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遺留分と生前贈与10年ルール|相続人への贈与の持ち戻しを税理士が事例で解説

2026 6/05
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相続-基本
2026年6月27日
遺留分算定の基礎に含まれる相続人に対する生前贈与は10年間に限られる

「相続税対策として早めに子へ贈与しておけば、相続でもめずに済む」と聞いて、生前贈与を進めている方は多いです。

しかし、相続が始まった後で他の相続人から「遺留分を侵害している」と主張されると、贈与した財産の一部を返さなければなりません。

ここで多くの方がつまずくのが、遺留分の算定に含める生前贈与の期間です。

相続人への贈与は原則10年以内、相続人以外は原則1年以内に限られます。

これは令和元年7月1日に施行された改正民法1044条で明確になったルールです。

この記事では、税理士が、遺留分と生前贈与の関係、10年ルールの中身、相続税の暦年贈与7年加算との違い、具体的な計算例まで、初心者にもわかるようにやさしく解説します。

目次

遺留分とは何か|まず押さえるべき相続の基本ルール

遺留分とは、配偶者・子・直系尊属に法律で保障された最低限の相続分のことです。

遺言より優先されるため、相続対策では必ず押さえておく必要があります。

たとえ、「全財産を長男に相続させる」という遺言が残っていても、配偶者や他の子は被相続人の意思に関わらず、遺留分侵害額請求によって最低限の取り分を金銭で取り戻せます。

遺留分が認められる相続人

  • 配偶者(必ず認められる)
  • 子(子が先に亡くなっている場合は孫などの代襲相続人)
  • 直系尊属(父母・祖父母など。子がいない場合のみ)
  • 兄弟姉妹は対象外(民法1042条1項)

遺留分の割合(民法1042条)

相続人の組合せ遺留分の総枠各人の取り分の例
配偶者と子法定相続分の1/2配偶者1/4・子1/4を人数で按分
配偶者のみ法定相続分の1/2配偶者1/2
子のみ法定相続分の1/2子全員で1/2を人数按分
直系尊属のみ法定相続分の1/3父母全員で1/3を人数按分
兄弟姉妹のみなし遺留分は発生しない

ここまでが制度の枠組みです。

次は、遺言だけでなく生前贈与も遺留分の対象になる理由を見ていきます。

遺留分の対象に「生前贈与」が含まれる理由

生前贈与で財産を移しても、相続開始後の遺留分算定では一定期間の贈与が持ち戻されるのが原則です。

遺言だけでなく贈与にも歯止めをかけることで、遺留分制度の空洞化を防いでいます。

民法1043条は、遺留分を算定するための財産の価額を「被相続人が相続開始時に有した財産+贈与した財産−債務」と定めています。

つまり、過去にした贈与も合算して計算するのがルールです。

これを実務では「持ち戻し」と呼びます。

もし生前贈与を一切持ち戻さないなら、生きているうちに全財産を他人に贈与してしまえば遺留分は事実上ゼロにできます。

それを防ぐために、一定期間内の贈与は加算対象になっています。

押さえるべき用語の整理

持ち戻し

生前にした贈与を、相続財産にいったん戻して計算し直す手続きのこと。

実際にお金を返すわけではなく、計算上だけ加算します。

特別受益

相続人が結婚・養子縁組・住宅資金・事業資金など、まとまった目的で被相続人から受けた贈与のこと。

小遣いや扶養費は含まれません。

生計の資本

生活や事業を始めるための元手として渡された財産。

住宅取得資金・開業資金・大学院の学費などが典型例です。

遺留分侵害額請求

遺留分が侵害されたときに、侵害している人へお金で取り戻すよう求める手続き。

2019年7月の改正前は「遺留分減殺請求」と呼ばれていました。

用語の整理ができたところで、最も重要な「期間ルール」に進みます。

相続人への生前贈与は10年|相続人以外は1年【民法1044条】

遺留分の算定で持ち戻す生前贈与は、相続人へは原則10年以内、相続人以外へは原則1年以内に限定されています。

この期間制限は令和元年7月1日に施行された改正民法1044条のルールです。

改正前は、相続人への贈与は期間制限なくすべて持ち戻されていました。

古い贈与まで遡って計算するため、相続開始から何十年も前の出来事を調査する必要があり、紛争の長期化が問題視されていました。

改正によって法的安定性が高まりました。

期間ルールの比較表

区分加算される贈与の期間加算される贈与の範囲根拠条文
相続人への贈与相続開始前10年以内婚姻・養子縁組・生計の資本としての贈与(=特別受益)に限る民法1044条3項
相続人以外への贈与相続開始前1年以内贈与の全般民法1044条1項
害意あり(贈与者・受贈者の双方が悪意)期間制限なし贈与者と受贈者の双方が遺留分侵害を知っていたもの民法1044条3項・1項

「10年」「1年」の起算点

期間の起算点は相続開始日(被相続人の死亡日)です。

たとえば2026年5月30日に相続が開始した場合、相続人への贈与は2016年5月30日以降のものが持ち戻し対象になります。

「相続人」かどうかは贈与時ではなく相続開始時で判断します。

贈与時に推定相続人だったが相続開始前に廃除された人への贈与は、10年ではなく1年ルールに切り替わる点に注意してください。

ここまでが民法のルールです。

次は、これと混同されやすい相続税の7年加算との違いを整理します。

相続税の「7年加算」との混同に注意|民法と税法は別制度です

民法の遺留分10年ルールと、相続税の暦年贈与7年加算は、目的・期間・対象範囲がすべて違う別制度です。

同じ「生前贈与」の話なので混同しがちですが、計算の段階を分けて理解してください。

2023年度税制改正で、相続税の課税価格に加算される生前贈与の期間が3年から7年に段階的に延長されました。

これは相続税の節税封じを目的とした税法上のルールで、遺留分の算定とは無関係です。

遺留分10年と相続税7年の違い

観点民法 遺留分10年相続税 暦年贈与7年加算
目的遺留分制度の空洞化防止相続税の課税逃れ防止
対象者相続人への特別受益相続または遺贈で財産を取得した人
期間相続開始前10年相続開始前最大7年(経過措置あり)
対象贈与婚姻・養子縁組・生計の資本原則すべての贈与(暦年課税)
使う場面遺留分侵害額の計算相続税の課税価格の計算

相続税7年加算の経過措置スケジュール

相続税の加算期間は2024年1月1日以降の贈与から段階的に延長されています。

加算対象がいつから「最大7年」になるかは、相続開始日によって次のとおり決まります。

相続開始日加算される贈与の期間備考
2024/1/1〜2026/12/31相続開始前 3年以内従来どおり
2027/1/1〜2030/12/312024/1/1 〜 相続開始日(最大約7年)段階的に延長
2031/1/1 以降相続開始前 7年以内完全移行

具体例:2028年12月20日に相続が開始した場合

スケジュール表の2行目(2027/1/1〜2030/12/31)に該当します。

加算対象は「2024年1月1日から相続開始日まで」なので、対象期間は2024/1/1 〜 2028/12/20(約4年11か月)の贈与です。

内訳は次のとおりです。

  • 2025/12/20 〜 2028/12/20(相続開始前3年以内):贈与額の全額が加算
  • 2024/1/1 〜 2025/12/19(相続開始前3年超〜約4年11か月):合計から100万円を控除した額が加算
  • 2024/1/1 より前の贈与:加算対象外(経過措置の起算日が2024/1/1のため)

つまり、2028年12月20日に相続が始まったケースでは、本来の「相続開始前7年」よりも短い約4年11か月分しか持ち戻されません。

経過措置の起算日(2024/1/1)が遡り過ぎを止めているためです。

延長された4〜7年前の贈与については、合計100万円までは加算対象から控除される緩和措置が設けられています(国税庁「相続税及び贈与税の税制改正のあらまし」令和5年6月より)。

税法ルールの整理が済んだところで、いよいよ遺留分侵害額の計算例に進みます。

【具体例で計算】遺留分侵害額はいくらになるのか

遺留分侵害額の計算は、基礎財産→遺留分額→侵害額の3ステップで進めれば確実に出せます。

順序を間違えなければ、初心者でも電卓で検算できます。

【事例】:父が「全財産を長男に相続させる」という遺言を残して亡くなりました。相続人は長男・次男の2人で、相続開始時の財産と過去の贈与は下表のとおりです(金額はわかりやすさのため単純化しています)。

項目金額・内容
相続開始時の積極財産(不動産・預金)4,000万円
5年前の長男への贈与(住宅取得資金=生計の資本)2,000万円
15年前の長男への贈与(教育資金=生計の資本)1,000万円
債務(住宅ローン残債)500万円
相続人長男・次男

計算ステップ

STEP
基礎財産を計算する

積極財産4,000万円+10年以内の特別受益2,000万円(5年前の住宅資金)−債務500万円=5,500万円。

15年前の贈与は10年を超えるので原則として加算しません。

STEP
次男の遺留分額を計算する

5,500万円×遺留分1/2×法定相続分1/2=1,375万円。

これが次男に法律で保障される最低限の取り分です。

STEP
次男が実際に取得した額を引く

遺言で次男はゼロ。

よって遺留分侵害額=1,375万円−0円=1,375万円。

次男は長男に対し1,375万円の金銭請求ができます。

もし害意があったと判断されれば、15年前の1,000万円も基礎財産に加算され、次男の遺留分額は1,625万円に増えます(後述)。

古い贈与を無視できるかどうかで結果が大きく変わる典型例です。

計算が腑に落ちたところで、次は10年ルールが外れる例外を確認します。

10年ルールが外れる例外|害意があったケース

贈与者と受贈者の双方が遺留分を侵害することを知って行った贈与は、10年や1年の期間制限を超えても持ち戻されます。

これを実務では「害意ある贈与」と呼びます。

民法1044条3項・1項は、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、10年や1年より前の贈与も基礎財産に加算すると定めています。

条文上の害意(=相手の遺留分を傷つけると承知していたこと)の立証責任は、原則として遺留分権利者側にあります。

害意が認定されやすいケース

  • 相続開始直前に駆け込み的に多額の贈与をしたケース
  • 贈与によって被相続人の財産がほぼ空になり、他の相続人の遺留分が確実に侵害される状況だったケース
  • 「他の子に取り分を与えたくない」などの動機が客観的証拠で示せるケース
  • 受贈者が贈与時に他の相続人の存在と財産状況を把握していたケース

裁判例の傾向

実務では、単に「贈与の結果として遺留分が減る」だけでは害意は認定されません。

遺留分を侵害する具体的な認識と、その意図を裏付ける客観的事情がセットで必要とされる傾向があります。

古い贈与を取り戻したい側にとっては立証のハードルが高い点に注意してください。

例外規定の整理ができたところで、次は実際に遺留分侵害額請求をするときの手続きと期限を見ます。

遺留分侵害額請求の手続きと時効

遺留分侵害額請求は、相続と侵害を知った日から1年以内に意思表示をしなければ消滅します。

うっかり期限を過ぎると一円も取り戻せないため、最優先で動く必要があります。

2つの期間制限(民法1048条)

区分期間起算点性質
消滅時効1年相続開始+遺留分侵害を知った時短期。気付いてから1年で消滅
除斥期間10年相続開始時知らなくても10年で確定消滅

除斥期間(=それを過ぎたら絶対に請求できない期限)は、相続開始から10年が経過すれば遺留分の存在を知らなくても権利が消えます。

海外居住などで連絡が取りにくいケースは特に注意してください。

請求のフロー

STEP
相続財産と贈与の調査

戸籍・登記・通帳・贈与契約書を集め、誰にいくら贈与されたかを把握します。

10年以内の特別受益が中心ですが、害意があれば古い贈与も対象です。

STEP
内容証明郵便で意思表示

侵害している相続人や受遺者に対し、内容証明郵便で「遺留分侵害額として◯◯円を請求する」と通知します。

1年の時効を止める効果があります。

STEP
話し合いまたは調停

まずは当事者間の協議や家庭裁判所の遺留分侵害額請求調停を試みます。

金額算定や支払方法でもめやすいので、早めに専門家に相談してください。

STEP
訴訟(地方裁判所)

調停で合意できない場合は地方裁判所での訴訟に進みます。

請求額は金銭債権なので、原則として金銭で支払われます。

手続きを押さえたところで、不動産オーナーの相続に特有のリスクを見ていきます。

不動産オーナーの相続で多い注意点

賃貸物件・同族会社株式・借入とセットの不動産は、遺留分のトラブル源になりやすいため、贈与時点から将来の侵害額を試算しておく必要があります。

賃貸物件の贈与で起きやすい問題

  • 評価額が路線価・固定資産税評価額・時価でばらつく
  • 貸家評価減で評価額が下がっていても、遺留分計算では相続開始時の時価を使うのが原則
  • 贈与後の値上がり益・値下がり損の取扱いを遺言書や合意書で明確にしておく
  • 修繕費・借入金返済の負担が受贈者に偏ると後で揉める

同族会社株式の贈与で起きやすい問題

  • 取引相場のない株式は類似業種比準価額・純資産価額での評価が難しい
  • 事業承継税制の納税猶予を受けていても遺留分の計算は別ルール
  • 経営承継円滑化法の除外合意・固定合意を活用すると遺留分対象から外せる
  • 推定相続人全員の合意と家庭裁判所の許可が必要な点に注意

対策のポイント

遺留分の侵害が予想される場合は、生命保険の活用(受取人固有財産で遺留分の対象外)や、遺留分相当額を金銭で受け取れる仕組み(種類株式・代償分割)をあらかじめ設計しておくのが有効です。

注意点の整理が済んだところで、よくいただく質問にお答えします。

よくある質問(FAQ)

遺留分と生前贈与の10年ルールについて、頻繁にいただく質問をまとめました。

初心者の方がつまずきやすいポイントを中心に整理しています。

孫への生前贈与も10年以内に持ち戻されますか?

孫は代襲相続人になっていない限り「相続人以外」なので、原則として相続開始前1年以内の贈与だけが対象です。

ただし贈与者と受贈者の双方に害意があれば1年より前でも加算されます。

毎年110万円の暦年贈与は遺留分の計算に入りますか?

相続人への110万円贈与は「特別受益」に当たらない通常の贈与とみなされることが多く、遺留分の基礎財産には加算されないのが一般的です。

ただし金額や趣旨によっては特別受益と評価されるケースもあるため、税理士・弁護士に個別確認してください。

相続税の7年加算と民法の10年は同時に当てはまるのですか?

はい。

同じ贈与でも、相続税の課税価格計算では7年加算、遺留分の算定では10年ルールが別個に適用されます。

期間も対象範囲も違うので、それぞれ別に検討します。

遺留分を放棄してもらえば10年ルールは関係なくなりますか?

相続開始前の遺留分放棄は家庭裁判所の許可が必要ですが、許可されれば該当者は遺留分を主張できなくなります。

事業承継対策では有力な選択肢です。

遺留分侵害額請求された側は不動産で返してもいいですか?

2019年7月の改正で、遺留分は原則として金銭で清算するルールに変わりました。

不動産での代物弁済は可能ですが、双方の合意と譲渡所得税の課税に注意が必要です。

まとめ|10年ルールを踏まえた相続対策のポイント

遺留分と生前贈与の関係は、期間ルールと例外を正しく押さえることで、相続争いの大半を予防できます。

本記事の要点を最後にまとめます。

  • 遺留分は配偶者・子・直系尊属の最低限の取り分(兄弟姉妹は対象外)
  • 相続人への生前贈与は相続開始前10年以内が遺留分算定の対象(民法1044条3項)
  • 相続人以外への贈与は1年以内が対象(民法1044条1項)
  • 相続税の7年加算は税法のルールで、民法の10年とは別制度
  • 贈与者と受贈者の双方に害意があれば期間制限は外れる
  • 遺留分侵害額請求は1年の消滅時効・10年の除斥期間に注意
  • 生命保険・除外合意・代償分割などで事前設計すると争いを減らせる

相続対策は、税金(相続税・贈与税)と民法(遺留分)の両面から設計することが欠かせません。

一般的なルールは本記事のとおりですが、個別事情によって最適解は変わります。

不動産オーナーの相続は特に複雑になりやすいため、必ず税理士・弁護士の監修を受けたうえで実行してください。

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