「保険に入るだけで法人税が安くなる」──そんな営業トークを聞いて、加入を迷っていませんか?
実は、2019年(令和元年)の税制改正で「全額損金」タイプの節税保険はほぼ姿を消しました。
仕組みを知らないまま契約すると、保険料のうち経費(損金)にできる金額が思ったより少なく、解約時にはまとまった利益(雑収入)に税金がかかるおそれがあります。
本記事では、税理士が、法人の節税保険の仕組み・損金算入ルール・仕訳・出口戦略を初心者向けにわかりやすく解説します。
法人の節税保険とは?課税の繰り延べで資金を手元に残す仕組み
法人の節税保険とは、支払時に保険料の一部を損金にして利益を圧縮し、法人税の課税を将来に繰り延べる保険契約の通称です。
損金(=法人税の計算上、経費として利益から差し引ける支出)に算入した分だけ、その期の法人税は軽くなります。
ただし、解約時には返戻金に課税されるため、税金そのものを消す制度ではありません。
納税を待ってもらっている間、保険料相当の資金を事業に活かせるのが節税保険の実質的な価値です。
最後に、本記事で繰り返し登場する3つの用語をまとめて整理しておきます。
- 節税保険
-
解約返戻金のある定期保険などを法人契約し、保険料の損金算入で利益を圧縮する保険の通称です。
- 解約返戻金
-
保険を途中で解約したときに、契約者である法人へ払い戻されるお金のことです。
- 最高解約返戻率
-
払込保険料に対する返戻金の割合(解約返戻率)が、保険期間中で最も高くなる時点の割合です。
次に、なぜ「全額損金」が使えなくなったのか、2019年の改正内容を確認します。
2019年改正で節税保険の損金ルールはどう変わったのか
2019年(令和元年)6月の「法人税基本通達」(=国税庁が法人税の取り扱いを定めた運用ルール)の改正により、返戻率の高い保険ほど保険料のうち損金にできる割合が小さくなる仕組みへ変わりました。
改正前は、経営者向けの定期保険で保険料の全額を損金にしつつ、高い返戻率で資金を回収する商品が広く販売されていました。国税庁はこうした行き過ぎた節税販売に歯止めをかけるため、損金算入のルールを全面的に見直しました。
新ルールは2019年7月8日以後に新規契約した定期保険・第三分野保険(医療保険・がん保険など)に適用されます(国税庁「定期保険及び第三分野保険に係る保険料の取扱いに関するFAQ」)。
改正後は「保険料のうちいくら損金にできるか」を契約前に確かめることが、節税成功の第一歩です。
次章で、その割合を決める「最高解約返戻率」の4区分ルールを確認しましょう。
損金算入ルールは最高解約返戻率で4区分【早見表】
2019年改正後の損金算入ルールでは、最高解約返戻率が高い保険ほど、保険料のうち損金にできる割合が小さくなります(国税庁タックスアンサーNo.5364-2「定期保険及び第三分野保険の保険料の取扱い」)。
最高解約返戻率は、契約時に保険会社の設計書で確認できます。
| 最高解約返戻率 | 損金にできる割合 | 資産計上 (損金にできない部分) | 資産計上期間 | 取り崩し |
|---|---|---|---|---|
| 50%以下 | 全額損金 (期間の経過に応じて損金算入) | なし | ― | ― |
| 50%超〜70%以下 | 支払保険料の60% | 支払保険料の40% | 保険期間の当初40%の期間 | 保険期間の75%経過後から均等に損金化 |
| 70%超〜85%以下 | 支払保険料の40% | 支払保険料の60% | 保険期間の当初40%の期間 | 保険期間の75%経過後から均等に損金化 |
| 85%超 | 右の資産計上額を除いた残り (例:返戻率90%なら約19%) | 支払保険料×最高解約返戻率×90% (11年目以降は×70%) | 原則、解約返戻率がピークになる期間の終了日まで | 返戻金がピークの期間を過ぎてから均等に損金化 |
なお、最高解約返戻率70%以下かつ年換算保険料30万円以下の保険は、全額を損金にできる例外が残されています(国税庁タックスアンサーNo.5364「定期保険及び第三分野保険の保険料の取扱い」)。
区分ごとの割合が分かれば、あとは仕訳に落とすだけです。次章で具体的な金額を使って仕訳例を確認します。
節税保険の仕訳を期間別に解説【20年契約・返戻率80%】
最高解約返戻率が50%を超える保険では、支払った保険料を「損金になる部分」と「資産計上する部分」の2つに分けて仕訳します。
例として、年間保険料1,000万円・保険期間20年・最高解約返戻率80%(区分は70%超〜85%以下、損金算入40%)の定期保険を法人契約した場合を考えます。
1〜8年目:損金400万円+資産計上600万円
資産計上が必要な期間は、通達で「保険期間の当初40%」と定められています(前章の早見表の「資産計上期間」列)。20年契約では、20年×40%=当初8年間が資産計上期間です。
返戻率80%の保険は、早見表では「70%超〜85%以下」の行に当たり、損金にできるのは保険料の40%です。年間保険料1,000万円なら、損金400万円・資産計上600万円という計算です。
資産計上した保険積立金は経費にならないまま貸借対照表に残るため、当期の利益を圧縮できるのは損金に算入した部分だけです。仕訳は次のとおりです。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 支払保険料 | 400万円 | 現金預金 | 1,000万円 |
| 保険積立金 | 600万円 |
9〜15年目:保険料1,000万円は全額損金
早見表の「資産計上期間」は当初8年間で終わるため、9年目からは保険料を損金と資産に分ける必要がなくなります。支払う保険料1,000万円は、全額をその年の損金にできます。
全額損金にできる期間は、取り崩しが始まる前の15年目まで続きます。仕訳は次のとおりです。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 支払保険料 | 1,000万円 | 現金預金 | 1,000万円 |
16〜20年目:全額損金+積立金960万円の取り崩し
早見表の「取り崩し」列のとおり、ためてきた保険積立金は保険期間の75%を過ぎた年から均等に損金へ振り替えます。20年契約では、20年×75%=15年なので、取り崩しは16年目から始まります。
保険積立金の残高は、600万円×8年間=4,800万円です。4,800万円を残りの5年間で均等に割ると、毎年960万円ずつ損金になります。
16年目からは、保険料1,000万円の全額損金と、積立金960万円の取り崩しという2本の仕訳が並びます。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 支払保険料 | 1,000万円 | 現金預金 | 1,000万円 |
| 支払保険料 | 960万円 | 保険積立金 | 960万円 |
期間別の仕訳はこれで完成です。ただし本当の勝負は、保険を解約して返戻金を受け取る「出口」で待っています。
解約時の仕訳と雑収入課税|出口の設計で税負担は変えられる
保険を解約すると、解約返戻金と資産計上額との差額が「雑収入」として、その期の利益に一気に上乗せされます。
例として、資産計上の累計が4,800万円の保険を解約し、解約返戻金8,000万円を受け取ったケースを見てみます。差額の3,200万円が雑収入となり、法人税の課税対象になります。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 現金預金 | 8,000万円 | 保険積立金 | 4,800万円 |
| 雑収入 | 3,200万円 |
裏を返せば、解約する年度を計画的に選ぶだけで、繰り延べた税金の負担は大きく軽くできます。
雑収入の課税を避ける鍵は、返戻金を受け取る事業年度に大きな損金をぶつけることです。代表例である役員退職金を次章で解説します。
出口戦略の定番は役員退職金との相殺
節税保険の出口戦略は、解約返戻金のピークと役員退職金の支給時期を重ねて、雑収入と損金を相殺するのが定番です。
前章の例で、解約返戻金8,000万円を受け取った年に役員退職金3,200万円を支給したとします。
まず、保険を解約して返戻金を受け取ったときの仕訳です。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 現金預金 | 8,000万円 | 保険積立金 | 4,800万円 |
| 雑収入 | 3,200万円 |
次に、役員退職金を支給したときの仕訳です。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 役員退職金 | 3,200万円 | 現金預金 | 3,200万円 |
利益を増やす雑収入と、利益を減らす役員退職金は、どちらも3,200万円なので、雑収入への課税はぴったり打ち消されます。返戻金8,000万円から退職金3,200万円を支払った残りの4,800万円は、会社の資金として使えます。
なお、役員退職金は適正額の範囲で損金に算入できます。役員退職金の適正額の計算方法は以下の記事で詳しく解説しています。

今回の例のように、返戻金のピークと退職金の支給年度を最初から重ねておくことが設計の核心です。出口の損金までセットで設計してから加入すれば、節税保険の効果を最大限に引き出せます。
出口戦略の型が分かったところで、最後に不動産賃貸業ならではの注意点を整理します。
不動産賃貸業の法人は大規模修繕でも雑収入を相殺できる
不動産賃貸業の法人なら、役員退職金だけでなく大規模修繕でも、雑収入との相殺を使えます。外壁塗装や屋上防水などの大規模修繕は費用が一度に多額となり、その年の大きな損金になるためです。
前章と同じ例で、解約返戻金8,000万円を受け取った年に大規模修繕3,200万円を実施したとします。
まず、保険を解約して返戻金を受け取ったときの仕訳です。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 現金預金 | 8,000万円 | 保険積立金 | 4,800万円 |
| 雑収入 | 3,200万円 |
次に、修繕費を支払ったときの仕訳です。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 修繕費 | 3,200万円 | 現金預金 | 3,200万円 |
利益を増やす雑収入3,200万円と、損金になる修繕費3,200万円が相殺され、課税は打ち消されます。
賃貸物件の外壁塗装や屋上防水は、10〜15年周期でおおよその実施時期を予測できます。返戻率がいつピークになるかも、契約時に保険会社の設計書で分かります。
つまり修繕の時期と返戻金のピークは、契約の段階から意図的に重ねられます。長期修繕計画のある法人は、返戻率のピークを修繕の実施年度に合わせて契約しましょう。
保険料を支払いながら少しずつ修繕資金を準備し、受け取る年は修繕費との相殺で税負担を抑えられます。
出口の選択肢まで確認できたら、あとは全体を整理して判断するだけです。
まとめ|節税保険は「繰り延べ+出口設計」で機能する
法人の節税保険は、課税の繰り延べと出口の損金設計をセットで考えたときに初めて意味を持つ制度です。
- 本質は繰り延べ:損金算入で当期の法人税は減るが、税金は消えない
- ルールは4区分:最高解約返戻率が高いほど損金にできる割合は小さい
- 出口が生命線:役員退職金など大きな損金と返戻金のピークを重ねる
加入や解約の判断は、返戻率の設計書と会社の資金計画を突き合わせて行う必要があります。迷ったら契約前に税理士へ相談するのが最も確実な節税保険の活用法です。
法人の節税保険のよくある質問(FAQ)
経営者からよくいただく質問をまとめました。
- 2019年の改正より前から加入している保険も、新しい損金ルールで経理処理をやり直す必要がありますか?
-
やり直す必要はありません。新ルールが適用されるのは2019年7月8日以後に契約した保険だけで、それより前の契約は従来どおりの経理処理を続けます。
- 全額損金にできなくなった今でも、法人が節税保険に加入する意味はありますか?
-
あります。経営者の万一に備える保障を持ちながら課税を先送りでき、役員退職金や大規模修繕など出口の損金を用意できる会社なら、今も有力な選択肢です。
- 法人が節税保険を解約するタイミングは、どのように決めればよいですか?
-
解約返戻率がピークになる年と、役員退職金や大規模修繕など大きな損金が出る年度が重なる時期に解約するのが基本です。返ってくるお金が最も多く、雑収入への課税も損金で打ち消せるためです。
ピークが何年目に来るかは、契約時に保険会社の設計書で確認できます。
- 節税保険の保険料は、年間いくらぐらいに設定すればよいですか?
-
一律の正解はなく、「利益が出ない年でも払い続けられる金額」に抑えるのが基本です。途中で払えなくなって早期解約すると、返戻率が低く元本割れしやすいためです。
不動産賃貸業の法人なら、借入金の返済と大規模修繕の積み立てを差し引いても残る、余裕資金の範囲で設定しましょう。
参考文献(いずれも国税庁の公式ページ)
- 国税庁タックスアンサーNo.5364-2「定期保険及び第三分野保険の保険料(保険料に相当多額の前払部分の保険料が含まれる場合)の取扱い(令和元年7月8日以後契約分)」
- 国税庁タックスアンサーNo.5364「定期保険及び第三分野保険の保険料(保険料に相当多額の前払部分の保険料が含まれない場合)の取扱い(令和元年7月8日以後契約分)」
- 国税庁「定期保険及び第三分野保険に係る保険料の取扱いに関するFAQ」


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