不動産売買に関与したため発生する仲介手数料について、不動産会社から「いつ収益計上すればよいのか?」ということをよく質問されます。
不動産仲介にかかる法人税の基準は法人税法基本通達2-1-11に記載されていますが、意外と読み方を間違えている方が多いです。
今回はネット検索をしてもよく間違えられている不動産売買にかかる仲介手数料の収益認識時点について考えていきましょう。
【この記事のポイント】
- 不動産会社が収受する仲介手数料(売上高)は売買契約成立時に収益計上できる
- 継続適用を条件に売買目的物の引渡し時(通常は購入者側の残債務支払い時)に不動産会社は仲介手数料を収益計上することもできる(一般的にこっちの方が納税者にとって有利)
- 仲介手数料の収益計上基準を引渡日基準にしていても、事前に報酬の一部を受け取っている場合、受け取った報酬部分に関しては事前に収益計上しなければならない
宅地建物取引業法の規制と不動産売買取引の実務慣行
まず、宅地建物取引業法の規制と不動産売買取引の実務慣行について見ていきましょう。
宅地建物取引業法では、不動産会社が受け取ることのできる仲介手数料に上限を設けています。
よって、上限額を超える仲介手数料の請求をすることはできません。
また、不動産売買取引の仲介では、売買契約が成立した時に初めて不動産会社に仲介手数料の請求権が発生します。
いわゆる成功報酬というもので、売買契約が成立するまでは原則として不動産会社に仲介手数料は1円も入らないということになります。
そして、実務慣行として、売買契約が成立すると不動産会社に仲介手数料の請求権が発生しますが、不動産売買の契約締結時点では、引き渡しまで完了していないことが多いことから一般的には、契約締結時に仲介手数料の50%を受取り、引き渡し完了時に残りの50%を受け取ることが望ましいとされています。
つまり、不動産売買契約成立時点で仲介手数料の50%がもらえ、その後の引き渡しの時点で残りの50%の仲介手数料がもらえるという契約が一般的には多いそうです(ちなみに、私が良く見る契約は、引き渡し時点で仲介手数料の全額を貰う契約が多いのですが…)。
法人税法上の仲介手数料の収益計上時期について
それでは、法人税の規定から不動産売買に関与したために発生する仲介手数料の収益計上時期についてみていきましょう。
不動産の仲介をしたことにより受け取る報酬は、原則として、その売買等に係る契約の効力が発生した日の属する事業年度の収益に計上することとされています。
簡単に言うと、不動産の売買契約が成立した時に仲介手数料を収益として計上することになります。
ただし、不動産会社が売買の仲介をしたことにより受け取る報酬について、「継続して」その契約に係る取引の完了した日(引渡日)に収益を計上している場合、引渡日に収益を計上することも認められています。
ただし、引渡日前に実際に収益の一部を受領している場合は、その受領した一部については引渡日前に収益を計上することになります。
仕訳例を示すと以下のようになります。
【事例①】
- 仲介会社の決算日:3月末
- 仲介した不動産の売買契約締結日:3月30日
- 仲介した不動産の売主から買主への引渡日:4月10日
- 買主への仲介手数料の請求書の発送日:4月20日
- 買主から仲介手数料の入金日:5月20日
原則処理:不動産売買契約締結時(3月30日)
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
未収金 (又は売掛金) | 100万円 | 売上高 | 100万円 |
容認処理:不動産引渡時(4月10日)
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
未収金 (又は売掛金) | 100万円 | 売上高 | 100万円 |
なお、請求書はきちんと保管しておく必要がありますが、請求書の発行日は仕訳には関係ありません。
また、仲介手数料の入金日には、以下の消込仕訳をして未収金(又は売掛金)を消去することになります。
仲介手数料の入金日(5月20日)
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
現金・預金 | 100万円 | 未収金 (又は売掛金) | 100万円 |
売買契約が成立した時と引渡し時のどちらを選択した方が有利か?
基本的には収益の認識基準として、引渡日基準を採用した方が売上高の計上が遅くなるため不動産会社にとっては有利に働きます。
上記の例示でも分かる通り、3月末決算の会社で、売買契約が成立した時を収益の計上日にすると、3月30日に売上高を計上しなければならないのに対し、収益の認識基準を引渡日基準とすると4月10日に売上高を計上できるので、引渡基準の方が売上高の計上時期が1年遅くなります。
なお、請求書の発送日や入金日は収益の認識時期にはなりえません。
よって、経理処理に不慣れな担当者がいて、仲介手数料の売上高を請求書発送日や入金日に仕訳してしまった場合、法人税法上否認されるので注意しましょう。
ちなみに、仲介手数料の収益計上時期を引渡日基準にした場合、1点注意事項があります。
事前に収受した仲介手数料の一部は、前受金とはならずその時に収益計上しなければならないということです。
仕訳例を示すと以下のようになります。
【事例②】
- 仲介会社の決算日:3月末
- 仲介した不動産の売買契約締結日:3月30日(なお仲介手数料40万円が買主より入金された)
- 仲介した不動産の売主から買主への引渡日:4月10日
- 残りの仲介手数料(60万円)の入金日:5月20日
不動産売買契約締結時(3月30日)
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
現金・預金 | 40万円 | 売上高 (前受金ではない!) | 40万円 |
不動産引渡時(4月10日)
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
未収金 (又は売掛金) | 60万円 | 売上高 | 60万円 |
残りの仲介手数料の入金日(5月20日)
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
現金・預金 | 60万円 | 未収金 (又は売掛金) | 60万円 |
なお、ネット上では 引渡日=不動産の登記日となっているものが多いのですが、不動産登記には時間が掛かるので、実務上は、引渡日≠登記日のことがほとんどです。
不動産の「登記日」に収益認識(売上高計上)する処理は間違いの可能性が高いので注意しましょう。
今回参考にした条文について
土地、建物等の売買、交換又は賃貸借(以下2-1-11において「売買等」という。)の仲介又はあっせんをしたことにより受ける報酬の額は、原則としてその売買等に係る契約の効力が発生した日の属する事業年度の益金の額に算入する。
法人税基本通達2-1-11
ただし、法人が、売買又は交換の仲介又はあっせんをしたことにより受ける報酬の額について、継続して当該契約に係る取引の完了した日(同日前に実際に収受した金額があるときは、当該金額についてはその収受した日)の属する事業年度の益金の額に算入しているときは、これを認める。(昭55年直法2-8「六」により追加)
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