法人が買った建物や高額な設備は、買った年に代金の全額を経費にはできません。
法人税の計算では、減価償却という手続きで代金を使用年数に分け、毎年少しずつ損金(=法人税法上の経費)に計上します。
減価償却を正しく理解すれば、利益を調整し、融資や信用にも生かせます。
とくに法人は、減価償却費の金額を自分で決められる「任意償却」が認められているのが特徴です。
本記事では、法人の減価償却の仕組み・計算方法・任意償却の使い方・黒字化や消費税の注意点まで、不動産業を専門とする税理士がわかりやすく解説します。
法人の減価償却とは?まず仕組みをやさしく解説
法人の減価償却とは、固定資産の取得価額(=買ったときの値段)を使用できる年数で分け、毎年の損金に計上していく手続きです。
固定資産とは、建物・機械・車両・備品など、長く使えて価格の高い財産のことをいいます。
高額な資産を買った年に全額を損金にすると、その年だけ利益が大きく下がり、各年の損益を正しく表せません。
そこで法人税法は、減価償却のルールに沿って毎年一定額を損金に算入するよう求めています(国税庁タックスアンサー No.2100「減価償却のあらまし」)。
減価償却の対象になるのは、原則として使用できる期間が1年以上で、取得価額が10万円以上の資産です。
減価償却の金額は、資産ごとに定められた耐用年数をもとに計算します。
- 減価償却の対象になる資産:建物・機械・車両・備品など長く使う高額な資産
- 減価償却の対象にならない資産:土地・借地権など時間で価値が減らないもの
減価償却費の計算方法(定額法・定率法)
法人の減価償却費の計算方法は、主に「定額法」と「定率法」の2つです。
定額法とは、毎年おなじ金額を減価償却費として計上していく方法です。
計算は「取得価額×定額法の償却率」で行い、毎年の減価償却費は一定になります。
たとえば取得価額3,000万円・耐用年数4年(償却率0.250)の中古建物なら、毎年750万円を減価償却費として計上します。
定率法とは、未償却残高(=まだ償却していない残高)に一定の償却率を掛けて減価償却費を計算する方法です。
未償却残高は年がたつほど減るため、減価償却費は初年度が最も大きく、その後は小さくなります。
たとえば取得価額3,000万円・耐用年数4年(償却率0.500)なら、1年目は1,500万円、2年目は未償却残高に償却率を掛けて750万円と減っていきます。
償却率は、耐用年数ごとに国税庁の表であらかじめ定められています(国税庁タックスアンサー No.2106「定額法と定率法による減価償却」)。
| 方法 | 毎年の減価償却費 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| 定額法 | 毎年一定 | 長期で安定して費用化したいとき |
| 定率法 | 初年度が大きい | 早めに多く費用化して節税したいとき |
法人の法定償却方法と耐用年数の調べ方
法人が届け出をしない場合、資産の種類ごとに使う「法定償却方法」が決まっています。
建物・建物附属設備・構築物は定額法、機械・車両・器具備品などは定率法が原則です(国税庁タックスアンサー No.2106「定額法と定率法による減価償却」)。
耐用年数は、国税庁の「耐用年数表」で資産の種類や用途ごとに調べられます(国税庁「主な減価償却資産の耐用年数表」)。
中古資産を買った場合は、使用済みの期間に応じた短い耐用年数で計算できます(↓参照)。

なお、土地や借地権は時間が経っても価値が減らないため、減価償却の対象になりません。
法人の減価償却は「任意償却」|会社が金額を決められる
法人の減価償却は、償却限度額の範囲内で会社が減価償却費の金額を決められる「任意償却」です。任意償却とは、その年の減価償却費を、ゼロから償却限度額までの範囲内で自由に決められる仕組みのことです。
減価償却費の金額は、それぞれの固定資産1つごとに別々に選べます。
固定資産が3つあれば、それぞれについて「ゼロから限度額まで」の範囲で金額を決められます。選べるのはゼロか限度額かの二択ではなく、その範囲内の金額ならいくらでもかまいません。
たとえば、減価償却費の償却限度額が100万円なら、その年は30万円だけ計上することもできます。その年に計上しなかった償却不足額70万円は消えてなくならず、その固定資産の帳簿価額(=まだ償却していない資産の残額)に残ります。
ただし、翌年の償却限度額に70万円を上乗せするのではなく、各年の限度額の範囲で計上を続けることになります。結果として、耐用年数を過ぎても、帳簿価額が残るため、減価償却が続き、償却し終えるまでの期間は実質的に延びます。
減価償却費を損金にするには、その年の決算で費用として計上する「損金経理(=帳簿に費用として記録すること)」が必要で、損金経理をしていない減価償却費は損金になりません(法人税法第31条、国税庁タックスアンサー No.2100「減価償却のあらまし」)。
さらに、決算で計上し忘れた減価償却費は、更正の請求(=払いすぎた税金の還付を求める手続き)で、あとから追加で損金にすることはできません。
減価償却費を計上するかどうかはその年の決算で確定させる必要があり、後からのやり直しはできません。
- 資産ごとに選べる:固定資産が複数あれば、それぞれ別々に金額を決められる
- 金額は自由:ゼロから限度額までの範囲で、好きな金額にできる
- 使わない分は消えない:帳簿価額に残り、後の年に償却できる(償却期間が延びる)
減価償却による利益調整・黒字化対策
任意償却の大きな強みは、融資や信用のためにあえて黒字を残す調整ができることです。
黒字を残したい年は、減価償却費の計上をおさえれば、その分だけ利益を確保できます。
黒字決算は、金融機関の融資審査で重視される自己資本の確保につながります。
赤字が続く会社よりも、黒字の会社のほうが融資を受けやすくなります。
また、任意償却でその年を黒字にできれば、同じ会社でも、赤字の年より融資を受けやすくなります。
税を減らすために損金を増やす一般的な節税とは逆に、損金をおさえて黒字を見せられるのが法人の強みです。
減価償却費を自由に決められる任意償却だからこそ、こうした調整ができます。
任意償却はどこまで使える?法人税申告書の別表16と会計上の強制償却
任意償却で減価償却費をおさえたことは、法人税申告書の「別表16」を見れば第三者にも分かります。
別表16(=減価償却の計算明細書)には、資産ごとの償却限度額と、実際に計上した額が記載されます。
限度額より計上額が少なければ「償却不足額」として表れ、償却をおさえたことが読み取れます。
金融機関は決算書とあわせてこの別表を確認するため、過度な利益調整は信用を損ないかねません。
もう一つの注意点は、会計のルールでは減価償却を毎期規則的に行うのが原則だということです。
とくに上場企業や会計監査を受ける企業では、会計上は減価償却が事実上強制され、任意償却は使えません。
税務上の任意償却を実際に活用できるのは、会計監査などの制約がない中小企業に限定されます。
法人の減価償却の注意点|消費税は減らせない
法人の減価償却でとくに誤解されやすいのが、減価償却費を計上しても消費税は減らないことです。
消費税は、売上で預かった消費税から、仕入や経費で支払った消費税を差し引いて計算します。
固定資産を買ったときに支払った消費税は、その年にまとめて差し引きます(仕入税額控除。国税庁タックスアンサー No.6401「仕入控除税額の計算方法」)。
減価償却費は、支払い済みの代金を各年に配分するだけなので、消費税の計算には関係しません。
- 消費税は固定資産の取得時に控除:固定資産の消費税は買った年にまとめて差し引く
- 減価償却費は消費税と無関係:費用配分なので納める消費税は変わらない
法人の減価償却と任意償却のまとめ
法人の減価償却で最も大切なのは、任意償却で利益を計画的に調整できることです。
- 減価償却とは:高額な資産の代金を使用年数に分けて、毎年少しずつ損金にする手続き
- 計算方法:定額法と定率法があり、届け出がなければ法定の方法で計算する
- 任意償却:法人は減価償却費の金額を、資産ごとにゼロ〜償却限度額まで自由に決められる。使わなかった分は消えずに帳簿価額へ残り、翌年以降に計上できる(法人ならではの仕組み)
- 黒字化・融資:任意償却で減価償却費をおさえれば、あえて黒字を残す調整ができ、融資審査や対外的な信用で有利になる(税を減らす一般的な節税とは逆方向の、法人ならではの使い方)
- 消費税:減価償却費を計上しても、納める消費税は減らない
まずは自社の固定資産について、今期の償却限度額とこれまでの償却状況を確認してみましょう。
そして、黒字を残したい年か損金を増やしたい年かに合わせて、減価償却費をいくら計上するか計画的に決めるのがおすすめです。
法人の減価償却に関するよくある質問(FAQ)
法人の減価償却について、相談の多い質問をまとめました。
- 法人は減価償却をしない年があってもいいですか?
-
はい。法人は任意償却のため、限度額の範囲でその年の減価償却費をゼロにすることもできます。
- 中古資産でも減価償却できますか?
-
できます。中古資産は、使用済みの期間を考慮した短い耐用年数で計算します。
- 減価償却費をおさえて黒字にすれば、融資を受けやすくなりますか?
-
はい。法人は任意償却が認められているため、あえて黒字を残す決算にでき、融資審査や対外的な信用で有利になります。
- 減価償却費を計上すると消費税は減りますか?
-
減りません。消費税は資産を買った年に控除するしくみのため、その後の減価償却費では変わりません。
参考文献


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