会社が役員からお金を借りたり、会社の費用を役員が立て替えていたりすると役員借入金が発生することになります。
この役員借入金ですが、役員から見れば、貸付金又は未収入金と判断されるため相続財産になります。
よって、相続税の基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える相続財産がある場合には、役員が死亡するまでに役員借入金を減少又は消滅させることが好ましいです。
今回は、役員借入金を減少又は消滅させるための方法の1つである役員の債権放棄について解説していきます。
役員借入金を減少又は消滅させるための方法
役員借入金を減少又は消滅させる方法としては以下の5つがあります。
- 債権放棄
- 債権の贈与
- 代物弁済
- 債権の資本化
- 会社の閉鎖
この中で後々影響が残らないで最も実行し易い方法が債権放棄になります(といっても税務的には相当大変ですが…)。
債権放棄の前提条件
役員借入金の債権放棄を行う際の前提条件として、次の3点は必ず覚えておいてください。
- 債権放棄者以外の株主はいるか?
- 繰越欠損金又は当期純損失が役員借入金残高より大きいか?
- 債務超過会社であるかどうか?
債権放棄者以外の株主はいるか?
債権の放棄者以外に株主がいる場合、債権の放棄により会社の純資産が増え、株価の上昇に繋がるので、債権放棄者以外の株主に贈与税が発生する可能性があります。
例えば、同族会社で代表取締役A(株式所有割合80%)とその息子B(株式所有割合20%)がいたとします。
Aが会社に貸し付けている債権1億円を債権放棄して、会社の役員借入金を減少させたとします。
その場合、役員借入金という負債が1億円減少し、その代わりに債務免除益1億円が新たに発生しますので、利益を通して、最終的に純資産の増加に繋がります。
純資産が増えれば、1株あたりの株価も高くなるので、株価上昇分×Bの株式の保有分の金額だけBに対して贈与があったと認定されることになります。
繰越欠損金又は当期純損失が役員借入金残高より大きいか?
役員借入金の債権放棄は本来役員に返済するはずだったお金を返済しなくてよくなるため、会社にとっては利益が発生していると税務上は処理されます。
負債である役員借入金(短期借入金)を減少させるために、利益である債務免除益を計上するとイメージして頂ければ十分です。
借方
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金額
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貸方
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金額
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役員借入金
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1億円
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債務免除益
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1億円
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よって、役員が債権放棄をした時に会社には債務免除益という利益が計上されることになります。
例えば、1億円の債務免除益が計上されれば、1億円×約30%(税率)=3,000万円の法人税等の納付が求められることになります。
ただし、繰越欠損金や当期純損失が債務免除益(つまり役員借入金)より大きければ、相殺され納税額が0円ということも考えられます。
債務超過会社であるかどうか?
債務超過会社の場合、債権放棄者以外の株主がいても債権放棄者以外の株主に贈与税が発生しない場合があります。
債権放棄者以外の株主に贈与税が発生するのは、債権放棄が起こることにより株価が上昇するためです。
よって、債権放棄をしても株価が上昇しない場合、債権放棄前の株価0円⇒債権放棄後の株価0円になるため、債権放棄者以外の株主に贈与税が発生しないことになります。
債権放棄のタイミング
役員の債権放棄のタイミングは上記3つの前提条件を考慮に入れた上で適切な時期に行うことが重要になります。
適切な時期を見逃さないために経営者が考慮しておくことをもう少し具体的に記載すると以下のようになります(上から順番に考えてください)。
- 株主を借入をしている役員1人にできるか?
- 将来債務超過会社になるか?又はできるか?
- 繰越欠損金又は当期純損失の将来の見積りができるか?
まずは、①贈与税を発生させないための対策を全力で考え、その後に②法人税等の納付を如何に少なくするかを考えるということです。
まとめ
溜まってしまった役員借入金を減少又は消滅させるのは、経営者が思っている以上に大変です。
まずは、都度清算で溜めないことが重要ですが、そんなにうまくいかないことも考えられます。
溜まってしまった場合は、税務上のリスクは非常に高いので、税理士のアドバイスを受けながら減少又は消去の時期を考えるのが良いかと思います。