配偶者居住権の節税効果|二次相続シミュレーションで有利・不利を税理士が解説

配偶者居住権の相続税の評価額と節税対策の関係について

「夫や妻を亡くしたあと、住み慣れた自宅にそのまま住み続けられるだろうか」──相続でまず気がかりになるのが、残された配偶者の住まいです。

住まいの心配にこたえる制度が「配偶者居住権」です。自宅を「住む権利」と「持ち主としての権利」に分け、住む権利を配偶者が、持ち主としての権利を子などが相続します。

配偶者居住権を使うと、配偶者は自宅に住み続けられるうえ、家族が納める相続税の合計も大きく減らせます。本記事のモデルでは、通算1,220万円だった相続税が約346万円まで下がりました。

ただし、配偶者居住権は設定すれば必ず節税になる制度ではありません。自宅を売る予定がある場合など、設定しないほうが有利になるケースもあります

配偶者居住権が有利か不利かは、配偶者が亡くなる二次相続(=残された配偶者が亡くなったときの2回目の相続)まで通算して初めて分かります。

本記事では、配偶者居住権を設定する場合としない場合の相続税を試算し、どんな家庭なら有利で、どんな家庭なら不利になるのかまで、税理士が初心者向けにやさしく解説します。

目次

配偶者居住権とは?二次相続シミュレーションの前提知識

配偶者居住権とは、残された配偶者が、亡くなった人の自宅に原則として終身、無償で住み続けられる権利です。

配偶者居住権は、民法で認められた相続の制度です。自宅を「住む権利」と「所有権」に分け、住む権利を配偶者が、所有権を子などの他の相続人が取得します

配偶者が取得するのは、建物に住む権利(配偶者居住権)と、敷地利用権(=その土地を使い続けられる権利)です。

子などが取得するのは、建物と土地の負担付き所有権(=配偶者が住んでいる間は自由に使えない所有権)です。

配偶者居住権が二次相続の節税になる理由|権利が消滅する仕組み

子が二次相続で負担する相続税が減る理由は、配偶者が取得した住む権利(配偶者居住権と敷地利用権)が配偶者の死亡によって消滅し、相続税の課税対象にならない点にあります(相続税法基本通達9-13の2、国税庁「配偶者居住権等の評価に関する質疑応答事例」)。

配偶者居住権を設定すると、一次相続(=最初に亡くなった人の相続)で、自宅の価値が、配偶者が取得する住む権利と、子が取得する所有権に分かれます。

なお、住む権利にも相続税評価額が付くため、配偶者と子はそれぞれの評価額に応じて相続税を負担します。

ただし、配偶者が亡くなる二次相続では、住む権利は相続財産として子に引き継がれず、評価額ごと消えてなくなります。

結果的に、子が相続税を課されるのは一次相続時の自宅の所有権だけになり、住む権利の評価額の分だけ課税財産が減ります

仕組みが分かったところで、実際の数字で効果を確かめます。

配偶者居住権の節税効果を二次相続まで通算してシミュレーション

配偶者居住権を設定すると、自宅1億円を配偶者と子1人で相続するモデルでは、家族が納める相続税の合計が1,220万円から約346万円に減ります。

試算の前提条件【自宅1億円・相続人は配偶者と子1人】

相続人は配偶者と子1人、相続財産は自宅1億円だけというモデルで試算します。自宅の相続税評価額の内訳は次のとおりです。

自宅の内訳相続税評価額
建物4,000万円
土地6,000万円
自宅の合計1億円

配偶者居住権を設定しない場合は、配偶者が自宅1億円をすべて相続するものとします。設定した場合は、自宅の1億円が配偶者の住む権利と子の所有権に分かれ、相続税評価額は次のとおりです。

取得する権利相続税評価額
配偶者が取得する住む権利
(配偶者居住権+敷地利用権)
約5,504万円
子が取得する所有権
(建物・土地の負担付き所有権)
約4,496万円
合計1億円

配偶者が取得する約5,504万円と、子が取得する約4,496万円の計算方法は、「配偶者居住権の相続税評価|計算式・節税効果・小規模宅地特例との関係」で解説しています。同じ設例を使い、計算式まで載せていますのでそちらをご覧ください。

そもそも相続税はどう計算する?4つのステップ

相続税は、相続財産の合計から基礎控除を引き、残った金額に税率をかけて計算します。手順は大きく4つのステップに分かれます。

STEP
STEP1 相続財産を合計する

亡くなった人が残した相続財産(現金・預金・不動産など)の相続税評価額をすべて足します。

STEP
STEP2 基礎控除を引く

相続税がかからない基礎控除の額は、3,000万円に、法定相続人(=民法で決まった相続人)1人あたり600万円を足して求めます。相続人が配偶者と子の2人なら4,200万円、子1人だけなら3,600万円を差し引きます。

STEP
STEP3 相続税の総額を出す

基礎控除を引いて残った金額(=課税遺産総額)を、いったん法定相続分(=民法が決めた取り分の目安で、配偶者と子1人なら2分の1ずつ)で分けます。分けた金額ごとに速算表の税率をかけ、足し戻したものが家族全体で納める相続税の総額です(国税庁タックスアンサーNo.4155「相続税の税率」)。

STEP
STEP4 取得した割合で分け直す

相続税の総額を、各人が実際に受け取った相続財産の割合で分け直します。分け直した金額が、その人が納める相続税です。

配偶者居住権を設定するかどうかで差が生まれるのは、一次相続のSTEP4の分け直しと、二次相続のSTEP1の相続財産の合計です。設定しない場合から順に、実際の数字を当てはめて確かめます。

①配偶者居住権を設定しない場合|子の二次相続に相続税が集中

配偶者居住権を設定しない場合、一次相続では配偶者が自宅1億円をすべて相続します。一次相続の納税はゼロで済みますが、自宅がまるごと二次相続に残り、子に相続税が集中します

一次相続で納税がゼロになるのは、配偶者の税額軽減(=配偶者は1億6,000万円か法定相続分のどちらか多い額まで相続税がかからない制度)が使えるためです。

二次相続では相続人が子1人だけになり、基礎控除が3,600万円に下がって税率も30%に上がります(国税庁タックスアンサーNo.4155「相続税の税率」、No.4158「配偶者の税額の軽減」)。

項目一次相続(相続人=配偶者と子)二次相続(相続人=子1人)
課税価格1億円1億円
基礎控除4,200万円(3,000万円+600万円×2人)3,600万円(3,000万円+600万円×1人)
課税遺産総額5,800万円6,400万円
法定相続分で分けた額2,900万円×2人6,400万円×1人
税率と控除額15%・50万円30%・700万円
相続税の総額770万円1,220万円
実際の納税額0円(配偶者の税額軽減)1,220万円

配偶者の税額軽減に頼り切ると、通算1,220万円の相続税がすべて子の二次相続に集中します。相続税がかからなかった一次相続の裏で、子の負担が積み上がる典型的な失敗パターンです。

次に、配偶者居住権を設定した場合の数字を見ます。

②配偶者居住権を設定した場合|通算の相続税が約874万円減る

配偶者居住権を設定すると、配偶者が住む権利を、子が所有権を相続します。子は一次相続で約346万円の相続税を納めますが、二次相続では、配偶者の住む権利が消えて相続する自宅の権利がないため、追加の相続税はかかりません

相続税の総額(=家族全体が納める相続税の合計)は、誰がどの財産を取得するかに関係なく、相続財産の合計額と相続人の人数だけで決まります。自宅1億円も相続人2人も変わらないため、一次相続の相続税の総額は、配偶者居住権を設定しない場合と同じ770万円です。

一次相続で差が出るのは、STEP4の取得した割合で分け直す部分です。配偶者の税額軽減は配偶者の住む権利の部分にしか使えないため、子が取得した所有権の部分には相続税がかかります。

取得者取得した相続財産税額の計算納める相続税
配偶者住む権利 約5,504万円770万円 × 5,504万円 ÷ 1億円 = 約424万円0円(配偶者の税額軽減)
所有権 約4,496万円770万円 × 4,496万円 ÷ 1億円 = 約346万円約346万円
合計1億円約346万円

二次相続では住む権利が消えるため、課税される相続財産は0円になります。配偶者居住権の設定の有無で通算の納税額がどう変わるかを並べます。

項目①設定しない場合②設定した場合
一次相続の納税額0円約346万円
二次相続の納税額1,220万円0円
相続税の通算の納税額1,220万円約346万円

配偶者居住権を設定しない場合の相続税の通算の納税額が1,220万円に対し、配偶者居住権を設定した場合の相続税の通算の納税額は約346万円です。

本記事のモデルでは通算約874万円、二次相続の税負担を前倒しするだけで納税額が減る計算になります。

ただし、配偶者居住権はどの家庭でも有利になるとは限りません。有利かどうかは家族構成や自宅を売る予定によって変わるため、次章で損になる3つのケースを確認します。

配偶者居住権が節税にならない・かえって損になる3つのケース

配偶者居住権が節税にならず、かえって損になるのは3つのケースで、①自宅を売る予定がある場合、②途中で配偶者居住権をやめる場合、③二次相続の相続財産が基礎控除以下の場合です。

  • 自宅を売る可能性がある:配偶者居住権付きの建物は子の同意がないと売却できず、売却できても譲渡所得税がかかる(参考:配偶者居住権について専門家以外でも分かるように解説します!
  • 途中で配偶者居住権をやめる可能性がある:配偶者が生きているうちに、配偶者と子の合意や配偶者の放棄によって配偶者居住権を無償で消すと、その分だけ子が持つ所有権の価値が増えるため、増えた価値に対して子に贈与税がかかる(相続税法基本通達9-13の2
  • 二次相続でもともと相続税がかからない:配偶者居住権を設定せずに自宅を配偶者から子へ引き継いでも、二次相続の相続財産が基礎控除以下なら相続税はかからないため、配偶者居住権を設定しても減らせる相続税がない

配偶者居住権を設定する4つの方法【比較】

配偶者居住権を設定する方法は4つあり、被相続人または相続人が、遺贈(遺言)・死因贈与・遺産分割協議・家庭裁判所の審判のいずれかを選びます。

設定方法概要メリットデメリット
遺贈(遺言)で設定被相続人が生前に遺言書で「配偶者居住権を遺贈する」と定めておく意思が確実に反映され、話し合いが不要遺言書の作成・保管の手間がかかる
死因贈与で設定被相続人と配偶者が生前に「亡くなったら配偶者居住権を与える」と契約しておく配偶者と合意したうえで生前に決められ、話し合いが不要契約書の作成が必要で、遺言に比べて実務例が少ない
協議で設定相続開始後に相続人全員で話し合って決める遺言がなくても利用でき、柔軟相続人全員の合意が必須
審判で設定協議がまとまらないとき家庭裁判所に申し立てる他の相続人が反対しても設定の余地時間と費用がかかり、結果も不確実

遺言で設定する場合、被相続人は遺言書に「配偶者居住権を遺贈する」と書く必要があります。「相続させる」と書くと配偶者は配偶者居住権を取得できないため、文言に注意してください(民法1028条1項2号)。

生前に方針を決められるなら、公正証書遺言で配偶者居住権を遺贈しておくのが最も確実です。公正証書遺言なら、形式の不備で無効になる心配がなく、原本が公証役場に保管されます。

配偶者居住権を取得した配偶者は、居住建物に配偶者居住権の設定登記をしてください。登記がないと、建物が第三者に売られたときに、配偶者はその第三者に配偶者居住権を主張できません(民法1031条)。

以上を踏まえて、要点を整理します。

まとめ|配偶者居住権が有利かは二次相続までの通算で判断する

配偶者居住権が有利かどうかは、家族が一次相続と二次相続で納める相続税を通算して比べて初めて判断できます

  • 配偶者居住権は配偶者の死亡で消える:配偶者が亡くなると配偶者居住権は消滅し、二次相続では、相続財産に含まれない。子は一次相続で自宅の所有権を取得しているため、二次相続で自宅にかかる相続税はない
  • モデル試算では通算の相続税が約874万円減る:自宅1億円・相続人は配偶者と子1人のモデルでは、配偶者居住権を設定しない場合の相続税は1,220万円に対し、設定した場合の相続税は約346万円になった
  • 損になるケースもある:自宅を売る予定がある場合、途中で配偶者居住権をやめる場合、二次相続の相続財産が基礎控除以下の場合は、配偶者居住権を設定しても節税にならず、かえって損になることがある

配偶者居住権の節税に関するよくある質問(FAQ)

配偶者居住権の節税シミュレーションについて、よくいただく質問をまとめました。

配偶者居住権は途中でやめられますか?

配偶者と建物を所有する子が合意すれば、配偶者居住権を途中でやめられます。ただし、無償でやめると子に贈与税がかかり、子が対価を払ってやめると配偶者に譲渡所得税がかかるため、設定前に出口まで検討してください。

自宅を売る予定があっても配偶者居住権を設定すべきですか?

自宅を売る予定があるご家庭には、配偶者居住権の設定をおすすめしません。配偶者居住権が付いた建物は買い手が見つかりにくく、売りたいときに売れないおそれがあるためです。

小規模宅地等の特例は配偶者居住権に使えますか?

一次相続で配偶者が取得した敷地利用権(=土地を使う権利)には、小規模宅地等の特例を使えます。小規模宅地等の特例は土地を対象とする制度のため、建物に対する権利である配偶者居住権そのものには使えません。

二次相続でも配偶者居住権に小規模宅地等の特例を使えますか?

二次相続では、配偶者居住権に小規模宅地等の特例を使えません。配偶者居住権と敷地利用権は配偶者の死亡で消滅し、子が二次相続で受け取る自宅の権利がないためです。

配偶者居住権の評価額は自分で計算できますか?

配偶者居住権の評価額は、平均余命表と複利現価表も載っている国税庁の配偶者居住権等の評価明細書があれば、ご自身でも計算できます。

参考文献(国税庁・e-Gov法令検索)

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