国税不服審判所は部材ごとの区分を認めておりません(国税不服審判所 平成26年4月21日裁決)。
便器や洗面台など一部の設備だけを取り替えた工事であれば、取り替えた設備ごとに判定します。便器の交換と洗面台の交換を同じ日に行った場合も、便器1台、洗面台1台という単位ごとに金額を判定します。
ただし、1つの設備について行った工事を、さらに細かく切り分けて判定することはできません。便器1台の交換工事を本体代金と取付費に分け、それぞれ20万円未満だから修繕費とすることはできません。
【STEP2】修繕費か資本的支出か|国税庁通達の4つの判定基準
トイレ改修工事が修繕費か資本的支出かは、国税庁の通達が定める4つの基準を順に当てはめて判定します。
資本的支出とは、その工事により資産の使用可能期間が延びた部分、または資産の価値が増加した部分に対応する金額をいいます。支払った年に経費とすることはできず、資産に計上して減価償却します。
| 判定基準 | 当てはまる工事 | 判定の結果 | 根拠通達 |
|---|---|---|---|
| ①少額・短周期基準 | STEP1で決めた1つの工事の金額が20万円未満、またはおおむね3年以内の周期で行うもの | 全額を修繕費にできる | 所基通37-12 法基通7-8-3 |
| ②実質基準 | 価値を高める部分、または使用できる期間を延ばす部分がある工事 | その部分は資本的支出、原状回復にとどまる部分は修繕費 | 所基通37-10・37-11 法基通7-8-1・7-8-2 |
| ③形式基準 | どちらか明らかでない金額が60万円未満、または取得価額のおおむね10%以下(取得価額は個人が前年12月31日、法人が前期末の額) | その金額を全額修繕費にできる | 所基通37-13 法基通7-8-4 |
| ④割合区分の特例 | ③でも判定できない金額があり、継続してこの方法によっている場合 | その金額の30%と取得価額の10%のいずれか少ない金額を修繕費、残りを資本的支出 | 所基通37-14 法基通7-8-5 |
①の少額基準は、資産の価値を高める工事にも当てはまります。STEP1で決めた1つの工事の金額が20万円未満であれば、工事の内容にかかわらず修繕費として処理できます。
②の実質基準は、同等品への取替えかどうかで判断します。老朽化した設備を同じ品質のものに復旧する工事は修繕費、品質や性能を高める工事は資本的支出です。
③の形式基準は、資本的支出か修繕費かが明らかでない金額にのみ適用されます。和式便器を洋式便器に変更する工事のように、価値を高めることが明らかな工事には、60万円未満という基準を用いることはできません。
【STEP3】資産計上する勘定科目と耐用年数|トイレ改修工事は原則として建物
トイレ改修工事を資産に計上する場合の勘定科目は、原則として建物であり、耐用年数は既存の建物と同じです。
資本的支出は、既存の建物と種類および耐用年数を同じくする資産を新たに取得したものとして扱われます(国税庁タックスアンサー No.2107「資本的支出を行った場合の減価償却」)。新たに耐用年数を見積もるのではなく、既存の建物に適用している耐用年数をそのまま用います。
既存の建物の耐用年数は、法人であれば固定資産台帳で確認します。個人事業主は、確定申告書に添付する青色申告決算書(白色申告は収支内訳書)の「減価償却費の計算」欄に記載があります。
給排水管の引き直しのように、設備として独立して把握できる部分は建物附属設備に区分計上できます。区分計上した場合、給排水・衛生設備の耐用年数は15年です(国税庁「耐用年数(建物/建物附属設備)」)。
【工事内容別】トイレ改修工事の勘定科目と耐用年数の早見表
トイレ改修工事の勘定科目は、工事がトイレ全体に及ぶなら建物、一部の設備を同等品に取り替えたにとどまるなら修繕費になります。
STEP1からSTEP3までの結論を工事内容別に整理すると、次の早見表のとおりです。
| 工事の範囲・内容 | 税務上の区分 | 勘定科目 | 耐用年数 |
|---|---|---|---|
| トイレを全面改装(便器・壁床天井・配管を一新) | 資本的支出(区分せず全体) | 建物 | 既存建物と同じ |
| 和式便器を洋式便器に変更(便器のみ) | 資本的支出(20万円未満は修繕費) | 建物 | 既存建物と同じ |
| 老朽化した便器を同等品に交換(便器のみ) | 修繕費 | 修繕費 | - |
| 温水洗浄便座を新たに設置 | 資本的支出(20万円未満は修繕費) | 建物 | 既存建物と同じ |
| 既設の温水洗浄便座を同等品に交換 | 修繕費 | 修繕費 | - |
| 壁紙・床材を同等品に張替え | 修繕費 | 修繕費 | - |
| 壁・床をグレードアップして改装 | 資本的支出 | 建物 | 既存建物と同じ |
| 洗面台を同等品に交換 | 修繕費 | 修繕費 | - |
| 洗面台をグレードアップして交換 | 資本的支出(20万円未満は修繕費) | 建物 | 既存建物と同じ |
| 給排水管の引き直し・移設 | 資本的支出 | 建物附属設備(給排水設備)として区分計上も可 | 15年 |
| 既存トイレ設備の解体・撤去 | 修繕費 | 修繕費 | - |
トイレ改修工事の仕訳例(部分交換・全面改装)
トイレ改修工事の仕訳は、部分的な取替えであれば修繕費、トイレ空間の全面改装であれば建物および建物附属設備に計上します。
STEP1でどこまでを1つの工事とみるかを決め、STEP2で区分を判定した結果が、そのまま仕訳に表れます。以下では、対照的な2つのケースを並べて確認いたします。
ケース1:老朽化した便器のみを同等品に交換した場合
賃借人の退去に伴い、老朽化した便器1台を同等品に交換し、工事代金16万円を普通預金から支払った事例です。
STEP1では便器1台が1つの工事となり、判定の対象となる金額は20万円未満です。したがって、①の少額基準だけで修繕費と決まり、原状回復に当たるかどうかを検討する必要はありません。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 修繕費 | 16万円 | 普通預金 | 16万円 |
ケース2:トイレ空間を全面改装した場合
鉄筋コンクリート造マンション1室のトイレを全面改装し、工事代金70万円を普通預金から支払った事例です。老朽化した便器を温水洗浄便座付きの節水型に取り替え、壁・床・天井の造作と給排水管の引き直しもあわせて行いました。
見積書の内訳は、便器と壁・床・天井の造作が50万円、給排水管の引き直しが10万円、既存のトイレ設備の解体撤去費が10万円です。
トイレ全体を造り替えた工事ですので、STEP1では工事全体が1つの単位となります。既存の設備を全面的に取り壊して新設し、建物の価値を高める工事であるため、STEP2では資本的支出と判定します。
工事代金の支払いに係る仕訳は次のとおりです。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 建物 | 50万円 | 普通預金 | 70万円 |
| 建物附属設備 | 10万円 | ||
| 修繕費 | 10万円 |
資産に計上する勘定科目は原則として建物ですが、給排水管の引き直しは設備として区分できるため、建物附属設備に振り分けます。
解体撤去費の10万円は資産に計上せず、修繕費として処理します(国税不服審判所 平成26年4月21日裁決)。なお、新しい設備を据え付けるための下地工事は、解体撤去費ではなく設置工事に含めます。
取り壊した部分の除却に係る仕訳は次のとおりです。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 固定資産除却損 | 10万円 | 建物 | 10万円 |
取り壊した古いトイレ部分の未償却残高は、固定資産除却損に振り替えます。ここでは未償却残高を10万円と算定しました。
建物取得時の見積書を紛失し、全体の建物金額に対するトイレ部分の金額の内訳が残っていない場合もあります。
その場合は、建物の取得価額を総床面積で除した単価に、取り壊したトイレ部分の床面積を乗じて固定資産除却損を算定する方法も認められています。
1年分の減価償却費の仕訳は次のとおりです。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 減価償却費 | 1万7,700円 | 建物 | 1万1,000円 |
| 建物附属設備 | 6,700円 |
耐用年数と償却率は、減価償却資産の耐用年数等に関する省令で定められています。
現在取得する建物と建物附属設備の償却方法は定額法に限られており、耐用年数は別表第一、償却率は別表第八で確認します(減価償却資産の耐用年数等に関する省令)。
償却率は鉄筋コンクリート造住宅用47年の0.022、給排水設備15年の0.067です。減価償却費は建物50万円について年1万1,000円、建物附属設備10万円について年6,700円となります。
初年度は、工事が完了して使用を開始した月から期末までの月数で按分します。
トイレ改修工事の税務調査への備え|証憑書類と3つの注意点
トイレ改修工事の税務調査で問われるのは、修繕費と資本的支出の判定が適切であったかどうかです。
判定の根拠となるのは、見積書の内訳、請求書、契約書などの証憑書類です。工事の範囲と内容が確認できるよう、申告後も保存しておく必要があります。
工事の進捗を撮影した写真も、実際に行われた工事を裏づける資料として有用です。
トイレの改修工事で判定を誤りやすい例は、次の3つです。
①全面改装を工事項目ごとに分けて修繕費にしている
トイレを全面的に取り壊して新設した工事は、便器・内装・配管といった工事項目ごとに修繕費と資本的支出を分けることができません。見積書や請求書に工事項目別の金額が記載されていても、工事全体を1つの単位として判定します。
②1つの工事を明細ごとに切り分けて20万円未満にしている
同一のトイレについて1つの計画で行った工事は、見積書や請求書の明細を分けても、合計額で20万円未満かどうかを判定します。明細ごとの金額を20万円未満に収めて修繕費とすることはできません。
③高機能な設備への取替えを同等品交換として修繕費にしている
老朽化した便器を高機能なものに取り替えた工事は、原状回復ではないため修繕費にはなりません。1台20万円未満であれば少額基準で修繕費にできますが、これを超えるときは資本的支出です。
まとめ|トイレ改修工事の勘定科目と耐用年数の要点
トイレ改修工事の勘定科目は、工事の範囲と内容に応じて、修繕費・建物・建物附属設備・固定資産除却損に振り分けます。
押さえておきたいポイント
- トイレを丸ごと取り壊して造り替えた工事は、工事項目ごとに区分せず、工事全体を1つの単位として判定します。
- 便器や洗面台など一部の設備だけを取り替えた工事は、取り替えた設備ごとに判定します。
- 1つの工事の金額が20万円未満であれば、内容を問わず修繕費にできます。
- 20万円以上の工事は、同等品への交換であれば修繕費、品質や性能を高める工事であれば資本的支出です。
- 資産に計上する勘定科目は原則として建物で、耐用年数は既存の建物と同じです。給排水管など区分できる設備だけが建物附属設備(15年)になります。
- 古い設備の解体撤去費は修繕費、取り壊した部分の未償却残高は固定資産除却損になります。
トイレ改修工事の勘定科目に関するよくある質問(FAQ)
トイレ改修工事の勘定科目について、実務で寄せられることの多い質問を整理いたします。
- 修繕費の判定に使う20万円や60万円という基準は、税込みと税抜きのどちらの金額で判定しますか。
-
20万円や60万円といった基準は、採用している消費税の経理方式に応じ、税抜経理方式であれば税抜きの金額、税込経理方式であれば税込みの金額で判定します。
なお、免税事業者は税込経理方式によることとされているため、税込みの金額で判定します。
- トイレの改修工事費用は、いくらまでなら修繕費として経費にできますか。
-
1つの工事の金額が20万円未満であれば、工事の内容にかかわらず修繕費にできます。
20万円以上のときは、同等品への取替えであれば修繕費として経費にできますが、品質や性能を高める工事であれば資本的支出となり、固定資産に計上します。
- トイレを丸ごと交換する工事について、20万円未満なら修繕費にできるという基準は、見積書の明細ごとに分けて当てはめてもよいですか。
-
見積書の明細ごとに分けて当てはめることはできず、修繕費にできるかどうかは工事代金の合計額で判定します。
トイレを丸ごと取り壊して新しくする工事は、便器や内装などに分かれていても全体で1つの工事として取り扱われるため、工事代金の合計額が20万円以上であれば修繕費にはできません。
- トイレの改修工事を資産に計上する場合、耐用年数は何年になりますか。
-
トイレ改修工事の資本的支出は原則として建物への資本的支出となるため、耐用年数は既存の建物と同じです。給排水管など設備として区分計上した部分だけが、建物附属設備として15年になります。
既存の建物の耐用年数は、法人であれば固定資産台帳、個人事業主であれば青色申告決算書(白色申告は収支内訳書)の「減価償却費の計算」欄で確認できます。
- トイレの改修工事で古い設備を取り壊した場合、解体撤去費と古い設備の未償却残高は、どの勘定科目で処理しますか。
-
古い設備の解体撤去費は資産に計上せず、支出した年または事業年度の修繕費になります。
取り壊した古い設備について、まだ経費にしていない金額(=未償却残高)は、固定資産除却損として取り壊した年または事業年度の経費になります。
【参考文献】
- 国税庁「所得税基本通達 〔資本的支出と修繕費等〕(37-10〜37-15の3)」
- 国税庁「法人税基本通達 第8節 資本的支出と修繕費(7-8-1〜7-8-5)」
- 国税庁「所得税基本通達 法第51条《資産損失の必要経費算入》関係」
- 国税庁「法人税基本通達 第1款 除却損失等の損金算入(7-7-1)」
- 国税庁「消費税法等の施行に伴う所得税の取扱いについて」
- 国税庁「消費税法等の施行に伴う法人税の取扱いについて」
- 国税庁タックスアンサー No.2107「資本的支出を行った場合の減価償却」
- e-Gov法令検索「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」
- 国税庁「耐用年数(建物/建物附属設備)」
- 国税不服審判所 平成26年4月21日裁決


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