不動産管理会社を経営していて、「役員退職金を活用して節税できると聞いたが、いくらまで支払えるのか」「税務調査で不相当に高額と指摘されないか心配」と悩んでいませんか?
役員退職金は、所得税・住民税・社会保険料のすべてを大きく抑えられる強力な節税策です。
しかし、功績倍率の設定や支給時期を誤ると、損金否認されてかえって税負担が増えるリスクもあります。
本記事では、不動産管理会社のオーナーが役員退職金で合法的に節税する3つの方法を、計算例と国税庁の根拠付きで初心者にもわかりやすく解説します。
- 役員退職金が節税につながる3つの仕組み
- 功績倍率法を使った役員退職金の計算方法
- 不動産管理会社で退職金を活用する3つの実践スキーム
- 税務調査で否認されないための適正額の考え方
役員退職金とは?不動産管理会社にとっての位置づけ
役員退職金とは、法人の役員が退任する際に支給される報酬であり、適正額の範囲内であれば全額を法人の損金(経費)に算入できる制度です。
不動産管理会社のようにオーナー自身や家族が役員を兼ねる中小法人にとっては、節税と退職後の生活資金準備を同時に実現できる重要な仕組みです。
個人事業主として家賃収入を得ている不動産オーナーの場合、自分自身に退職金を支払って必要経費にすることはできません。
しかし、賃貸不動産を法人(不動産管理会社)に集約すれば、オーナー本人や配偶者を役員にして、引退時に退職金を支給できるようになります。
これは国税庁タックスアンサーNo.5208「役員の退職金の損金算入時期」でも認められた合法的な節税スキームです。
役員退職金が大きな節税効果を生む3つの仕組み
役員退職金は「損金算入」「退職所得控除」「2分の1課税」の3点で、給与や役員報酬よりも圧倒的に税負担が軽くなります。
ここではそれぞれの仕組みを順番に確認します。
- 法人側で全額損金算入:適正額なら法人税の課税所得を圧縮できる
- 退職所得控除:勤続20年以下は40万円×年数、20年超は800万円+70万円×(勤続年数−20年)を控除
- 2分の1課税:控除後の残額にさらに2分の1を掛けて課税所得を半分にできる
たとえば、退職金2,000万円を受け取った場合、勤続20年なら退職所得控除は800万円、課税対象は(2,000万円−800万円)÷2=600万円にまで圧縮されます。
さらに退職所得は社会保険料の対象外なので、給与で受け取る場合に比べて手取りが大きく増えます。
功績倍率法による役員退職金の計算方法
税務上認められる役員退職金の適正額は、実務上「功績倍率法」で計算します。
計算式は次のとおりです。
役員退職金 = 最終報酬月額 × 役員在任年数 × 功績倍率
| 役職 | 功績倍率の目安 |
|---|---|
| 代表取締役(社長) | 2.0〜3.0倍 |
| 専務取締役 | 2.4倍程度 |
| 常務取締役 | 2.2倍程度 |
| 取締役・監査役 | 1.8〜2.0倍 |
功績倍率は法人税法上に明文規定があるわけではなく、過去の裁判例(昭和55年5月26日東京地裁判決ほか)で確立された実務慣行です。
その根拠条文は法人税法施行令第70条第2号で、「業務に従事した期間・退職の事情・同種事業を営む同規模法人の支給状況」を勘案して相当性を判断するとされています。
社長で3.0倍を超えると税務調査で否認されるリスクが急激に高まるので注意してください。
【具体例】不動産管理会社オーナーの退職金計算と仕訳
月額役員報酬60万円・在任20年・功績倍率3.0の社長の場合、適正な役員退職金は3,600万円となります。
| 項目 | 金額 | 備考 |
|---|---|---|
| 最終報酬月額 | 60万円 | 退任直前の役員報酬 |
| 役員在任年数 | 20年 | 1年未満は切り上げ |
| 功績倍率 | 3.0倍 | 代表取締役 |
| 役員退職金額 | 3,600万円 | 60万×20年×3.0 |
| 退職所得控除 | 800万円 | 勤続20年(40万×20) |
| 課税退職所得 | 1,400万円 | (3,600−800)÷2 |
受給者本人が会社に「退職所得の受給に関する申告書」を提出すると、退職所得控除・2分の1課税を反映した所得税の源泉徴収と住民税の特別徴収だけで課税関係が完結し、原則として確定申告は不要になります。
これが中小企業オーナーの退職金支給でもっとも一般的な実務パターンです。
天引き額(所得税の源泉徴収+住民税の特別徴収)の計算は以下のとおりです。
| 税目 | 計算式 | 金額 |
|---|---|---|
| 所得税 | 1,400万円×33%−153.6万円 | 308.4万円 |
| 復興特別所得税 | 308.4万円×2.1% | 約6.5万円 |
| 住民税(特別徴収) | 1,400万円×10% | 140万円 |
| 天引き合計(所得税+住民税) | 約454.9万円 | |
| 本人手取り | 3,600万円−454.9万円 | 約3,145.1万円 |
このときの法人側の仕訳は次のとおりです。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 役員退職金 | 3,600万円 | 普通預金 | 3,145.1万円 |
| 預り金(源泉所得税・復興特別所得税) | 314.9万円 | ||
| 預り金(住民税) | 140万円 |
もし「退職所得の受給に関する申告書」を提出しない場合は、退職金の総額に対して一律20.42%(所得税+復興特別所得税)の源泉徴収が必要になり、本人は確定申告で精算する手間がかかります。
実務では必ず申告書を提出してもらいましょう。
法人側では、この3,600万円が全額損金算入となり、法人税率約30%とすると約1,080万円の法人税軽減効果が得られます。
一方で受取人個人の所得税・住民税は、退職所得控除と2分の1課税により給与で受け取る場合の半分以下に抑えられます。
不動産管理会社で退職金を活用する3つの実践スキーム
不動産管理会社では「オーナー本人」「配偶者役員」「子役員」の3パターンで退職金を活用すると、家族全体の手取りを最大化できます。
まず3つのスキームを比較表で全体像を確認しましょう。
状況に応じて単独でも組み合わせでも活用できます。
| スキーム | 対象者 | 主な節税効果 | 準備期間の目安 |
|---|---|---|---|
| オーナー本人で受給 | 代表取締役 | 事業承継+老後資金 | 10〜30年 |
| 配偶者を役員にする | 配偶者(取締役) | 所得分散・累進緩和 | 5〜15年 |
| 子を役員にする | 後継者(取締役) | 長期的な退職金準備 | 10〜30年 |
① オーナー本人が引退時に受け取る
不動産賃貸事業を子世代へ承継するタイミングで、オーナー本人が代表取締役を退任して退職金を受け取ります。
事業承継と老後資金準備を同時に実現できる王道のスキームです。
在任年数を長く積み上げられるため、退職所得控除と功績倍率の両方で大きな節税効果が出やすいのが特徴です。
② 配偶者を役員にして退職金で所得分散
配偶者を取締役として登記し、長期間の勤務実態を積み上げます。
退任時に退職金を支給することで、所得を夫婦間で分散しつつ累進課税の負担を軽減できます。
形式的な登記だけでなく、実際の業務従事の記録(議事録・経理書類・契約書への押印など)を残すことが税務上のポイントです。
③ 子を役員にして長期的な退職金準備を始める
子(後継者世代)を早めに取締役として登記し、長期間の役員在任年数を積み上げて将来の退職金支給に備えるスキームです。
退職所得控除は勤続20年超で大幅に増える(800万円+70万円×超過年数)ため、20代〜30代の早い段階で役員に就任させて在任期間を確保するほど、将来の退職金の節税インパクトが大きくなります。
長期スキームとして成立させる前提として、実態のない名義だけの役員登記は税務調査で否認される点に注意してください。
取締役会議事録・業務日報・契約書への押印など、長年にわたって実際に業務に従事した記録を継続的に残すことが必須です。
また、退職金支給直前に役員報酬を急増させる「駆け込み増額」は不相当に高額と判定される典型パターンなので、報酬水準は早い段階から計画的に設計してください。
税務調査で否認されないための注意点
役員退職金が「不相当に高額」と判定されると損金不算入となり、追徴課税のリスクがあります。
法人税法施行令第70条第2号で「業務に従事した期間・退職の事情・同種事業の同規模法人の支給状況」を勘案して相当性を判断するとされています。
- 功績倍率を社長3.5倍以上で設定している
- 退職直前に役員報酬を大幅に増額している(駆け込み増額)
- 株主総会議事録や退職金規程が整備されていない
- 勤続年数5年以内なのに2分の1課税を適用している(令和4年改正で原則不可)
- 分掌変更(実質的に経営権を保持したまま)で退職金を支給している
特に退職金規程を整備していないケースは中小企業で非常に多く、税務調査で論点になります。
支給前に必ず株主総会決議と退職金規程を準備してください。
まとめ|役員退職金で計画的な節税を実現する
- 不動産管理会社の役員退職金は「損金算入」「退職所得控除」「2分の1課税」で大きな節税効果
- 功績倍率は社長で2.0〜3.0倍を上限の目安にする
- オーナー本人・配偶者・子の3パターンで家族全体の手取りを最大化
- 退職金規程と株主総会議事録の整備が税務調査対策の必須要件
役員退職金は10年以上の長期準備が前提になる節税策です。
設立直後の不動産管理会社でも、今のうちから役員報酬の設計と退職金規程の整備に着手しておくことで、将来の節税効果を最大化できます。
具体的な金額設計や規程整備にお悩みの場合は、税理士へ早めに相談されることをおすすめします。
よくある質問(FAQ)
- 個人事業主のままでも退職金で節税できますか?
-
できません。
個人事業主が自分や配偶者に退職金を支払っても必要経費に算入できないため、節税効果はありません。
不動産管理会社を設立して法人化することで、はじめて役員退職金による節税が可能になります。
- 退職金の積立はどう準備すればよいですか?
-
中小企業退職金共済(中退共)、経営セーフティ共済、法人保険などが代表的な方法です。
掛金は損金算入できるため、毎期コツコツ準備しながら法人税の節税効果も得られます。
- 在任5年未満の役員でも退職金を支給できますか?
-
支給は可能ですが、令和4年度税制改正により、勤続年数5年以下の法人役員等は退職所得の2分の1課税が原則適用されなくなりました。
短期間で退職金を支給すると個人側の税負担が重くなる点に注意してください。
- 役員に「退職所得の受給に関する申告書」を必ず提出してもらうべきですか?
-
はい、必ず役員本人に「退職所得の受給に関する申告書」を提出してもらってください。
提出してもらえば、会社は退職所得控除と2分の1課税を反映した適正な所得税の源泉徴収と住民税の特別徴収だけで課税関係を完結させられ、役員本人も確定申告が不要になります。
未提出の場合、会社は退職金総額に対して一律20.42%(所得税+復興特別所得税)を源泉徴収する義務を負い(住民税は申告書の有無にかかわらず特別徴収が必要)、役員本人も別途確定申告で精算する手間が発生します。
支給日までに必ず申告書を回収しましょう。


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