法人に対する節税保険の効果(課税の繰り延べや消費税など)について!

法人の経営者で節税保険というキーワードに興味がある人は多いのではないでしょうか?

そこで今回は、法人の節税保険と言われるものの概要と効果を把握していきましょう

節税保険は各保険会社が販売していますが、理論や注意点を事前に知っていれば、その商品がお得なのかそうでないのかをあなた自身が判断できるようになります。

法人の節税保険の種類について

法人が加入する節税保険の種類は主に定期保険第三分野の保険です。

節税保険の種類
  1. 定期保険:保険期間に限りがある生命保険
    注意)定期保険=掛け捨てのイメージが強いですが、法人の節税保険の場合掛け捨てではありません
  2. 第三分野の保険:生命保険と損害保険の中間に位置する保険です
    例)がん保険医療保険など

経費(損金)に計上できる金額について

法人の節税保険は最高解約返戻率によって経費(損金)に計上できる割合が変わってきます

なお、解約返戻率とは、払込保険料累計(今まで払い込んだ保険料の合計)に対する解約返戻金(保険を解約した時に戻ってくるお金)の率で、最高解約返戻率とは、保険契約期間中で一番高い返戻率のことです。

解約返戻率 経費算入率
50%以下
100%
50%超〜70%以下
60%
70%超〜85%以下
40%
85%超
10%

具体的数値の方が分かりやすいので、まずは以下の事例を見てみましょう。

法人で以下の条件の定期逓増保険に加入した場合の当期の仕訳を確認しましょう。

  • 保険料は200万円/年
  • 10年後に最大解約返戻率が84%になります
  • 契約者:法人、被保険者:代表取締役(50歳)
  • 保険期間は35年
借方
金額
貸方
金額
支払保険料
保険積立金(資産)
80万円※1
120万円※2
普通預金
200万円

※1 解約返戻率が84%なので、1年間に支払った保険料200万円の40%が経費(損金)になります。
※2 残りの60%保険積立金という資産勘定に計上されます。

節税保険の課税の繰り延べについて

節税保険と言われている商品は、今も昔も変わらず課税の繰り延べが目的で販売されています。

ところで、課税の繰り延べとはそもそもどんな意味なのでしょうか?

簡単に言えば、法人税を支払う時期を遅らせることを課税の繰り延べと言います。

それでは、節税保険の場合、どういう仕組みで課税の繰り延べが行われるのでしょうか?

以下の事例で節税保険解約時の仕訳を確認してください。

法人で以下の条件の定期逓増保険を10年目に解約した時の仕訳を見てみましょう。

  • 保険料は200万円/年
  • 解約返戻率の最大値は84%(12年目)になります
  • 契約者:法人、被保険者:代表取締役(50歳)
  • 保険期間は35年
  • 解約時の解約返戻率は82%でした
借方
金額
貸方
金額
普通預金
1640万円 ※1
保険積立金
雑収入
1200万円 ※2
440万円 ※3

※1 払込保険料累計額は200万円×10年=2000万円、解約返戻率は82%なので、2000万円×82%=1640万円
※2 1年間に経費(損金)に出来ていた金額以外の金額の累計なので200万円×60%×10年=1200万円
※3 差額になります

上記の事例では、節税保険に加入することで、年間200万円×40%=80万円を経費(損金)にし続け、10年間で累計800万円を経費(損金)にしたところで、保険解約に伴い雑収入440万円が収益(益金)に計上されました。

節税保険を解約した時には、必ず益金(収益)が発生してしまうので、長い目で見れば、360万円の部分に関しては、経費(損金)と収益(益金)が行って来いしているだけと考えることができます。

課税の繰り延べと節税の関係について

保険会社は、課税の繰り延べ=節税対策と謳って、節税保険を販売してきましたが、近年、監督庁から指導が入り、課税の繰り延べ=節税対策だと言えなくなってしまいました

ただし、概念自体は今も昔も全く変わっておらず、節税の意味を経営者がどう捉えるかだけの違いです。

つまり、税務署への納税が繰り越せる間に、納税するはずだった資金でそれ以上の収益を生めると見込んでいるのならば、課税の繰り延べ=節税対策になりますし、ただ単に、納税する時期を遅らせているだけだと考えるなら課税の繰り延べ≠節税対策ということになります。

法人が行う事業とは、手元の資金をいかに効率的に運用していくかということであり、個人的には課税の繰り延べ=節税対策だと思うのですが、あくまで言葉尻の問題だけで本質は今も昔も全く変わっていないので、あなた自身が節税保険に入る意味を考えて、意思決定をすれば良いだけでしょう。

最高解約返戻率が100%に満たない場合をどう考えるか?

解約返戻率とは、払込保険料累計÷解約返戻金の率のことでした。

実は、節税保険に入るかどうかについて、この解約返戻率は非常に重要な指標になります。

計算式から分かる通り、解約返戻率が100%未満の場合は、元本を毀損することになります。

簡単に言うと、払い込んだ総額より解約による返金額が少なくなるため、損したことになります。

例えば、上記事例では、解約時の解約返戻率が82%だったため、累計払込額2000万円×(100%ー82%)=360万円は元本を毀損したことになります。

では、元本毀損部分は何かというと、①課税を繰り延べるための手数料+②加入した保険商品自体の魅力ということになります。

節税(課税の繰り延べ)を目的とする生命保険の場合、解約返戻率を85%超に設定してくることは無いので、最低でも払込保険料累計額×15%の元本毀損は覚悟して節税保険に加入する必要があります

この元本毀損部分をどう考えるかは経営者自身の価値観次第になると考えられます。

何としても税金の支払いを遅らせたい場合は、課税の繰り延べだけで元本毀損分の価値がある時もありますし、そもそも保険商品自体に元本毀損分以上の価値があれば、普通の保険に加入するついでに節税ができてしまうので大変お得になります。

保険会社の持参してくる資料には、配当や税効果などの難しい言葉が並んでいますが、もし節税保険への加入を検討するのならば、解約返戻率を指標にしてご自身の会社に必要かどうかだけ確認すれば十分でしょう。

節税保険の消費税の取り扱いについて

節税保険の節税(課税の繰り延べ)は法人税、住民税、事業税を対象としています。

誤解が多いのですが、消費税は節税できません

保険料の支払額の消費税区分が非課税取引になるからです。

簡単な事例で確認すると分かりやすいです。

以下の条件の時に、経費(損金)に500万円算入できる節税保険に入った場合と入らなかった場合の法人税と消費税の納税額を比べてください。

  • 法人税率は30%とします
  • 当期の売上高は税込みで2200万円、経費は税込みで1100万円とします
  • 売上高、経費ともに消費税が課税されています
法人税は節税保険に入った時の方が、150万円(330万円180万円)節税できますが、消費税の納税額は変わりません

【節税保険に入らなかった場合】
法人税の納税額
(2200万円ー1100万円)×30%=330万円
消費税の納税額
2200万円÷1.1×10%ー1100万円÷1.1×10%=200万円ー100万円=100万円

【節税保険に入った場合】
法人税の納税額
(2200万円ー1100万円ー500万円)×30%=180万円
消費税の納税額
2200万円÷1.1×10%ー1100万円÷1.1×10%=200万円ー100万円=100万円

もっと簡単に考えると、毎年の保険掛け金の請求書(払込通知)に消費税の金額が記載されていないことを知っていれば、保険には消費税は関係ないということが分かるでしょう。

また、同じように解約返戻金などに対しても消費税はかかりませんので(不課税取引)節税保険を解約した事業年度に法人税、住民税、事業税の納税額は増えますが、消費税の納税額は変わりません

こちらも簡単な事例で確認すると分かりやすいです。

以下の条件の時に、節税保険を解約して雑収入が1000万円計上された場合と節税保険を解約しなかった場合の法人税と消費税の納税額を比べてください。

  • 法人税率は30%とします
  • 当期の売上高は税込みで2200万円、経費は税込みで1100万円とします
  • 売上高、経費ともに消費税が課税されています
法人税は節税保険を解約して雑収入が1000万円計上された時の方が、300万円(630万円330万円)多くなりますが、消費税の納税額は変わりません

【節税保険を解約して雑収入が計上された場合】
法人税の納税額
(2200万円ー1100万円+1000万円)×30%=630万円
消費税の納税額
2200万円÷1.1×10%ー1100万円÷1.1×10%=200万円ー100万円=100万円

【節税保険を解約しなかった場合】
法人税の納税額
(2200万円ー1100万円)×30%=330万円
消費税の納税額
2200万円÷1.1×10%ー1100万円÷1.1×10%=200万円ー100万円=100万円

なお、節税保険を解約して解約返戻金が発生しても消費税の区分は不課税取引に該当しますので、課税売上割合(課税売上高÷(課税売上高+非課税売上高))が変動ことはありません

以上の結論より、節税保険の加入・脱退は消費税には一切の影響を及ぼさないことが分かります。

節税(課税の繰り延べ)はあくまで、法人税、住民税、事業税の話しであることを覚えておいてください。